2022年5月28日 4時44分
「死ぬってお前!杉浦の無実を証言してくれるだけで良いんだ!おれはお前を...。」
「私、雷愛会のメンバーなんだ。知ってる?」
俺の話を美雪は遮って話し出す。
「...ああ。6年前に鉄塔を崩壊させた奴らだろ。」
「そこまで知ってるの?凄いじゃん!ますます生きて返せなくなっちゃうなあ。」
美雪はいつものテンションに戻っていた。
会話の内容は至ってディープだ。
「今日はめっちゃ頑張ったの!発電機に細工したり、予告電話したり、SGを装って、敷地内でいろいろとね!佳奈ちゃんのバッグに容器を入れるのが一番ドキドキしたかなぁ。」
今朝すれ違った西電の車も美雪だったのかもしれない。
「もう一回聞くけど、何でこんなことするの?」
「上からの命令かな。工藤常務が邪魔なんだって。」
「杉浦に罪をなすりつけたのも上からの指示か?」
当たり前じゃんと彼女は笑う。
「佳奈ちゃんの過去なんて私が知る訳ないじゃん。上が全部調べたんじゃない?どのダクトがセーフルームに繋がってるとか。私が知る訳無いじゃん。」
「なるほどな。」
工藤常務が軽井沢荘にくることも、この建物にセーフルームがあることも。一般社員の美雪が知るわけがない。
情報提供元があるという予想は当たっていた。
「そろそろ行かないと!じゃあね滝内。あの世で工藤常務によろしくね。」
気がつくと目の前に美雪の姿は居なかった。
突然右から衝撃を感じ、俺は倒れ込んだ。
「うぐっ...。」
どうやら美雪に殴り倒されたらしい。
「工藤常務の死去にショックを受け、社員が自殺ってのは乱暴なストーリーかな?」
続いて蹴りを入れられる。
美雪の姿が見えない。なんてすばしっこさだ。
「がはっ...。」
馬乗りになって抑えつけられる。
上方を見上げると、美雪が電工ナイフを構えている。
仕事道具を凶器に使うなんて。なんて奴だ。
「同期のよしみだからね。なるべく痛くないようにしてあげる。」
美雪はナイフを持った手を振りかざす。
身動きが取れない。すごい力だ。
「なんだ...美雪...力...あるじゃん...。」
美雪の手が止まる。
「まだそんなこと覚えてんの?」
「忘れるもんか...。訓練所卒業するとき...私たち非力だから...力つけて...立派な配電マンになろうって...。」
「あの時はわざと非力のふりをしていたの。」
「俺は...悲しい。かつての仲間が...大好きだった女の子が...犯罪に手を染めるだなんて。」
「なに...それ...。」
俺は泣いていた。今年2度目の男泣きだ。
「泣き落とし?後味悪いから...やめてよ。」
数秒間の沈黙の後、美雪は口を開く。
「私がもし雷愛会とかじゃなくて、普通の女の子として入社したらとか考えたっけなぁ。」
「正直滝内のことは、嫌いじゃなかった。私としても惜しいよ。でもね。」
美雪が優しい表情をする。
「でも私の長良川を傷つける連中を放ってはおけないんだ。」
何を言っているのかは分からなかったが、分からないまま俺はあの世にいくのだろう。
「だからごめんね滝内...ごめんね。」
美雪が再度ナイフを振りかぶる。
こんなに可愛い子に殺されるなら本望かな...。
俺は美雪の顔をぼんやりと見つめていた。




