三軍の壁
午前七時二十分。
ジャポネ東部、東部広域共同訓練区域。
「……十二万?」
宮田の声が、整備棟に響いた。
「このネジ一本が!?」
キリスト教軍の整備士は、申し訳なさそうに頷いた。
「正確には、専用固定具一式の価格です」
「固定具だろ!?」
「はい」
「十二万!?」
「はい」
宮田は天井を見上げた。
「……神様」
隣で聞いていた迅が言った。
「宮田さん、無宗教軍だろ」
「今日だけ信じる」
「都合よすぎんだろ!」
整備棟には、三軍の車両が並んでいた。
キリスト教軍の装甲輸送車は、白銀の装甲が磨き上げられ、整備用の小型機械が自動で周囲を巡回している。
仏教軍の車両は、必要な装備を無駄なく収納した機能的な造りだ。
そして、無宗教軍のJAT-16軽装甲偵察車。
塗装が剥がれ、左右の装甲板の色が違う。
迅は三台を見比べた。
「……なあ、宮田さん」
「何だ」
「うちの車だけ、拾ってきたみたいじゃね?」
「拾ってねぇよ!」
「じゃあ何で扉に『開けるときは蹴る』って書いてあんの?」
「蹴らねぇと開かねぇからだよ!」
「拾ってきたんじゃん!」
宮田は工具を握り締めた。
「……迅」
「はい」
「手伝え」
「はい」
ラフバは隣で腹を抱えて笑っていた。
「はははっ! 最高だな、この軍!」
「お前も手伝え!!」
「何で俺まで!?」
「笑ったからだ!」
そこへアギが現れた。
手には、今日の作業予定表。
「宮田さん、第三輸送車の通信装置ですが、交換部品は届いていますか?」
「まだだ」
「では、仏教軍から貸与される予備機を取り付ける予定で?」
「そうだ。だが、取り付け規格が違う」
アギは車両の側面を確認した。
「……固定具を加工すれば対応できますね」
「できるが、時間が足りん」
「私も手伝います」
宮田は少し驚いた。
「お前、整備もできるのか?」
「専門ではありませんが、基礎は習っています」
迅が口を挟んだ。
「アギ、何でもできるよな」
ラフバも頷いた。
「な!」
アギは二人を見た。
「では、あなたたちは部品を運んでください」
「「えー」」
「褒めた直後に文句を言わないでください」
結局、二人は朝食までの一時間、重い部品を運ばされることになった。
午前十時。
第三演習区域。
かつてジャポネ東部最大の商業都市だった場所。
第一次世界大戦で破壊された高層建築が、今も灰色の空に突き出している。
崩れた道路の隙間からは草が伸び、駅の看板には、消えかけた文字が残っていた。
『東天城中央駅』
迅は看板を見上げた。
「……昔は、ここにも人が住んでたんだよな」
アギが頷いた。
「ええ。戦前は、かなり大きな街だったそうです」
「……ふーん」
迅は崩れた駅舎を見た。
壁には、古い広告。
家族向けの食堂。
映画館。
子供服の店。
どれも、もう営業していない。
ラフバが言った。
「……もったいねぇな」
迅は振り返った。
「何が?」
「こんなでけぇ街、全部使えねぇんだろ」
「……ああ」
アギは二人を見た。
「だからこそ、ここが演習区域に指定されたんです。居住区を使わずに都市戦の訓練ができますから」
そのとき、通信機が鳴った。
『第十三混成班、応答せよ』
アギが端末を取った。
「こちら第十三混成班、アギ・ハワーです」
『第三区域の仮設通信中継器に不具合が発生した。確認を頼む』
「了解しました」
通信が切れる。
迅は首を傾げた。
「……また機械?」
「はい」
ラフバが笑った。
「よっしゃ、行くか!」
三人は廃墟の奥へ進んだ。
目的地は、旧市街を横切る大きな川の向こう側。
そこには、仮設の通信中継器が設置されている。
だが。
「……おい」
迅が立ち止まった。
目の前に、橋があった。
正確には、橋だったものが。
中央部分が崩れ落ち、向こう岸まで大きな空間が開いている。
ラフバが覗き込んだ。
「……これ、どうやって渡んだ?」
アギは端末を確認した。
「迂回路があります。北へ三キロほどです」
迅は向こう岸を見た。
「……俺なら跳べそうだけど」
ラフバも笑った。
「俺も行けるぞ」
アギは即答した。
「駄目です」
「何で!?」
「橋の向こうには、中継器の交換用機材も運ぶ必要があります。あなたたちだけ渡っても意味がありません」
迅は背負った工具箱を見た。
「……これ?」
「それです」
ラフバは腕を組んだ。
「じゃあ、投げりゃいいじゃねぇか」
「精密機器を投げないでください」
「丈夫そうだぞ?」
「駄目です」
迅は少し考えた。
そして。
「……なあ、アギ」
「何ですか?」
「俺らが先に行って、向こうからロープ張れば?」
アギは橋を見た。
「……それなら」
端末で距離を確認する。
「固定できる場所があれば、機材を運ぶ簡易索道を作れますね」
ラフバが笑った。
「決まりだ!」
アギは二人を見た。
「ただし、向こう岸の構造物が安全か確認してからです。私が指示するまで動かないでください」
「「了解!」」
二人は同時に返事をした。
そして。
一秒後。
「どっちが先に着くか勝負な!」
「上等!」
「待ちなさい!!」
アギの声が、廃墟に響いた。
午後零時。
三軍共同訓練場。
「……勝負しようぜ」
グラン・バルクが言った。
迅は昼食のパンを頬張っていた。
「……ん?」
「勝負だよ、勝負」
ラフバが即座に立ち上がった。
「上等!」
アギはパンを置いた。
「内容を聞いてから返事をしてください」
グランは笑った。
「安心しろ。殴り合いじゃねぇ」
迅は首を傾げた。
「……じゃあ何?」
グランは端末を操作した。
立体映像が現れる。
そこには、複雑な地形図が表示されていた。
廃墟。森林。川。
そして、複数の目標地点。
「小隊単位の模擬輸送競技だ」
アギが画面を覗き込んだ。
「……輸送競技?」
「そうだ。決められた時間内に、模擬救援物資を指定地点まで運ぶ」
迅は笑った。
「……何だ、簡単じゃん!」
グランはにやりと笑った。
「ただし、途中には障害物がある」
「……障害物?」
「崩落した道路、通信妨害区域、通行不能な橋。場合によっては、敵役の部隊もいる」
ラフバの目が輝いた。
「……おっ!」
グランは続けた。
「物資を届けるだけじゃねぇ。部隊全員が帰還することも条件だ」
アギは頷いた。
「……なるほど」
エリオットが隣から口を開いた。
「本番の合同演習に向けた、非公式の交流競技ですね。各軍の若手兵士が参加するそうです」
迅は笑った。
「……面白そうじゃん!」
ラフバも拳を握った。
「やろうぜ!」
アギは少し考えた。
「……参加するのは構いませんが」
迅が振り返った。
「ん?」
アギは二人を見た。
「私の指示に従ってくださいね」
迅は笑った。
「おう!」
ラフバも頷いた。
「当然!」
アギは目を細めた。
「……本当ですね?」
「「本当!!」」
グランは笑った。
「ははっ! 大変だな、お前」
アギは静かに答えた。
「……ええ」
エリオットも苦笑した。
「……少し分かる気がします」
午後一時。
非公式模擬輸送競技。
参加部隊は、全部で六組。
キリスト教軍から二組。
仏教軍から二組。
無宗教軍から二組。
第十三混成班には、迅、ラフバ、アギの三人に加え、宮田と無宗教軍の兵士二人が参加していた。
宮田は車両の運転席から顔を出した。
「……おい、迅!」
「ん?」
「今日は車を壊すなよ!」
迅は笑った。
「俺が壊したことあったっけ?」
「先週、扉を引っ張って外しただろ!」
「あれ、元から壊れてたじゃん!」
「外れたのはお前のせいだ!」
ラフバが笑った。
「ははっ!」
アギは端末を確認していた。
「……皆さん、聞いてください」
全員が顔を上げる。
「今回の目的は、指定地点への物資輸送です。戦闘で勝つことではありません」
迅とラフバが顔を見合わせた。
「…………」
「…………」
アギは続けた。
「敵役を倒しても、物資を届けられなければ失敗です」
迅は頷いた。
「……なるほど」
ラフバも頷いた。
「……分かった」
アギは地図を表示した。
「最短経路は、中央道路です」
宮田が言った。
「だが、あそこは橋が落ちてるぞ」
「はい」
アギは頷いた。
「なので、北側の旧鉄道線を使います」
迅は首を傾げた。
「……遠回りじゃね?」
「距離は長くなりますが、輸送車両が通れます」
ラフバが笑った。
「なら、俺らが先に走って邪魔なもんどかせばいい!」
アギは頷いた。
「それをお願いします」
迅は笑った。
「……おっ!」
アギは続けた。
「迅は前方の偵察。ラフバは障害物の撤去。宮田さんは車両の運転。残りの二人は物資の固定と通信をお願いします」
宮田が頷いた。
「了解」
迅は拳を握った。
「よっしゃ!」
ラフバも笑った。
「行くぞ!」
アギは最後に言った。
「そして、何かあれば必ず報告してください。独断で動かないこと」
迅とラフバは同時に答えた。
「「了解!」」
アギは少しだけ不安そうだった。
午後一時三十分。
競技開始。
「……よっしゃ!」
迅が飛び出した。
ラフバも続く。
「負けねぇぞ!」
「勝負じゃねぇって!」
「お前が言うな!」
二人は廃墟の中を駆け抜けた。
背後では、宮田が輸送車両を運転している。
アギは助手席で端末を操作していた。
「……迅、前方の状況を報告してください」
通信機から迅の声。
『道路に瓦礫! でっけぇのがある!』
「規模は?」
『……でっけぇ!』
アギは額を押さえた。
「……具体的にお願いします」
『……めちゃくちゃでっけぇ!』
「そういう意味ではありません!!」
宮田が笑った。
「ははっ!」
アギは通信機を握り直した。
「迅、車両が通れる幅はありますか?」
『……ない!』
「分かりました。ラフバ、撤去をお願いします」
『おう!』
次の瞬間。
ラフバが巨大な瓦礫を持ち上げた。
「……おらぁ!」
地面が揺れる。
瓦礫が道路脇へ移動する。
迅は笑った。
「……やるじゃん!」
ラフバも笑った。
「当然!」
車両が通過する。
しかし。
次の区域。
通信機から雑音が響いた。
ザザザ……。
『……こちら……第十三……』
アギは端末を見た。
「……通信妨害区域ですね」
宮田が言った。
「どうする?」
アギは地図を確認した。
「……予定どおり進みます。ただし、迅とラフバを一度戻しましょう」
宮田は頷いた。
「了解」
アギは予備の短距離通信機を使った。
「迅、ラフバ。車両まで戻ってください」
『……えー!』
『……まだ行けるぞ!』
「戻ってください」
『『はい!!』』
二人が戻ってきた。
アギは説明した。
「この先は通信が不安定です。全員が離れすぎると、状況を把握できなくなります」
迅は頷いた。
「……なるほど」
ラフバも腕を組んだ。
「……分かった」
アギは続けた。
「迅は車両の前方百メートル以内。ラフバは側面をお願いします」
「「了解!」」
再び進む。
その途中。
模擬敵部隊が現れた。
訓練用の発光弾が、道路脇に着弾する。
パンッ!
「……おっ!」
迅が振り返った。
「敵だ!」
ラフバが笑った。
「ははっ! 来たな!」
二人が飛び出そうとする。
しかし。
「待ってください!」
アギが叫んだ。
迅とラフバが止まった。
アギは端末を確認した。
「……敵は三人。ですが、正面だけではありません」
迅は周囲を見た。
「……ん?」
アギは続けた。
「右側の建物にも反応があります」
ラフバが目を細めた。
「……挟み撃ちか」
アギは頷いた。
「はい」
迅は笑った。
「……じゃあ、俺が右行く!」
「待ってください」
「……え?」
アギは地図を指差した。
「右側には、模擬救援対象の人形が設置されています。戦闘に巻き込めば減点です」
迅は少し黙った。
「……あ」
アギは続けた。
「迅は右側の敵の注意を引いてください。ラフバは正面の敵を抑えてください。ただし、建物を壊さないこと」
ラフバは笑った。
「……了解!」
迅も頷いた。
「……おう!」
二人が動いた。
迅は右側へ回り込む。
敵役の兵士が振り返った。
「……速っ!?」
迅は笑った。
「……よっ!」
模擬武器を奪い、相手の肩に軽く触れる。
判定音。
ピッ。
敵役、戦闘不能。
ラフバは正面の兵士を押し返していた。
「……おらぁ!」
相手が体勢を崩す。
判定音。
ピッ。
さらに一人。
迅とラフバは、残る敵役を挟み込んだ。
「……おい、ラフ!」
「ラフバだ!」
「……そっち任せた!」
「おう!」
数秒後。
敵役部隊は全員、戦闘不能判定となった。
迅は笑った。
「……よっしゃ!」
ラフバも拳を握った。
「勝った!」
しかし。
アギは通信機で言った。
「……二人とも、戻ってください」
迅が首を傾げた。
「……ん?」
「物資輸送が目的です」
迅は少し黙った。
そして。
「……あ、そうだった」
ラフバも笑った。
「ははっ!」
アギはため息をついた。
「……本当に、もう」
午後三時。
競技終了。
各部隊の結果が発表された。
第一位。
キリスト教軍、グラン隊。
第二位。
仏教軍、シオン隊。
第三位。
無宗教軍、第十三混成班。
迅は結果を見た。
「……三位かぁ」
ラフバも腕を組んだ。
「……ちぇっ」
グランが近づいてきた。
「……よう」
迅は振り返った。
「お、グラン!」
グランは笑った。
「三位か。悪くねぇじゃねぇか」
迅は笑った。
「……まあな!」
ラフバは拳を握った。
「次は勝つ!」
グランはにやりと笑った。
「……楽しみにしてるぜ」
そのとき。
エリオットが口を開いた。
「……ですが、第十三混成班は興味深い結果でしたね」
迅は首を傾げた。
「……何が?」
エリオットは端末を見せた。
「戦闘判定では、全参加部隊の中でも上位です」
ラフバが笑った。
「……当然!」
エリオットは続けた。
「ですが、輸送速度と通信維持の評価では、他の部隊に遅れを取っています」
迅は少し考えた。
「……なるほど」
アギは静かに頷いた。
「……装備の差もありますが、私たちの連携にも改善点がありますね」
シオンが近づいてきた。
「……アギ・ハワー」
アギが顔を上げた。
「……はい」
シオンは静かに言った。
「……良い指揮だった」
アギは少し驚いた。
「……ありがとうございます」
シオンは続けた。
「お前の班は、戦闘能力だけなら非常に高い」
迅とラフバが笑った。
「「だろ!?」」
シオンは二人を見た。
「……だが」
二人が黙る。
「……指揮官がいなければ、輸送任務は失敗していただろう」
迅はアギを見た。
ラフバも頷いた。
「……確かにな」
アギは少し困ったように笑った。
「……そんなことは」
迅は笑った。
「いや、マジだろ!」
ラフバも笑った。
「お前がいなきゃ、俺ら絶対敵追っかけてたぞ!」
アギは二人を見た。
「……それは、威張ることではありません」
迅は笑った。
「ははっ!」
ラフバも笑った。
「はははっ!」
シオンは静かに頷いた。
「……面白い班だな」
エリオットも微笑んだ。
「……本当に」
アギはため息をついた。
「……毎日、大変なんですよ」
しかし。
その表情には、少しだけ誇らしさがあった。
午後五時。
三軍合同演習準備本部。
会議室には、各軍の担当者が集まっていた。
巨大な画面には、今日の競技結果が表示されている。
「……第十三混成班」
キリスト教軍の将校が呟いた。
「面白い部隊ですね」
仏教軍の将校が頷いた。
「黒瀬迅の速度は、未覚醒者としては異例です」
別の将校が続けた。
「ラフバ・エラーの身体能力も高い。あの二人は、将来有望でしょう」
「……ただし」
キリスト教軍の将校が端末を操作した。
画面に、競技中の映像が映し出される。
迅とラフバが、敵役部隊に向かって飛び出そうとする場面。
その直前。
アギが二人を止めた。
「……ここです」
将校は続けた。
「二人は敵を倒すことに意識が向いていた」
画面が切り替わる。
アギが地図を確認し、指示を出す。
「しかし、アギ・ハワーは輸送任務の目的を見失っていない」
仏教軍の将校が頷いた。
「……なるほど」
キリスト教軍の将校は続けた。
「二人の能力を抑えるのではなく、適切な方向へ向けている」
別の将校が言った。
「……優秀な指揮官ですね」
仏教軍の将校は、アギの経歴を表示した。
「アギ・ハワー。仏教軍所属。若手の中でも、剣術と判断力に優れた兵士です」
キリスト教軍の将校は頷いた。
「……覚えておきましょう」
画面に、三人の名前が並んだ。
黒瀬迅。
ラフバ・エラー。
アギ・ハワー。
そして。
アギの名前の横に、小さな印がついた。
『指揮適性・高』
まだ、それはただの評価だった。
一つの演習準備記録に残された、小さな印。
誰も、その意味を深く考えてはいなかった。
午後六時。
旧研究施設跡。
「……師匠!」
迅が扉を開けた。
ロージャは机に向かっていた。
「……来たか」
迅は笑った。
「おう!」
ロージャは振り返った。
「……今日は、どうじゃった?」
迅は椅子に座った。
「三位だった!」
ロージャは頷いた。
「……ほう」
迅は続けた。
「俺とラフバ、結構活躍したんだけどさ」
「……うむ」
「アギがいなかったら、たぶん負けてた」
ロージャは小さく笑った。
「……そうか」
迅は頷いた。
「……あいつ、すげぇよな」
ロージャは静かに答えた。
「……よい仲間を持ったの」
迅は笑った。
「……だろ?」
ロージャは机の下から、小さな包みを取り出した。
「……では、頑張った褒美じゃ」
迅の目が輝いた。
「……おっ!」
包みを開く。
中には、焼きたての肉まん。
迅は笑った。
「……やった!」
しかし。
手を伸ばしたところで止まった。
「…………」
ロージャが首を傾げた。
「……何じゃ?」
迅は肉まんを見た。
「……師匠」
「うむ」
「……これ、辛くねぇ?」
ロージャは頷いた。
「辛くないぞ」
迅は目を細めた。
「……本当?」
「本当じゃ」
「……絶対?」
「絶対じゃ」
迅は少し考えた。
そして。
「……じゃあ、食うぞ」
一口。
「…………」
もぐもぐ。
「…………」
ごくん。
迅は顔を上げた。
「……うまっ!」
ロージャは満足そうに頷いた。
「……そうじゃろ」
迅は笑った。
「……今日は普通じゃん!」
ロージャは小さく笑った。
「……ふふ」
迅は肉まんを食べ終えた。
「……ごちそうさん!」
ロージャは頷いた。
「……うむ」
そして。
「……さて」
迅が顔を上げた。
「ん?」
ロージャは机の上に、もう一つ包みを置いた。
「……もう一つあるぞ」
迅の目が輝いた。
「……マジ!?」
「うむ」
迅は包みを開けた。
中には、小さな饅頭。
迅は笑った。
「……おっ!」
一口。
「…………」
もぐもぐ。
「…………」
次の瞬間。
「……かっっっらぁぁぁぁ!!」
迅が飛び上がった。
「水! 水ぅぅぅ!!」
ロージャは口元を押さえた。
「……ふふっ!」
迅は机の上の茶を飲んだ。
ごくごく。
「……はぁぁぁ!!」
そして。
「……師匠ぉぉぉ!!」
ロージャは慌てて頭を下げた。
「……すまぬ!」
ぺこり。
「すまぬ、すまぬ!」
「またかよ!!」
ロージャはさらに頭を下げた。
「……すまぬ、すまぬ、すまぬ!」
迅は涙目で叫んだ。
「絶対わざとだろ!!」
ロージャは笑いを堪えていた。
「……ふふっ」
「笑ってんじゃねぇか!!」
ロージャはまた頭を下げた。
「……すまぬ、すまぬ」
迅はため息をついた。
「……ったく!」
ロージャは机の下から、水の入った瓶を取り出した。
「……ほれ」
迅は受け取った。
「……ありがと」
ごくごく。
そして。
「……なあ、師匠」
「何じゃ?」
迅は笑った。
「……次は、俺が悪戯してやるからな」
ロージャは少し驚いた。
「……ほう?」
迅はにやりと笑った。
「……覚悟しとけよ!」
ロージャは小さく微笑んだ。
「……楽しみにしておるぞ」
迅は拳を握った。
「……よっしゃ!」
ロージャは茶を飲んだ。
そして。
「……では、宿題じゃ」
迅が顔を上げた。
「……ん?」
ロージャは将棋盤を指差した。
「今日は、三手先を読めるまで帰さぬ」
迅は固まった。
「…………」
そして。
「……鬼!!」
ロージャは笑った。
「……ふふ」
迅も笑った。
「……ははっ!」
廃墟に、二人の笑い声が響いた。
夜。
第七駐屯基地、宿舎。
迅はベッドに寝転がっていた。
隣には、ラフバ。
二人は、今日の競技結果を見ていた。
「……三位か」
迅が呟いた。
ラフバは頷いた。
「……ああ」
迅は笑った。
「……次は勝とうぜ」
ラフバも笑った。
「……当然!」
迅は端末を閉じた。
「……でもさ」
ラフバが顔を上げる。
「……ん?」
迅は笑った。
「……アギ、すげぇよな」
ラフバは少し考えた。
そして。
「……ああ」
頷いた。
「……あいつがいなきゃ、俺らまとまんねぇしな」
迅は笑った。
「……だよな!」
ラフバも笑った。
「……まあ、俺らが強ぇのは変わんねぇけどな!」
迅は即答した。
「俺の方が強ぇけどな!」
「何だと!?」
「勝負するか!?」
「上等!」
二人が立ち上がった。
その瞬間。
隣室から、アギの声が響いた。
「……寝てください!!」
二人は固まった。
「…………」
「…………」
そして。
「……ははっ!」
「……はははっ!」
笑った。
まだ、世界の強者たちには届かない。
まだ、三軍の壁は高い。
しかし。
三人なら。
きっと、もっと強くなれる。
三軍合同演習。
開催まで、あと十一日。
次回予告
演習準備が続く中、迅たちは天城市での警備補助任務を命じられる。
各軍の兵士と市民が入り交じる街で、三人は思わぬ騒動に巻き込まれる。
一方、迅はロージャへの悪戯を計画する。
しかし、相手はあの師匠。
果たして、馬鹿弟子の悪戯は成功するのか?




