2022年5月28日 20時10分
外に出ると、西日本電力のSGが駆け回っていた。
只事ではない。そんな感じだった。
「佳奈!」
美由が杉浦の姿を見つけて声をかける。
杉浦は振り返り、早口で状況を説明してくれる。
「工藤常務がセーフルームに閉じ込められたの。電子キーだから両側から解除できなくて!非常用発電も動かないみたいで、いま西日本電力の当直と主任技術者を呼んでもらってる。」
「忙しいからまた後でね。」
そう言い残し、杉浦は警護詰所に駆けていく。
「大変みたいね。優人、何とか直せないの?」
「とりあえず、SOGがどこにあるか探さないと。道路のほうだったかな。」
道路のほうに歩いていくと、ヘッドライトを灯した軽箱自動車がこちらに向かってくる。背中には梯子が乗っている。西日本電力のサービスカーだ。
「お!西電だ!随分早いな。」
俺は車に向けて手を振る。
車は俺達の真横で停車し、西日本電力の制服を着た女性が出てくる。
「お待たせしました。佐久支社当直の山田です。」
山田という言葉に俺は仰天する。
「山田!?もしかして山田美雪か?」
「え!滝内?何でこんなところに?」
美雪は配電部の同期入社で、訓練所では同じ班だった。
長野県に配属になったと聞いていたが、こんなところで再会するとは思ってなかった。
「事情は後で。ここで何らかの事故が起きてる可能性が高いんだ。街の明かりは戻っても、この建物だけ停電したままだ。」
「分かった。とりあえずSOG見てみるわ。」
美雪はハンドライトを持って、電柱のほうに歩いていく。
あの研修所で泣いてばかりだった美雪が今では立派な配電ウーマンだ。同期として誇らしい。
「ちょっと誰?あの可愛い子?元カノ?」
美由が怪訝な顔をして聞いてくる。
「訓練所のとき同じ班でね。配電B02班、懐かしいなぁ。訓練成績とか全部ビリでね。班員と毎日泣いてたなぁ。」
「ふぅーん。」
訓練所で俺の居た班は全てワースト1位だった。訓練所の指導員に毎日のように怒鳴られてた日々を思い出す。
今思えばなんで辞めなかったんだろうと不思議に思うくらいだ。
電柱の上を照らした深雪は、切れてるなーと言いながら備え付けのSOGの制御箱の中を確認する。
「短絡表示が出てる!」
短絡。つまりショート。短絡を検知すると、街全体が停電した後SOGは自動開放する。
「原因は何だろうね。今の季節だと小動物かな。」
小動物が電気配線に触って、ショートすることはよくあることだった。
「とりあえず、電気室の中見てみるよ。」
そう言って深雪は建物の方に歩いていく。
俺たちもそれに続く。
電気室は建物の電気設備がまとめてある部屋だ。高電圧注意みたいな看板がついてる部屋は大体それである。
軽井沢荘の電気室は建物横にあった。
美雪が慣れた手つきで、専用の鍵で扉を開ける。
「やっぱりな。」
美雪が足元を指差す。足元に黒焦げになったヘビが転がっている。
「こいつが原因だな。メガーかけて良ければ送電する。」
「滝内、私の車からメガーと保護具持って来て。」
相変わらずの人遣いの荒さだ。
「主任技術者は待たなくていいの?」
主任技術者はこの建物の電気管理責任者だ。普通は主任技術者立ち合いのもと復旧を行うことになっている。
「無線連絡で、一刻も早く復旧操作しろって言われてね。そんなこと命令されたの初めてだよ。」
美雪が不思議そうに話す。
ウチの会社のナンバー3が閉じ込められてるなんて、夢にも思わないだろう。
俺と美由は、メガーと保護具を取りに行くため、車に向かって走り出した。




