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14、「キミ、クズだね」

ひどいことしかける描写がありますのでご注意ください。

 衝動だった。

 きっと、好きだった。きっと。だって、そうじゃなきゃ……。

 五十万円もの大金をもらっておきながら、何やってんだと思った。

 いや、五十万円が入った封筒なんてもんをポンと渡されたから、俺の中にあるとんでもなく下衆な部分が妙な勘繰りを発揮してしまったのかもしれない。

 そうさ、五十万円もの信じられない大金を、見知らぬ男にプレゼントするなんて、余程の金持ちか、春でも売りまくってる女でも無い限り、ありえないと思ったんだ。そして、余裕ある金持ちが夜の仕事なんてするわけないとも思ったんだ。

 きっとこの女は、誰とでも寝る女で、俗にビッチと呼ばれるような女で……。

 だから、これは、誘ってるんだろう。

 そんな風に、変な風に、解釈した。

 パンプスを脱いで、彼女は俺の家に入った。すぐ近くで向き合って座った。「ほい、諭吉さん五十人入ってるから」と言って彼女は分厚い封筒を手渡してきた。

 受け取った。でも、そんなことよりも……。

 とても狭い部屋が彼女の匂いで満たされた時、封筒の中身を確認することもなく、俺は、彼女に覆いかぶさっていた。

「ここに入ってきたってことは、そういうことなんだからな!」

 耳元で叫んだ。彼女は答えなかった、一瞬だけ怯えの表情を見せた。

「お、お前が求めたんだからな!」

 言い返さなかった。俺を信じていると言わんばかりに綺麗な瞳で直視してきた。

 優しさにつけこんで、何てことをしたんだろう。

 二畳半のダンボールハウスで、押し倒して、キャミワンピのスカート部分をめくりあげて、彼女が目を見開いて起き上がろうと必死に動いたところで腕を叩き落し胸をおさえて仰向けに寝かせて。

 最低のクズ。最悪だった。

 無理矢理おさえつけた。

 下着をはぎ取った。

 最初こそ僅かに抵抗したものの、途中から逆らっても無駄だと思ったのか動かなくなった。

 すぐに抵抗しなくなったのをみて、やってやろうと思った。

 だけど、そこで、俺はどうしたらいいのかわからなくなった。

 そのまましばらく黙ったまま、微動だにせずにいて、冷静に自分のやろうとしたこと、やったことを考えた途端に、涙があふれだしてきて、訳が分からなくなった。

 指先でぬぐい取ると、彼女の胸に、太ももに、涙がかかった。

 彼女から離れ、段ボールハウスの隅っこで、背中を丸めて小さくなった。

 まるで気分は囚人だった。

 彼女がちり紙を取り出そうと光沢ある赤い小型の鞄に手を入れた時、俺は情けなくも刃物や拳銃でも取り出されるんじゃないかと退路を探したり逃げる準備をしていた。

 自分の身体に落ちた世界一汚れた涙を拭き取った彼女は、ベンチで見せた笑顔を浮かべることはなかった。かといって、憎しみを表すわけでもなかった。

 淡々と下着を拾ってはく。乱れた服を整える。

「キミ、クズだね」

 表情の無い声だった。部屋の隅で小さくなっていた俺が、おそるおそる顔を上げると、彼女はゴミを見るような目で俺を見ていた。

 涙が出た。声が出なかった。

 何泣いてんだと思いながらも、止まらなかった。

 謝らなくちゃいけないとも思ったけれど、舌がまわらなかった。ああ、とか、うう、とかしか出てこなかった。

 こんなはずじゃなかった。なにしてんだ、俺……。

「いいよ、別に。安心して。どこにも訴えたりしないし、キミが誰だかも詮索しないから」

 嗚咽を漏らしてその場に、うずくまった。だらしなく宙に尻を突き出して、尻で彼女が出て行くのを見送った。

 ひどい罪を犯してしまった。こわい思いをさせてしまった。

 泣きたいのは相手の方だろうに。

 ――クズ。

 わかってるさ、そんなこと。

 そうさクズさ、その通り。まったく反論の余地ないくらいに、クズで俺は構成されてた。いや、クズに失礼になるくらいにクズ未満だ。

 時田まことちゃんの言うとおりさ、クズにもなれない最悪の存在。それが俺なんだ。

 何なんだ一体、いつからこんな風になっちまった。

 衝動に負けた暴力未遂の後、自己満足の自己嫌悪。

 何から何まで最低すぎる。

 ふと入り口を見ると、蹴飛ばされて転がった彼女のパンプス。靴を忘れて行ったようだった。

 やっぱり心から謝ろうと、何時間か土下座をしようと、ようやく決心がついて、外に出た時、彼女は既に居なかった。

 公園の砂が、つま先だけの足跡を残していて、それは公園の外まで続いていた。



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