第六十六章
そして、約束の三日後。
雅由美は再び、地味な『一般社団法人の職員のおばさん』の姿で、
手土産のケーキを持って、それぞれの孤児院の部屋を訪れていた。
紫光縁の談話室。
「……さあ。あなたたちの決断を聞かせてもらえるかしら?」
宮下健斗は、キリッとした表情で、雅由美の目を真っ直ぐに見つめて答えた。
「俺、自動車整備の専門学校へ進みます! 自分の腕で稼げるようになって、早く自立します!」
皆山香苗は、少し緊張した様子ながらも、力強く宣言した。
「私、猛勉強して、絶対に国立大学の看護学科に受かってみせます! そして、誰かに優しくできる看護師になります!」
斎藤幸也は、深々と頭を下げて言った。
「俺は、早く自分の力で生きていきたいので、紹介していただいた優良なIT企業へ就職します!」
雅由美は、三人の決意に満ちた表情を見て、優しく、そして誇らしげに頷いた。
「ええ。よく考えましたね。……その覚悟があれば、きっと大丈夫よ」
続いて、虹光縁の部屋にて。
片山湊は、「フレンチの専門学校に行って、絶対に自分の店を持ちます!」と目を輝かせた。
山崎美琴は、「服飾の専門学校で、デザインの勉強を一生懸命やります!」と笑顔を見せた。
「二人とも、素晴らしい決断よ。……湊くんのお店で、美琴ちゃんがデザインした服を着て食事ができる日を、楽しみにしているわ」
最後に、抱光縁の部屋にて。
木村かおりは、公務員試験のための専門学校へ。
山村紘一は、大工の親方の元へ弟子入りする道を選んだ。
滝川環奈は、美容師の専門学校へ進学を決め。
澤田彩夏は、国立大学の教育学部を目指して猛勉強することを誓った。
「みんな、本当に素晴らしいわ」
雅由美は、一人一人の目を見つめ、母のような深い愛情を込めて語りかけた。
「あなたたちが、自分の頭で悩み抜き、自分の足で選んだ道なら。
私が責任を持って、最後まで支援することを約束します。
……さあ、残りの高校生活、一日一日を大切に、悔いのないように全力で頑張りなさい」
「はいっ!! ありがとうございます、相談役!!」
目を輝かせて、それぞれの部屋へと戻っていく子供たちの背中を、
雅由美は、いつまでも目を細めて見送っていた。
日本の政財界と裏社会を、文字通り手玉に取る冷徹な真のフィクサー。
しかし、子供たちの未来を育むこの小さな孤児院の部屋にいる彼女は、
ただの優しくて、少しだけお節介な『獅雅斗くんのお母さん』であり、
彼らの未来を信じる、一人の温かい大人であった。
「……ふふっ。さて、私も『表と裏』の仕事に戻りませんとね」
初夏の暖かな日差しが差し込む窓辺で。
雅由美は、子供たちからもらった感謝の言葉を何よりの宝物として胸に抱き、
再び、日本の未来を美しく統べる玉座へと、優雅な足取りで戻っていくのであった。




