40.Insight 的
「まったく、やってられないよなぁ。お前もそう思うだろ? イレヴン」
『ダーナ』で【魔眼】を追っていたヒューは相方として、この任務に選ばれたイレヴンに告げた。
「ただの任務だ。それ以上でもそれ以下でもない」
「任務ねぇ。お前、色々と難しく考えすぎじゃないか?」
「達成する為に、必要な感情は全て排除して当らなければならない。それで、1%でも任務の達成率が上がるのならな」
ライフルを肩にかける。霧の様な視界に覆われた世界で、進むも戻るも、先行しているスーが残したエネルギーを辿るしかない。それが出来るのはスライサーの部隊だけであった。
「ヒュー、お前は何の為に【神王】の『従者』と成り、戦う事を選んだ?」
【聖守護】として、【神王】に仕えると決めたヒューは、その決断をするために多くのモノを捨てたハズだ。そこには、かけがえのない存在もあっただろう。
「単純な理由だ。俺は団長に救われて、ユニコーンと共に在る事に疑問が無かった。だからだよ」
『スケアクロウ』は余計な感情を排除した人造人間だと聞いていたが、イレヴンを見る限りは普通の人間と変わらない。多少感情を抑えているように見えるが、コレは彼の性格なのだろう。
「逃げるなよ? 聞き返すが……イレヴン、お前は何故、戦う?」
ヒューからの言葉に、最初に思い浮かんだのは……今は亡き兄や弟や妹の顔。そして、去って行った姉の後ろ姿――
「俺は……仲間の為だ」
自分の事でもなく、弱い人間の為でもない。ただ、俺を信じ、受け入れてくれた――部隊の仲間達の為だった。
「家族はもう居ない。俺は……今の絆を護るために戦う――」
V島。夜風が吹き抜け、その風をイレヴンは建物の屋上で受けていた。成長を止めた髪が揺れる。イレヴンは眼を閉じて集中していた。
「…………」
サスターは、身を隠した。奴の居場所を知る事は通常の索敵では不可能だ。だが、故に捉えられる方法を変えて見ればいい。
「索敵――」
ソナーのように広がる僅かなエネルギー破。建物の隙間や空間を全て明確に認識し、奴の居場所を――
異常無しの結果が、折り返しのようにイレヴンに入ってくる。
サスターの動き、気配、その他の隠蔽は完璧だった。捉えられる可能性は絶対に無い。逆に、彼女の方は今のエネルギーの探知でイレヴンの位置を掴んでいた。死角に回り、有無を言わさずに一撃で始末する――
現状はサスターの方が優勢であった。
「――――! そこか!」
一瞬だけ、イレヴンの望んでいた反応が返ってきた。ソレはサスターを的確に捉えた訳では無く、むしろ逆である。
イレヴンがエネルギーを放ったのは、街全ての造形を寸分違わずに認識し続ける為だった。その結果、得た答えは……不自然に空間に捉えた“無い”部分。
サスターが、自身の存在情報が全てを隠していたとしても、その実体だけは消し去ることは不可能だ。故に空間に侵入して、索敵に不自然に欠けた空間が奴の居場所だ。
「『固定』――」
周囲の瓦礫、捻じって尖らせた鉄片、残っていたガスボンベ。周囲に全て浮かせて、サスターの居る建物に標準を合わせた。
一斉射!
その全ての物質が音速で、サスターを狙い飛来する。壁に止まるような速度ではなく、障害を全て容易く貫通する速度で建物の一部を吹き飛ばした。
「!? くっ、なぜバレた!?」
一瞬で周囲の物質が、イレヴンからの攻撃によって消え失せた。足場も吹き飛び消えた為、今は宙に浮いた状態である。そして、サスターは次の飛来物を視認する。
「―――くそっ!」
身体を撃ち抜かれる。同時に、本体は通りの道路に着地していた。
『空蝉』。これは『武具』ではなく、サスターが為朝のエネルギーを使い独自に編み出した技だった。攻撃を受けた瞬間に“反転”する事で、一時的にエネルギー体そのものなり、物理攻撃とエネルギー攻撃の両方を受けた後でも回避できるのだ。
しかし、欠点としてエネルギーを削って使用する技である。回数に制限がある上に、使えば使う程、本体の性能は落ちていく。そして、今日はこれ以上使うのは攻撃能力と『消命の衣』に支障が出る。
「……これ以上は、『空蝉』は使えない」
着地したサスターを逃がさない様に次々に、鉄片や瓦礫が飛来する。
「――――」
サスターは黒い刀を使い、飛来物を次々に弾いていく。だが、雨のように飛来する攻撃を全て捌き切る事は不可能だった。
『サスター様!』
「これで良い! “反転”は必要ない!」
“加護”の状態で『消命の衣』を解除する。見つかり、視界から外れられない以上、今は意味の無いモノだ。
イレヴンの攻撃を捌き切れない。肩、足、頬を飛来物が掠めていく。
「――――」
死の嵐の中でサスターが見ているのは、イレヴンではない。攻撃が飛来している建物だった。
「――――読んでいないと思ったか?」
イレヴンの居る屋上の端に、クナイが数本だけ突き刺さる。そして、最初の炸裂と同じ規模の爆発で屋上は吹き飛んだ。
だか、既にイレヴンは移動していた。攻撃を放った時には、その場を既に去っていたのである。
「この距離を詰める方法は無いぞ、サスター・タナトス! 無駄な抵抗は、生き地獄が続くだけだ」
全てを捌ききれないのは、イレヴンの眼から見ても解っていた。それでも、僅かな間を見つけて、こちらにクナイで攻撃を仕掛けてくる。
だが、狙撃していた建物が吹き飛んだとしても、反撃を視野に入れているイレヴンからすれば、絶対に食らわない攻撃なのだ。
イレヴンは移動しながら狙い撃ちし、サスターはその飛来する攻撃を弾く。それによって周囲に溜まっていく瓦礫によって逃げ場も失っていた。
サスターの脇腹に鉄片が突き刺さる。背にも細かい破片が刺さり、足の甲にも、その場から動けない様に鉄片によって地面に撃ち着けられていた。右肘を撃ち抜かれて、腕が飛ぶ。
「いずれ限界が来る……解り切っていた事だ」
イレヴンは容赦なく、サスターへ攻撃を浴びせる。そこには一片の躊躇いも無い。一射一射、彼女の命を奪う為に正確に放つ。
移動しながらサスターの様子を随時確認する。
満身創痍。片足を着いて、片腕でも、決定射となる一撃だけは確実に弾いている。そして、こちらに対する反撃――クナイによる爆撃も見舞われるが、想定内の攻撃であるため、イレヴンには当たらない。
「油断は無い。情も無い。サスター・タナトス……死ぬのは……恐い事だ」
『四神獣武』。それが桜家に伝わる【裏式】の総称だった。
地を踏みつけるため、大地を起点とする洗練された一撃を生み出すのが『玄武双璧』。
地を駆け、大地を、壁を、跳ね、獲物へ強靭な牙を突き立てるのが『虎空牙』。
他に二つの獣が、桜家には伝えられている。そして、四神の中には、互いに相性と言うモノも存在した。
『玄武双璧』と『虎空牙』。
この二つは相性が悪いとして“本家”では記録されている。
地を踏みつけ、万全な起点と安定した“撃”を放つ『玄武双璧』に対し、動きで翻弄し、敵の急所を裂く『虎空牙』では、その鉄壁を越えて命を取るには不利であるのだ。
「…………」
光陽とエトは互いに、“虚”を取り合う為に硬直していた。少し離れたところでは、鷹さんとゼリアスも同等に対峙している。
緊迫した空間に、ピリピリと空気が弾けているようだった。何がきっかけで始まるか分からない。状況によっては一撃で終わる戦いでもあるのだ。
ふと、ゼリアスは懐から『自爆用エネルギー』を取り出した。ひし形の四角のガラスの中で、乱反射する様に虹色のエネルギーが発光している。
「――さぁ、始めろ!」
鷹さんは、ソレがどれほど危険なモノであるか解っていた。少しでもガラスが割れれば、この島が跡形もなく消し飛ぶような代物なのだ。
事もあろうに、ゼリアスは『自爆用エネルギー』を光陽とエトの元へ指で弾いて飛ばしたのである。
「! 何やってんだい、アンタ! 割れたら元も子もないだろう!?」
「黙れ、裏切り者め! これが俺のやり方だ!」
光陽、落ちて割れたら終わりだよ――
『自爆用エネルギー』は光陽とエトの間に落ち、二人の視界を一瞬だけ隠した刹那――
エトが動く。ソレを“虚”であると判断した事による強襲。『自爆用エネルギー』の向こう側から手刀を光陽に向けていた。
一瞬で、“一”になった!?
エトと『虎空牙』は瞬時に重なり、“一”となっている。その真価に辿り着いていた様子に鷹さんは驚愕した。
「――――」
二人の手の動きは見えなかった。消えた様な高速の差し合いに踏込む為に動いたのは、エトだけだった。光陽はその場で彼の攻撃を捌き続ける。
その間で『自爆用エネルギー』が、軽く弾かれて浮かび、落下、それが何度か繰り返されたところで、足の甲に乗せてエトが丁寧に地面に降ろす。
「やるな、光陽」
多くのフェイントと本命を交えた、読み解くのが困難な“先の動き”を光陽は全て最善の動作を見極めて、受け、躱していた。
「…………」
光陽は、今の攻防も全て見えていた。何所を狙っているのかを、意識の先を明確に肌で感じとり、最善の行動を取ったのである。フローではない集中力は、『玄武双璧』と重なっていく証だった。
「ふん!」
次にゼリアスは足を踏みしめ地面にエネルギーを流し込む。すると、周囲の木々が地中から吹き飛ぶように、宙に舞い上がる。そして、四人を含めた範囲に飛来してきた。
「!?」
落ちてくる木を光陽は避ける。根の土ごと浮き飛んでいる為、弾けば視界をひどく覆う可能性を加味した選択である。
「――――」
エトは落下してくる木を避けて光陽に滑る様に接近していく。その姿を見て、光陽は返しの一撃を見舞う動作へ移るが、不意に間に落ちてきた木がエトの姿を隠した。
「! ――」
それでも構わず『玄武一門』で木ごと向こう側に居るエトを狙って吹き飛ばす。しかし、向こう側には彼は居なかった。
「――予測できたハズだ。“一”にならなければ、死ぬぞ?」
木が間に入った瞬間、エトは跳び上がっていた。脚を振り上げ、光陽へ踵を落す。
僅かに下がって避ける一閃は光陽の前髪を僅かに掠め、地面も浅く断ち切っていた。
「『爪斧』。受けていれば、その腕ごと落していた」
更に木が降ってくる。木が地面から吹き出し、落下してくると言う奇異な光景は、ゼリアスがエネルギーを地に流し続けている行為だった。
「いい加減にしな!」
鷹さんは、ゼリアスを止める様に攻撃を仕掛けた。顔面を狙った上段蹴り。その攻撃で木の打ち上がりが停止する。
「む!」
無駄に光陽とエトに手を出していたゼリアスの目的は、鷹さんの隙を見出す為である。長年捜し続けた敵を、逃がさず確実に仕留める事が全てだった。
「愚かなり! 【千本桜】の雑兵めが!!」
鷹さんの上段蹴りを屈んで躱し、背を向けた彼女に対して、拳を突き出す。エネルギーを乗せた一撃は、正面一帯を吹き飛ばした。
次話タイトル『He and she 削り合う命』




