2022年5月28日 18時00分
軽井沢の観光を終えた俺たちは軽井沢荘に戻ってきた。
夕食が20時ということもあり、いったんお風呂に入ってから部屋に集合することとした。
入浴支度をしてロビーに出てくると背後から声を掛けられた。
「美由ー!また会ったね!」
Tシャツに短パンというラフな格好をした杉浦がこちらへ駆け寄ってきた。
手にはお風呂セットを抱えている。
「20時までは休憩時間なの!一緒にお風呂いこうよ!そのあと私の部屋でプチ女子会!どう?」
「いいね!」
美由が俺のほうに目配せする。
久しぶりの同期との再会だ。俺が水を差すこともないだろう。
「行ってきなよ。俺は早めにあがって部屋でゆっくりしているよ。」
「悪いね滝内君。愛しの美由ちゃん、借りるわよ。」
二人は意気揚々と女子風呂へ向かっていった。
せっかく一人なんだし、風呂から出たら建物内を散策しようかな。
そんなことを考えながら男湯の暖簾をくぐり、脱衣所に入る。
建物は立派だったが、風呂自体はなかなか狭い。掛川寮と大差ない広さだった。
脱衣所は空いており、俺の他にはもう一人しかいない。
「こんばんは。」
脱衣所にいる初老の男性に声を掛けられる。
よく見ると、それは工藤常務だった。
瞬間緊張した俺は、心臓バクバクになってしまった。
「こ、こんばんは。」
「おお、これはすまなかったね。楽にしてください。」
訓練所のときのように直立不動になってしまっていたらしい。
そんな俺に工藤常務は優しく話しかけてくれる。
「君は社員かね。」
「はい。天須羅支社です。静岡の。」
「おお、天須羅か。あそこは雷獣も多い。たまに鉄塔を超えてくるんだが見たことはあるかね。」
「はい、見たというか...。」
俺は今までのいきさつを話す。
工藤常務は見た目と裏腹にとても話しやすい。
「そうだったか。襲われてウチの警備部員に。大変だったね。」
工藤常務は表情を強張らせる。
「雷獣はいつか根絶させねばならん。」
「はい。」
「近々静岡県北部の雷獣生息地を、2つに分断する計画を実行する予定なんだ。」
そんな計画があることは初耳だった。
「分断した隙間に道路を作る。そうすれば山梨県へのアクセスが大分楽になる。国家と共同した大プロジェクトなんだ。」
工藤常務は楽しそうに計画を語る。
「こうやって生息地を少しずつ削り、最後は包囲殲滅する。これが私の悲願だ。」
話を聞いて俺は疑問に思う。
「なぜ計画を公表しないんですか?」
工藤常務は人差し指に手を当てて答える。
「それを快く思わない連中がいるからだ。」
「雷獣を愛護し、アース鉄塔崩壊をたくらむ組織。通称雷愛会。」
「雷愛会...。」
「そうだ。こいつらが厄介でね。社内にもスパイを送り込んでいるらしい。」
またまた俺は疑問に思う。
「なぜ私にそんな話を。私がスパイかもしれないじゃないですか。」
「君は雷獣に襲われて死にかけた。雷愛会の構成員はそんな間抜けはしないよ。」
俺が間抜けみたいな言い方はやめて欲しかった。
「いやあすまないね。気を悪くさせちゃって。奴らは雷獣を操る術を持っているらしい。笛を使うんだとよ。犬みたいにね。犬笛ならぬ雷笛ってね。」
この際聞きたいことはすべて聞いてみたい。
「樹海の中の集落の話も本当なんですか。」
「ああ、多分本当だ。雷獣遣いの末裔が雷愛会って訳さ。奴らの本部が樹海にあると俺は睨んでる。」
「奴らは時には政府に協力し、時には敵になる。戊辰戦争で雷獣を操って江戸城を落城したのも奴ら、太平洋戦争で空母ホーネットを鹵獲したのも奴らだ。雷獣を守るためなら何でもやる連中だ。」
「今は政府の雷獣殲滅方針に腹を立て、鉄塔を崩壊させたり、雷獣に対して強硬な要人を次々と暗殺している。」
俺はびっくりして話を遮る。
「ちょっと待ってください!6年前の雷獣災害はもしかして...。」
「そうだ。あれも奴らの仕業だ。」
「なんで公表しないんですか!皆鉄塔の老朽化だって...。それで電力公社も解体されて!」
「政府は脅迫に屈したんだ。次は北関東の鉄塔に大穴を開けるぞって。」
「そんな...!」
「しかし2度も同じ轍は踏まない。」
工藤常務は目をギラギラさせる。
「この分断計画を実行すれば、富士山周辺の雷獣を隔離することが出来る。ここに総攻撃をかけて奴らの本部を叩くって寸法さ。」
「題して列島打通作戦。かっこよいだろう?」
壮大な計画に俺は唖然とする。
「滝内君だったかな。このことは私と君だけの秘密だ。」
「誰にも言ってはならない。君の可愛いガールフレンドにもね。」
「口外したら分かっているだろうね。私は常務だ。君の処遇なんてどうとでも出来る。」
勝手に話しておいてなんて御仁だ。
「それでは日々の業務に励みたまえ。では。」
着替え終わった工藤常務は脱衣所から立ち去った。
おれはしばらく呆然としていた。




