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08、見捨てられたのだろうか

 うっかり、大事なはずのノートパソコンを、地上約一メートルほどの高さから自由落下させてしまった。

「どうしたことだろう、何の冗談なんだ、これは」

 お隣さんが、桂さんの家、はす向かいが、田中さんの家。向かいの敷地は空き地になっていて、その隣には公園があったり、真新しいアパートがあったり。

 根城に決めた公園から、徒歩で行くには遠いくらいの我が実家。届氷家。電車に乗って、六、七分で来たはいいものの、何とそこに実家は無かった。

 俺の生家は一体、どこに消えた。

 何だこの怪奇現象は。

 3LDKの一軒屋が消失して、『売地』と記された看板が立てられているなんて、謎だ謎だ謎すぎる。

 あるべき表札は、『届氷』と黒字で書かれた、白っぽい大理石じみたプレート版のはずだ。

 でも、表札どころか、丸ごと無い。家が無い。姉といっしょになって背くらべした時につけた柱の傷も、当然ない。

 そりゃ電話も通じないわけだよハハハ、なんて思いつつ、半笑いを浮かべている場合でもない。

 勇気をもって来てみた結果が、こんな異常な事態だなんて、これは夢か。いや、夢だろう。夢だ。確信を持って言いたい。夢だ。絶対に夢だ。家族である、まして長男である俺に黙って両親が家を売り飛ばすはずなんか無いだろう。

 それとも、俺は見捨てられたのだろうか。

 ……ありうる。

 というより、信じたくないけれど、その可能性は濃厚だ。

 そうか。俺はいつしかいらない子になってたんだな。考えてみれば姉が婿養子をもらえば、それで届氷家としては存続できるし、万事解決だ。長男とはいえ二十三歳無職の男に何か期待する方が不自然だろう。当たり前のことだ。

 今まで、いろんなことから目を背けて逃げてきた。病的なまでに。でも、だからって、いきなり生家が無くなるなんて、荒療治が過ぎるだろう。

 と、そこまで考えて、はっとした。

 天啓のように閃いた。思い出したのは、根絶計画という言葉。いつかロリロリな十六歳くらいに見える少女が発した幼い声。

「なるほど、そういうことか」

 俺は決め付けた。そして言う。

「まことちゃん、居るんだろう?」

 格好つけた声でそう言って振り返った時、気の毒そうに俺を見て不審そうに囁きあった挙句に嘲笑している中学生女子が二人ほど。まことちゃんは姿を表さなかった。

「あっれ……」

 ものすごい気まずさと恥ずかしさで、顔を覆いたかったものの、何とか平静を装ってその場を離れた。

 それにしてもおかしい。ああいう場面では、仕掛け人がパッと出てきて、高慢な感じに事情を説明してくれるものと思っていたが、小説やドラマの見すぎなのだろうか。

 だとすると、これは時田まことちゃんの仕業ではなく、届氷家はいつの間にか跡形も残らず解体されちまったってことなのか。

 信じがたい……いや、信じたくなかった。

 駅までの道を歩きながら母の携帯に電話を掛けてみたけれど、ついに料金未払いの影響が出て、電話機能が失われてしまったようで、お客様のお掛けになった電話は云々といったアナウンスしか流れなくなってたり、どこに行っても圏外と右上に表示される使えない携帯電話になってしまった。いつの間にか、携帯が使えなくなっていた。

「どうしたことだ……」

 ある意味、携帯は死んだと言えるかもしれない。

 いや、料金を払えばまた動き出すはずなので、眠っているとか仮死状態とか言ったほうが正確だろうか。



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