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IRREGULAR'S HISTORIA  作者: 古河新後
第1部 Remaining story 残光
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2.The contact of shine 既知との遭遇

 人の世界は“常識”と“理論”で構築された社会である。


 道具を作る事を覚えた太古の時代から……ボタン一つで星を滅ぼすことが出来る兵器が存在する時代までが、記録されている文明歴史なのだ。

 多少の優劣はあるが、人は……全ての生物の中で最も優れた進歩を続けており、名実共に星の支配者と言ってもいいかもしれない。


 そんな支配者たちは、星の資源を掘りつづけながらも他の星へ干渉を始める程の文化を持ち近い内に、それさえも行われようとしていた。

 しかし、そんな事とは比較にならない大発見が全世界を駆け巡る。


 ある考古学のチームが、世界で最も、最古に存在したと言われた、文明の『遺跡』を新しく発見したのだ。

 歴史が変わるほどの大発見だった。文明の名称は解らず、そこに刻まれていた文字を解読できる者は誰一人いない。それでも、明らかに“人類”が造ったモノではない、最古の『遺跡』は世界中で話題を呼んだ。

 公式では、『解読不能な文字と、内部に存在した用途不明の“広間”の解析を、今後の課題として行く』と、発表し今でも多くの学者の眼はこの遺跡に釘づけだった。


 しかし、発見した考古学チームだけは課題の片割れである“広間”の用途を知っている。何故なら、発見当初はソコにあったからだ――


 彼らが見つけたのは……“釜”と“石”。そして――


 「何か用か? 住人――」


 その前に腕を組んで佇む、一体の【魔王(げんそう)】だった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 その報告は日本の国防相を騒がせていた。


 現時刻00:00にて、他国の衛星が捉えた惑星外反応の認識である。それによって、あるプランが発令された。

 『惑星外知的生命体殲滅プラン』である。

 上記のプランは、存在するだけのモノであり、今まで実行された前例は一度もない。


 「馬鹿か。交渉くらいはさせてもらえると思ったか? エイリアンめ」


 国防施設――ユニット8の清潔な廊下を歩く、軍服に身を包んだ男は、入った報に苦笑しながらも、どう対応するかを考えていた。


 一般的に世間を騒がしているUFOの様な宇宙人説は、彼の様な立場の人間からすれば確かめる間もなく偽物であると解っていた。

 何故なら、世界はこのような事態に即日の攻撃に移る事を昔から決定しているからである。

 動くは、世界的有数の大国達。そして、この件は一部の軍関係者の中で留められ、世間は再び未確認飛行物体で騒ぐ事になるだろう。


 「状況は?」


 男は目指していたオペレート室へ足を踏み入れた。無機質な扉が開くと、奥の空間は最新鋭のPCを並べた、世界でも最新の情報処理空間であった。


 「国情司令。いま、A国が惑星外ミサイル――『マホッド』を発射しました。着弾まで15秒です」


 段台の様に設置された計50台のPC。その前に座る者達は皆、情報処理の熟達者である。この場所の、この機材は国家機密でもあり、ソレを操作する人員は信用できる筋からの人選である。


 「よし。“プラン”は発動しているな? 他国の衛星からの監視映像を、正面モニターに映せ」


 国情の言葉で瞬時に夜空の拡大画像が正面のスクリーンに表示された。

 そこには、夜空の中でも他の星の比でない程の光量を持つ、“光の球体”が映し出される。そして、少しずつソレに接近するミサイルも同時に映像に映っていた。


 「当初は彗星だと推測されましたが……大気圏を抜けた際に質量の変化が無かった事から、プランが発令されました」

 「詳しい話は後で聞く。総理へ連絡は?」

 「既に手配済みです」

 「……ブルーバード小隊を待機させておけ。出撃には総理の決定が必要だが……空振りに終わるならそれでいい」


 出来れば娘には手をかけさせたくない。ただでさえ仕事が忙しくて放任しているのに、ますます親子仲が悪くなる。

 信用できる者に任せているが……必要な事になれば最前線で敵とぶつかる可能性を考えると――


 「着弾3秒前――3、2、1。『マホッド』着弾しました!」


 と、スクリーンを埋め尽くすほどの光に少しだけ眼がくらむ。間違いなく直撃だ。戦術核に匹敵するほどの威力を持つ『マホッド』の爆発は、成層圏に近い上空にも関わらず、ユニット8でも僅かながら振動を感じる程の衝撃だった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 ほう。確かに進化しているな。過去の戦力は、馬車や視界を埋め尽くすほどの兵士だったと言うのに……これは実に効率的だ。

 さまざまな化学反応を利用し破壊力を極限まで引き上げた最新の“投石”か――

 いやはや、興味が尽きないね。だが、勘違いしているぞ? 文明の申し子たちよ。

 土台より発射される点から“投石”と例えたが、その威力は騎兵の槍にも劣る威力よ。

 ふふん。そんな些細な“火矢”では、我が身には触れる事さえ出来ないよ。

 我が身を打ち砕くのは、“時代”とその疾駆者――

 【英雄】であると知れ――



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 本格的な冬の季節が到来していた。

 防寒具無しで、外を歩くこともままならない寒気は彼らの暮らす都市――E市に到来していた。

 深夜。日付が変わる一時間前の、この時間帯が最も冷え込み、街には人通りも少ない。その要素から完全に眠りについた街の中では一日が終わった者も多い。


 E市の中でも特に人口密度が多くなる“中心街”も例外ではなく、街の至る所で飛び交っていた人の存在も、今は極端に限られたモノになっていた。


 夜空にはE市を照らす月が、淡く弱い光を落とす。その周りを、宝石箱をひっくり返したように輝く星々が夜空に色をつけていた。

 そして、その夜空に不自然に光り輝く一つの星が流れる。

 一直線に落下してくる様子から、数少ない人に居る者達は、咄嗟に流れ星を連想した。だが、夜空を流れる“光”は、あまりにも明るかった。


 隕石や流れ星ではない。その“光”を見て、そう判断できる者は世界でも限られている。

 それが異端(レギュラー)であると“解る者”の一人――青年は、空から降りてくる“光”を間違えることなく視認していた。

 青年が居る場所は、E市を一望するだけでなく地形全てを見下ろすことが出来る、山の中腹に立てられた電波塔である。

 本来、人が乗るべきでない場所で青年と、その場に居る別の存在は嫌でも目立つ“光”の存在を確認していた。


 “あの光が、監視衛星『ASURA』より確認した高エネルギー反応です。A国より発射された、最長距離対空ミサイル『マホッド』は効果が無いようですね”

 「御大層な事だね。わざわざ目立つ形で侵入してくるなんて」


 青年は、聴覚に直接発せられる声に対して、夜空で最も目立つ“光”を見ながら、そんな事を呟く。


 “特性は『光』。現段階で計測エネルギー値は……測定値を振りきれて測定不可能”

 「測定不明? ここで『王』……アスラ、もう出そろったんじゃなかったっけ?」

 「うむ。本来ならば既に“戦争”の駒は確立されている。……が、さらに増える事も考えられない事じゃないよ」


 青年のすぐ横に立つ存在は、腕を組みながら同じように“光”の存在を視認していた。

 今までの“人の歴史”を見る限り、この状況はあり得ない事ではない。現在、『王』は三体。平等になるような増援か……それとも『彼ら』が『王』を認識していないのか……


 “対象は大気圏を抜けて速度を落しながら地表へ接近。予測目標はE市ですね”

 「間中の旦那は?」

 “航空支援を展開し、ブルーバード小隊が北部基地より発進したようです”

 「対応が早いね」


 『彼ら』が何を考えているのか解らない。自分たちに『彼ら』の思考を予測する事は不可能に近い。

 こちらは正確に対応しなければいけないのだが、この様な奇襲的な出現は出来るだけやめてほしい。事は慎重に運びたいが……時間が無さすぎる。

 例えるなら、せっかく積み上げたトランプタワーを横から崩そうとする者が現れた様な事態である。


 「『マホッド』では外装を削る事も出来なかったみたいだね。焼け石に水かもしれない」


 冷静な分析をしながら “光”を見る。これから起こるのは、『最新戦闘機』VS『輝く光』だ。

 色々と疑問に思う所はあるが……青年に解る事はただ一つ。

 残念だが、出動した『最新戦闘機』には勝ち目はない。今E市に向かって落下して来ているアレを処理できる存在は“世界”でも限られているからである。

 同じような“存在”出なければ止められないのだ。


 「“極壁”の起動準備を。それと落下地点を特定して、そのエリアのE市市民の避難も手配して」

 “解りました”


 これから色々と大変になるだろう。同じように戦力を整えている勢力は、少なくとも三つ。その全ては、あの“光”と、その正体に気が付いているハズだ。

 取り込むか、それとも奪うか……だが今、アレが『王』であると解り、対峙することが出来るのは我々だけだ。よって他よりも一手だけ有利に動くことが出来る。


 「もうすぐ日付が変わるね……」


 どうなるかは解らないが……少なくともこちらの事情など“光の球体”は知る余地もないだろう。

 現在の時点で、あの『光』が……この世界に適した形を持っていないと言う事は、本当に即席の“存在”であると考えられる。


 「やれやれ。無茶苦茶な事になってきたなぁ」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 『ターゲットを確認。モニターを遮光モードに切り替えろ。凄まじい光だ』


 電子的なノイズ混じりの無線の声が、深夜の空を駆ける四機の戦闘機の間で飛び交っていた。

 彼らはブルーバード小隊。最新機の高軌道戦闘機を駆り戦闘時は音速の中で生きる、空の男たちである。

 空軍の中でも更に腕の立つパイロットで構成される、その小隊は、実戦経験こそ皆無だが実力の高さは他国の基地移設の拒否を認めさせるほどの実力を持ち合わせていた。

 もし世界大戦時に彼らが居たのならば、本国は決して敗戦国にはならなかったであろうとも言われ他国からも、その有能性は一目置かれている。


 『ブルー1より各機へ。敵は宇宙人だ。A国の惑星外迎撃を物ともせず、日本へ降りようとしている』


 ブルー1の指揮官機は、ダイヤモンド状に編隊を組んで飛んでいる中で先頭を飛行していた。


 『海上で撃ち落とす。各機、フォーメーションを―――』


 その時だった。ブルー1のパイロットは標的が、ほんの少し強く光ったと感じた瞬間、機体の右側起動翼に異常が発生した。警告がコックピットで鳴り響く。

 状況を確認すると、翼に穴が開き、そこから炎上していた。


 『!?』


 ブルー1のパイロットは何をされたのか理解できなかった。


 『隊長!!』

 『各機散開!! こっちの誘爆に巻き込まれるな!! 敵は正体不明の武装を所持! 以降の指揮はブルー2に従え!』


 煙を吹きながらも、ブルー1は高度を下げていく。そしてパイロットは機体が海面へ激突する前に脱出した。


 『こちらブルー2。全機に告げる! 敵は何かの兵器を所持! 散開しつつ『ESM』を展開! 左右後方よりDフォーメーションにて敵を落す!』


 彼らは言葉だけで各自がどう動くのかを訓練で叩き込まれている。音速の中、手足の様に戦闘機を操ると各々、攻撃の配置につく。


 『敵、肉薄! 距離五〇〇!!』

 『この大きさでこの速度――――』


 この日、例の異常(イレギュラー)に最初に近づいたのは、ブルーバード小隊だった。

 目測で直径一〇〇メートルほどの光の球体。それは戦闘機が編隊機動できる、ギリギリの速度と同じ速度で空を駆けている。

 そして、凄まじい光量を放っていた。その刺すような光をまき散らす――“光の球体”を彼らは肉眼で凝視できない。

 遮光モニターでも眩むほどの光。パイロットたちは更にメットのサンバイザー部分をおろして、ようやく目標を視認できていた。


 『ブルー2より各機へ! 『RXトマホーク』にて攻撃を開始する! タイミングを合わせろ!』


 対広域戦術殲滅兵器。RXトマホークミサイル。

 その一つ一つは、街を吹き飛ばすほどの威力を持ち、戦略兵器として都市制圧にも使われる事もある。

 これの装備する時は、戦争の開戦や、戦術牽制などの緊急時に限られていた。実際に使う作戦も極端に限られているが、装備には総理大臣の許可がなければ不可能であり、ロックの解除は日本の各部門のトップの完全承認が必要である。

 今回の件は、有無を言わさずに総理の言葉で迅速に使用の許可が出たのだ。


 追走する様に続く、三機の戦闘機の下部より三つのミサイルが放たれた。ミサイルの爆発で発生する被害を受けない様に、ブルーバード小隊は安全位置を取って敵の様子を確認する。


 『目標! 効果なし!』


 位置的に最も詳細に状況を確認できるブルー4が全機に通達する。

 “光の球体”は爆発の煙だけを置き去りにして、何事も無かったかのように飛び続けている。光に包まれている為、ダメージがあるかどうか以前に、まともに攻撃が当たったのかも解らない。


 『もう一度だ!』


 距離的にチャンスは後一回。これで落とせなければ光の侵入を許してしまうのだ。すなわち、本土上陸である。

 再び配置に着いた時だった。“光の球体か”ら三つのフラッシュのような光を確認した瞬間、三機は起動翼を破損していた。


 『くっ―――』


 何をされたのか推測さえ浮かばない。三機は墜ちながらも互いにぶつからない様に何とか操作すると、ブルー1と同じように機体が海面にぶつかる前に、パイロット達は脱出した。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 “ブルーバード小隊は全滅。対象は既に『武具』の形成を完了しているみたいね”

 「ここから見てた。だが、あれほどの精度はコンピューター並みの知能が必要だ」


 いくら自身の攻撃速度が相手の移動速度を上回っていると言っても、それを狙い当てるのは別の次元の話だ。

 自身は音速で移動しながら更に音速で動く敵を捉え撃ち落とす。

 それを行える人も、兵器も、この世界には存在しない。持てる知識と思考には限界があるのだ。

 だが、E市へ迫る“光の球体”には問題の無い事柄だったらしい。


 「既に知性がある。そして状況を理解し、見ただけで物の機構を把握する」


 既に青年も気づいていた。確実とは言えないが、高い確率で高度な知識を持っていると推測している。しかも、その処理速度も現在の文明社会のモノを遥かに凌駕しているのだ。


 「恐ろしいねぇ。しかも一人も死んでない」


 ブルーバード小隊のパイロットは全員無事に脱出していた。救出の連絡は既に行き渡っている為、冬の海で凍死する前に回収できるだろう。

 “光の球体”は四機の最新音速戦闘機を、あっさりと撃墜した。

 無駄な殺生をする気が無いのか、それとも単に遊んでいるのか。どちらにせよ、この世界の現状と事情を知った上での行動であるのならば、あまりにも軽率過ぎる。


 「中身は子供かもしれない。無邪気に人を殺すとすれば、本命はやはり――」

 「E市だね」


 ただの余興か、もしくは持っている武装を試したのかもしれない。ならば交渉よりも粛清の方で考えて動く方が良いだろう。


 「行こう。アスラ」


 “光の球体”が街へ行く様を、追う様に朷矢之破(とうやのは)は告げた。

 無表情の眼。雰囲気的には冷やかで、仕事では表情の少ない人間として印象が強い。身内でも特に心を許した相手以外に対しては、笑う事は殆どなかった。無造作に伸びた後ろ髪は三つ編みで縛り、服の下には無駄のなく、強靭に絞った筋肉の身体が存在している。華奢に見えるが、内包する力は、知る所では屈指の実力者であった。


 「祭りだ! 祭りだぁ!! ノハ氏よ、本気でやっちゃうよー!」


 そのノハを“主”と称する存在はアンラ・アスラ。

 標準的の体格に見えるノハと比べて、二回りも大きな筋肉質の体格。二メートルを越える高い身長も相まって、強い存在感を表していた。全身を漆黒で統一した服装は、古い民族着を彷彿させる。だが、そんな威圧的な体格よりも、注目するところは頭だった。

 首の上に髑髏がついているのだ。墓場に居る亡霊のような姿を咄嗟に連想してしまう姿は異形であった。その頭に髪の毛のように立ち上る藍色の炎も淡く揺れている。

 その二つは、E市で最も高い電波塔から飛び降り、“光の球体”の落ちる地点へ向かった。



 深夜の中心街は、外灯が淡く所々を照らしている。ささやかな暗闇もあれば、全く光の届かない場所もある。

 標準的な夜であった街は寝静まり、次に本格的に躍動を始めるのは太陽が再び街を照らし出す早朝であるハズだった。


 その時、朝が来た。


 遅くまで飲んでいた者達も、徹夜のサラリーマンも、住宅で眠って居た大半の市民も、朝だと錯覚して夜空を見上げた。

 しかし、その光は太陽から注がれるモノでは無かった。いきなり空を戦闘機が飛ぶ音が聞こえたと思ったら、次に中心街が“光の球体”に照らされたのだ。

 大半の人間が不思議な明るさを感じて外を見る。そのE市に現れた“光の球体”を、アスラ達以外の二勢力は重要性を理解し、各々に情報が飛んでいた。



 C国の人柱によって建てられたと言い伝えられている世界遺産に座り、足を外に垂らしている女がいた。


 「……一度でいいよ。本当の“恐怖”を感じたい。アハ♪」


 新たに投入された“存在”を、現在地から遠く離れた日本から感じ、嗤っていた。



 I国の国防三軍以外の非公式の国防組織――【シャナズ】の総司令は緊急で寄せられた情報に眼を細めた。


 「ここで戦力の追加……いや、第四勢力か。本隊は間に合わないな。【魔王】と“光の使徒”の両方捌くのは難しいだろう。『スライサー』の部隊を使って、弱ったどちらかを牽制する様に指示を送れ」


 間違いなく【魔王】と“光の使徒”はぶつかる。そして、共闘するかどうかは互いの理に委ねるしかない。もし共闘になるのなら、弱った時点でどちらかを削る必要がある。どうなるかは【魔王】次第だ。




 ブルーバード小隊を破った“光の球体”は事もあろうに、E市の中心街の上空500メートルほどの高さで停止し、ただ光だけを降り注ぐだけの存在となっていた。

 E市の深夜を照らす“光の球体”の停止は何をしているのか不明だった。その場で見上げる者達は、ただ不思議な様子で何が起こるのかと期待している。

 不思議と眩しいと感じない“光”。それどころか、何もしてこない様子に、眠気が吹き飛んだ市民の多くが、こう思っただろう。


 友好的な宇宙人? それとも新しい非公式の飛行機?


 朝と勘違いし、外を覗いた者達が続々と“光の球体”を見る為に外に出る。


 「学んでいるのかもしれない。それか、市民の様子を観察しているのかも」


 ノハは片手で携帯を持ち、耳に当てながら跳んでいた。

 身軽に建物の屋上を石飛の様に移動していく。その身体能力は人の持つ限界を遥かに凌駕しているが、今だけの限定的なものである。

 空を飛ぶような適性ではない為、宙に浮かぶのは膨大なエネルギーを必要とし、効率が悪い。ちなみに浮いている“光の球体”は、アスラの様に形を持っているモノではないのだ。

 言うなれば“雲”のようなものだろう。実を持ち、目で見えていながら、抵抗なく浮かび、近づくと消える。この星が作り出した物質現象。

 問題は、“光の球体”を生み出したのは、この星ではない事と圧倒的なエネルギーを持ち、更に意識と知性がある事だ。


 『ただの現象なら楽だったわよ。こっちで消滅させるか取り込めばいいんだから』


 ノハが話している相手は、先ほど通信していた者ではなく別の相手である。


 「国情さんは、今どこ?」

 『超特急で戻ってるところよ。サスターにも連絡は行ってるけど……あっちは役割上、姿を現しにくいかもね』

 「【銀腕王】の件もあるけど、大丈夫かな?」


 その名前は、未だに全容を掴めない組織の名だった。唯一判明しているのが、トップに居る存在が【銀腕王】と名乗る者だけであり、その“宿主”も配下も一切不明だった。


 その件は、現在進行で自分たちの組織の者が担当して調べている。だが、こうなってしまった以上、その担当者も戻ってこなければならないだろう。

 ノハは、ある建物の屋上で足を止めると遠目でも確認できる“光の球体”を見上げた。


 『私達が弱らせたところで横取りとか、あり得ない話ではないけれど……数日前に地球の裏側で存在が確認されているわ。恐らく【銀腕王】は大丈夫よ。【シャナズ】の件もあるし、それよりも私はアンタたちの方が心配ね』


 電話の相手である国情は、単身で相手をさせるのは危険であると言っているのだ。

 相手は未知だ。どんな武装を持っているのかも分からないし、こちらの想像のつかない切り札も所持しているかもしれない。下手をすればE市が丸々消し飛ぶ可能性もある。


 「何とかするよ。最悪、“極壁”を発動した時点で“反転”する」

 『よろしく。こっちも後30分ほどで到着するわ』


 携帯を切り、ポケットに仕舞った時だった。

 “光の球体”から、一筋の光が街を薙ぐ。そして薙いだ光の筋に合わせて流れるように爆炎が上がり、中心街の一部が吹き飛んだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 人の認識が巻き戻った。

 神を崇め、この地に神が存在すると本気で考えていた時代。

 『英雄』が伝える栄光の時代。

 それが必要であると、“光の球体”は訴えていた。

 神のように上空に降臨し、眼下に存在する文明に攻撃を開始したのだ。

 誰もが持ちながら、誰もが忘れてしまった“英雄の条件”。

 ソレを満たす者が現れる事こそが、唯一の救いであることを……人類は、まだ忘れていた。


 さぁ、世界よ。『進むべき者』と『残るべき者』を選別しよう。

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