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神葬戦争  作者: 水煮込み
13/17

三軍の壁

 

 午前七時二十分。

 ジャポネ東部、東部広域共同訓練区域。


「……十二万?」

 宮田の声が、整備棟に響いた。


「このネジ一本が!?」


 キリスト教軍の整備士は、申し訳なさそうに頷いた。

「正確には、専用固定具一式の価格です」

「固定具だろ!?」

「はい」

「十二万!?」

「はい」


 宮田は天井を見上げた。

「……神様」


 隣で聞いていた迅が言った。

「宮田さん、無宗教軍だろ」

「今日だけ信じる」

「都合よすぎんだろ!」


 整備棟には、三軍の車両が並んでいた。


 キリスト教軍の装甲輸送車は、白銀の装甲が磨き上げられ、整備用の小型機械が自動で周囲を巡回している。


 仏教軍の車両は、必要な装備を無駄なく収納した機能的な造りだ。


 そして、無宗教軍のJAT-16軽装甲偵察車。


 塗装が剥がれ、左右の装甲板の色が違う。

 迅は三台を見比べた。


「……なあ、宮田さん」

「何だ」

「うちの車だけ、拾ってきたみたいじゃね?」

「拾ってねぇよ!」

「じゃあ何で扉に『開けるときは蹴る』って書いてあんの?」

「蹴らねぇと開かねぇからだよ!」

「拾ってきたんじゃん!」


 宮田は工具を握り締めた。

「……迅」

「はい」

「手伝え」

「はい」


 ラフバは隣で腹を抱えて笑っていた。

「はははっ! 最高だな、この軍!」

「お前も手伝え!!」

「何で俺まで!?」

「笑ったからだ!」


 そこへアギが現れた。

 手には、今日の作業予定表。

「宮田さん、第三輸送車の通信装置ですが、交換部品は届いていますか?」

「まだだ」

「では、仏教軍から貸与される予備機を取り付ける予定で?」

「そうだ。だが、取り付け規格が違う」


 アギは車両の側面を確認した。

「……固定具を加工すれば対応できますね」

「できるが、時間が足りん」

「私も手伝います」


 宮田は少し驚いた。

「お前、整備もできるのか?」

「専門ではありませんが、基礎は習っています」


 迅が口を挟んだ。

「アギ、何でもできるよな」


 ラフバも頷いた。

「な!」


 アギは二人を見た。

「では、あなたたちは部品を運んでください」

「「えー」」

「褒めた直後に文句を言わないでください」


 結局、二人は朝食までの一時間、重い部品を運ばされることになった。



 午前十時。

 第三演習区域。


 かつてジャポネ東部最大の商業都市だった場所。

 第一次世界大戦で破壊された高層建築が、今も灰色の空に突き出している。

 崩れた道路の隙間からは草が伸び、駅の看板には、消えかけた文字が残っていた。


『東天城中央駅』


 迅は看板を見上げた。

「……昔は、ここにも人が住んでたんだよな」


 アギが頷いた。

「ええ。戦前は、かなり大きな街だったそうです」

「……ふーん」


 迅は崩れた駅舎を見た。

 壁には、古い広告。

 家族向けの食堂。

 映画館。

 子供服の店。


 どれも、もう営業していない。


 ラフバが言った。

「……もったいねぇな」


 迅は振り返った。

「何が?」

「こんなでけぇ街、全部使えねぇんだろ」

「……ああ」


 アギは二人を見た。

「だからこそ、ここが演習区域に指定されたんです。居住区を使わずに都市戦の訓練ができますから」


 そのとき、通信機が鳴った。

『第十三混成班、応答せよ』


 アギが端末を取った。

「こちら第十三混成班、アギ・ハワーです」


『第三区域の仮設通信中継器に不具合が発生した。確認を頼む』


「了解しました」


 通信が切れる。


 迅は首を傾げた。

「……また機械?」

「はい」


 ラフバが笑った。

「よっしゃ、行くか!」


 三人は廃墟の奥へ進んだ。

 目的地は、旧市街を横切る大きな川の向こう側。

 そこには、仮設の通信中継器が設置されている。


 だが。


「……おい」


 迅が立ち止まった。

 目の前に、橋があった。

 正確には、橋だったものが。

 中央部分が崩れ落ち、向こう岸まで大きな空間が開いている。


 ラフバが覗き込んだ。

「……これ、どうやって渡んだ?」


 アギは端末を確認した。

「迂回路があります。北へ三キロほどです」


 迅は向こう岸を見た。

「……俺なら跳べそうだけど」


 ラフバも笑った。

「俺も行けるぞ」


 アギは即答した。

「駄目です」

「何で!?」

「橋の向こうには、中継器の交換用機材も運ぶ必要があります。あなたたちだけ渡っても意味がありません」


 迅は背負った工具箱を見た。

「……これ?」

「それです」


 ラフバは腕を組んだ。

「じゃあ、投げりゃいいじゃねぇか」

「精密機器を投げないでください」

「丈夫そうだぞ?」

「駄目です」


 迅は少し考えた。


 そして。


「……なあ、アギ」

「何ですか?」

「俺らが先に行って、向こうからロープ張れば?」


 アギは橋を見た。

「……それなら」


 端末で距離を確認する。

「固定できる場所があれば、機材を運ぶ簡易索道を作れますね」


 ラフバが笑った。

「決まりだ!」


 アギは二人を見た。

「ただし、向こう岸の構造物が安全か確認してからです。私が指示するまで動かないでください」

「「了解!」」


 二人は同時に返事をした。


 そして。


 一秒後。


「どっちが先に着くか勝負な!」

「上等!」


「待ちなさい!!」


 アギの声が、廃墟に響いた。



 午後零時。

 三軍共同訓練場。


「……勝負しようぜ」

 グラン・バルクが言った。


 迅は昼食のパンを頬張っていた。

「……ん?」

「勝負だよ、勝負」


 ラフバが即座に立ち上がった。

「上等!」


 アギはパンを置いた。

「内容を聞いてから返事をしてください」


 グランは笑った。

「安心しろ。殴り合いじゃねぇ」


 迅は首を傾げた。

「……じゃあ何?」


 グランは端末を操作した。

 立体映像が現れる。

 そこには、複雑な地形図が表示されていた。


 廃墟。森林。川。


 そして、複数の目標地点。


「小隊単位の模擬輸送競技だ」


 アギが画面を覗き込んだ。


「……輸送競技?」

「そうだ。決められた時間内に、模擬救援物資を指定地点まで運ぶ」


 迅は笑った。

「……何だ、簡単じゃん!」


 グランはにやりと笑った。

「ただし、途中には障害物がある」

「……障害物?」

「崩落した道路、通信妨害区域、通行不能な橋。場合によっては、敵役の部隊もいる」


 ラフバの目が輝いた。

「……おっ!」


 グランは続けた。

「物資を届けるだけじゃねぇ。部隊全員が帰還することも条件だ」


 アギは頷いた。

「……なるほど」


 エリオットが隣から口を開いた。

「本番の合同演習に向けた、非公式の交流競技ですね。各軍の若手兵士が参加するそうです」


 迅は笑った。

「……面白そうじゃん!」


 ラフバも拳を握った。

「やろうぜ!」


 アギは少し考えた。

「……参加するのは構いませんが」


 迅が振り返った。

「ん?」


 アギは二人を見た。

「私の指示に従ってくださいね」


 迅は笑った。

「おう!」


 ラフバも頷いた。

「当然!」


 アギは目を細めた。

「……本当ですね?」

「「本当!!」」


 グランは笑った。

「ははっ! 大変だな、お前」


 アギは静かに答えた。

「……ええ」


 エリオットも苦笑した。

「……少し分かる気がします」



 午後一時。

 非公式模擬輸送競技。


 参加部隊は、全部で六組。

 キリスト教軍から二組。

 仏教軍から二組。

 無宗教軍から二組。


 第十三混成班には、迅、ラフバ、アギの三人に加え、宮田と無宗教軍の兵士二人が参加していた。

 宮田は車両の運転席から顔を出した。


「……おい、迅!」

「ん?」

「今日は車を壊すなよ!」


 迅は笑った。

「俺が壊したことあったっけ?」

「先週、扉を引っ張って外しただろ!」

「あれ、元から壊れてたじゃん!」

「外れたのはお前のせいだ!」


 ラフバが笑った。

「ははっ!」


 アギは端末を確認していた。

「……皆さん、聞いてください」


 全員が顔を上げる。

「今回の目的は、指定地点への物資輸送です。戦闘で勝つことではありません」


 迅とラフバが顔を見合わせた。

「…………」

「…………」


 アギは続けた。

「敵役を倒しても、物資を届けられなければ失敗です」


 迅は頷いた。

「……なるほど」


 ラフバも頷いた。

「……分かった」


 アギは地図を表示した。

「最短経路は、中央道路です」


 宮田が言った。

「だが、あそこは橋が落ちてるぞ」

「はい」


 アギは頷いた。

「なので、北側の旧鉄道線を使います」


 迅は首を傾げた。

「……遠回りじゃね?」

「距離は長くなりますが、輸送車両が通れます」


 ラフバが笑った。

「なら、俺らが先に走って邪魔なもんどかせばいい!」


 アギは頷いた。

「それをお願いします」


 迅は笑った。

「……おっ!」


 アギは続けた。

「迅は前方の偵察。ラフバは障害物の撤去。宮田さんは車両の運転。残りの二人は物資の固定と通信をお願いします」


 宮田が頷いた。

「了解」


 迅は拳を握った。

「よっしゃ!」


 ラフバも笑った。

「行くぞ!」


 アギは最後に言った。

「そして、何かあれば必ず報告してください。独断で動かないこと」


 迅とラフバは同時に答えた。

「「了解!」」


 アギは少しだけ不安そうだった。



 午後一時三十分。

 競技開始。


「……よっしゃ!」


 迅が飛び出した。

 ラフバも続く。

「負けねぇぞ!」

「勝負じゃねぇって!」

「お前が言うな!」


 二人は廃墟の中を駆け抜けた。

 背後では、宮田が輸送車両を運転している。

 アギは助手席で端末を操作していた。


「……迅、前方の状況を報告してください」


 通信機から迅の声。

『道路に瓦礫! でっけぇのがある!』

「規模は?」

『……でっけぇ!』


 アギは額を押さえた。

「……具体的にお願いします」

『……めちゃくちゃでっけぇ!』

「そういう意味ではありません!!」


 宮田が笑った。

「ははっ!」


 アギは通信機を握り直した。

「迅、車両が通れる幅はありますか?」


『……ない!』

「分かりました。ラフバ、撤去をお願いします」

『おう!』


 次の瞬間。

 ラフバが巨大な瓦礫を持ち上げた。

「……おらぁ!」


 地面が揺れる。

 瓦礫が道路脇へ移動する。


 迅は笑った。

「……やるじゃん!」


 ラフバも笑った。

「当然!」


 車両が通過する。


 しかし。


 次の区域。

 通信機から雑音が響いた。


 ザザザ……。


『……こちら……第十三……』


 アギは端末を見た。

「……通信妨害区域ですね」


 宮田が言った。

「どうする?」


 アギは地図を確認した。

「……予定どおり進みます。ただし、迅とラフバを一度戻しましょう」


 宮田は頷いた。

「了解」


 アギは予備の短距離通信機を使った。

「迅、ラフバ。車両まで戻ってください」

『……えー!』

『……まだ行けるぞ!』

「戻ってください」

『『はい!!』』


 二人が戻ってきた。


 アギは説明した。

「この先は通信が不安定です。全員が離れすぎると、状況を把握できなくなります」


 迅は頷いた。

「……なるほど」


 ラフバも腕を組んだ。

「……分かった」


 アギは続けた。

「迅は車両の前方百メートル以内。ラフバは側面をお願いします」

「「了解!」」


 再び進む。


 その途中。


 模擬敵部隊が現れた。

 訓練用の発光弾が、道路脇に着弾する。


 パンッ!


「……おっ!」

 迅が振り返った。


「敵だ!」


 ラフバが笑った。

「ははっ! 来たな!」


 二人が飛び出そうとする。


 しかし。


「待ってください!」

 アギが叫んだ。


 迅とラフバが止まった。

 アギは端末を確認した。

「……敵は三人。ですが、正面だけではありません」


 迅は周囲を見た。

「……ん?」


 アギは続けた。

「右側の建物にも反応があります」


 ラフバが目を細めた。

「……挟み撃ちか」


 アギは頷いた。

「はい」


 迅は笑った。

「……じゃあ、俺が右行く!」

「待ってください」

「……え?」


 アギは地図を指差した。

「右側には、模擬救援対象の人形が設置されています。戦闘に巻き込めば減点です」


 迅は少し黙った。

「……あ」


 アギは続けた。

「迅は右側の敵の注意を引いてください。ラフバは正面の敵を抑えてください。ただし、建物を壊さないこと」


 ラフバは笑った。

「……了解!」


 迅も頷いた。

「……おう!」


 二人が動いた。

 迅は右側へ回り込む。


 敵役の兵士が振り返った。

「……速っ!?」


 迅は笑った。

「……よっ!」


 模擬武器を奪い、相手の肩に軽く触れる。


 判定音。


 ピッ。


 敵役、戦闘不能。


 ラフバは正面の兵士を押し返していた。

「……おらぁ!」

 相手が体勢を崩す。


 判定音。


 ピッ。


 さらに一人。


 迅とラフバは、残る敵役を挟み込んだ。

「……おい、ラフ!」

「ラフバだ!」

「……そっち任せた!」

「おう!」


 数秒後。


 敵役部隊は全員、戦闘不能判定となった。


 迅は笑った。

「……よっしゃ!」


 ラフバも拳を握った。

「勝った!」


 しかし。


 アギは通信機で言った。

「……二人とも、戻ってください」


 迅が首を傾げた。

「……ん?」

「物資輸送が目的です」


 迅は少し黙った。


 そして。


「……あ、そうだった」


 ラフバも笑った。

「ははっ!」


 アギはため息をついた。

「……本当に、もう」



 午後三時。

 競技終了。


 各部隊の結果が発表された。


 第一位。

 キリスト教軍、グラン隊。


 第二位。

 仏教軍、シオン隊。


 第三位。

 無宗教軍、第十三混成班。


 迅は結果を見た。

「……三位かぁ」


 ラフバも腕を組んだ。

「……ちぇっ」


 グランが近づいてきた。

「……よう」


 迅は振り返った。

「お、グラン!」


 グランは笑った。

「三位か。悪くねぇじゃねぇか」


 迅は笑った。

「……まあな!」


 ラフバは拳を握った。

「次は勝つ!」


 グランはにやりと笑った。

「……楽しみにしてるぜ」


 そのとき。


 エリオットが口を開いた。

「……ですが、第十三混成班は興味深い結果でしたね」


 迅は首を傾げた。

「……何が?」


 エリオットは端末を見せた。

「戦闘判定では、全参加部隊の中でも上位です」


 ラフバが笑った。

「……当然!」


 エリオットは続けた。

「ですが、輸送速度と通信維持の評価では、他の部隊に遅れを取っています」


 迅は少し考えた。

「……なるほど」


 アギは静かに頷いた。

「……装備の差もありますが、私たちの連携にも改善点がありますね」


 シオンが近づいてきた。

「……アギ・ハワー」


 アギが顔を上げた。

「……はい」


 シオンは静かに言った。

「……良い指揮だった」


 アギは少し驚いた。

「……ありがとうございます」


 シオンは続けた。

「お前の班は、戦闘能力だけなら非常に高い」


 迅とラフバが笑った。

「「だろ!?」」


 シオンは二人を見た。

「……だが」


 二人が黙る。

「……指揮官がいなければ、輸送任務は失敗していただろう」


 迅はアギを見た。


 ラフバも頷いた。

「……確かにな」


 アギは少し困ったように笑った。

「……そんなことは」


 迅は笑った。

「いや、マジだろ!」


 ラフバも笑った。

「お前がいなきゃ、俺ら絶対敵追っかけてたぞ!」


 アギは二人を見た。

「……それは、威張ることではありません」


 迅は笑った。

「ははっ!」


 ラフバも笑った。

「はははっ!」


 シオンは静かに頷いた。

「……面白い班だな」


 エリオットも微笑んだ。

「……本当に」


 アギはため息をついた。

「……毎日、大変なんですよ」


 しかし。


 その表情には、少しだけ誇らしさがあった。



 午後五時。

 三軍合同演習準備本部。


 会議室には、各軍の担当者が集まっていた。

 巨大な画面には、今日の競技結果が表示されている。

「……第十三混成班」


 キリスト教軍の将校が呟いた。

「面白い部隊ですね」


 仏教軍の将校が頷いた。

「黒瀬迅の速度は、未覚醒者としては異例です」


 別の将校が続けた。

「ラフバ・エラーの身体能力も高い。あの二人は、将来有望でしょう」

「……ただし」


 キリスト教軍の将校が端末を操作した。

 画面に、競技中の映像が映し出される。

 迅とラフバが、敵役部隊に向かって飛び出そうとする場面。


 その直前。


 アギが二人を止めた。

「……ここです」


 将校は続けた。

「二人は敵を倒すことに意識が向いていた」


 画面が切り替わる。

 アギが地図を確認し、指示を出す。

「しかし、アギ・ハワーは輸送任務の目的を見失っていない」


 仏教軍の将校が頷いた。

「……なるほど」


 キリスト教軍の将校は続けた。

「二人の能力を抑えるのではなく、適切な方向へ向けている」


 別の将校が言った。

「……優秀な指揮官ですね」


 仏教軍の将校は、アギの経歴を表示した。

「アギ・ハワー。仏教軍所属。若手の中でも、剣術と判断力に優れた兵士です」


 キリスト教軍の将校は頷いた。

「……覚えておきましょう」


 画面に、三人の名前が並んだ。

 黒瀬迅。

 ラフバ・エラー。

 アギ・ハワー。


 そして。


 アギの名前の横に、小さな印がついた。

『指揮適性・高』


 まだ、それはただの評価だった。


 一つの演習準備記録に残された、小さな印。

 誰も、その意味を深く考えてはいなかった。



 午後六時。

 旧研究施設跡。


「……師匠!」

 迅が扉を開けた。


 ロージャは机に向かっていた。

「……来たか」


 迅は笑った。

「おう!」


 ロージャは振り返った。

「……今日は、どうじゃった?」


 迅は椅子に座った。

「三位だった!」


 ロージャは頷いた。

「……ほう」


 迅は続けた。

「俺とラフバ、結構活躍したんだけどさ」

「……うむ」

「アギがいなかったら、たぶん負けてた」


 ロージャは小さく笑った。

「……そうか」


 迅は頷いた。

「……あいつ、すげぇよな」


 ロージャは静かに答えた。

「……よい仲間を持ったの」


 迅は笑った。

「……だろ?」


 ロージャは机の下から、小さな包みを取り出した。

「……では、頑張った褒美じゃ」


 迅の目が輝いた。

「……おっ!」


 包みを開く。

 中には、焼きたての肉まん。


 迅は笑った。

「……やった!」


 しかし。


 手を伸ばしたところで止まった。


「…………」


 ロージャが首を傾げた。

「……何じゃ?」


 迅は肉まんを見た。

「……師匠」

「うむ」

「……これ、辛くねぇ?」


 ロージャは頷いた。

「辛くないぞ」


 迅は目を細めた。

「……本当?」

「本当じゃ」

「……絶対?」

「絶対じゃ」


 迅は少し考えた。


 そして。


「……じゃあ、食うぞ」

 一口。


「…………」

 もぐもぐ。


「…………」

 ごくん。


 迅は顔を上げた。

「……うまっ!」


 ロージャは満足そうに頷いた。

「……そうじゃろ」


 迅は笑った。

「……今日は普通じゃん!」


 ロージャは小さく笑った。

「……ふふ」


 迅は肉まんを食べ終えた。

「……ごちそうさん!」


 ロージャは頷いた。

「……うむ」


 そして。


「……さて」


 迅が顔を上げた。

「ん?」


 ロージャは机の上に、もう一つ包みを置いた。

「……もう一つあるぞ」


 迅の目が輝いた。

「……マジ!?」

「うむ」


 迅は包みを開けた。


 中には、小さな饅頭。


 迅は笑った。

「……おっ!」


 一口。

「…………」


 もぐもぐ。

「…………」


 次の瞬間。


「……かっっっらぁぁぁぁ!!」


 迅が飛び上がった。

「水! 水ぅぅぅ!!」


 ロージャは口元を押さえた。

「……ふふっ!」


 迅は机の上の茶を飲んだ。


 ごくごく。


「……はぁぁぁ!!」


 そして。


「……師匠ぉぉぉ!!」


 ロージャは慌てて頭を下げた。

「……すまぬ!」


 ぺこり。


「すまぬ、すまぬ!」

「またかよ!!」


 ロージャはさらに頭を下げた。

「……すまぬ、すまぬ、すまぬ!」


 迅は涙目で叫んだ。

「絶対わざとだろ!!」


 ロージャは笑いを堪えていた。

「……ふふっ」

「笑ってんじゃねぇか!!」


 ロージャはまた頭を下げた。

「……すまぬ、すまぬ」


 迅はため息をついた。

「……ったく!」


 ロージャは机の下から、水の入った瓶を取り出した。

「……ほれ」


 迅は受け取った。

「……ありがと」


 ごくごく。


 そして。


「……なあ、師匠」

「何じゃ?」


 迅は笑った。

「……次は、俺が悪戯してやるからな」


 ロージャは少し驚いた。

「……ほう?」


 迅はにやりと笑った。

「……覚悟しとけよ!」


 ロージャは小さく微笑んだ。

「……楽しみにしておるぞ」


 迅は拳を握った。

「……よっしゃ!」


 ロージャは茶を飲んだ。


 そして。


「……では、宿題じゃ」

 迅が顔を上げた。

「……ん?」


 ロージャは将棋盤を指差した。

「今日は、三手先を読めるまで帰さぬ」


 迅は固まった。

「…………」


 そして。


「……鬼!!」


 ロージャは笑った。

「……ふふ」


 迅も笑った。

「……ははっ!」


 廃墟に、二人の笑い声が響いた。



 夜。

 第七駐屯基地、宿舎。


 迅はベッドに寝転がっていた。

 隣には、ラフバ。


 二人は、今日の競技結果を見ていた。

「……三位か」


 迅が呟いた。

 ラフバは頷いた。

「……ああ」


 迅は笑った。

「……次は勝とうぜ」


 ラフバも笑った。

「……当然!」


 迅は端末を閉じた。

「……でもさ」


 ラフバが顔を上げる。

「……ん?」


 迅は笑った。

「……アギ、すげぇよな」


 ラフバは少し考えた。


 そして。


「……ああ」


 頷いた。


「……あいつがいなきゃ、俺らまとまんねぇしな」

 迅は笑った。


「……だよな!」

 ラフバも笑った。


「……まあ、俺らが強ぇのは変わんねぇけどな!」


 迅は即答した。

「俺の方が強ぇけどな!」

「何だと!?」

「勝負するか!?」

「上等!」


 二人が立ち上がった。


 その瞬間。


 隣室から、アギの声が響いた。

「……寝てください!!」


 二人は固まった。

「…………」

「…………」


 そして。


「……ははっ!」

「……はははっ!」


 笑った。


 まだ、世界の強者たちには届かない。

 まだ、三軍の壁は高い。


 しかし。


 三人なら。

 きっと、もっと強くなれる。

 三軍合同演習。

 開催まで、あと十一日。


次回予告


演習準備が続く中、迅たちは天城市での警備補助任務を命じられる。


各軍の兵士と市民が入り交じる街で、三人は思わぬ騒動に巻き込まれる。


一方、迅はロージャへの悪戯を計画する。


しかし、相手はあの師匠。


果たして、馬鹿弟子の悪戯は成功するのか?

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