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16、人間としての才能

 矜持なんて、もはや消え去ってしまっていただろう。

 でも、そこに新しく芽吹いたなら、すべて破壊されて初めて芽を出したなら、それを否定する権利なんて、誰にも無いのかもしれない。

 俺は最高レベルに綺麗な人がくれた最悪レベルに汚してしまった金を使い、滞納料金を支払った。コンビ二で支払えるものは、多少恥ずかしい思いをしながらも大量の紙束をレジに持ち込んでハンコ押してもらい、大家さんに手渡しでアパートの家賃も支払い終えた。

 五十万のうち二十五万以上を支払って、住居も携帯もインターネットも復活した。

 でも、残り二十五万だって、このままだったらどんどん切り崩されていって、やがては滞納することになるだろう。

 どこか、旅にでも出ようか。きっと、この町は、この国は、この星は、俺が生きるには難しい場所なんだ。変化しすぎる環境に適応できるほど、人間としての才能が無いんだ。

 だからって旅に出るってのは、何となく矛盾しているような気がするから、どうすりゃいいのかわからない。

 機械化が著しい変化に富んだ場所に馴染めない人間は、きっとどこかに居るはずで、そういう人は、わかってくれるだろ、俺の気持ち。

 そういう人が、果たして現代を生き抜いているのかってのは、甚だ疑問だけど。

 母親にでも、相談してみようかな。

 親ならば、きっと助けてくれると思った。

 電話を掛けた。通じなかった。

 おかしいと思った。携帯料金は払った。通じるようになったはずだ。しかし通じない。なぜか。

 ある可能性に行き着いて、ぞっとした。

 背筋が凍った。

 ――まさか。

 一軒の家が消えた時のように、母親が消滅してしまったとでも言うのか。

 いや、母親だけではないかもしれない。一家全員、またはお世話になっている橘の家が消滅してしまったんじゃないか。

「ばかな……」

 俺は呟き、部屋を飛び出した。

 靴を履いて、携帯を握り締めて、階段を下った。

 下ったところで、財布を持っていないことに気付いて、一度取りに戻った。

 まさか、まさか、まさか。

 大事な人を消す、大事なものが消える。思い返せば、そんなことを言っていた。

 考えてみれば、そうだ。

 大事な人なんて居ないと豪語したけれど、そんなことは無かったじゃないか。そりゃ疎ましいとか、やかましいとか、育て方悪いとか、責任を押し付けるように思ったことはあったさ。それは俺がクズだから。

 だけど、生まれた家は大事なものだったじゃないか。産んでくれた両親は大事な人だったじゃないか。

 気付かない振りばかりして、当たり前のことから目を背けて、迷惑をかけてはいけないという言いつけも守れずに料金滞納なんてした挙句に、女を襲うなんていう非道な背徳まで犯して。そのせいで親が消えたりしたら、俺はどうすればいいんだ。

 駅までの道を走る。

 改札に切符を通し、ホームへ続く階段を上る。



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