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好きな瞬間

(確かに……明らかに手が大きくなった気がする。それに、何より服が……キツい……?)

 自身の身体に起きた異常な変化に、春香は戸惑い慌てふためく。まるで8歳児だった身体が一気に小学六年生くらいの少女へと急成長を遂げたかのようだった。少し前まではボブほどだった髪の長さも、今や背筋を覆うほどまで伸び、ふさふさと揺れている。

「春香……一体どうなって……ウッ……」

 疲弊しきった様子のリングが、驚き混じりの声を絞り出す。

「リ、リングさん! そんなことより体は……!?」

 慌ててリングの前で膝をつき、必死に問いかける。

「身体が……動かない。多分、毒のせいだろう。すまない、早くダンジョンを抜け出したいが……クッ……」

 苦しそうに地面へ膝をつくリングの姿を見て、春香は思わずその身体に手を掛けた。

 ――その瞬間。

 最初にリングを治癒した時と同じ、不思議な感覚が全身を駆け巡った。

(この感じ……!)

 春香は溢れ出す力の奔流に身を任せる。感覚を掴んだ彼女の手から、柔らかで優しい光が放たれ、ゆっくりとリングの全身を包み込んでいった。

「これは……あの時の……」

 リングは前回の光景を思い出すように呟く。その声に徐々に生気が戻り、元気が満ちていくのが分かった。

 やがて、リングを温かく包んでいた光がゆっくりと消えていく。

「どうですか……!?」

 春香が覗き込むように尋ねると、リングは信じられないといった様子で立ち上がった。手を何度も握り開き、腕を回して自分の身体の調子を確かめる。

「動かせる……!」

「あ! よかった〜っ!」

「それにしても……驚いたな。身体の変化に圧倒的な剣術、そして治癒能力まで……春香、君は一体どうなっているんだ?」

「えへへ……私にもさっぱりで……」

 ニコニコと照れくさそうに笑いながら、右手で後頭部を掻く春香。

 するとその瞬間、リングの表情がガラリと変わり、彼女に向けて真剣な眼差しで右手を差し出してきた。

「春香がいなかったら、俺はここにいなかった。本当にありがとう」

 今までどこか冗談めかして話していたリングの、見たこともない真剣な表情。

「い、いやっ! お礼を言うのは、私の方で……!」

 最初は慌ててワチャワチャと手を振っていた春香だったが、ふと思い返して冷静になる。

「私自身も、こうしていられるのはリングさんのおかげですから……」

 恥ずかしそうにはにかみながら、春香はその手をしっかりと握り返した。

 冒険者になる決意をさせてくれた人。その「きっかけ」となった人を自分の力で助けられたことが、春香にとっては心から嬉しかった。

(やっぱり……この瞬間が一番好きだ)

 改めて胸の中でそう実感する。握り締め合わせたリングの手からは、今までにない確かな温もりが伝わってきた。

「春香」

「はい?」

「ひとまず、ダンジョンを出よう。あのレベル以上の魔物が、また来ないとも限らないからな」

「はい、そうですね!」

 二人はデーモンタランチュラが最初に退路を塞いだ糸を剣で素早く祓いのけた。そして、最初に入ってきた転移魔法陣に乗り、ダンジョンの入り口へと帰還した。

「まずは一安心だ……が……」

 地上に出て安堵したのも束の間、リングが思い詰めたような表情で呟く。

「リング……さん?」

「春香、ギルドに報告しなければならないことができた。今からギルドに向かおうと思う」

「分かりました!」

 こうして二人はギルドへと戻ってきた。

「春香はここで待っていてくれ」

「分かりました」

 案内されたギルド内の席に腰を下ろす。

 奥の部屋へと真剣な表情で向かっていったリングとは対照的に、春香は居心地悪そうに身を縮めて座っていた。

 それもそのはず――周りにいる冒険者たちの視線が、パツパツになった服を着ている春香に釘付けになっていたからだ。

(見られてる……っ。やっぱり、服がキツいよ……!)

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