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雷獣  作者: ごーまるな
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2022年5月28日 10時40分

東京駅で北陸新幹線に乗り換え、軽井沢駅に到着した俺と美由は、路線バスに乗り換えて西日本電力の保養施設「軽井沢荘」に向かっていた。


「いやあ寒いね。軽井沢は。」


俺はアウターを持ってきていないことを今更になって後悔する。


「リスクヘッジが出来てないのよ優人は。」


そう言って美由はリュックからカーディガンを取り出す。

流石女の子。準備が良い。


「それにしても景色が良いね。空気もおいしい!」

「ほんと来てよかった!」


湯川(ゆかわ)沿いを路線バスはゆっくり走っていく。湯川は小さな小川で水面が太陽光を反射してキラキラと輝いている。

初めて来る場所に初めて見る景色。それらをぼーっとしながら眺めるのが俺は昔から好きだった。


「あ!西電の車だ!」


美由が対向車線を指差す。

青色のラインと背中に梯子を積んだ軽箱自動車とすれ違う。前のドアには「西日本電力」とでかでかと書かれており、その上にはロゴマークがプリントされている。俺がよく乗る社有車と同じタイプだ。

メーターや引込線の工事、開閉器操作と何でも出来る車であることから、西日本電力の配電社員は「サービスカー」と呼んでいた。


「せっかく軽井沢まできて自分の会社の車を見ると萎えるね。」

「土曜日なのにお疲れさまだね。当直の人たちかな。」


電気は24時間送る必要があるため、土日や夜間でも会社に常に人が居るようになっている。

天須羅支社も輪番制(りんばんせい)で当直が編成されており、月に2回程度は会社にお泊りだ。


「おっ次で降りるよ。」

「おっけーボタン押すね!」


「ハルニレテラス」というバス停で下車し、辺りを見渡すと「↑軽井沢荘300M」という立て看板を見つける。


「森田の言ってた通りだな。歩いてすぐだって。近くにおしゃれな教会とか、ショッピング施設とかあるらしいよ。」

「ほんと!荷物置いたら行ってみようよ!」


俺たちは軽井沢荘に向けて歩き出す。

隣接するハルニレテラスという施設は小さなショップやレストランが立ち並ぶ、おしゃれな雰囲気と自然が融合した人気の観光地である。


昼食はハルニレテラスでとりたいね。そんな話をしていると、1階がガラス張りになった大きな3階建ての建物が見えてきた。


「すっごーい!おしゃれすぎる!」


美由はテンションが上がって写真をバシバシ撮っていた。

軽井沢荘は3年前くらいに大規模改装したらしく、見た目も美しい人気の保養所だ。

3か月先までは予約でいっぱいだったが、キャンセル待ちで奇跡的に部屋をとることが出来た。


「みてみて!すごい車が停まってるよ!」


エントランス前の車受けには、黒塗りの高級車が停まっていた。

丁度到着したばかりらしく、運転手が降りてきて後部座席のドアを開けると、車から初老の恰幅(かっぷく)のよい男が出てきた。


「あの人ってもしかして...。」

「工藤常務じゃん!初めて見た!」


工藤常務は対雷獣担当役員で、政府と共同で人間の居住エリア拡大の計画を建てている西日本電力のナンバー3だ。

工藤常務が降り立つと同時に、西日本電力のSGが駆け寄ってきて工藤常務に敬礼する。


「お!同業者じゃん。」


美由が興味ありげにその光景を眺める。


「しかも本社の警護課じゃん。見て!肩のワッペン!エレクトリックタスクフォース!ウチの精鋭だよ!」


警備部のことはよくわからないが、本店には難しい事象の対応にあたる特殊部隊がいるみたいな話は聞いたことがあった。


「それってすごい人たちなの?」

「うん!元自衛官とか傭兵とかSPとか。とにかくすごい人たちの集まりなんだよ。同期も一人居たかな。佳奈ちゃん元気にしているかなあ。」


そんな精鋭に護衛される工藤常務は大物だな。

エントランスが空いたことを確認してから、俺たちは軽井沢荘にチェックインする。


「あれ?美由!?」


突然背後から声がして振り向くと、女性のSGが立っていた。


「え?もしかして佳奈ちゃん!?超久しぶりじゃん!ちょうど佳奈ちゃんの話をしてたんだよ!」

「キャー!久しぶり!」


二人は手をつないではしゃぎながらジャンプする。


「えっと、そちらの男の子は?」

「これはねー。友達以上恋人未満みたいな!天須羅支社の配電の滝内くん!」

「えー。なにそれ!美由も隅に置けないなー。訓練所の時は男っ気ゼロだったのに。」

「それはアンタもでしょ!自分より弱い男は興味ないって、警備部の男の子を片っ端からボコボコにしてたじゃん。」


どうやら佳奈という美由の同期は相当恐ろしい女の子らしい。


「滝内さん初めまして。本社警備部警護課、要人警護1係の杉浦佳奈と言います。」


杉浦はそう言って西日本電力式の敬礼をする。

あわてて俺も自己紹介し、挨拶する。

杉浦は髪が長くて切れ目でクール系の美人といった感じだ。


「電力大学を首席で卒業してね!頭も良いし、全社の警備オリンピックでも個人優勝するくらい強いんだよ!」


美由が杉浦のプロフィールを説明してくれる。


「美由とは訓練所で同部屋でね。滝内さんも中部支社の配電訓練所に居たんでしょう?どこかで会ってるかもしれないね。」


杉浦はそう言ってウインクする。


愛知県日進市にある、西日本電力中部訓練所(旧電力公社中部訓練所)は配電・警備の他に、火力・水力・原子力に送電・変電・営業といったさまざまな部門の研修が行われる巨大施設だ。

警備部門は毎日のようにグラウンドを走ったり、筋トレしたり、戦闘訓練や射撃訓練に明け暮れ、かなりハードである印象だった。

訓練のあまりのきつさに付いていけず、他部門に転属になる子たちもいたと聞いていた。


「あ!そろそろ配置につかないと!18時頃には非番になるから後でゆっくり話そ!」

「うん!工藤常務の護衛頑張ってね!」


工藤常務という言葉に杉浦は一瞬顔を曇らせる。


「じゃあまた。」


そう言い残し、杉浦は宴会ホールの方に歩いていった。


「こんなところで同期に会えるなんてね。軽井沢サイコー!」

「早く荷物置いて、観光といきますか!」


俺と美由は意気揚々と歩き出した。

≫でんりょくだいがく【電力大学】

電力公社が創設した、電力技術者のエキスパートを養成する目的の大学。大阪キャンパスと東京キャンパスの2キャンパスある。分社後も東日本電力と西日本電力の共同出資という形で存続している。就職先はほぼ100%電力会社で、学費も無償のため人気が高い。

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