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IRREGULAR'S HISTORIA  作者: 古河新後
第2部 Artificial life スケアクロウ
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38.Fragment of a dream 夢の破片

 戦う相手は前もって決めていた。


 速度の超過を持つレイヴンには、光陽が対峙し時間を稼ぐ。

 【王殺し】のゼリアスには、サスターが暗殺にて仕留める。

 その間、鷹さんはトライを抑えるか、始末する事を視野に入れて動く。

 そして、最も早く手の空くと推測されるサスターが光陽、鷹さんの順で加勢に回る。


 これが大まかな作戦だった。敵が二人以上まとめて移動する場合、サスターの暗殺に合わせる事で、少なくともニ対一の構図に持って行けると踏んでいた。

 少数同士の戦いにおいて、複雑な作戦は必要ない。各自が各々の役割を果たせれば、結果として全体の勝利へ繋がるのである。


 「ここがV島か……」


 光陽達は、普通の埠頭に接岸せず、少し離れた岩肌に漁船を停泊させた。切り立った崖の上へは、為朝が先行して敵の有無を確認すると、一人ずつ上へ運ぶ。


 V島。かつては無人島として認識されていたが、本土の都市計画によって都市化された島だった。

 観光や、漁業を中心に産業が栄え、島の反対側に造られた田畑は、多くの作物を栽培していた。しかし、島全ての電流を賄っていた原子力発電が事故を起こった。これによる放射線などの二次災害の懸念から島民全ての退去を余儀なくされる事となる。

 その後、国の調査団によって致死量の放射能が検知され、島と周囲5キロの沖合は進入禁止。50年経った今でも、その厳戒令は解除されていなかった。


 「放射線はとっくの昔に消えたみたいだね」

 「え? 放射線……?」


 島の下調べは地形以外しておらず、過去の出来事を光陽は知らなかった。鷹さんは、当時に話題となったので知っていた様である。


 「人体に対する有害毒素は、全部アスラが解消した。今は、ただの寂れた島だよ」


 サスターは現時点で為朝を“加護”として取り入れ、『武具』の『消命の衣』を発動していた。

 彼女は全身を黒い炎のような姿で覆い、顔は見えているが、喋らなければ気配も何も感じない。死角に居れば完全に気が付かないだろう。闇に紛れれば、視認するのも難しくなる。


 「…………」

 「な、なんだ? センパイ……」

 「いや、本当に視認できるのが視覚情報だけって、凄いな」


 光陽はサスターの気配がまるで感じなくなった様子に、本当に彼女が目の前に居るのか、肩を触る。


 「セクハラしてる場合じゃないだろ。さっさと行くよ」

 「ちょ、鷹さん! 違う! いつもこんな感じだって! なぁ!」

 「そ、そうだよ!」


 緊張感の無い二人に呆れると、鷹さんは街へ向かって道を歩くのではなく、あえて林の中を突き進んで行き、その後に二人も続いた。





 三人は並んで歩かず、少し距離を話して動く。不測の事態で発見されたとしても、残り二人は姿を隠すことが出来るのである。


 「…………」


 暗闇でもサスターはハッキリと他の二人を認識していた。これも、エネルギーの作用による視覚情報の超過視認である。この状態で、咄嗟にライトを当てられても眼がくらむことは無い。


 「…………凄いな――」


 鷹さんと光陽が暗闇でも的確に進む様子にサスターは改めて感嘆する。自分よりも見えていないハズだと言うのに、的確に音を立てずに移動している。背の高い草を極力避けて、蜘蛛の巣なども壊さない様に躱していた。

 と、光陽はサスターに止まる様に手をかざしてジェスチャーする。


 「…………よし」


 先に道路に出た鷹さんから、大丈夫の合図を待って光陽も道路へ静かに出た。


 「上手く行き過ぎてると、違和感があるね」


 鷹さんはハットを一度持ち上げて、周囲の様子を探った。

 人気のない道路。所々に動かなくなった車が停車し、割れたアスファルトからは、草や花が生えている。


 「50年の間で、支配者が人から植物に変わったみたいだ」


 光陽は、人の気配を全く感じない街中の雰囲気に、少しだけ干渉に浸った。


 「さっさと行くよ。敵の一人は狙撃者だったね」

 「はい。イレヴンは元々、射撃が主体の技量を持っています」

 「ライフルを持っているのなら、障害物の多い場所を移動する方が良い。建物沿いに、あの建物を目指すよ」


 鷹さんは、街も中でも二番目に高い建物を一度見る。


 「あれは、二番目に高い建物ですけど?」


 本来なら、一番高い建物に居るのではないのか? サスターは真っ直ぐ敵を目指すのではないのかと、鷹さんに尋ねる。


 「逆だ。こっちは奇襲を狙ってるわけだし、敵は本拠点を戦場の可能性に成りやすい場所としては選ばない。逆に、そこに踏み込まれても対応できる、二番目に高い建物に居を構えるのが、まぁ普通だ」


 サスターの疑問に、代わりに光陽が答える。


 「半分外れだよ、光陽。そこが標準でも、近場には絶対に居を構えない。中には当たり前とは真逆の行動をとる奴だっている。絶対は無い、いつも言ってるだろ」

 「あ、すみません」


 敵は三人。だが、四六時中、一緒に居るわけでは無いハズだ。今、敵が、どう行動をとっているのかは流石に読めないが、夜である以上、交代で休んでいる可能性が濃厚だ。


 「可能性を順次潰すよ。その第一優先が、二番目に高い建物さ」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 「やっぱり、姉さんには敵わない」


 訓練の終わりに弟がそう告げてきた。使った得物は剣。特性を知る為に、様々な武器を使って毎日の様に戦闘訓練が行われた。


 「イレヴン、君は近接戦闘には向かない。ナイフの扱いも得意じゃなさそうだ」

 「……やっぱりね。ディオス博士にも言ったんだよ。俺は銃の方が性に合ってるって」


 イレヴンは立ち上がりながら、落した剣を拾う。


 『今日の実験は終わりだ。二人とも食事をして休んでいい。ご苦労様』


 その声は、クライノート博士の声である。彼は『スケアクロウ』全員の生活管理を任されていたのだ。


 「一度くらいは、姉さんを負かしてみたいなぁ」

 「射撃適性だと、イレヴンの方が上だ。狙撃とか……おれには立ち回りがさっぱりだ」


 『スケアクロウ』はエネルギーを使った暗殺や、対物対抗を視野に置いた運営がされていた。

 無論、【シャナズ】には『スライサー』と呼ばれる暗殺部隊が存在して居るが、彼らは独立権限を持っている為、扱いにくいと組織内でも懸念されている。

 しかし、『スライサー』は【シャナズ】創設時から在り、多くの貢献をしている事から、良い意味でも悪い意味でも、組織の中では簡単には排除できない地位に根を張っている。


 「狙撃の方が、実際に潜入する暗殺よりも効率も良いし、コストもかからない。捕まる可能性もずっと下がるし、いずれイレヴンの方が重要視されるさ」

 「そうなっても、俺はこう言うよ。“サスター・タナトスは観測手(スポッター)として最高の相方だ”ってさ」

 「―――はは、100年早い。皆の所に戻ろう」


 そう言って、自分よりも背が高くなった弟の背を叩いた。他の兄や姉、妹や弟たちの待つ、部屋へ歩く。

 先の見えない未来で、おれ達は……今が一番幸せな時であると心から思っていた。

 それはまるで……幸せな……夢のような時間だったのだろう――



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 【シャナズ】本部。『対物開発室』局長室にて一人の男が暗闇のI国主都を見下げていた。

 彼の居る部屋も、一切の明かりがついておらず、巨体な窓ガラスは社長室を彷彿とさせる広い部屋だった。


 「ディオス」

 「クライノート君かい? ノックも無しに無粋だねぇ」


 男――ディオスは入ってきた老人――クライノートへ見向きもせずに窓から外を見ていた。


 「私も『英雄の欠片』を見させてもらった」

 「本当に、困ったモノだよねぇ。僕達が必死に考えていた事柄を、『彼ら』はあっさり達成する。まるで、全能の意志表示だよね。僕達はこんなに苦労しているのにさ」

 「なら、もう必要ないでしょう?」

 「何がだい?」


 クライノートの言葉に、ディオスは解っている様に告げる。背を向けていても、その口調は笑っていると解った。


 「“釜”は必要ないハズです」

 「いいや、僕の演算を完璧に体現するには、“釜”は必要なんだ。特に、その中にある【光王】の『神具』がね」

 「【光王】の『神具』?」

 「本当に運が良いよ。【魔王】に感謝しないとね。本来、形を得てしまえば『神具』を『王』から盗むなんて不可能だ。“内宙(マトリス)”と同調してしまうからね」


 『神具』を『王』から手に入れる方法は、いくつかあるが、その中でも意図せずに奪うには、この世界に存在を確立される前に『神具』だけを切り離す事である。


 「輪廻と因果を飛び越えて、その先に在る『彼ら』を肉薄する。その為の準備はこれで整ったよ」


 ディオスは“釜”へ収納された、【光王】の持っていた『神具』の映像を愛おしそうに眺めた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 「なぁ、センパイ」


 建物沿いに例の建物を目指して歩いていると、背後からサスターが声をかけてくる。気配も無いので、声に反応して光陽はビクッとした。


 「頼むから……びっくりさせないでくれ」

 「ご、ごめん」


 鷹さんの足手まといにならない様に光陽は集中していた。そこへ、気配もない背後からサスターに声をかけられて驚いたのである。


 「…………少し止まるよ。もう、建物は目の前だからね」


 その様子に、鷹さんは最善の状況を整える時間を二人に与えた。


 「あのさ、こういう時に言う事じゃないと思うんだけど……」

 「何か気になる事でも見つけたか?」

 「いや、そう言う事じゃない……」

 「歯切れが悪いな。時間も無いし、ビシッと言ってみ、ビシッと」


 待っていてくれる鷹さんも、彼女が言いたい事が重要であるから、足を止めてくれたのだ。なら、ちゃんと聞いてあげなければ。


 「じゃあ、ビシッと言うけど……センパイって、おれの眼の事、褒めてくれたよね?」


 サスターは自分の眼が他人に見られるのが嫌いだった。色の違う瞳を見られた時の周囲の奇異な眼が怖かったからである。【シャナズ】に居た時は、そんな眼で見られてもクライノート博士や他の皆が居たから耐えられたのだ。

 しかし、【魔王】の『従者』になってから、頼れるような存在は簡単には見つからない。当時は【シャナズ】からの落ち者と言う事で、【魔王】勢力内でも信頼関係のある者は、誰一人いなかったのである。

 為朝も、E市内に居る時はアスラの使いで離れる事が多く、常時頼れる存在とは言い難かった。


 “綺麗な眼なのに、カラーコンタクトをしてるのか? 勿体ない”


 その時、仕事で光陽と出会ったのである。


 「最初に見た時に、お前にピッタリな眼だと思ったんだ。だから、つい褒めちまった。今思えば、ナンパみたいな一言だったな。悪い……」

 「いや、そう言うのは良いんだ。本当に嬉しかったからさ」


 一人だと思っていて、自分を見る他人の眼を見れば、どれだけ自分に対して物珍しいと見ているのか……解る様になっていた。その中で、彼はクライノート博士と同じ目で話しかけて来てくれたのである。

 彼は、仕事以外でも色々な事を教えてくれた。他人との距離の取り方とか、他人でも家族のように思える事も、全部彼が教えてくれたのだ。


 おかげで、アスラや他の『従者』の者達とも親密な距離を取れるようになったし、会社でも普通に立ち回れるようになった。


 「こんな時に不謹慎だと思うけど、言っておきたいんだ」


 何より、この色の違う眼を隠さずに済むように、昔のように自分が好きな、自分に戻れたのである。そして、ソレを教えてくれた彼の事を自然と――


 「おれ……センパイの事――」


 その時、一瞬何かが飛来すると音と、細長い物質がサスターの身体を貫いた。





 「……『進むべき者』と……『残るべき者』……か――」


 それが……俺の知る姉の最期の言葉だった。もう、居ないのだ。皆いない。全ては……ただの夢だったのだ。


 ならば、あの時の言葉も全て夢―――夢は現実に干渉しない。


 「それだけだった。俺が……俺自身の証明として学んだ事は――」


 イレヴンの周囲で浮かび上がるのは、捻じれた鉄片。絞る様に先端が尖り、音速で標的へ飛来する。

 ソレは、捉えている三人の中で……最も厄介な存在――サスター・タナトスを撃ち貫いた。

次話タイトル『Sakura eto 未来の過去を目指す者』

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