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第六十一章



夜。

全ての仕事を終え、厄介事も優雅に片付けた雅由美は、

セーヌ川を巡る豪華なディナークルーズの船を、まるごと一隻貸し切っていた。


ライトアップされたエッフェル塔が、夜空に黄金色の光を放ち、

川面にはパリの美しい街並みが水鏡のように映し出されている。


「ママ! お船、すっごくきれいだね!」


「ええ。獅雅斗の瞳のほうが、ずっとキラキラしていますわよ」


雅由美は、美しいイブニングドレス姿で、

フォアグラやトリュフがふんだんに使われた極上のフレンチを堪能しながら、

愛する息子と、穏やかで甘いひとときを過ごしていた。


そこに、黒田が静かに歩み寄り、耳元で囁いた。


「雅由美社長。……先ほどのマフィアの件ですが、

彼らのボスから、血文字で書かれた『降伏状』が届きました。

フランスのシマも、全て龍神の管理下に置くとのことです」


「ふふっ。随分と素早いご決断ですこと。

まあ、獅雅斗の夏休みの花火代くらいには、なるかしらね」


雅由美は、ワイングラスを傾けながら、心底楽しそうに微笑んだ。


中東の石油の確保、ヨーロッパ・ブランドの完全掌握。

そして、裏社会のシマの拡大と、息子の情操教育。

全てを完璧な計算通りに、そしてこの上なく優雅に成し遂げた、

無敵の令嬢の、スケールが狂った夏休みの『社会見学』。


「獅雅斗。じいじのお船や、いろんな国の人たちを見て、どうでしたか?」


「んーとね! みんな、ママとお話しすると、

すっごく汗をかいて、ペコペコお辞儀するの!

ママは、世界で一番えらいお姫様なんだね!」


無邪気な息子の言葉に、背後に控えていた護衛たちが、

(……お姫様というか、魔王ですぜ、若……)と、心の中で一斉にツッコミを入れる。


「ふふっ。お姫様ではなく、ママは『女王様』ですわよ。

……さあ、明日は日本へ帰りましょうね。

おばあ様や、お父様たちが、獅雅斗のお土産話を首を長くして待っていますから」


「うん! ぼく、いーっぱいお話しする!」


満天の星空の下、セーヌ川の夜風に美しい黒髪を揺らしながら。

世界を裏と表から統べる冷徹な黒幕は、

愛する息子の笑顔だけを何よりも尊い宝物として抱きしめ、

優しく、そして気高い聖母の微笑みを、いつまでも浮かべているのであった。



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