第2話 日々は順調に過ぎていく…?
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時が経つのは早いのか遅いのか、アルトにはよくわからなかった。
フィオナとルカが生まれたばかりのころは、一日がひどく長く思えた。今日は少し目を開けた、昨日より声が大きい、指を握る力が強くなった、そんな小さな変化のひとつひとつが大事件で、朝と夕方のあいだにも世界が変わってしまう気がしたものだ。
けれど気がつけば、フィオナはよく笑うようになり、ルカは布を蹴飛ばすのが上手くなり、揺り籠の中だけで完結していたはずの人生は、少しずつ部屋いっぱいへ広がっていた。
つまり何が言いたいかというと、弟妹というものは見ていて飽きない。
まったく飽きない。驚くほど飽きない。前世でもそうだった気がするし、今世でもやっぱりそうだった。たぶん弟妹には、兄を無限に見守り役へ変える何かがあるのだと思う。恐ろしい生き物だ。かわいいけれど。
だからアルトは、時間を見つけては双子の部屋へ通っていた。
「フィオナ、今日もかわいいですね」
「ルカ、元気ですね。元気すぎませんか?」
「……あっ、そっちはだめですよ」
「だめですって言ったそばから行くんですね。元気ですね」
ルカは動けるようになってからというもの、わりと一直線に世界へ突っ込んでいく性質を発揮していた。危なっかしい。とても危なっかしい。何というか、目の前に道があれば進むし、道がなくてもたぶん気合で進もうとする感じがある。将来が少し心配である。
一方、フィオナは慎重だった。じっと見て、考えて、確かめてから動く。けれど完全におとなしいわけではなく、ルカが変なことをしそうになると、まだたどたどしいながらも止めようとする。姉らしいのか何なのか、すでに片鱗があるのがすごい。双子なのにここまで性格が違うのかと、アルトは毎日ちょっと感心していた。
そんなふうに双子を眺めていると、だいたい後ろのほうに兄エドガーがいる。
いや、毎回ではない。毎回ではないのだが、かなりの頻度でいる。通りがかったふり、たまたま見に来ただけのふり、別に用はないが何となく立ち寄っただけのふり。いろいろな“ふり”をするが、結論から言えば見に来ている。かなり見に来ている。
ある日、アルトはついに聞いてみた。
「兄様」
「何だ」
「フィオナたち、気になりますか?」
「別に」
「じゃあ、なんでそんなにこっち見てるんです?」
「見ていない」
「見てます」
「見ていない」
「いえ、見てます」
「……アルト」
「はい」
「小さいくせに妙に反論がうまくなったな」
「ありがとうございます」
「褒めていない」
「そうなんですね」
そこでエドガーは、わずかに眉を寄せたままフィオナを見た。フィオナはちょうど、その赤と青のちぐはぐな瞳をぱちぱちさせながら兄たちを見上げていた。生まれたばかりのころには閉じられていた瞳も、今でははっきりと色を宿している。片方が赤、片方が青。ルカも同じ色をしていて、並ぶととてもきれいだった。
「……変わった目だな」
エドガーがぽつりと言う。
「きれいですよ」
アルトが即答すると、兄は少しだけ黙った。
「まあ、そうだな」
その言い方が、どう考えても「最初からそう思っていたが、弟に先に言われるのはちょっと悔しい」みたいな響きだったので、アルトは内心で少し笑った。兄様は本当にわかりやすいところだけわかりやすい。
そしてその直後、ルカが転びそうになったので、兄弟そろって同時に手を伸ばした。見事なくらい同時だった。ちょっとだけぶつかった。
「兄様」
「お前が遅い」
「今のはほぼ同時でしたよ」
「俺のほうが早かった」
「いえ、たぶん僕です」
「何を張り合ってるんですか」
マルタが後ろでくすくす笑っていた。平和である。少なくとも父の前では絶対に起こらない種類の平和だった。
そんな日々の中で、アルトの学びも本格化していった。
朝は礼拝のあと、家庭教師のオズワルドのもとで机に向かう。文字の書き取り、歴史、地理、算術、王国法の初歩、貴族の義務、領地経営の基本。五歳の僕には難しいことも多かったけれど、不思議と嫌ではなかった。むしろ知ることが増えるほど安心した。知らなければ選べないし、選べなければ守れない。そんな感覚が、前世の記憶と混じり合って胸の中に根を張っていたからだ。
オズワルドの授業は厳格だったが、理不尽ではなかった。ただ覚えるのではなく、なぜそうなったのかを問うてくる。王が変われば政策が変わる。政策が変われば税が変わる。税が変われば領民の暮らしに響く。どこかひとつを押せば別の場所が動く、そのつながりを見つけるのは面白かった。
もっとも、父レオンハルトがそうした学びを見て「ほう、楽しんでいるな」などと言うはずもない。父は相変わらず、できるかできないか、役立つか役立たないか、その二点でしか物を見ていないらしかった。
ある日の朝食で、オズワルドがアルトの理解の早さを口にしたときも、父はスープの匙を置きもせずに言った。
「それが結果につながるなら意味はある」
見事なまでにあたたかみがない。いっそここまで徹底されると、もうひとつの才能ではないかと思えてくるが、息子として受ける側からすると、できれば別の方向に開花してほしかった。
ただ、その横でエドガーが一瞬だけこちらを見ていたことを、アルトは見逃さなかった。何も言わない。言わないが、だいぶ「気にするな」と言いたそうな目だった。兄は口に出さないぶん、最近は視線が忙しい。目だけで家族愛を送りつける新手の技かもしれない。
剣術の稽古は、学問よりもずっとわかりやすく大変だった。
教官のガレスは元騎士で、木剣の握り方ひとつにまで容赦がない。構えが甘い、足が流れる、腰が入っていない、視線が下がる。次々に指摘され、そのたびやり直しになる。訓練場の土は乾いているのに、終わるころにはどういうわけか全身が湿っていた。汗というやつは本当に遠慮がない。せめてもう少し上品に出てくれればいいのにと思うが、どうやら汗に礼儀作法はないらしい。
それでも、アルトは少しずつ形にしていった。最初は木剣に振り回されていた腕も、やがて自分の意思で扱えるようになる。力で受けるのではなく角度で流すこと、真正面から勝てないなら足運びで崩すこと、自分の体格に合った戦い方を選ぶこと。地味だが大切なことばかりだった。
ある日の打ち合いで、年上の見習い従者の一撃を受け流し、その隙に一歩踏み込んで木剣を胸元へ突きつけたとき、ガレスは腕を組んだまま短く言った。
「今のはよかった」
「ほんとうですか」
「ええ。教えたことをただなぞるのではなく、きちんと使っておられる」
「……うれしいです」
「喜ぶのは結構ですが、調子に乗るとすぐ転びますよ」
「は、はい」
「実際、さっきも足が少しもつれていました」
「見てたんですね」
「教官ですので」
「それはそうでした」
そこでガレスの口元が、ごくわずかにだが緩んだ気がした。見間違いかもしれない。だが見間違いではないと思いたい。厳つい大人が少しだけ笑うのは、それだけでちょっと得した気分になる。
魔術理論の授業はまた別の意味で楽しかった。
ミレイアは神秘を曖昧なまま放置するのを嫌う人で、術を理として説明した。魔力とは何か。術式とはどう組まれるか。なぜ適性のない属性は学べないのか。四大元素――炎、水、風、土――は生まれ持った適性に支配され、その才なき者には決して扱えないこと。
例外として、教会で学ぶ神聖魔術、精霊に力を借りる精霊魔術、死者を扱う降霊魔術があること。ただしそれらもまた、別の条件を満たす者にだけ道が開かれること。
アルトはそれをひとつずつ頭へ入れていった。今の自分にはまだ四大元素のどれが向くのかわからない。適性検査は、魔力が安定する適齢期にならなければ正確に出ないからだ。それでも、理を知ることは決して無駄ではない。むしろ、向き不向きが判明したときに迷わず進めるよう、今のうちに足場を固めておくべきだとアルトは考えていた。
そして何より、魔術そのものが面白かった。
術式が意味を持ち、意味が現象を呼ぶ。その理屈は、ただ暗記するよりずっと心を惹いた。前世での記憶を取り戻した今、アルトはなおさらそう思う。理屈のある不思議はよい。不思議なだけの不思議より、ずっと好きだ。
そうして学びと鍛錬を積み重ねるうち、アルトは自分でもわかるくらい変わっていった。文字を読む速度は上がり、算術の問題は前より早く解ける。木剣の重さにも慣れ、ガレスの指示も身体に入りやすくなった。ミレイアの話す術理も、最初のころは難しいだけだったのが、次第に仕組みとして見えるようになる。
派手ではない。劇的でもない。けれど、昨日の自分より今日の自分のほうが少しだけ先へ進んでいる感覚が、たしかにあった。
周囲もその変化を見ていた。しかも、今度は陰でこそこそではなく、きちんと本人に言ってくれる。アルトとしてはそのほうがありがたい。褒めるなら聞こえるところで褒めてほしい。聞こえないところで褒められても、あとで「実は褒めていました」と伝えられると、うれしいのに少し恥ずかしくて困る。人はもっと堂々と褒めていい。特に子どもには。
ある日、オズワルドは税と収穫の計算問題を終えたあと、教本を閉じてアルトを見た。
「アルト様、あなたは本当に物覚えがいい」
「……そうですか?」
「ええ。ただ覚えるだけではなく、前後までつなげて理解しておられる。それが素晴らしいのです」
「意味があったほうが覚えやすいので」
「その考え方がすでに良いのですよ。数字はただ並んでいるだけではありません。暮らしに結びついています。あなたはそこを見ている」
「ありがとうございます」
「その調子で続けなさい。学ぶことを面倒がらない子は、いずれ必ず伸びます」
そこで褒めが止まらなかったので、アルトはだんだん耳が熱くなってきた。うれしい。うれしいのだが、正面からたくさん褒められると人はちょっとだけ縮こまるらしい。知らなかった。
ガレスもまた、ある日の稽古終わりに木剣を受け取りながら言った。
「アルト様は覚えたことを身体へ落とし込むのが早いですね」
「ほんとうですか」
「ええ。筋がよいというより、考えて動いておられる。そういう子は伸びます」
「……ありがとうございます」
「ただし、剣は頭だけで振るものではありません。最後は身体です」
「はい」
「ですから、明日も振ります」
「やっぱりそうなりますよね」
「当然です」
誉めてからきっちり稽古量を増やしてくるあたり、ガレスは抜け目がない。アルトは内心で、うれしいけど増えるんだ、と思ったが、顔には出さなかった。出したところでたぶん意味がない。
ミレイアの褒め方は、また少し違った。術式の基礎構造について答えたあと、彼女は満足そうに頷いた。
「理解が進んでいますね、アルト様」
「そうですか?」
「ええ。理論を暗記ではなく、理として理解しようとしておられる。その姿勢はとても良いものです」
「ちゃんとわからないと不安で」
「その不安を放置せず、知ろうとするからこそ見込みがあるのですよ」
「見込み、ですか」
「はい。適性が判明したあとも、その学び方は必ず役に立ちます。焦らず、今の積み重ねを続けなさい」
「ありがとうございます、ミレイア先生」
見込みがある。そう言われると、胸の奥がじわっとあたたかくなる。父からは決してもらえない種類の言葉だった。
家の中でそういう言葉をいちばん不器用に伝えてくるのは、もちろん兄のエドガーだった。エドガーは相変わらず、露骨な励ましをするくらいなら壁になりたいとでも思っていそうな顔をしている。けれど実際には、しっかり気にかけている。アルトが父に呼ばれて書斎へ行けば、帰り道に偶然を装って廊下の近くにいる。剣術の稽古が長引いた日には、訓練場の出口あたりを通りすがるふりで覗いている。どう見ても通りすがる頻度ではない。もはや巡回である。
ある日、アルトはつい兄をからかった。
「兄様」
「何だ」
「最近、僕のこと見すぎでは?」
「見ていない」
「いえ、見てます」
「気のせいだ」
「そうなんですね。じゃあ、昨日父上の書斎から出たときに兄様が向こうの廊下で腕組んでたのも」
「偶然だ」
「一昨日、訓練場の外で立ってたのも?」
「偶然だ」
「三日前に僕の教本を勝手に見てたのも?」
「それは」
そこで兄は一瞬詰まった。
「確認だ」
「確認」
「弟がちゃんと学んでいるか、兄として確認するのは自然だろう」
「……兄様」
「何だ」
「それ、だいぶ好きですよね」
「違う」
「違わない気がします」
「違う」
言い切る兄の耳がほんのり赤いので、説得力はあまりなかった。
そんなふうに日々を重ねるうち、季節はまた巡った。フィオナとルカは歩く練習を始め、屋敷の中をよちよちと移動するようになった。ルカは勢いだけは一人前で、立ち上がったと思ったら次の瞬間には床と仲良くしていることが多かった。どうやら彼の中では「まず進む」が最優先らしく、「転ばない」はかなり後ろのほうにあるらしい。将来が少し心配である。
フィオナはその横で慎重に一歩ずつ進み、ルカが転ぶたびに「あ」と声を上げていた。アルトはそれを見るたび駆け寄りたくなるのを抑え、でも結局半歩は前に出てしまう。するとエドガーも反対側から半歩出る。双子を見守る兄ふたりの挙動が妙に一致していて、マルタに「まあ、仲のよろしいこと」と笑われたことがあった。別にそういうつもりではない、と言いたかったが、たぶんそういうことなのだろう。
やがてアルトは七歳に近づき、魔術適性の検査を受けられる年齢になった。四大元素――炎、水、風、土――のいずれに適性があるかが判明する、大きな節目である。貴族の子にとって、この検査は単なる確認ではない。その後の教育方針にも関わるし、将来の役割にも少なからず影響する。父が軽く見るはずもなかった。
検査の話が正式に出た日の夕食は、いつも以上に空気が張っていた。母エレノアは落ち着いた口調で日取りを告げ、父は短く応じたあと、こちらへ視線を向けた。
「無様な結果は出すな」
検査は努力でどうこうなるものではない、とミレイアですら言っていたのに、父の言い方は見事なくらい父だった。アルトは内心で、適性検査にまで精神論を持ち込むのは少し無茶ではないだろうかと思ったが、もちろん口には出さなかった。出したらたぶん空気が凍る。食卓の氷点下はさすがにごめんだった。
それでも、アルトの胸には不安があった。何の適性を持つのか。あるいは、思ったより弱い結果だったらどうするのか。父はどう見るだろうか。家の中での立場が変わることはあるだろうか。そうした考えが頭をよぎらないわけではない。
だが、それ以上に、知りたい気持ちのほうが強かった。
自分に何ができるのか。その入口がようやく見えるのだ。怖いが、逃げたくはない。そこまでの自分にはなれていた。
検査の前日、珍しくエドガーがアルトの部屋を訪ねてきた。扉を叩く音がして開ければ、兄が妙に言いにくそうな顔で立っている。
「兄様?」
「……入ってもいいか」
「はい、もちろん」
部屋へ入ってきた兄は、なぜか本棚を見たり窓の外を見たりしてから、ようやくアルトを見た。
「明日だな」
「はい」
「緊張しているか」
「少しだけ」
そこで兄はまた少し黙った。アルトは待った。兄はこういうとき、自分の中で言葉を並べるのに少し時間がかかるのだと知っていたからだ。やがてエドガーは観念したように言った。
「別に、何の適性でもいい」
「え?」
「いや、よくはないが……いや、違う。そういう意味ではなくてだな」
「兄様、落ち着いて」
「うるさい」
そこで一度咳払いをして、兄は眉を寄せたまま続けた。
「とにかく、お前がここまでやってきたことは、何も変わらない」
「……はい」
「父上がどう見るかは知らない。でも、教師たちも教官も、お前を認めている。俺もそう思う」
「兄様……」
「だから、変に気負うな」
「はい」
「結果がすべてだと思い込むな」
「はい」
「……まあ、結果は良いに越したことはないが」
「ふふ」
「笑うな」
「すみません。でも、うれしいです」
そう返すと、兄は少しだけ目をそらしてから、いつものようにアルトの頭をぽんと叩いた。短い、不器用な励ましだった。でも、それで十分だった。
その晩、アルトはいつものようにフィオナとルカの部屋をのぞきに行った。ふたりはもう眠っていて、マルタが揺り籠のそばで編み物をしている。
「明日ですね」
「はい」
「きっと大丈夫ですよ」
「……そうでしょうか」
「ええ。アルト様は積み上げてこられましたもの」
そう言われると、胸の奥にじんわりあたたかいものが広がった。フィオナの頬はほんのり赤く、ルカはまた布を少し蹴っている。寝ているのに元気だなあ、とアルトは思う。どういう理屈で寝相だけあんなに立派なのか、いずれ本人に聞いてみたいが、たぶん答えは返ってこない。
翌朝は、いつもより少しだけ空気が冷たく感じられた。礼拝を済ませ、朝食をとり、母に身なりを整えられる。エレノアはアルトの肩を軽く払ってから、静かに言った。
「肩に力が入っていますよ」
「わかりますか」
「母ですもの」
「……少し緊張しています」
「それでよいのです。何も感じないより、ずっといい」
「はい」
「ただし、怯える必要はありません。あなたはあなたのまま行きなさい」
「はい、母上」
その言葉で、少しだけ呼吸がしやすくなった。食堂へ向かうと、父はすでに席についていた。いつも通りの顔で、いつも通りこちらを見て、いつも通りの調子で言う。
「無様な真似はするな」
本当にぶれない人だなと、アルトは内心で感心した。ここまでくると、もうひとつの才能ではないだろうか。残念ながら、子どもにやさしくない方向へ全振りしているが。
アルトは黙ってうなずいた。すると席についていたエドガーが、ナプキンを整えるふりをしながらちらりとこちらを見る。何も言わない。だが、その目ははっきりと「行ってこい」と言っていた。
魔術適性の検査は、屋敷の奥にある静かな小礼拝室で行われることになっていた。神聖な場のほうが魔力の乱れが少ないからだという。室内には複雑な紋様の陣が描かれ、中央には透明な水晶球めいた器具が台に置かれている。そのそばに立つのは、ミレイアと、教会から招かれた老司祭、それから父レオンハルト。後方には母エレノアと兄エドガーも控えていた。
部屋へ入った瞬間、空気がひやりと肌を撫でた。静かだ。静かすぎて、自分の呼吸まで少し大きく聞こえる。
「アルト様、こちらへ」
ミレイアに呼ばれ、アルトは陣の中央へ進む。老司祭が穏やかな声で手順を説明した。
「恐れることはありません」
「はい」
「あるものが示されるだけです。良い悪いではなく、ただ在るものがわかるだけ」
「はい」
アルトは小さくうなずいた。背後に父の視線を感じる。母の静かな気配も、兄の気が気でないくせにそれを悟られたくない気配もわかる。全部を背に受けながら、アルトは前を向いた。
ここまでやってきたのだ。勉学も、剣も、理論も。結果が何であれ、それは消えない。オズワルドの言葉も、ガレスの言葉も、ミレイアの励ましも、マルタのあたたかさも、エドガーの不器用な支えも、ちゃんと自分の中にある。
だからきっと、大丈夫だ。
アルトはそっと手を伸ばし、水晶へ触れた。ひやりとした感触が手のひらに伝わる。次の瞬間、床の陣が淡く光を帯びはじめた。
実はブラコン気味なのはアルト君だけではないのです
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