小学6年生の身体
しばらく待っていると、ギルドの奥からリングが戻ってきた。
「あ! リングさん!」
春香は慌てて椅子から立ち上がり、机に両手を突いて声を上げる。
「すまない、待たせたな」
「何かあったんですか……?」
「あぁ、ちょっと厄介なことになった……」
言葉の途中で歯切れ悪く口をつぐむと、リングは苦笑いを浮かべた。
「まぁ、まずは春香の服を調達し直すか」
周りの冒険者たちの粘つくような視線を、リングも察していたのだろう。
「は、はい……」
春香は顔を赤らめ、身を縮こまらせながら返事をした。
ギルドを出てすぐ、二人は以前も利用した服屋へと向かった。
店に入ると、出迎えた店主の夫妻は目を見開いて絶句していた。
「――というわけで、また急に大きくなってしまったんだ。申し訳ないんだが、今の体型に合う服を選んであげてくれないか?」
「いやぁ……そんなマンガみたいな話……だけど、こうして実際に嬢ちゃんを見せられちゃ、信じるっきゃねぇな……」
呆然と呟く店主の夫。しかしその直後、妻の方が間髪入れずに叫び声を上げた。
「か、かわいぃぃぃいーーーっっ!!!」
「えっ!?」
「前に来た時も天使みたいだったけど、今はもっと洗練された大人の天使になってるじゃない! あぁ〜、見てるだけで寿命が延びそうだわ〜っ!」
「あ、あの……」
「その窮屈そうで照れてる姿がまたたまらないわね!!」
これ以上ないほどの熱量で語り倒す店主の妻。だが、ハッと我に返ると優しく微笑んだ。
「でも、いつまでもそんなキツそうな服じゃ動きづらいわよねぇ。ほ〜ら、オネェさんと一緒に奥へ行きましょ〜う♪」
「誰がお姉さんだよ」
ボソッとツッコミを入れた夫に対し、妻はギロリと目を光らせて威圧すると、春香の手を引いてさっさと奥の試着室へ消えていった。
数分後、試着室のカーテンが開く。
出てきた春香の姿は、思わず息を呑むほど輝いていた。
上品な白いフリルブラウスに、可憐なピンクのスカート。ほんのさっきまでダンジョンで凶悪な魔物を切り伏せていたとは思えない、どこか育ちの良さを感じさせる可憐な装いだった。春香は恥ずかしそうに裾をモジモジと弄んでいる。
「こりゃ、たまげた……国随一の美人さんの誕生だなぁ」
夫の言葉に、春香はさらに顔を真っ赤にする。
「いいのがあってよかったな、春香」
リングがニッコリと微笑んで言葉をかけると、春香は胸をキュッと締め付けられながら答えた。
「あ、ありがとうございます……」
「それにしても、ここには随分と珍しくて素晴らしい仕立ての服があるんですね」
リングが感心したように尋ねると、妻が自慢げに胸を張った。
「そうなのよ! 最近、珍しい仕入先が開拓できてね。他にも色んなサイズのかわいい服がたくさん入荷してるの。……また大きくなるかもしれないし、他の服の場所も教えてあげるわ。リング、ちょっとこっちにおいで」
妻に促され、リングが店の奥へと向かう。
その隙を見計らい、夫の方が春香に向けて手招きをしてきた。
「お嬢ちゃん、ちょいとこっちへ」
「え? はい……なんですか?」
首をかしげながら近寄る春香に、店主の夫はニヤニヤしながら身を乗り出し、声をひそめた。
「で、いつリングと結婚するんだい?」
……数秒間、春香の時が止まった。
頭の中で言葉の意味が反芻され、理解した瞬間――脳の許容量を超えて大バーストを起こした。
「なっ、ななな、何を言ってるんですかーーーっ!?!?」
今までにないほど顔を沸騰させ、オドオドと手足をワチャワチャさせる春香。
「だってよぉ、お嬢ちゃんがこれからも急に大きくなるってことは、いつかはリングと同じくらいの年齢まで成長するってことだろ? そうなりゃ、普通にあり得る話じゃねぇか」
「そ、そんなことあるわけないじゃないですか! 大体、私とリングさんはそんな関係じゃ……っ!」
ちょうどそのタイミングで、奥からリングが戻ってきた。
「どうした、春香? そんなに慌てて……顔、真っ赤だぞ?」
不思議そうに覗き込んでくるリング。
(そ、そんな関係じゃ……)
消え入りそうな小さな声で呟いた後、春香はぶんぶんと首を振った。
「な、なんでもないですっ!」
「そうか?」
焦りまくる春香の横で、店主の夫は「ムフッ」と意地悪そうに鼻で笑っている。
「すごいぞ春香。俺も普段見かけないような服がたくさんあってな。それから――」
楽しそうに自分へ語りかけてくれるリングの顔を見上げながら、春香はふと思った。
(背が小さかった時は感じなかったけど……背が伸びたせいか、リングさんとの物理的な距離が、なんだか縮まったような……)
その瞬間、さっきの店主の言葉が脳裏をよぎる。
(ち、縮まると言っても! 決してそういう意味ではないんですけどね……!)
自分で考えたことに自分で大混乱し、自問自答を繰り返す春香。
そんな彼女の様子を知ってか知らずか、リングは優しく微笑んだ。
「春香、今日は色々あって疲ただろ。俺の家で休むといい」
「はい!」
服屋を出ようと歩き出した春香だったが、すれ違いざまに店主の夫が再び「ムフッ」とニヤついてきた。
春香はすかさず振り返り、大声で釘を刺した。
「そ、そういうのじゃないですからねっっ!!」
真っ赤な顔のまま言い捨てると、春香はリングの後を追って、彼の家へと向かうのだった。




