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IRREGULAR'S HISTORIA  作者: 古河新後
第2部 Artificial life スケアクロウ
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35.Losers 敗者達

 「やられたわね」


 本部に戻った雷は、内部から唯一繋がっている“ポータル”の先――展望台に足を運んでいた。


 「『英雄の欠片』は、飛ばされたみたいよ」


 暁は、ここから発信されたエネルギーを調べていた。元々、この電波塔を使ってG市へ『英雄の欠片』を送るのは自分たちの予定だった。更に、このプログラムを書き換えることが出来るのは、メイリッヒだけである事から完全に油断していた。

 まさか、敵はエネルギーを奪い、尚且つ疑似的に使用できるとは思いもよらなかったのだ。


 「暁、どこに飛ばされたかのか分かる?」

 「I国。【シャナズ】本部ね」


 そこへ、段台から階段を上がってきた光陽が展望台へ戻ってくる。


 「国情。間に合わなかった。悪い」

 「記録見たわよ。窓から叩き落とされたんじゃ仕方ないわ。……ていうか、何でそれで生きてるのよ?」

 「死ぬとこだった」

 「まぁ、アンタが死んでたら、更に状況は最悪になってたし、一応言っておくわ。生きててありがとう」

 「アー、ソウデスネ」


 現状で【光王】が消えてしまえば、状況を巻き返す事さえ不可能になっていただろう。


 「アスラもあんな調子だし、現状では……殻に籠るしか手は無さそうね」


 雷は暁に出来る限り情報を引き出せるように告げて展望台の“ポータル”から本部へ戻った。





 “本当に嬉しい。今までは、アナタとお話しする事しか出来なかったから、こうして触れ合える事は……私にとって最高の瞬間です。アスラ様――”

 「…………」

 「そこでじっとしていても、メイ女史が元に戻る訳では無いぞ?」


 目の前に浮く、メイリッヒの“内宙(マトリス)”をルーが診断していた。元々、アスラの『従者』としてのエネルギーを使用していなかった為、ルーによるエネルギー送付を少しずつだが取り込んでいる。


 「まいったなぁ……これは酷い」


 ルーはエネルギーの供給と同時に、メイリッヒの“内宙(マトリス)”の一部が決定的に欠けている事に驚いていた。


 「大丈夫なのか!?」

 「うぉ!? そうがっつくなって!」


 慌てたように肩を掴んで来るアスラをルーは諌める。


 「流石と言っても良いよ。貴様の嫁は、最低限の処置をして現状を維持できる、最善の方法を取った」

 「何を……」

 「エネルギーが散る前に姿を散らせて、“内宙(マトリス)”の維持に全てのエネルギーを注いだ。そのおかげで、損傷から散るまでが維持され、保護が間に合った」

 「なら、戻るのか!?」

 「それは無理だ。先ほども言ったが、“内宙(マトリス)”が欠けている。“消滅”ではなく“欠けて”いるんだ。これは、新たに創造するよりも、現状をそのまま取り戻せる可能性があるが、同時に最悪でもある」

 「……そうか」


 アスラは落胆する様に座ってメイリッヒの“内宙(マトリス)”を見る。


 「彼女の知識を、利用される可能性があるんだ。その事については、どう対応する?」


 メイリッヒはE市を含めた、日本全土の“極壁”の発動権を持っている。ソレが、敵に奪われた事を意味していた。


 「どうでもいい……」


 だが、アスラはそんな事に何の関心も抱かなかった。彼の見ている者は、ただ一人の最愛の存在だけであるのだ。

 怒りよりも、後悔と愛情が優り、その場を動く事を止めてしまっていた。


 「貴様のそんな状態を、メイ女史は望んでいないと思うが?」

 「それの言葉は……メイ本人から出た言葉じゃない。吾輩は……聞いてない」


 彼女が居たから、自分は戦えたのだ。だが、今回の作戦であまりにも疎かにし過ぎた。なぜ、考慮しなかったのだ……本部が狙われる可能性は無いわけでは無かったと言うのに――


 「吾輩は……護れなかった――」

 「やれやれ、しばらくは安静だ。喋る事は出来ないし、思考も停止しているだろう。それでも――」

 「ここに居る。二度と……離れたりしない」





 ルーは扉を創ると、アスラとメイリッヒだけ残して外に出る。外では、ノハとセンが待機していた。


 「よう。貴様たちの『王』は復讐よりも、悲観を選んだ。このままだと、全滅するまでこの場を動かないつもりだぞ?」

 「それは、僕達も承知している。それでも、ここまで戦意が落ちるアスラを見るのは初めてだ」


 自暴自棄になっているのではない。メイリッヒと言う存在は、本当にアスラにとって二つとない存在なのだ。自身を支えた最愛の存在。それが奪われるという事態は、半身を奪われたに等しい喪失感に襲われているのだろう。


 「ルーさま。アスラさま、大丈夫なの?」

 「んー、それよりも、メイ氏の件を片付ける方が良いだろう。彼女の“内宙(マトリス)”の一部を所持している者がいる」

 「色々と、説明があるんだろうけどソレは後で聞くよ。誰が、奪ったか分かる?」

 「映像と、敵の通信記録を確認した。狐の面を着けた素手の武芸者――トライと呼ばれる奴だ」

 「トライ? ルー、今……トライと言ったか?」


 そこへ光陽が、雷と共に歩いて来る。彼は“トライ”という言葉に反応していた。


 「おお――」


 と、ルーは存在を確かめる様に、光陽に強く抱き着く。


 「何やってんだ?」

 「いや、幽霊じゃないと思って」

 「足はあるわ!」

 「だって展望台から落ちたんだぜ? 普通、死ぬだろ。後、凛々しい顔に傷が――」


 雷はノハを見る。ノハは、落ちても何とかなるでしょ? と言った目を雷に返す。


 「それよりも、トライの事だ」


 ルーが一度、頬に触ると、頬から目にかけて持ち上がった傷と、首の僅かな傷が消える様に治癒された。


 「ふふん。敵の通信を傍受した。狐の面の主は“トライ”と言う名だ。本名じゃないだろうが」

 「ああ。本名じゃない」


 光陽は確信する様にその場に告げた。そして、今浮かび上がった懸念をそのまま口にする。


 「『フラリス解放』で奴を殺した。『玄武重拳』で確実に始末して、遺体もオレと一目が確認した」


 そう、確実な死を確認したのだ。『三原則の死(トライ)』の死を――


 「一名他者だね」


 ノハの言葉に光陽は頷いた。

 一名他者。一つの名前を、多くの人間が使う事を意味する言葉である。特に同じ事を目的とする、複数の殺し屋によって使われる事が多い。


 「後何人いるのか解らないが……少なくとも――」


 この場を強襲したのは間違いなく奴だ。現れた敵対する【英雄】といい、対峙したトライは、【シャナズ】と深い関わりのあるモノだ。

 いや、『三原則の死』事態が、【シャナズ】の傘下組織、又は部隊だとすれば、厄介な事にしかならない。


 「かなり強い。【シャナズ】に奴のような実力者が何人いるのか解らないがあの実力が……一個小隊送られるだけでも――」


 今のアスラの状況と、E市の“極壁”全てを掌握されている現状では、数日と経たずに終わってしまう。


 「詰みかもしれないわ」


 そこへ、電波の解析を終えた暁が現れる。


 「皆の戦闘記録を映像で調べたわ。皆の遭遇した怪物も、【兵士】の末端であると解った。何より……アスラ様は【王殺し】を確認している」


 【王殺し】。その言葉に、今度は光陽以外の全ての人間が戦慄する。


 「ハッ……詰みね……んなわけないでしょう!!」


 雷は壁を叩く。まだ、あきらめるわけにはいかない。何も終わっていないからだ。


 「ふふん。気が合うな雷女子。我も、この程度で負けたとは思えんのだよ。むしろ、燃えて来たね」


 ルーは一度指を鳴らすと、目の前にエネルギーで作ったデータを映像として展開する。


 「何とかしなければならない要素は三つ。

 一つ目は、メイ女史の復帰だ。我は疲れるぞ。この施設を運営するのは、一週間とやりたくない。

 二つ目は、【王殺し】を、I国の【シャナズ】に戻る前に、この地で仕留めると言うことだ。我も、コイツとは正面から戦いたくない。

 三つ目は、『英雄の欠片』だ。アレは光陽のだぞ? 我と光陽との愛の証だ。婚約指輪のようなものだ! 断じて取り戻さねばなら――」

 「やかましい」


 光陽は、恥ずかしそうにルーの頭にチョップをくらわせて、言葉を止める。


 「あう」

 「確かに、ルーさんの言うとおりだね。その三つの内、二つを解決(クリア)すれば、少なくとも体制を立て直すことは難しくない」


 ノハは、やるべきことを見出した眼で、その場の全員に告げた。今、ルーの告げた事を達成する要素の二つは日本の中にある。


 「ルー、退却した敵を追跡できるか?」

 「キス」

 「…………あ、後でな」

 「可能だよ。て言うか、場所は掴めてる。V島の廃墟街。そこから『英雄の欠片』の反応があるからな」


 独自に良く知っている反応を追った結果である。何よりも光陽の近くに居た為、彼から発せられる反応でもあるのだ。


 「不快だ! 不快! この反応は、貴様から出る方が良い!」

 「何言ってんだ、お前は――」

 「キスした時に、じっくり教えてやるよ」

 「わー!! 人前でやめろって!」


 そのルーと光陽の様子に、雷はチッ、と舌打ちして、ノハと暁は苦笑いを浮かべる。センは『陣守』の肩に乗って去って行った。





 V島。捨てられた街の一角でイレヴンとゼリアスとトライは集合していた。

 各自、失敗した後で集合する地点として、この場所を考えていたのだ。そして、パスポートに一般の情報認識をすり抜ける偽装工作も済んでいる。


 「カカ。流石だねぇ。“お嬢”はアンタに任せておけば、確実だと言っていた」


 一人の青年が海に面した崖際で、トライと話していた。

 彼は『英雄の欠片』の情報の表面をトライから受け取っている。『英雄の欠片』の構築情報は、全て【シャナズ】に送ったが、こちらの情報は【銀腕王】が求めていたモノだった。


 「“密度固体”三つ失っても、価値のある情報(モノ)だ。ちゃんと届けるよ」

 「飯はバランス良く食う様に伝えろ。後、お前らも、少しは奴に意見しろ。右に左に、アイツの言う事が正しい訳じゃないだろう?」

 「いいや、トライ。アンタが“お嬢”の何なんのか知らないけど、俺たちの意志は、“お嬢”の意志そのものだ。“お嬢”が死ねって言えば、疑問なく命を差し出す。アンタの物差しで俺達の繋がりを図るなよ」


 青年は嗤いながら口の端を吊り上げると、その口の中からサメのような乱杭歯が生えていた。


 「別に、この場でアンタを消しても良いんだぜ?」


 周囲の影や闇の中から、ざわざわと雑踏が聞こえる。まるで闇の奥に潜む何かが突撃命令を待っているかのようだった。


 「…………」

 「だが、しない。“お嬢”がソレを望まないからだ。その狐の面の下が何者で、“お嬢”と何の関わりがあるのかは、俺が知る事じゃない。俺の今の目的は、『英雄の欠片』の情報を持ち帰る事だ」


 ざわざわとした影からの声が消えた。そして、青年の口も元に戻っている。


 「これで、アンタらとの共闘は終わりだ。“お嬢”の飯も恋しいし、帰るよ」


 元々は、【シャナズ】への協力意志を示す事と、『英雄の欠片』の情報を手に入れる事。それが達成された今、この場にもう用は無い。


 「ジル・ナイトウォーカー」


 トライは、崖下の海面に現れた、鯨のような巨大な肉の怪物を視界に捉えた。そして、その背に乗る青年に、彼の名前を発する。


 「お前らの言う“お嬢”に伝えてくれ。過信するな、と」

 「カカ。伝えとくよ。気が向いたらな」


 青年――ジルは怪物に飲み込まれると、そのまま海へ潜って行った。





 「サスター様。戻らなくて良いのですか? アスラ殿下は、失墜に陥っておられる」


 為朝は、サスターの隣に立ち、その様に進言する。


 「いや……あっちから連絡があるまでは、姿を隠す。見られていながらイレヴンを仕留められなかった。皆の所に居ると、敵の襲撃の懸念を一つ消すことになる」


 姿が見えないからこそ、暗殺を恐れるのである。そこに居ない事で、敵は一番に【暗剣士】である自分たちの存在を警戒する。


 「少しでも時間稼ぎをしよう。おれ達はおれ達で、出来る事をやろう」

 「承知」





 V島の廃墟街にて、イレヴンとゼリアスは、今後の動向と互いの目的の再確認を行っていた。


 「イレヴン。貴様は言ったな? 俺の目的は貴様につけば達成できると!」


 元々、ゼリアスがイレヴンに協力したのは、彼の目的を果たす為でもあった。【魔王】を牽制すれば、【王殺し】としての能力を警戒し、目的を果たせると思ったからである。


 「ああ。お前の考えている事とは少し遠回りになったが……『英雄の欠片』を使い、判明したぞ。お前の求める敵が――」





 「暁、あんたの情報を見て、気になる事があるわ」


 雷たちは今後の動向と、まだ敵がV島に居るうちに叩く作戦を考えていた。その中で暁がまとめていた戦闘記録を見て、アスラが対峙していたゼリアスが度々呟いていた事を指摘する。


 「この、【王殺し】が言ってる、【千本桜】の『従者』って何者よ?」


 雷も【空王】の事は過去の情報を見て知っている。過去に現れた、『神具』を持たない『王』。しかし、その力は当時の【魔王】と唯一、正面から打ち合えるほどのモノだった。


 「【空王】は人の形をしたバケモノよ。記録を見ても戦いたいとは思わなかったわ。でも、その『従者』も、今までで一人か二人しかいない【王殺し】だったなんてね」


 しかも、今まで野放しだったのだ。過去の問題が、今になって自分たちに牙を剥いている。


 「【空王】は、消え方も普通とは違いましたから。その『従者』の定義も曖昧になっているんです」


 当時も、意識だけは存在して居た暁は、当時の最期に立ち会っていた。


 「そのなんだ? 【千本桜】? その『従者』って誰?」


 光陽は関わった人間である以上、せめて情報を求めようと、その人物の事を尋ねる。


 「この人物だな。と言っても、当時と比べると初老になってるようだが――」


 ルーがメイリッヒの管理している情報の中で、僅かな切れ端のような情報から、その人物の姿を皆の前に表示する。


 「コウ、これって……」

 「身内だ……」


 光陽とノハだけが、その人物を理解していた。幼少より世話になり、道を外れようとした時も、何度も修正してくれた。特に光陽は、血のつながった肉親だった。


 「ふむ。あの時の老練者(ホークアイ)か。納得だね」

次話タイトル『I know that I don't know 知らないと、知っている』

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