07、後悔しながら公開する生活
俺は、プライドが高い。
とはいえ、本当に高いかどうか疑わしい部分がある。「普通のプライドは持ち合わせていないのに、妙なプライドだけ高いんだね」というのは、以前、女友達に言われた言葉である。
今、唐突にそのことを思い出して、なんとなく懐かしくって情けないオレンジとブルーが混じったような感情に満たされていて、今まさに公園から見える夕焼けのようだ。
風が梢を揺らして、少々の肌寒さを感じるものの、春も終わりに近づいているわけだから、なんとかギリギリ野宿できる気候ではある。
妙な部分で俺のプライドが高いのは、母親の方の家系に由来するんじゃないかと母が言っていた。
何でも、古くから武士の家系で、村長に何度も就いた家柄なのだそうだ。
かつて母は言っていた。
「昔の村長ってのは、今の村長とは違ってね、村のために私財をなげうって尽くすもんだった。でも農地解放が云々。戦争の後が云々。とにかく、あんたはそういう立派な血が流れてるんだから、しっかりしなさい」
そういうようなことを、何度か言われた記憶がある。
実際、母方の実家である橘家の屋敷は巨大で、祖父や祖母はいつも背筋をピンと伸ばした、田舎にあるまじき立派さを見せ付けてくるのだ。
俺は、あまりそれが好きではなかった。
立派さというものに反抗すらしたがった。
その成れの果てが二十三歳無職だってんだから、親や祖父母の言うことは真剣に耳を傾けるべきだったなと、少し後悔している。そして今、俺は自らの生活を大半、公開している。誰も見向きもしないけどな。
クズっぷりを駄洒落で表現してみた。後悔しながら公開とかって。
かくして、妙なプライドが妙な方向に発露し、俺は公園でホームレス生活を営んでいたのである。
持ち出したのは、千円弱が入った財布と、大した額が入っているわけでもない通帳と、ノートパソコンと着替え数着、そして菓子みたいに見えるが栄養満点な棒状のボソボソした食品。
スーパーの裏に捨てられていたダンボールをかっぱらってきて、家を建築した。自分で築いた家ならば家賃を払う必要は無いから。イッツ、マイ、ユートピア。
ワンルームで、広さは二畳半ほど。ブルーシートだけは購入し屋根に使った。少々の雨風ならしのげる仕様になっている。
俺は、栄養満点バーのみという不健康な食事をとりながら、インターネットに繋がらないどころか電池が切れて
真っ黒画面を映し出すノートパソコンを開いてボンヤリしていた。
冷静さを欠いていた。
電源も無しに、パソコンは動いたりしない。人間がメシを食わねば死んでしまうように、パソコンは電気を食わねば動けない。つくづく世の中ってのは不自由なものだらけだ。
もしも設計した神様が居るのなら、引っ張り出して説明を求めたいくらいだな。
いやしかし、それにしても、家賃滞納の事実を知った夜に、まさに夜逃げするように出てきてしまったわけだが、この先どうすれば良いのだろう。
路頭に迷うとはまさにこのこと。
何とか食い物があるうちに、実家にでも行って何とかしてみるべきなのではないか。
ちょっと前に電話して通帳にマネーを振込んでもらった手前、行きにくい立場にあると思うのだが、このままではメシを食えないではないか。働こうにも面接で住所が公園ですとか自己紹介した瞬間に「帰れ」って言われそうだし。かくなる上は、親にたかる。それしか他人に迷惑を極力かけない解決方法が見当たらない。
俺の母親は、俺が小さな頃から反抗期に至るまで、他人に迷惑をかけるような生き方をしてはダメだとことあるごとに言ってきた。そして今まさに、他人に迷惑をかけそうなレベルの貧困まで追い込まれているわけだ。
これで助けてくれない親が、果たしているだろうか。
なーんて、甘えた思考を抱きつつ、俺はダンボールハウスの外に出た。




