表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

59/67

第六十章



本格的な夏を迎え、東京の空が眩しいほどの青に染まり始めた七月。

神雅商事の最上階にある社長室で、雅由美は優雅に冷たいハーブティーを傾けていた。


「……というわけでね。防衛装備庁の予算配分を大幅に増やしたいのだが」


分厚い革張りのソファで、ひどく疲れ切った顔で愚痴をこぼしているのは、

一国の最高権力者である内閣総理大臣であった。


「某国の息がかかった野党が、こぞって猛反対していてね。

『平和を脅かすのか!』と連日メディアで騒ぎ立てられ、全く審議が進まんのだよ」


「まあ。総理も大変ですわね」


雅由美は、涼やかなシルクのブラウス姿で、ふわりと微笑んだ。

神雅商事の設立や、様々な特区の申請において、総理には大いに便宜を図ってもらった恩がある。


「その憂い、私が少しばかり『お掃除』しておきましょうか。

設立記念パーティーの素晴らしいご祝辞のお礼も兼ねまして」


雅由美が傍らの黒田に目配せをすると、黒田は無言でタブレットを操作した。


「……某国の工作機関から、その野党の代表の裏口座に流れている数億円の資金データ。

それから、彼が某国のハニートラップに引っかかっている鮮明な動画データ。

これを、今日の夕方までに、週刊誌と警察の公安部に『匿名』で送信しておきますわ」


「なっ……! き、君は相変わらず、息をするように恐ろしいことを……」


総理が顔面を蒼白にして震え上がる中、雅由美のデスクの直通電話が鳴った。


『……あ、雅由美社長。経団連の白川です』


「ごきげんよう、白川会長。……あら、随分と弾んだお声ですこと」


『ええ! 我が社が海外で抱えていた大規模なストライキの件、

神雅商事さんが裏で手を回して、完全に鎮圧してくださったそうで!

おかげで、今期の利益は過去最高益となりそうです! 本当に、何とお礼を言えば……っ!』


「ふふっ。お互い様ですわ。これからも、仲良く表の経済を回してまいりましょうね」


電話を切り、雅由美は総理に向かって、妖艶に、そして小悪魔のように微笑みかけた。


「さて、総理。私からも一つ、防衛装備庁に『お願い』がございましてよ?」


「お、お願い……? 君のお願いほど、恐ろしい響きはないのだが……」



数週間後。

横浜の巨大な造船ドックに、一つの規格外の『怪物』がその姿を現した。


神龍寺グループが社運を懸けて極秘裏に建造していた、

世界最大の最新鋭大型タンカー『神雅丸しんがまる』である。


「おおお……! 何度見ても、とんでもねえデカさだ……」


竜也が、首が痛くなるほど見上げて感嘆の声を漏らす。

その総排水量は、なんと『五百万トン』。

通常の大型タンカーの十倍以上という、もはや動く人工島と呼ぶべき狂気のサイズである。


「お迎えに上がりました、雅由美社長!」


甲板で雅由美を直立不動で出迎えたのは、日に焼けた屈強な船長であった。

彼をはじめとする数百名の船員たちは、全て『海上自衛隊の退役隊員』で構成されている。


「ご苦労様です、艦長。……頼んでいた『お荷物』は、無事に積み込めましたか?」


「はっ! 防衛装備庁より、最新鋭のCIWS(高性能20mm機関砲)十基と、

対空ミサイル迎撃システムが、甲板の下に完全な『偽装状態』で配備されております!

海賊どころか、一国の海軍とも互角に渡り合える、無敵の武装タンカーであります!」


総理の予算案を通した見返りに、防衛装備庁に特注させた極秘の軍事兵装。

表向きは原油を運ぶ商社のタンカーだが、その実態は、

日本のシーレーンを裏から守り抜く、龍神の『巨大な海の要塞』であった。


「素晴らしいわ。これで、中東からのエネルギー輸送は完璧ですわね」


雅由美は、潮風に美しい黒髪をなびかせながら、満足げに微笑んだ。

そして、足元でチョコチョコと走り回る、愛しい息子の手を優しく引いた。


「さあ、獅雅斗。このようなお船を見て、楽しかったかしら?

明日からは、幼稚園の夏休みを利用して、遠い国へ『社会見学』に行きますわよ」


「わーい! ひこうき、のるの!?」


「ええ。とても速くて、かっこいい飛行機ですわ」


翌朝、羽田空港のVIP専用滑走路。

そこに待機していたのは、神雅商事が所有する、

超音速飛行が可能な最新鋭の特注プライベートジェットであった。


「雅由美社長! 本日のフライトはお任せください!」


コックピットから爽やかに敬礼をしたのは、

航空自衛隊の元エースパイロットという異色の経歴を持つ機長である。


「よろしくお願いね。……獅雅斗、ご挨拶は?」


「よろしくおねがいしましゅ!」


愛らしい獅雅斗の挨拶に、タラップの周りを固めていた『護衛たち』が、

一斉に身悶えして崩れ落ちた。


「うおおおっ……! 若、今日も天使のように可愛らしい……っ!」


「俺の命に代えても、若の夏休みを完璧に警護してみせるぜ……っ!」


彼らは、幼稚園の警護も担当している、黒帯持ちの『イケメン護衛(最強の暗殺者)』たちである。

表向きは爽やかなスーツ姿の秘書だが、そのスーツの裏には、

最新鋭の暗器と拳銃が、文字通りハリネズミのように仕込まれている。


「あなたたち、あまり獅雅斗を甘やかさないでね。

……さあ、中東の王様たちに、ご挨拶に参りましょうか」


雅由美は、優雅な足取りでタラップを登り、

無敵の令嬢と、小さな王の、壮大な夏休みの旅が幕を開けたのであった。




数時間後、超音速のプライベートジェットは、

灼熱の太陽が照りつけるUAE(アラブ首長国連邦)の王族専用空港へと降り立った。


「ウェルカム、ミヤユミ! そして未来の王よ!」


タラップを降りた雅由美たちを待っていたのは、

目を疑うような、圧倒的なスケールの歓迎の儀式であった。

滑走路には、見渡す限りのペルシャ絨毯が敷き詰められ、

純金の装飾が施された数十台のロールスロイスがズラリと並んでいる。


「……相変わらず、スケールが違いますわね」


出迎えた首長国の王族たちと、雅由美は流暢なアラビア語で優雅に挨拶を交わす。

そして彼らの視線は、雅由美の傍らに立つ、小さな獅雅斗へと注がれた。


「おお……これが、世界を揺るがした獅雅斗殿か!

我が国からの細やかなプレゼントだ、受け取ってくれたまえ!」


王族がパチンと指を鳴らすと、純金の首輪をつけた、

本物の『ホワイトタイガーの仔虎』が、従者に引かれて現れた。


「にゃんこ! おおきなにゃんこ、かわいい!」


「ガウッ!」


獅雅斗は全く物怖じすることなく、仔虎に抱きついてじゃれ合い始めた。


「まあ、獅雅斗ったら。……素敵なおもちゃを、ありがとうございます」


雅由美は、背後でイケメン護衛たちが「ヒィッ、若が食べられる!?」と

死にそうな顔で銃に手をかけているのを無視して、涼やかに微笑んだ。


その夜の、王宮での晩餐会。

絢爛豪華な大広間で、UAE、サウジアラビア、クウェート、カタールの

王族や石油大臣たちを前に、雅由美は『神雅商事の社長』としての顔を見せた。


「……雅由美社長。今後の原油の輸出価格だが、我が国としては、

少しばかり引き上げを検討しておりましてな……」


中東のオイルマネーを握る大臣が、探るような目で切り出す。

すると雅由美は、グラスの水を一口飲み、極上の笑みを浮かべた。


「あら、それは困りますわ。……ところで大臣。

先日、某国のテロ組織が、あなたの所有する油田を狙っているという

『小さな噂』を耳にいたしましたの。

……我が龍神の部隊を動かして、未然に『お掃除』しておきましたわ」


「なっ……!!?」


大臣の顔から、一瞬にして血の気が引いた。


「それから、殿下。殿下がスイスの銀行に隠しておられる資産ですが、

我が社の電脳組が、より『安全な場所』へと移しておきましたわ。

……ええ、もちろん、サービスでございます」


雅由美は、扇子を静かに開き、小悪魔のように微笑んだ。


「日本のエネルギーの安定供給のため……。

原油価格は、これまで通りの『特別価格』で、よろしいですわね?」


「も、もちろんである!! 神雅商事様には、最優先で、

最も安い価格で提供をお約束しよう!!」


表の商社としての交渉術と、裏のマフィアとしての脅迫を完璧に融合させた、

まさに無敵の外交。

こうして、日本のエネルギー危機は、雅由美の優雅な微笑み一つで、

いとも簡単に救われたのである。



中東での交渉を無事に終え、一行が次に向かったのは、

歴史と芸術の香りが漂うヨーロッパ、イタリアのローマであった。


「ママ、ここ、お船がいっぱいあるね!」


「ええ、ベネチアという美しい水の都ですわ。

……獅雅斗は、お兄ちゃんたちとジェラートを食べていなさいな」


イケメン護衛たちに獅雅斗を預け、雅由美が一人で向かったのは、

高級ホテルの、重厚な扉に閉ざされたVIPルームであった。


「……遅いぞ、マダム・ミヤユミ。日本の女は時間にルーズなのか?」


部屋の中で葉巻を燻らせていたのは、亡き欧州連合ヴィンチェンツォに代わり、ヨーロッパの裏社会を牛耳る、巨大なマフィア・シンジケートのドンであった。


「ごきげんよう。少し、息子の買い道草に付き合っておりましたの」


雅由美は、相手の放つ圧倒的な殺気など全く意に介さず、

優雅にソファに腰を下ろし、出された紅茶を一口飲んだ。


「単刀直入に言おう。我々のシマであるヨーロッパの密輸ルートに、

お前の『龍神』の息がかかった船が入り込んでいる。

……これ以上出しゃばるなら、お前のその美しい顔に、傷がつくことになるぞ」


ドンが、葉巻を灰皿に押し付け、凄みのある声で脅迫する。

しかし。


「……ふふっ」


雅由美は、肩を震わせて、心底可笑しそうに笑い出した。


「な、何がおかしい……!」


「ごめんなさいね。あなたが、あまりにも『時代遅れ』なことを仰るから」


雅由美は、紅茶のカップを静かに置き、

深海のように冷たく、絶対的な支配者の瞳でドンを見据えた。


「私の顔に傷をつける? ……いいこと?

あなたが今、その葉巻を吸っている間にも、

私の部隊が、あなたの組織の武器庫を三つ、すでに制圧いたしましたわ」


「なんだと……!?」


「さらに、あなたの右腕である幹部は、今頃、

私の配下の者に『丁寧な接待』を受けて、全てを吐き出している頃です」


雅由美が指を鳴らすと、ドンの懐の携帯電話が、悲鳴を上げるように鳴り響いた。


「……ひ、ひぃぃっ……!! あ、悪魔だ……!!」


電話に出たドンは、数秒後には完全に崩れ落ち、

床に這いつくばって、雅由美のハイヒールにすがりついた。


「ヨーロッパのルートは、私が全て管理いたします。

……生かしておいてあげるだけ、感謝なさい」


氷のような冷徹さで交渉(という名のお掃除)を終え、

雅由美がホテルのロビーへと降りていくと。


「マーマ! アイス、すっごくおいしかったよ!」


口の周りをジェラートでベタベタにした獅雅斗が、満面の笑みで駆け寄ってきた。


「まあ、獅雅斗ったら。お口が真っ白ですわよ」


先ほどの裏社会の女帝の顔は一瞬で消え去り、

雅由美は、シルクのハンカチで優しく息子の口元を拭う、

世界で一番美しく、慈愛に満ちた『聖母』の顔に戻っていた。


「さあ、明日はパリへ行きましょうね。

獅雅斗に似合う、可愛いお洋服をたくさん買わなくては」


「わーい! ママ、だいすき!」


「ふふっ、ママも大好きですわよ」


かくして、世界の経済と裏社会を文字通り掌で転がしながら。

無敵の令嬢と、小さな王の、優雅でスケールが狂った夏休みの旅行は、

護衛たちの感涙と、世界中の権力者たちの冷や汗を置き土産に、

どこまでも華やかに、そして楽しく続いていくのであった。






イタリアの陽気な風に見送られ、神雅商事の最新鋭プライベートジェットは、

花の都・フランスはパリのシャルル・ド・ゴール空港へと降り立った。


「わぁ……! ママ、ここがパリ?」


「ええ、そうですわ。芸術とファッション、そして美味しいお菓子の街ですのよ」


宿泊先は、ヴァンドーム広場に佇む最高級の五つ星ホテル『リッツ・パリ』。

その中でも、一泊数百万円を下らない最高ランクのインペリアル・スイートを、

雅由美は迷うことなくワンフロアごと貸し切っていた。


「さあ、獅雅斗。まずはママのお仕事が終わるまで、お兄ちゃんたちと遊んでいなさいな。

……あなたたち、獅雅斗に怪我をさせたら、エッフェル塔のてっぺんから吊るしますからね」


「は、ははっ!! お嬢……いや、雅由美社長! 我が命に代えましても!!」


爽やかなスーツ姿のイケメン護衛たち(全員が殺しのプロ)が、

冷や汗を滝のように流しながら、直角のお辞儀で答える。


彼らに息子を預け、雅由美がホテル内の重厚なVIP会議室で迎え撃つのは、

ヨーロッパのファッション業界を牛耳る、巨大ラグジュアリーブランド・グループのCEOであった。


「……神雅商事の雅由美社長。お会いできて光栄です」


銀髪をオールバックにした、いかにも傲慢そうなフランス人のCEOが、

極東から来た若い女社長を値踏みするように、薄ら笑いを浮かべて握手を求めてくる。


「ごきげんよう、CEO。本日は、我が神雅商事との『包括的な業務提携』について、

前向きなお返事をいただけるものと期待しておりますわ」


雅由美は、完璧な発音のフランス語で微笑み返した。

彼女の目的は、この巨大ブランド・グループのアジアでの独占販売権と、

経営への実質的な介入権を手に入れることであった。


「ふむ……。しかし、いくら貴社が勢いのある総合商社とはいえ、

我々のブランド力と釣り合うとは、いささか考えにくい。

提携の条件として、ロイヤリティは通常の三倍、そして経営への口出しは一切無用。

これなら、サインして差し上げてもよろしい」


CEOが、ふんぞり返って高圧的な条件を突きつける。

しかし、雅由美の表情は、一ミリも揺らぐことはなかった。


「……ふふっ」


雅由美は、持っていた扇子を静かに開き、口元を隠して小悪魔のように微笑んだ。


「素晴らしい自信ですわね。……ですがCEO。

あなたが南仏の別荘で、未成年のモデルたちと開いている『秘密のパーティー』の映像。

そして、タックスヘイブンに隠している莫大な裏金が、

ヨーロッパのマフィアから流れたものであるという確たる証拠……。

これらが明日、フランス全土のメディアに一斉に公開されたら、

あなたのその誇り高きブランド力は、一体どうなってしまいますの?」


「なっ……!!? き、貴様、何をデタラメを……ッ!」


「デタラメかどうかは、こちらのタブレットをご覧になれば分かりますわ」


雅由美が指を鳴らすと、背後に控えていた黒田が、

画面に生々しい映像と口座のデータが映し出された端末を、無言でテーブルに置いた。


「ひぃっ……!! ど、どうしてこれを……!!」


「私の『裏の顔』をご存知ないようですわね。……さあ、選びなさい。

今すぐ私が出した対等な提携の契約書に、笑顔でサインをするか。

それとも、全てを失って、セーヌ川の冷たい水底で永遠の眠りにつくか」


絶対零度のプレッシャーと、有無を言わせぬ脅迫(という名の商談)。

数分後、会議室から出てきたCEOは、すっかり白髪が増えたように老け込み、

ガタガタと震えながら雅由美に深々と頭を下げていた。


「ご、ご契約、誠にありがとうございました……っ。

神雅商事様には、最優先で商品をお回しいたしますぅっ……」


「ええ、頼りにしておりますわ。……ああ、それから」


雅由美は、振り返って極上の笑みを浮かべた。


「後で、うちの息子に似合うお洋服を、いくつかスイートに運んでおいてくださる?

お支払いは、もちろん正規の値段でいたしますから」


「は、はいぃっ!! 最高級の特注品を、ただちにご用意いたしますぅっ!!」




無事に(そして極めて強引に)表の仕事を終わらせた雅由美は、

午後の柔らかな日差しの中、獅雅斗を連れてシャンゼリゼ通りへと繰り出した。


「わぁ! ママ、あそこにおっきなアーチがあるよ!」


「あれは凱旋門といって、昔の偉い王様が建てたものですのよ。

……獅雅斗も将来、あのように堂々とした男になるのですよ」


雅由美は、息子と手を繋ぎながら、優雅な足取りでウィンドウショッピングを楽しむ。

その少し後ろを、観光客を装ったイケメン護衛の三人が、

鋭い視線で周囲を警戒しながら付かず離れずの距離で尾行していた。


その時である。

華やかな通りを歩く雅由美たちに、不穏な影が近づいていた。

昨日、イタリアで雅由美にシマを奪われたマフィアの残党が、

報復として、彼女の最も大切な弱点である『息子』を誘拐しようと企んでいたのだ。


「……あのガキだ。母親がショーウィンドウを見ている隙を狙え」


観光客に紛れた二人の巨漢の男が、アイスクリーム屋の屋台に気を取られている

獅雅斗の背後へと、音もなく忍び寄る。

そして、その小さな腕を力任せに掴み、車へ引きずり込もうとした……その瞬間。


「……あれ? おじさんたち、だあれ?」


獅雅斗が不思議そうに首を傾げた、まさにそのコンマ一秒後。


「観光地で迷子ですか? ……お気の毒に」


「道案内なら、私たちが『手厚く』して差し上げますよ」


笑顔の爽やかなイケメン護衛たちが、文字通り瞬間移動のような速度で、

二人の誘拐犯の背後にピッタリと張り付いていた。


「なっ……!?」


誘拐犯が声を上げる暇すら与えない。

護衛の一人が、笑顔のまま男の腕の関節を極限まで捻り上げ、

もう一人が、周囲の観光客から見えない死角から、

完璧な手刀を男の延髄へと叩き込んだ。


ゴキッ、メキョッ。


「ガッ……!?」


「おっと、歩き疲れて貧血のようですね。大丈夫ですか?」


護衛たちは、白目を剥いて気を失った巨漢二人を、

まるで酔っ払いの友人を介抱するように、両脇からガッシリと挟み込んで支えた。


「お兄ちゃん、おじさんたち、ねんねしてるの?」


「ええ、獅雅斗様。少しお疲れのようでしたので、お休みになられています。

……さ、私たちはあちらのベンチで、ママをお待ちしましょうね」


騒ぎなど一切起こさず、瞬時に脅威を排除する完璧なシークレット・ガード。

ショーウィンドウから振り返った雅由美は、

ベンチで気を失っている二人の男と、笑顔の護衛たちを見て、全てを察した。


「……あら。道端で寝ては、風邪を引いてしまいますわよ。

可哀想ですから、地元の警察の『地下室』まで、お送りして差し上げて」


「はっ! ただちに『手配』いたします!」


雅由美が扇子で口元を隠して涼やかに微笑むと、

暗殺者から荷物持ちへと早変わりした護衛たちは、

気絶したマフィアの残党を、ゴミでも捨てるかのように路地裏へと引きずっていくのであった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ