強くなるには
次回予告
ロージャのもとで修行を始めた迅。
しかし、最初の宿題である「小石を拾う」ことすらできず、早くも苦戦する。
一方、基地ではラフバが独自の修行に励み、アギは迅の不在を不審に思い始めていた。
そして、迅はロージャとの修行を通じて、自分の速さに足りないものを少しずつ理解していく。
神を信じない少年と、謎の少女。
二人の奇妙な師弟生活が、いよいよ始まる。
午前五時二十分。
ジャポネ無宗教軍、第七駐屯基地。
ドンッ!!
早朝の訓練場に、鈍い衝撃音が響いた。
「……くそっ!」
ラフバ・エラーは、目の前の衝撃測定装置を睨みつけた。
表示された数値は、未覚醒者としては異常なものだった。
しかし、ラフバは満足していない。
「……もう一回だ!」
拳を握る。
踏み込む。
ドンッ!!
再び測定装置が揺れた。
「……まだだ!」
さらに一撃。
ドンッ!!
「……まだ足りねぇ!」
そのとき。
「おーい」
背後から、聞き慣れた声がした。
ラフバが振り返る。そこには、黒瀬迅が立っていた。
片手にはパン。もう片方には缶詰。
「……朝っぱらからうるせぇな、お前」
ラフバは眉をひそめた。
「……迅」
「おう」
迅はパンをかじった。
「何してんの?」
「見りゃ分かんだろ」
「機械いじめ?」
「訓練だ!!」
迅は笑った。
「ははっ! 知ってるって」
ラフバは再び測定装置を見た。
「……昨日の奴」
「あ?」
「次は絶対に勝つ」
迅は少し黙った。
昨日の戦闘。
アリス教軍の超越者。
重力を操る男。
三人がかりでも、まともに攻撃を当てることすらできなかった。
迅はパンを飲み込んだ。
「……ああ」
そして、笑った。
「俺も」
ラフバは迅を見た。
「……お前も?」
「次は俺が勝つ」
「は?」
ラフバの眉が動いた。
「何言ってんだ。俺が先に勝つんだよ」
「いや、俺だろ」
「俺だ!」
「俺!」
「俺!!」
二人は睨み合った。
数秒後。
「……じゃあ」
迅が口を開いた。
「どっちが先に強くなるか勝負だな」
ラフバは、にやりと笑った。
「……上等」
二人は拳を突き合わせた。
そして。
「「絶対負けねぇ!!」」
朝の訓練場に、二人の声が響き渡った。
その直後。
「……何をしているんですか?」
背後から、冷たい声がした。
二人が振り返る。
そこには、アギ・ハワーが立っていた。
腕を組み、少し呆れた表情をしている。
「……また勝負ですか?」
迅が笑った。
「おう!」
ラフバも笑った。
「今度は強くなる勝負だ!」
アギは数秒黙った。
「……それ、勝敗をどうやって決めるんですか?」
「…………」
迅が固まった。
「…………」
ラフバも固まった。
アギはため息をついた。
「……考えてなかったんですね」
「……まあ」
迅は頭をかいた。
「強くなりゃ分かんだろ」
「そうだな!」
ラフバも頷いた。
アギは小さく笑った。
「……本当に、あなたたちらしいですね」
そして、手元の端末を開いた。
「ですが、ちょうどいいです」
迅が首を傾げた。
「ん?」
「昨日の戦闘記録を分析しました」
アギの表情が変わった。
「……少し、話をしませんか?」
午前七時。
第十三混成班、作戦準備室。
壁面の立体映像装置に、昨日の戦闘記録が映し出されていた。
旧市街第七区画。崩壊した装甲車。
重力を操る超越者。
そして、地面に押しつけられる三人の姿。
迅は映像を見ながら呟いた。
「……改めて見ると、結構ボコボコにされてんな」
ラフバが腕を組んだ。
「……気に入らねぇ」
アギは端末を操作した。
「まず、昨日の相手についてですが」
映像が切り替わる。
男の周囲で浮き上がる瓦礫。
「能力は『重力』。少なくとも、一定範囲内の重力を変化させることができるようです」
迅が手を挙げた。
「質問」
「はい」
「重力って何?」
「…………」
アギは目を閉じた。
「……そこからですか?」
「いや、聞いたことはある」
「では、どういうものか分かりますか?」
迅は少し考えた。
「……下に落ちるやつ?」
「……大まかには正解です」
ラフバが笑った。
「ははっ! お前、馬鹿だな!」
迅が振り返る。
「じゃあ、お前は分かんのかよ」
「…………」
ラフバは腕を組んだ。
「……重いやつだろ」
「お前も似たようなもんじゃねぇか!!」
アギは額を押さえた。
「……先が思いやられます」
彼女は映像を拡大した。
「重要なのは、昨日の相手が単に身体能力に優れていたわけではない、ということです」
映像の中で、迅が地面に押しつけられる。
「能力によって、こちらの動きを制限していました」
次に、ラフバが吹き飛ばされる映像。
「さらに、周囲の物体にも影響を与えていました」
迅は画面を見つめた。
「……つまり?」
アギは答えた。
「どれだけ速く動けても、動けなくされてしまえば意味がありません」
「…………」
「どれだけ強い拳を持っていても、相手に届かなければ意味がない」
ラフバが舌打ちした。
「……くそっ」
アギは続けた。
「そして、覚醒者は能力だけでなく、身体能力そのものも大幅に向上します」
迅が首を傾げる。
「……覚醒って、どうやんの?」
「それが簡単に分かれば苦労しません」
アギは苦笑した。
「覚醒には個人差があります。生まれ持った資質、モナの扱い、精神状態、経験……様々な要素が関係すると考えられています」
ラフバが身を乗り出した。
「じゃあ、強ぇ奴と戦えば覚醒すんのか!?」
「可能性はありますが、保証はありません」
「なら戦えばいいじゃねぇか!」
「だからといって、無謀な戦闘を繰り返すのは危険です」
迅は椅子にもたれた。
「……めんどくせぇな」
アギは迅を見た。
「迅。あなたは昨日、どうして最後まで立とうとしたんですか?」
「……あ?」
「勝てないと分かっていたはずです」
迅は少し考えた。
そして。
「……まだ負けてなかったから」
アギは目を細めた。
「……どういう意味ですか?」
迅は笑った。
「俺が負けたって認めてねぇなら、まだ終わってねぇだろ」
「…………」
「それに」
迅は映像の中の男を指差した。
「……あいつ、めちゃくちゃ強かったじゃん」
「……そうですね」
「だったら、勝ったら面白ぇだろ?」
アギは数秒黙った。
そして、小さく笑った。
「……本当に、単純ですね」
迅も笑った。
「よく言われる」
ラフバが拳を握った。
「俺も同じだ!」
「でしょうね」
アギは即答した。
「……ですが」
彼女は映像を消した。
「強くなるためには、努力の方向も大切です」
迅が顔を上げた。
「……方向?」
「はい」
アギは二人を見た。
「ただ闇雲に鍛えるだけでは、限界があります」
ラフバが眉をひそめた。
「……じゃあ、どうすりゃいい?」
アギは少し考えた。
そして。
「……師匠を探してみてはどうでしょうか?」
午前九時。
第七駐屯基地、資料室。
「……師匠?」
迅が首を傾げた。アギは頷いた。
「はい。優れた指導者のもとで修行すれば、今より効率よく強くなれるはずです」
ラフバは腕を組んだ。
「……なるほどな」
迅は少し考えた。
「……でもよ」
「はい?」
「強ぇ奴って、どこにいんの?」
アギは端末を操作した。
「軍の教官にも優秀な方はいますが、あなたたちの場合は……」
少し言葉を濁す。
迅が笑った。
「教官より俺らの方が強ぇもんな」
「……まあ、そうですね」
ラフバも笑った。
「ははっ! 話になんねぇよ!」
アギはため息をついた。
「……だからこそ、別の指導者を探す必要があります」
そのとき。
資料室の扉が開いた。
「……おい」
入ってきたのは、昨日の運転兵、宮田だった。
片手には整備記録の端末。
もう片方には、缶コーヒー。
「お前ら、何してんだ?」
迅が振り返る。
「師匠探し」
「……師匠?」
「強くなるための先生みたいなもん」
宮田は少し考えた。
「……ああ」
そして、笑った。
「そういや、面白い噂があるぞ」
迅の目が動いた。
「……噂?」
宮田は椅子に座った。
「北の旧市街に、妙な占い師がいるらしい」
アギが眉をひそめた。
「……占い師ですか?」
「ああ」
宮田は缶コーヒーを飲んだ。
「何でも、未来を言い当てるんだとよ」
迅は首を傾げた。
「……未来?」
「そうだ」
ラフバが笑った。
「なんだそりゃ! インチキじゃねぇのか!?」
「俺もそう思うけどな」
宮田は肩をすくめた。
「ただ、妙に当たるらしい」
アギは少し考えた。
「……未来予知系の能力者、という可能性もありますね」
迅が目を細めた。
「……能力者?」
「はい。覚醒能力は人によって異なりますから」
迅は少し黙った。
そして。
「……面白そうじゃん」
にやりと笑った。
ラフバも笑った。
「行ってみるか!」
アギは二人を見た。
「……待ってください」
「ん?」
「その占い師が強いとは限りませんよ?」
迅は笑った。
「会ってみりゃ分かんだろ」
ラフバも頷いた。
「そうだな!」
アギはため息をついた。
「……本当に、行動力だけはありますね」
宮田は笑った。
「まあ、気をつけろよ」
迅が振り返る。
「何が?」
宮田は少し声を落とした。
「……その占い師、かなり変わり者らしいぞ」
迅は笑った。
「俺らより?」
「…………」
宮田は三人を見た。
そして。
「……いや、それは分からんな」
アギは静かに呟いた。
「……否定してほしかったです」
午後一時。
ジャポネ北部、旧市街。
迅は一人で歩いていた。
「……ったく」
頭をかく。
「結局、一人で来ちまったな」
ラフバは基地での訓練を優先した。
『俺は俺で強くなる! お前より先に覚醒してやる!』
そう言って、訓練場へ走っていった。
アギは軍の資料調査を続けている。
『私はもう少し調べてみます。迅も無茶はしないでくださいね』
そう言われた。
しかし。
「……無茶って何だよ」
迅は小さく笑った。
周囲には、古い建物が並んでいる。かつて商業地区だった場所。今では、半分以上が廃墟となっていた。
それでも、いくつかの店は営業を続けている。
古びた食堂。修理屋。小さな雑貨店。
そして。
「……ん?」
迅の足が止まった。
鼻をくすぐる、いい匂い。
「…………」
迅はゆっくりと振り返った。
そこには、小さな屋台があった。
白い湯気が立ち上っている。
看板には、大きく書かれていた。
『肉まん』
迅の目が輝いた。
「……おお」
近づく。
「……うまそう」
店主の老人が笑った。
「いらっしゃい」
迅は肉まんを見つめた。
「……一個いくら?」
「三百円だよ」
「…………」
迅は財布を取り出した。
中を見る。
「…………」
所持金。
二百八十円。
「……二十足りねぇ」
店主が苦笑した。
「残念だったな」
迅は肉まんを見つめた。
白い湯気。柔らかそうな生地。中には、熱々の肉。
「…………」
ぐううううう。
腹が鳴った。
「……くそっ」
迅は頭をかいた。
「あと二十かよ……」
そのとき。
「……ふむ」
背後から、小さな声がした。
迅が振り返る。
そこには、一人の少女が立っていた。
白い髪。
白い瞳。
小柄な体。
年齢は、見た目だけなら十二、三歳ほど。
古びた白い服を身にまとい、片手には小さな袋を持っていた。
少女は迅を見上げた。
「……お主」
迅は首を傾げた。
「……あ?」
少女は肉まんを見た。
そして。
「……腹が減っておるのか?」
迅は笑った。
「見りゃ分かんだろ」
少女は少し考えた。
「……ふむ」
そして、店主に向かって言った。
「肉まんを二つ」
店主が頷く。
「はいよ」
少女は代金を支払った。
そして、肉まんを一つ、迅に差し出した。
「……ほれ」
迅は目を丸くした。
「……え?」
「食うがよい」
「……くれんの?」
「そうじゃ」
迅は少女を見た。
そして、肉まんを見た。
「…………」
数秒後。
「……マジで?」
「何度も言わせるでない」
迅は肉まんを受け取った。
「……ありがとな!」
少女は小さく頷いた。
「……うむ」
迅は一口かじった。
「…………」
熱い。
肉汁が広がる。
「……うめぇ!!」
思わず声が出た。
少女は静かに肉まんを食べていた。
迅は笑った。
「お前、いい奴だな!」
「……そうかの」
「名前は?」
少女は少し黙った。
そして。
「……ロージャ」
「……ロージャ?」
「そうじゃ」
迅は頷いた。
「へぇ」
そして、笑った。
「俺は黒瀬迅!」
少女は迅を見上げた。
「……知っておる」
「……は?」
迅の動きが止まった。
「……なんで?」
少女は静かに答えた。
「占い師じゃからな」
「…………」
迅は数秒黙った。
そして。
「……ああ!」
手を叩いた。
「お前が例の占い師か!」
少女は小さく頷いた。
「……そうじゃ」
迅は笑った。
「ちょうど探してたんだよ!」
「……ほう?」
ロージャは迅を見つめた。
白い瞳。
その奥に、何かを見透かすような静けさがあった。
「……何を知りたい?」
迅は少し考えた。
そして。
「……俺、強くなりてぇんだよ」
ロージャは黙っていた。
迅は続けた。
「昨日、めちゃくちゃ強ぇ奴に会ってさ」
「…………」
「全然勝てなかった」
ロージャは肉まんを一口食べた。
「……ふむ」
迅は笑った。
「だから、もっと強くなりてぇ」
「……なるほどの」
ロージャは小さく頷いた。
そして。
「……お主」
迅を見上げた。
「強くなりたいのじゃろう?」
迅は笑った。
「おう!」
ロージャは少し考えた。
そして、静かに言った。
「……ならば」
肉まんを食べ終える。
「わしについて来るがよい」
迅は目を丸くした。
「……え?」
ロージャは背を向けた。
「……教えてやろう」
「……何を?」
少女は振り返った。
白い髪が、風に揺れる。
そして。
「強くなる方法を、じゃ」
午後二時。
ジャポネ北部、旧市街外縁。
「……なあ」
迅が口を開いた。
「どこ行くんだ?」
ロージャは前を歩いていた。
「……修行場じゃ」
「修行場?」
「そうじゃ」
迅は周囲を見渡した。
崩れた建物。
荒れ果てた道路。
人の気配のない廃墟。
「……こんなとこに?」
「ある」
「へぇ」
迅は少し考えた。
「……お前、強ぇの?」
ロージャは足を止めた。
そして、振り返る。
「……どう思う?」
迅はロージャを見た。
小柄な体。
細い腕。
華奢な足。
どう見ても、強そうには見えない。
「……弱そう」
即答だった。
ロージャは黙った。
「…………」
迅は笑った。
「ははっ! いや、悪ぃ!」
ロージャは小さくため息をついた。
「……ふむ」
そして。
「……ならば」
右手を軽く上げた。
「試してみるかの?」
迅の目が輝いた。
「……お?」
にやりと笑う。
「いいの?」
「構わぬ」
迅は拳を握った。
「……じゃあ」
一歩踏み込む。
「遠慮なく!」
次の瞬間。
迅の姿が消えた。
いや。
正確には、凄まじい速度で踏み込んだ。
未覚醒者としては異常な加速。
拳が、ロージャへ迫る。
しかし。
「……遅い」
小さな声がした。
「……は?」
迅の視界が回転した。
次の瞬間。
ドサッ!!
迅は地面に転がっていた。
「…………」
何が起きたのか、分からなかった。
ロージャは、先ほどと同じ場所に立っている。
片手を後ろに組み、もう片方の手には小さな袋。
何事もなかったかのように。
「……お主」
ロージャが呟いた。
「無駄な動きが多いの」
迅は目を丸くした。
「……え?」
「踏み込みは悪くない」
ロージャは続けた。
「じゃが、速さに頼りすぎじゃ」
迅はゆっくりと立ち上がった。
「……お前」
ロージャは首を傾げた。
「……何じゃ?」
迅は笑った。
「……めちゃくちゃ強ぇじゃん!」
ロージャは小さく頷いた。
「……そうかの」
「もう一回!」
「……断る」
「えー!」
「まずは修行じゃ」
迅は不満そうに口を尖らせた。
「……ケチ」
ロージャは小さく笑った。
「……馬鹿弟子になりそうじゃの」
迅は首を傾げた。
「……弟子?」
ロージャは歩き出した。
「ついて来い」
迅は少し黙った。
そして。
「……おう!」
笑いながら、その背中を追いかけた。
こうして。
黒瀬迅は、一人の師匠と出会った。
白髪に白い瞳。
小柄で、ぶっきらぼうで。
少し変わった口調の少女。
その名は、ロージャ。
彼女との出会いが、迅の人生を大きく変えることになる。
しかし。
この時の迅は、まだ知らなかった。
彼女が自分にとって、どれほど大切な存在になるのかを。
夕暮れ。
北の廃墟。
迅は、崩れた建物の前に立っていた。
「……ここ?」
ロージャは頷いた。
「そうじゃ」
目の前には、古びた建物。
かつて研究施設だったらしい巨大な建築物。
今では壁が崩れ、窓も割れている。
迅は顔をしかめた。
「……ボロボロじゃねぇか」
「問題ない」
「いや、問題しかねぇだろ」
ロージャは無視して歩き出した。
建物の奥。
そこには、広い空間があった。
崩れた天井から夕日が差し込んでいる。
ロージャは中央に立った。
「……さて」
迅を見た。
「最初の宿題じゃ」
迅は首を傾げた。
「……宿題?」
「そうじゃ」
ロージャは地面に小石を置いた。
「これを拾え」
「…………」
迅は小石を見た。
そして、ロージャを見た。
「……は?」
「拾え」
「……いや」
迅は笑った。
「そんなの簡単だろ」
ロージャは静かに答えた。
「ならば、やってみるがよい」
迅は肩をすくめた。
「……変な修行」
そう言いながら、手を伸ばす。
しかし。
「……ん?」
小石がない。
迅は目を丸くした。
「……あれ?」
いつの間にか、ロージャの手の中に小石があった。
「……ほれ」
迅は固まった。
「…………」
ロージャは小石を地面に戻した。
「もう一度じゃ」
迅は笑った。
「……面白ぇ」
再び手を伸ばす。
しかし。
また、小石が消えた。
「……は?」
ロージャの手の中。
「……ほれ」
迅は目を細めた。
「……お前、何した?」
「取っただけじゃ」
「いや、見えなかったんだけど」
「ならば、見えるようになれ」
迅は数秒黙った。
そして。
にやり。
笑った。
「……いいじゃん」
拳を握る。
「絶対取ってやる」
ロージャは小さく頷いた。
「……うむ」
そして。
「取れるまで、帰れぬぞ」
迅は固まった。
「…………」
「……え?」
ロージャは静かに微笑んだ。
「宿題じゃからの」
「…………」
迅は小石を見た。
ロージャを見た。
再び小石を見た。
そして。
「……マジかよ」
小さく呟いた。
ロージャは笑った。
「……ふふ」
その笑みは、どこか楽しそうだった。
そして。
「……頑張るのじゃぞ、馬鹿弟子」
迅は顔を上げた。
「……誰が馬鹿弟子だ!」
「お主じゃ」
「まだ弟子になった覚えねぇぞ!」
「では、帰るか?」
「…………」
迅は黙った。
そして。
「……いや」
にやりと笑った。
「やってやるよ」
ロージャは静かに頷いた。
「……うむ」
こうして。
黒瀬迅の、長い修行の日々が始まった。
その修行が、どれほど厳しく。
どれほど面倒で。
そして、どれほど楽しいものになるのか。
迅は、まだ知らなかった。




