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第四十章



街を彩るイルミネーションが冬の夜空に瞬き、クリスマスソングがどこか浮き足立ったメロディを奏でる十二月。

東京の閑静な高級住宅街の奥深くに鎮座する、広大な神龍寺の本部邸宅では、世間の喧騒とは無縁の、静かで規則正しい朝が始まっていた。


「はっ! やぁっ!」


「ぐはぁっ! ま、参りましたぁっ!」


凛とした冬の冷気が張り詰める、邸内の巨大な板張り道場。

純白の道着に身を包んだ雅由美が、流れるような合気道の体捌きで、体重が倍はあろうかという巨漢の組員たちを次々と畳に沈めていた。


「皆様、まだまだ足腰の踏み込みが甘いですわ。丹田にしっかりと気を込めて」


「お、お嬢……いや、八代目! 朝から手加減なしッスね……っ!」


祖父の逝去後、雅由美は実家を出て、一人残された祖母と共にこの巨大な邸宅に住まいを移し、名実ともに『八代目会頭』としての生活を始めていた。

お茶やお華といった令嬢としての嗜みは趣味程度に抑え、組員相手の居合道と合気道の稽古、そして体力作りのための五キロのランニングが毎朝の日課である。


「お疲れ様です、お嬢様。冷たいおしぼりと、温かいハーブティーです」


「ありがとう、早苗」


身の回りの世話役である女性組員の早苗からタオルを受け取り、雅由美は涼やかに汗を拭った。


「八代目、朝餉の支度が整っております。今朝は冷えますので、甘鯛の粕汁と、寒ブリの照り焼きでございます」


道場の入り口で、長年この本部の厨房を支えている初老の板長が、恭しく一礼する。


「まあ、美味しそう。すぐに向かいますわね」


極道の本部とはいえ、そこにあるのは血生臭い空気ではなく、主を心から敬愛する者たちの、温かく家族のような絆であった。


そんな穏やかな朝食の席で。

雅由美のスマートフォンに、まるで示し合わせたかのようなタイミングで、次々とメッセージが着信した。


『姐姐(お姉様)! 今年のクリスマスからお正月、日本に遊びに行くアル!』(香港:美玲)


『ミヤユミ! ニューヨークは雪で寒すぎるから、日本の温泉に連れてって!』(アメリカ:ステラ)


『ミヤユミに会いたいわ! パパに専用機を出してもらったの!』(アメリカ:キャシー)


「……あらあら」


雅由美は、箸を置いてクスリと笑った。

夏のニューヨークで意気投合した、香港マフィアの孫娘、アメリカン・マフィアの令嬢、そしてアメリカ上院議員の娘という、世界最強のトリオからの襲来予告である。


「どうなさいました、雅由美」


向かいの席で上品に粕汁を飲んでいた祖母が、目を細める。


「夏にお友達になった海外の女の子たちが、クリスマス旅行でこちらへ遊びに来るそうですの」


「ほう。それは賑やかになりそうですね。……でも、ここは極道の本家。年頃のお嬢さんたちが泊まるには、少しばかり『おっかない』のでは?」


「ふふっ。それが、全く問題ない、少しばかり『肝の据わった』お嬢様方なのですわ」


数日後。

羽田空港のVIPゲートを抜けてきた三人の美少女たちは、迎えの黒塗りリムジンに乗せられ、神龍寺の本部邸宅へと到着した。


「わぁ……! これが日本の『ヤクザ』の本部!? 映画のセットみたい! クールね!」


ステラが、高い天井と重厚な日本建築を見上げて目を輝かせる。


「ミヤユミ、お城みたいなお家ね!」


キャシーが無邪気に喜ぶ横で、美玲は「香港のウチの本部より、空気がピリッとしててカッコいいアル!」とマフィア目線で感心している。


「ようこそ、日本へ。到着後三日間は、この邸宅に泊まっていただいて、ゆっくり東京観光をいたしましょうね」


雅由美が優雅に出迎えると、邸内に控えていた黒服の若手組員たちが一斉に直角にお辞儀をした。


「「「お、お嬢様のお友達、いらっしゃいませぇっ!!」」」


可愛い女の子たちの滞在に、むさい男だらけの本部はすっかり浮き足立っていた。

東京観光の三日間は、竜也と黒田を専属のガイド兼荷物持ちとして、銀座でのクリスマスショッピング、浅草の浅草寺での食べ歩き、そして秋葉原でのサブカルチャー体験と、賑やかな日々となった。


「銀座のブティック、最高だったわ! パパのカードで新作のバッグを三つも買っちゃった!」


「私は秋葉原のメイドカフェが楽しかったアル! あのオムライスの魔法、香港の組員にも教えたいネ!」


「浅草のお団子、とっても美味しかったわ。ミヤユミ、案内してくれて本当にありがとう!」


夜のゲストルームで、パジャマ姿になった少女たちは、買ってきたばかりのスイーツを囲んで、修学旅行生のようにはしゃいでいた。


「皆様に楽しんでいただけて、私も嬉しいですわ。明日はいよいよ、雪山の温泉リゾートへ出発しますから、今日はゆっくりお休みになってね」


雅由美の言葉に、少女たちは目を輝かせ、さらなる日本の非日常へと胸を弾ませるのであった。




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