17、馬鹿みたいに欲張りな願い
時間が、惜しかった。
急いで構内を駆けて、駅員さんにムッとされながらも、駅員さんに「すいません。急いでるんです」と告げて切符を見せた。改札機を通すという動作よりも、切符を見せて突破する方が早いと思った。
実際のところ、どうだったのかは不明だが、ともかく駅員さんに切符を見せると、通してもらえた。
切符をポケットに乱暴に突っ込んで走った。
外へ出た。うっかり北口と南口を間違えて頭をかきながら踵を返した。
おぼろげな記憶だった。橘の家に行くときは、いつだって両親が先導して、俺は金魚のフンのごとくくっついて行っただけだったから、はっきりと道を記憶していなかった。
心細い、断片的な記憶を頼りに歩いていく。
きっと、道を記憶しなかったのには、俺が橘の家を嫌っていたという部分もあるからだと思う。
誇りとか家柄を前面に押し出してきて、なんとなく俺の父親のことを下に見ている気がして、あの背筋の伸びた祖父母が嫌いだった。
それでも、同じ血が流れているのだから嫌ったって仕方が無いとも思っていた。
うるさいけど、好きな母と姉。威厳が無くて優しすぎるけど母には厳しい父も好きだ。嫌いだと思ってた祖父母のことだって、俺は愛していたのかもしれない。失いたくないと思っていたに違いない。
そうじゃなかったら、電話が繋がらなかったって理由だけで走り出したりしないだろう。
たいがいに、自分の気持ちなんてものはわからないけれど、でも、俺はそう信じたい。家族に消えてもらいたくないと、心からそう思っているのだと。
こんなこと考えるのもおかしいというか、罪深いような気がするけれど、俺が汚してしまった天使みたいな女の子にも、心の底から幸せになってもらいたい。何かと俺を追い詰める時田まことちゃんにも、幸せに。
幸せってのが何だなんて、右も左もわからないような二十三歳無職の俺には理解できないけれど、もしかしたら一生かかっても理解できないかも知れないけれど、どうか。どうか。
せめて、ごめんなさいと。言えたら。
でも、今の俺に、その資格があるだろうか。
迷惑かけてごめんなさいなんて、何のビジョンも無いままで言ったりして良いのだろうか。
神様でも悪魔でも良い。知ってる存在が居るなら、どうか教えてほしい。
俺は、謝っても良いのか。
謝罪の言葉を叫んでも良いのかどうか。
そしてどうか、ゆるしてほしい……。
馬鹿みたいに欲張りな願いだと思うけれど、どうか。
そして、消滅なんて冗談みたいな展開になってたら、そんな言葉も届かないから、だから……。
歩いた。何度か辿った道の記憶を総動員して、忘れかけていた道順を。
そして、迷いながらも俺は、橘の家の前に立った。




