表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
IRREGULAR'S HISTORIA  作者: 古河新後
第2部 Artificial life スケアクロウ
26/56

22.Under the sun 太陽の下へ

 彼らは帰って来て、あらゆる憎むべきものと、あらゆる忌まわしいものをその地から取り除く。

 ※旧約聖書 エゼキエル書11章18節より抜粋

 黒いヘルメットに、防弾ベストと動きやすい軍パンにブーツ。背には折り畳み式の兵器と、ショットガンにマシンガン、折りたたんだボウガン。腰にはハンドガンとサバイバルナイフに道具袋を提げていた。


 それが、展示館の天井をぶっ壊して侵入した男の装いだった。全身武器の塊であり、一人で戦場を駆けるつもりなのか、全ての兵器が即座に使う事の出来る状態になっていた。

 そんな彼の参入をトリアは、戦いの中で事前に連絡を受けている。


 『『従者』を確保できました。数分で、そちらに到着するとの事です』


 「……まさかとは思いましたが、貴方でしたか――ヒュー。“L”の捜索は終わったのですね?」

 「ああ。後で報告する」


 サウラはトリアよりも、背後に現れた男――ヒューの方が危険であると判断し、エネルギーによる知覚を背後に集中する。まともな人間が見てもヒューは武器満載の危険人物にしか見えない。

 そんな彼が持っている武器の中で、背に装備した折り畳みの武器からは見ただけでは使用用途は解らないが、特に危険なモノであると判断していた。


 そして、サウラが(ヒュー)彼女(トリア)よりも危険視したのは間違いなく、その身に“居る”と判断したからである。


 「現場の指揮官に従う。デュラン副団長の命令だ」

 「それでは、スライサー・IIIの権限をもって命令します。【聖守護】ヒュー・ヴァイス、目の前に居る【悪魔憑き(サウラ)】を始末しなさい」


 その言葉が放たれると同時に、振り向きつつ繰り出したサウラの拳によって、ヒューの首から上が吹き飛んだ。

 展示されているガラス細工が全て弾け割れ、一瞬で土煙が晴れる。そして狙われたヒューの頭――ヘルメットが壁に激突し、めり込む。


 「無茶苦茶な野郎(クレイジー)め」


 ヒューはサウラの攻撃を受けた瞬間、滑るように身を沈めて横へ躱していた。壁に埋まるヘルメットには中身が無く、鼻まで布で覆った若い雰囲気の素顔は、本体の頭の上に着いている。


 「――?」


 そして、サウラは妙な電子音に足元を見た。踏み込んだため、ヒューとの位置は入れ替わる様に反対になっており――


 「Good bye」


 サウラの足元に一瞬で仕掛けられていたクレイモア地雷。次の瞬間、少し離れた場所で転がり起きたヒューの持つスイッチによって炸裂。サウラは爆炎に包まれた。





 建造物の保持。【シャナズ】は国防軍と同じ立場であり、国内での戦いの際は、被害を出来る限り防がなくてはならないのだ。

 しかし、ヒューの戦い方はそんな事など気にしないと言った風である。


 「上空2000メートルから駆けつけたが、『WF』はかなりヤバイ状況だ。街中で【シャナズ】の部隊員が怪物と戦ってる」

 「状況は把握しています」


 敵は50前後の怪物。危険な敵であり、まともな戦闘員ならば殺されてしまう可能性もある。だが、唯一の有利性もあった。


 「市内の軍が動きました。奴らに通常火器は有効です」


 ジュガンとハンゾウの武器は、通常の武器でありソレによって怪物は排除できた。ならば、通常火器でも対応が可能だと判断したのである。


 「最悪デース。ワタシは嫌いなんですよ……」


 サウラを襲ったのは、リモコン式のクレイモア地雷だった。破片と内部に仕掛けられた礫はエネルギーでコーティングしている為、エネルギーを纏ったサウラにも有効にダメージを与える。


 「……くだらない戦いによる……くだらない死……それこそ愚者(カス)の行いです……」


 爆発によって起こった煙の向こうに居るサウラは、エネルギーを全て解き自問自答する様にヒューとトリアを見る。神父服が少し焦げている以外は、ほぼ無傷だった。

 サウラは自らの命を賭ける場を明確に決めていた。そして……それは、今この場ではない事から憤慨しているのだ。


 「…………――どういう事ですか?」

 「後……何人伏せてやがる――」


 ヒューとトリアはそれぞれ入ってきた通信に疑問と悪態をつく。


 『怪物によって乱れた包囲の隙間を一対の影が侵入。識別エネルギーは【黒騎士】。しかし……過去のデータとは比べ物にならないエネルギー数値です。これを止められる装備、設備は今の【シャナズ】には存在しません――』


 トリアは冷静に現場の状況を考察した。

 狙いは自分達ではない。自分たちが狙いならば、ジュガンとハンゾウが死んだ時点で現れなければ……確実なタイミングは他にはない。

 その事から考えると……【黒騎士】は、この場から確実に脱するための保証だ。


 「逃げる気か?」


 その意図をヒューも瞬時に把握していた。外で暴れている怪物はただの(デコイ)。自分たちが追う事が出来ない様にするための要素なのだ。


 「Yes! ワタシの目的は、アナタ方と遊ぶ為ではありまセーン。これから色々と忙しくなるのデスヨ」


 全てが明らかになれば……サウラ達の行動に、無意味な事は何一つない。今夜の【銀腕王】側の立ち回りは綿密に計画された様に事が運んでいる。


 何が目的かは不明だが、【シャナズ】に対してこれほどまでに交戦し、途中退場するには鮮やかな立ち回りだ。こちらの行動を全て先読みし、どの立ち回りにも、何重と練られた目的が存在している。そして、全ては交戦しておきながら、自らの被害を最小限に留めて、退却する結末に収束している。


 「それでは、失礼します」


 次の瞬間、展示館の側壁が吹き飛ぶと同時に、一瞬だけ移った影に、サウラはさらわれる。そして、影は反対側に大穴を開けて去って行った。


 「…………」


 【悪魔憑き】【黒騎士】。

 『従者』の数は少ないと予測しているとは言え、これほどの者達をまとめるとなると――【銀腕王】は並大抵の器量ではない。現れるまで感知できない怪物といい……敵の力はまさに未知数だ。


 「…………どうやら、【銀腕王】の勢力を見直す必要がありますね」


 【銀腕王】は放っておくには危険すぎる力を集結させている。一年程度の組織構成だが……力だけ見れば【魔王】の陣営に匹敵するかもしれない。


 「ああ。だが、街の怪物掃除(クリーニング)が先だ。行くぞ、ジェシカ嬢」

 「本名で呼ばないでください」


 だが、今はやるべき事を。そして終えた後で検討しなければならない。この脅威が世界で起これば、止められる者達は限られてくる――





 『それで、【シャナズ】はどうだった?』


 疾走する【黒騎士】は、黒い装甲馬に乗り、全身を黒い甲冑で覆った騎士である。その疾走速度はスポーツカーをも容易く置き去りにする速度だった。

 その鞍の後ろで足を組みながら座るサウラは、先ほどの戦いを『王』に報告している。


 「統率力、権力、戦力、対応力、どれも申し分ないデース。ワタシの知る限りで、これほどの対物組織はありません。本当に、同盟の件はこれで良かったのデスカ?」

 『ああ、これで問題ない。“お嬢”の考え通りだ。そして【シャナズ】から打診があった』

 「What?」


 予想していた事態とはかなり異なる事態だ。サウラは思わず聞き返す。


 『現場とは別系統の司令者からの直接の通信だ。“釜”を引き渡すが“条件”があると』

 「条件?」

 『【光王】の身柄か……【英雄】の痕跡と引き換え、との事だ』


 どちらも一筋縄では行きそうにないモノだ。何をしようと勝手だが、使われる事態を“お嬢”はどう思っているのだろうか?


 「この話に“お嬢”は何と?」

 『喜んで承諾した。お前とギレオはI国に残り、言われていた次の作戦に移れ』


 元々この同盟を起点とした作戦には、『承諾した時』と『そうでない時』の二つが用意されていた。


 「了解デース。それでは【シャナズ】側の圧力は、今後は無いと考えておきマース」

 『それでいい。今後、我らの第一狙いは――【光王】。次に奴の言う【英雄】だ』



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 昼下がりのE市。少しだけ傾いてきた太陽は、数時間前の大雨に濡れたE市を照らして、水の雫に反射していた。

 そして、E市の中心街で無事だった建物は病院以外に無く、ほとんどが倒壊、良く半壊といった風景に住人達は驚愕している。


 慌ただしく現場を取り締まる公共の機関と、他市から駆けつけた消防隊とレスキュー隊によって、被害者の確認と最低限の瓦礫の撤去が行われていた。そんな中、誰もがこう思っている。


 何があったんだ? と――


 「ごめんなさい」


 その中で事情を知る青年――桜光陽(さくらこうよう)は、【魔王】――アンラ・アスラが居を構える、E市の地下に設けられた彼らの本部で土下座をしていた。

 真っ白い空間で、無駄な物は何も無い隔離空間のような場所である。


 「おいおい、何をしている。我が主――」

 「お前も謝るんだよ! バカァ!!」


 光陽は、桜色の髪を持つ少女――ルー・マク・エスリンの頭を掴んで強制的に頭を下げさせた。

 彼は頭部の鎧をだけを横に置いて、残りは全身甲冑姿だった。ルーは鎧のマントをドレス風に片肩で結んで服の代わりにしている。


 「なんと言えばいいのか解りませんが……ごめんなさい!!」

 「ちぇ、ごめんなさーい」


 このE市の損壊の原因である【英雄(こうよう)】と【光王(ルー)】の戦いは、別の形で収束した。

 二人の内どちらかが勝利していれば、間違いなく次に影響を受けるのはアスラ達――【魔王】の陣営である。しかし、その結果とならなかった。

 【英雄】と【光王】の両方が存命し、そして両方が目の前で土下座しているのである。


 「……うむ、解った。それで間違いないのだな? ありがと」


 対し、目の前に立つのは黒き巨漢である。髑髏の頭に燃える藍色の炎。二メートルに達する身長に、黒い民族着越しでも良くわかる筋肉質な体格。見ただけで危険であると察する外見は、初対面だと間違いなく委縮してしまうだろう。

 外見は間違いなく【魔王】と言っても差しつかえない存在。それが(アスラ)であった。


 アスラは自分たちに影響を及ぼす可能性の存在が、二つとも土下座している状況に正直困っていた。片方(ルー)は納得いかない様子で、仕方なく、と言った感じだが……


 「両人、顔を上げてくれ。特に【光王】よ、貴女に聞きたいことがある」

 「なんでも聞いてください!! 何でも答えろよ!?」

 「えー、まぁ、貴様が言うなら仕方ない。何用だ? 【魔王】」


 E市の損壊に関して責任を感じている光陽と違って、ルーの方は特に気にしていなかった。だが、光陽に習ってルーも正座している所を見ると、彼の指示には従う様である。


 「損壊した建物は108棟。予想損害死傷者は数万人に上ると吾輩たちは判断していた」


 ひぇ!? と光陽はとんでもない事をしでかしたと頭を抱えている。対するルーは、ふーん、と我関せずと言った様子だった。


 「だが、死傷者はゼロ。それどころか、皆、貴殿たちの戦いの記憶は無い。【光王】よ、一体なんの『武具』を使った?」


 え? と光陽はルーを見る。


 「ふふん、それは簡単な事よ。『リア・ファル』の中身を預かっている。我が恋人に倒された際に、【英雄】に移る予定だったのだ」


 ルーは隣に居る光陽へ飛びかかるように抱き着く。


 「うわっぷ! 馬鹿止めろ!」

 「照れるな照れるな。足がしびれたんだー(棒)。ほれほれ、生肌だぞ~」

 「人前だろ、バカァ! 放れろ!」


 恥ずかしそうに光陽はルーを引き離すが、彼女は人外の力で甲冑にしがみついている。


 「まぁ、範囲内の住人は一時的に『リア・ファル』内部に体感時間を止めて収納した。我の内宙(マトリス)が恋人に斬られた時がトリガーで、その次にダメージを受けた一撃で解放したからな。状況合わせはそちらで調整してくれい」

 「……それは本当か?」

 「しつこいなぁ。本当(マジ)だよ」


 アスラはルーの発言に決して無視できない単語が入っていたことに、驚きを隠せなかった。


 自分達をこの世界に構成する四つの要素――『釜』『石』『剣』『槍』。


 この世界にある、“虚”と“実”。それを強制的に世界に混ぜ合わせる『彼ら』の残した要素であった。最も重要な要素の一つ――『石』を彼女(ルー)は保持していると言っているのだ。


 「訳わからん! 説明しろ!」

 「ああ、じっくりしてやるさ。夜のベッドでな」

 「来るなぁー、うべぇ!?」

 「ふふん。足がしびれる現象を引き起こしているな? セイザ、は礼儀を重んじる行為だが咄嗟の行動に向かんよ」

 「くっ……そ。足が……」


 ジリジリと、獲物を捉えたように光陽に近づくルー。数時間前まで殺し合っていたとは思えない現在の光景に、アスラが下した判断は――


 「とりあえず濡れていては風邪を引く。シャワー室があるので温まると良い。服はちゃんとした物を用意しておくよ」

 「おお、気が利くな【魔王】! 混浴だろ?」

 「男女分けてくれ!!」


 必死な光陽の叫びに、アスラは彼の意見を尊重した。





 S高等学校は、中心街よりも離れた箇所にあり、【英雄】と【光王】の戦いの範囲からはギリギリ外れていたことから、本日も平常運転で学業を継続していた。

 学校生活の最中に起こった惨状に、気が付けば海まで見晴らしの良くなった中心街に驚いていた。


 「……ねぇ、紅子ちゃん。これってどういう事だと思う?」


 数時間前まで3年間屋上から見続けた光景が、空爆後のようにすっきりしている光景は違和感しかなかった。


 「ねぇ、城里さん。何度も言うけど、一人にさせて頂戴」


 屋上に居る二人の女子生徒は、それぞれ関心のあるモノが違っている。


 「でも、びっくりだよ。まさか、気が付いたら“中心街”が無くなってるし」

 「知った事じゃないわ。街が吹き飛ぶなんて世界中で起こってるわよ。今更、日本が被害を受けても不思議じゃない」


 戦争被害なんて、今まで日本で起こらなかった方がおかしい、と赤い髪をハーフアップでまとめた女子生徒――木崎紅子(きさきこうこ)はリアリストであった。


 「きっと、謎の爆発があったんだよ! 遂に人類は未知との遭遇を果たしたのだ!」


 と、オーバーリアクションで手を広げて意思表示する女子生徒――城里鳴(じょうりなき)は18と言う年齢でも、そう言った噂話を本気で信じる天真爛漫な性格だった。


 『3年C組、城里鳴さん。至急、職員室へ来てください。繰り返します。3年C組、城里鳴さん。至急――』


 不意に呼び出された放送に、心当たりのない様子でもナキはとりあえず職員室に向かう。


 「あ、紅子ちゃん! また今度時間を作るから!」


 ごめんね、と顔の前に手を合わせて、昼ごはんも食べずにナキは屋上を去って行った。


 「……名前で呼ぶなって、言ってるのに」


 何度言っても、一人にしてほしい自分に関わってくるナキに紅子は呆れていた。


 「結局、世界は何処に行っても助からない。なら、参加するしかないわよね……ねぇ、スルト――」


 自分以外誰も居ない屋上で瓦礫の山となった中心街を眺めながら、独り言をつぶやくと、撫でる様な風が彼女の赤髪を揺らした。

次話タイトル『Doubtful future 不確かな未来』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ