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第四十一章



「きゃああっ! 雪、雪よ!!」


クリスマス・イヴ。

雅由美たちが降り立ったのは、日本屈指の豪雪地帯、新潟県は妙高高原。

その中腹に建つ、赤い屋根がシンボルのクラシックリゾート『赤倉観光ホテル』であった。


「一面の銀世界……! ニューヨークの雪とは大違いね、ロマンチックだわ!」


ステラが、フカフカのパウダースノーに飛び込んで歓声を上げる。

このホテルは、ゲレンデに直結しており、部屋からは野尻湖や信越国境の山々が見渡せる絶好のロケーションを誇っている。

雅由美は、最上階の露天風呂付きのプレミアム棟を、護衛たちの分も含めて貸し切りで手配していた。


「さあ、まずはスキーとスノーボードを楽しみましょうか」


雅由美は、純白のスタイリッシュなスキーウェアに身を包み、ゴーグルを下ろした。


「ミヤユミ、勝負よ! どっちが早く下まで滑れるか!」


「ふふっ、負けませんわよ、ステラ」


ゲレンデでは、マフィアの娘と極道の女会頭が、雪煙を上げてプロ並みの滑りを披露していた。

たっぷりと雪山を満喫した後は、ホテルの豪華なフレンチディナーである。

少女たちは、それぞれ持参した華やかなワンピースやドレスに着替え、地元の新鮮な日本海の海の幸や、極上の村上牛のステーキを堪能した。


「お肉、口の中でとろけるアル! 最高のクリスマスディナーね!」


美玲がワイングラスを傾けながら、幸せそうに頬を緩ませる。

美味しい食事とシャンパンが入り、リラックスした空気が流れる中、話題は自然と、年頃の女の子らしい『恋愛』のテーマへと移っていった。


「ねえ、キャシー。あなた、最近学校のフットボール部のキャプテンといい感じだって聞いたわよ?」


ステラが、悪戯っぽくキャシーをからかう。


「も、もう、ステラったら! ただ一緒に図書館で勉強しただけよ。でも……パパが『あんな青二才に娘はやらん』って、SPを三人くらい増やしちゃって、すごく気まずいの」


キャシーが困ったように肩をすくめると、美玲がウンウンと深く頷いた。


「分かるアル! ウチのお爺ちゃんも過保護すぎるネ。私が男の子と話してるだけで、組の若い衆が後ろで腕組んで睨んでるから、みんな逃げていっちゃうアルよ」


「まぁ、マフィアのボスと上院議員のパパを持ったら、彼氏探しも命がけね。私はどうせなら、パパの組織を乗っ取るくらい野心のある、イケてるマフィアの幹部がいいわ!」


ステラが大胆な発言をして笑い飛ばす中、三人の視線が、優雅に紅茶を飲んでいた雅由美へと集まった。


「ねえ、ミヤユミはどうなの? こーんなに美人で、しかも裏社会のボスなんでしょう? 日本のカッコいい男の子たちが、放っておかないんじゃない?」


ステラの直球の質問に、雅由美はティーカップをソーサーに置き、ふわりと微笑んだ。


「あら。私には、龍神という大きな家族がおりますから。個人の恋愛には、まだ興味が湧きませんの」


「えーっ、もったいない! でも、ミヤユミを口説こうとする男がいたら、後ろの怖いお兄さんたちが黙ってなさそうね!」


ステラが背後に控える竜也たちを見ると、竜也はサングラスの奥から「お嬢に近づく羽虫は、太平洋の底に沈めます」という極道スマイルを返し、少女たちの爆笑を誘った。


「それに、私のお相手になる方は、とても大変だと思いますわ。表の顔と裏の顔、その両方の重圧を理解して、隣を歩いてくださる方でなければ」


雅由美の静かで、しかし凛とした言葉に、少女たちは真剣な顔で頷いた。

同じように特殊な環境で育ち、重い看板を背負う彼女たちだからこそ、雅由美の言葉の重みが痛いほどに理解できたのである。


「そうね。……でも、いつかミヤユミの心を射止めるような、すっごくクールで強い男の人が現れたら、私たちにも絶対に紹介してよね!」


「ええ、約束しますわ。……さあ、デザートも終わりましたし、お部屋に戻って温泉にいたしましょうか」


雅由美が優雅に立ち上がると、少女たちは「待ってました!」と歓声を上げ、絶景の露天風呂への期待に胸を膨らませた。




プレミアム棟のスイートルームへ戻った四人は、ディナー用のドレスを脱ぎ、ホテルが用意した上質なシルクのルームウェアと、肌触りの良い浴衣に着替えた。


「わぁ……! すごい、本当に絶景ね!」


キャシーが、窓越しに見える露天風呂の景色に歓声を上げる。

湯船の向こうには、遮るもののない真っ白な雪景色と、満天の星空が広がっている。

冷たい雪の空気と、温泉の温かい湯けむりが、幻想的な雰囲気を醸し出していた。


「さあ、冷えないうちに温まりましょう」


脱衣所で、ステラたちははしゃぎながら浴衣を脱ぎ、備え付けの小さなタオルを持って洗い場へと向かった。


「日本の温泉って、タオルをお湯の中に入れちゃいけないのよね! 予習してきたわ!」


ステラが、海外の客らしく少し緊張しながらも楽しそうにシャワーを浴びる。

美玲とキャシーも、丁寧に体を洗い流し、一足先に露天風呂の広大な湯船へと飛び込んだ。


「ふぁ〜、天国ね〜。雪を見ながらお湯に入るなんて、最高アル!」


「本当に! 体中がポカポカして、お肌もツルツルになりそう!」


少女たちが、湯けむりの中でキャッキャと笑い合っていると。


「お待たせいたしましたわ」


脱衣所で静かにルームウェアを解いた雅由美が、白いバスタオルを胸の高さでしっかりと巻き、洗い場へと姿を現した。


「ミヤユミ、早く早く! すっごく気持ちいいわよ!」


ステラが手を振る中、雅由美はシャワーで軽く掛け湯をすると、湯船の縁に立ち、巻いていたバスタオルを静かに解いた。


「……え」


ステラ、美玲、キャシーの三人は、雅由美の姿を見た瞬間、言葉を失い、石のように硬直した。


舞い上がる白い湯けむり。

夜空の星灯りと、露天風呂の柔らかな間接照明に照らし出された、雅由美の透き通るような白い肌。

しかし、彼女たちが釘付けになったのは、その完璧なプロポーションだけではない。


雅由美の華奢で美しい背中。

その白い肌のキャンバスいっぱいに、首筋から腰の辺りまで、堂々と、そして妖艶にうねる『巨大な昇り龍』の刺青が、鮮やかな色彩で彫り込まれていたのだ。


温泉の熱を帯び、ほんのりと桜色に染まった肌の上で、その青と金で縁取られた龍は、まるで今にも命を得て天高く舞い上がりそうに、恐ろしく、そして息を呑むほどに美しく輝いていた。


「……ミ、ミヤユミ……その背中……」


ステラが、震える声で呟いた。アメリカの裏社会に生きる彼女でさえ、これほどまでに芸術的で、凄みのある刺青を見たことがなかった。


「ああ……。驚かせてしまって、ごめんなさいね」


雅由美は、恥じらうこともなく、隠すこともなく、堂々とした優雅な足取りで湯船に入り、肩までお湯に浸かった。

そして、濡れた黒髪をかき上げ、小悪魔のように艶やかに微笑んだ。


「これが、八代目としての、私の『覚悟の証』ですの。……温泉に来てまで、隠し事をするのは野暮でしょう?」


「す、すっごく……ビューティフル……!」


「姐姐……神様みたいに綺麗アル……!!」


キャシーと美玲が、うっとりとしたため息を漏らす。

その刺青は、暴力の象徴ではなく、彼女が背負う責任と、圧倒的な力の美学そのものであった。


「ふふっ、ありがとう。さあ、のぼせないうちに、雪見酒とまいりましょうか」


雅由美が合図をすると、仕切り越しの外から、早苗が木桶に乗せた熱燗と冷酒、そしてフルーツの盛り合わせを浮かべてくれた。


「すごい! 映画で見たことあるやつだわ!」


「じゃあ、私たちの友情と、ミヤユミの美しい龍に……乾杯!」


湯けむりの中、雪景色を眺めながら、背中に龍を飼う無敵の令嬢と、世界を牛耳るボスの娘たちは、夜が更けるまで甘く、そしてちょっぴり危険なガールズトークに花を咲かせるのであった。



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