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第四十二章



年が明け、一月二日。

赤倉観光ホテルでの夢のようなリゾート生活を終えた一行は、東京へと戻ってきた。


「皆様。今日から帰国されるまでは、私の『実家』である神龍寺家に泊まっていただきますね。兄や両親も、皆様を大歓迎しておりますのよ」


雅由美は、ステラたちを、龍神の本部ではなく、表の顔である『神龍寺グループ』の広大な豪邸へと案内した。


「わーい! こっちのお家もプールがあってすごーい!」


キャシーたちが、平和でセレブな実家の雰囲気に大喜びしている。


「私はこれから、少しばかり『新年のご挨拶』のお仕事がございますの。夜のディナーには戻りますから、皆様はゆっくりとお正月遊びを楽しんでらしてね」


雅由美は友人たちを家族に託すと、迎えの車に乗り込み、再び龍神連合会の本部邸宅へと向かった。

二日からは、裏社会の頂点に立つ『八代目会頭』としての、極めて重要な神事と行事が待っているのだ。


本部邸宅の大広間。

そこには、全国から集結した直系組長や最高幹部たちが、紋付羽織袴の正装でズラリと居並び、張り詰めた空気を漂わせていた。


「……明けまして、おめでとうございます」


静寂の中、上座の襖が開き、雅由美が姿を現した。

本日の装いは、最高級の正絹で仕立てられた、漆黒の五つ紋の黒紋付である。

その凛とした、有無を言わせぬ美しさと覇気に、百名を超える幹部たちが一斉に畳に額を擦りつけた。


「「「八代目! 新年、明けましておめでとうございます!!」」」


地鳴りのような新年の挨拶。

雅由美は、上座に静かに座ると、扇子を膝に置き、ゆっくりと口を開いた。


「旧年は、皆様のおかげで、我が龍神は新たな世界への扉を開くことができました。本年も、この代紋の誇りを胸に、一層の精進を期待いたします」


短い、しかし絶対的な重みを持つ訓示の後。

雅由美の傍らに、大幹部たちが、白木の三方に乗せられた『分厚い封筒の山』を恭しく運んできた。


「さあ。皆様、昨年は本当によく働いてくださいました。……私からの、ささやかな『お年玉』ですわ。奥様や若い衆たちと、美味しいお酒でも飲んでちょうだい」


雅由美は、極上の微笑みを浮かべながら、上座に挨拶に来る組長たち一人一人に、その封筒を手渡していく。


「あ、ありがたき幸せに存じます!!」


封筒の厚みは、一つにつき数百万から、最高幹部クラスには数千万という、文字通り『地位に見合った札束の暴力』であった。

議員たちの裏金から見事にクリーニングされた潤沢な資金は、こうして龍神の強固な結束をさらに盤石なものにしていくのである。


「竜也。黒田。あなたたちにもお年玉だ。今年も私の我儘に、たくさん付き合ってもらうわよ?」


「うおおおっ! 一生、お嬢の盾となります!!」


分厚い札束を受け取った二人が、男泣きしながら平伏する。

二日間かけて、全国の幹部たちへのお年玉の授与と、盃事という極道の正月行事を完璧にこなし切った雅由美。


数日後。

羽田空港の出発ロビーで、雅由美はステラ、美玲、キャシーを笑顔で見送っていた。


「ミヤユミ、最高のクリスマスとお正月だったわ! 今度は絶対に、ニューヨークで遊ぼうね!」


「ええ。皆様、気をつけて帰ってね」


専用機へと向かう友人たちの背中を見送りながら、雅由美はふわりと微笑んだ。

表の令嬢としての優雅な友情と、裏の会頭としての冷徹な手腕。

二つの世界を完璧に統べる若き龍の、新しく、そしてさらに波乱に満ちた一年が、澄み切った冬晴れの空の下で、静かに幕を開けたのである。



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