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06、おぼろげに、かけらほど

 外に出ない日々が続いて、いつの間にやら三日が過ぎた。

 その間、なんとなく何もやる気が起きずに、ただ天井や外の景色を見ながらボンヤリするのが主な過ごし方。長時間風呂に入ってる日もあった。毎日の食事は、棒状のカロリー高い保存食品。何ら生産することのないドブに捨てられたような三日だった。

 いや違うんだよ。ちゃんとアルバイト情報誌とか見たし、パソコンでアルバイト情報サイトとかもチェックしたんだよ。でもダメだった。何もやる気が起きなかった。きっと、お金が無かったからかな。

 まぁ、あったはずの金をギャンブルで散らしたってのが、大きな問題なんだけども。

 所持金は千円に満たないくらい。

 料金滞納を表す郵便物が示すのは、単位が万の請求書。

 そう、これはもう負債。借金である。

 そして今、返すあては皆無。

 使った分は支払わなければならないというのは当然のこと。でもお金が無いとなれば、どうなるか。

 止まる。強制的に止められる。

 当たり前のことだ。

 小学生だって、半数以上が理解してるだろう。

 使うだけ使って踏み倒すなんざ、盗人の行為に他ならない。

 いやはや、まさか自分が盗人になるか否かまで追い詰められるとは、幼いころには想像もつかなかったな。

 当然のように、立派な人間になれるもんだと思ってたんだ。大人になれば、自然に大人らしくなれるもんだとばかり思っていたんだ。当然それは、ただの甘えた考えだった。

 でも、その甘えを仕方ないじゃないかと肯定している自分がいて、今だってそうだ。今も俺は、クズな自分を許そうとしている。

 二十三歳、無職。それが俺に与えられた肩書き。嘘偽りの無い本当の自分。

 身分が人間を成長させるんだとして、無職でどんな部分が伸びるのだろう。やはりクズっぷりだろうか。俺が世界の舞台を狙えるのは、トップレベルに肉薄できるのは、クズっぷりだけだろうか。そうは思いたくないけれど、もはやそうとしか思えない。

 ところで、ここ三日、俺のあまりのクズっぷりに目を背けたくなったのか、時田まことちゃんの姿を見ていない。

 まぁ、居ないなら居ないでそれは好都合。情けない自分の姿を可愛くてロリな彼女に見られたくはないから。

 洗面所で鏡を見れば、ぼさぼさの髪の毛。

 いつからこんな人間になっちまったんだろうな、俺は。

 やり直したいとは、おぼろげに、かけらほど思っている。でも、数万円の負債ってのは、細かく算出する気も失せるほど、あまりにも大きな負債。俺のやる気を完全に消滅させるには十分なものだった。

「どうしたことだろうなぁ、これは」

 呟いた、その時だった。

 部屋の扉を、誰かが叩いた。ドンドンと叩いた。

 まことちゃんだと思ったんだ。

 だから、いそいそと髪を濡らして整え、高速で無精ヒゲを削ぎ落とし、一瞬で服を着替え、鏡の前であごを撫でつつニヤリと笑ってから玄関へ向かったのだが、ノックの主はまことちゃんではなかった。

「届氷良近さんですね。家賃がここしばらく支払われてませんので、その件でお伺いしたのですが」

「マジかよ」

「合計十二万円の滞納なんですけど、ありますか?」

「ありません。ていうかもう、ありえません。いろんなことが」

 あれ、これさ、もうさ、ヤミ金にでも借りるしかないんじゃないの。なにこれおかしいよ。

「支払いが無い場合、近日中に出て行ってもらいますからね」

 俺は無言を返した。

 大家さんという取立人は、用件だけ告げると階段を降りていった。



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