ようこそ、ジャポネへ!
午前七時三十分。
ジャポネ東部、天城国際軍用港。
「……でっけぇ」
黒瀬迅は、口を開けて空を見上げていた。
「……でっけぇな」
隣のラフバも、同じ顔をしていた。
二人の視線の先には、巨大な輸送機が浮かんでいる。
全長二百メートルを超える白銀の機体。
機体側面には、十字架を模したキリスト教軍の紋章。
その周囲を、小型の誘導機が飛び回っていた。
ゴォォォォォ……!!
重低音が港全体に響く。
巨大な輸送機が、ゆっくりと着陸した。
「……すっげぇ!」
迅が叫んだ。
「なあ、アギ! あれ、何!?」
アギ・ハワーは端末を確認した。
「キリスト教軍の大型輸送機ですね。装甲車両や物資をまとめて運べる機体です」
ラフバが目を輝かせた。
「ははっ! あれに乗ってみてぇ!」
「あなた、キリスト教軍所属でしょう?」
「俺が乗ってきたのは装甲車だ!」
「……そうでしたね」
迅は輸送機を見上げた。
「……いいなぁ」
その隣には、無宗教軍の輸送機が一機。
古い。小さい。塗装が剥がれている。
機体側面には、補修した跡がいくつも残っていた。
迅は二機を見比べた。
「…………」
ラフバも見比べた。
「…………」
そして。
「……なあ」
迅が口を開いた。
「……うちの飛行機、ちっちゃくね?」
ラフバは頷いた。
「……ちっちゃいな」
「……あっち、めっちゃでかくね?」
「……でかいな」
二人は顔を見合わせた。
そして。
「「金持ちって、すげぇ!!」」
アギは頭を抱えた。
「……恥ずかしいので、大声で言わないでください」
そのとき。
背後から怒鳴り声が飛んできた。
「お前らぁ!!」
宮田だった。
手には作業用端末。
額には汗。
「見物してねぇで、荷物を運べ!!」
迅は振り返った。
「えー!」
ラフバも不満そうだった。
「せっかく面白ぇもんが来たのに!」
宮田は二人を睨んだ。
「今日は歓迎係兼、荷役補助だろうが!」
アギは即座に頭を下げた。
「すみません。すぐに作業へ戻ります」
迅はため息をついた。
「……へいへい」
ラフバも肩をすくめた。
「しょうがねぇな」
三人は荷物の積み下ろしを始めた。
その間にも、世界各地から輸送機が到着していた。
白い機体。
金色の紋章。
巨大な軍用車両。
見たことのない装備。
そして、聞き慣れない言葉。
迅は荷物を抱えながら、周囲を見渡した。
「……なあ、ラフ」
「ラフバだ」
「……世界って、本当に広ぇな」
ラフバは笑った。
「……ああ!」
そして。
「……強ぇ奴も、いっぱいいそうだ!」
迅も笑った。
「……だな!」
二人の目は、既に輝いていた。
午前九時。
天城国際軍用港、第三搬入口。
「……すみません」
背後から声がした。
迅が振り返る。
そこには、一人の青年が立っていた。
金髪。
青い瞳。
整った顔立ち。
白い軍服。
胸には、キリスト教軍の紋章。
「こちらは、第七駐屯基地行きの輸送車両でしょうか?」
迅は首を傾げた。
「……ん?」
青年は丁寧に頭を下げた。
「失礼しました。私はキリスト教軍所属、エリオット・グレイと申します」
迅は少し考えた。
「……エリ……」
「エリオットです」
「……エリ……エリ……」
「エリオットです」
迅は笑った。
「……エリでいい?」
青年は少し驚いた。
そして。
「……構いませんよ」
迅は笑った。
「俺、黒瀬迅!」
「存じています」
「……え?」
迅が固まった。
エリオットは静かに続けた。
「アリス教軍の機械兵三体を撃破した、第十三混成班の方ですよね」
迅は目を丸くした。
「……おお!」
ラフバが横から顔を出した。
「俺もいるぞ!」
エリオットは振り返った。
「ラフバ・エラーさんですね」
ラフバは笑った。
「おう!」
そして。
「……お前、強ぇのか?」
アギが即座に振り返った。
「ラフバ!」
しかし、エリオットは穏やかに笑った。
「どうでしょう。自分では、まだまだだと思っています」
ラフバはにやりと笑った。
「……いいねぇ」
迅も笑った。
「……じゃあ、勝負しようぜ!」
アギは頭を抱えた。
「……会って三十秒ですよ!?」
エリオットは少し考えた。
そして。
「……演習で機会があれば、ぜひ」
迅とラフバの目が輝いた。
「「マジ!?」」
エリオットは頷いた。
「はい」
ラフバは拳を握った。
「よっしゃ!」
迅も笑った。
「楽しみだな!」
エリオットは二人を見て、小さく笑った。
「……噂以上に、元気な方々ですね」
アギは深くため息をついた。
「……すみません」
エリオットは首を振った。
「いえ」
そして。
「……少し、羨ましいです」
アギが顔を上げた。
「……羨ましい?」
エリオットは頷いた。
「こんなふうに、遠慮なく話せる仲間がいるのは」
迅は首を傾げた。
「……何だよ、それ」
そして。
「……お前も話せばいいじゃん」
エリオットは少し驚いた。
迅は笑った。
「同じ演習に出るんだろ?」
「……はい」
「じゃあ、仲間みてぇなもんじゃん!」
ラフバも笑った。
「まあ、勝負は別だけどな!」
アギは小さく微笑んだ。
「……この二人は、誰にでもこうなんです」
エリオットは数秒黙った。
そして。
「……そうですか」
静かに笑った。
「……ありがとうございます」
午前十時二十分。
天城国際軍用港、北方輸送区画。
巨大な軍用列車が、ゆっくりと停車した。
車体には、蓮の花を模した紋章。
仏教軍の輸送列車だった。
プシューッ。
扉が開く。
次々と兵士たちが降りてくる。
その中に、一人の少女がいた。
黒髪を後ろで束ねた、落ち着いた雰囲気の少女。
ミナ・レン。
彼女は周囲を見渡した。
「……ここが、ジャポネ」
巨大な港。
海上に浮かぶ輸送船。
空を行き交う軍用機。
そして、遠くに見える超高層都市。
ミナは小さく微笑んだ。
「……綺麗な街」
そのとき。
「……ミナ?」
背後から声がした。
ミナが振り返る。
そこには、アギが立っていた。
「…………」
一瞬、沈黙。
そして。
「……アギ!?」
ミナの表情が明るくなった。
「久しぶり!」
アギも笑った。
「……本当に、久しぶりですね」
二人は近づいた。
「元気だった?」
「はい。ミナも元気そうですね」
「もちろん!」
ミナはアギを見つめた。
そして。
「……少し、雰囲気が変わったね」
アギは首を傾げた。
「……そうですか?」
「うん」
ミナは笑った。
「前より、柔らかくなった気がする」
アギは少し考えた。
そして。
「……そうかもしれません」
そのとき。
「……おーい!」
遠くから、迅の声がした。
アギが振り返る。
「……あ」
迅とラフバが走ってきた。
その後ろには、エリオット。
迅は手を振った。
「アギー!」
ラフバも叫んだ。
「おい、アギ! こっちに強そうな奴がいたぞ!」
アギはため息をついた。
「……またですか」
ミナは目を丸くした。
「……あの人たちは?」
アギは少し困ったように笑った。
「……私の班の仲間です」
迅が近づいた。
「……お?」
ミナを見た。
「……誰?」
アギは紹介した。
「こちらはミナ・レン。仏教軍の兵士で、昔の知り合いです」
ミナは軽く頭を下げた。
「初めまして」
迅は笑った。
「俺、黒瀬迅!」
ラフバも笑った。
「ラフバ・エラーだ!」
ミナは二人を見た。
そして。
「……あ」
少し驚いた顔になる。
「……第十三混成班の?」
迅は笑った。
「お、知ってんの?」
ミナは頷いた。
「はい。アリス教軍の機械兵を撃破したって」
ラフバは胸を張った。
「当然だ!」
アギはため息をついた。
「……また調子に乗って」
ミナは小さく笑った。
「……ふふ」
そして。
「……本当に、賑やかな班だね」
アギは苦笑した。
「……毎日こんな感じです」
ミナはアギを見た。
「……大変そう」
アギは静かに答えた。
「……はい」
少しだけ間を置く。
そして。
「……でも」
ミナが首を傾げた。
「……でも?」
アギは小さく微笑んだ。
「……悪くないですよ」
ミナは少し驚いた。
そして。
「……そっか」
嬉しそうに笑った。
午後零時。
第七駐屯基地、第一食堂。
「……なあ」
迅が口を開いた。
「……エリ」
「はい」
「……お前らの軍って、毎日肉出るの?」
エリオットは少し考えた。
「……基本的には、栄養管理された食事が提供されますね」
迅は目を丸くした。
「……肉は?」
「日によりますが、比較的よく出ます」
「…………」
迅が固まった。
ラフバも固まった。
「……なあ、ラフ」
「ラフバだ」
「……俺、キリスト教軍に転職しようかな」
アギが即座に言った。
「駄目です」
エリオットは苦笑した。
「……食事が理由ですか?」
迅は真顔で頷いた。
「……重要だろ」
ラフバも笑った。
「ははっ! 確かにな!」
ミナは不思議そうに首を傾げた。
「……無宗教軍って、そんなに食事が大変なの?」
アギは少し困ったように笑った。
「……予算が限られているので」
迅は皿を指差した。
「見ろよ、これ!」
そこには、いつもの薄いスープ。
硬いパン。
そして、少量の野菜。
エリオットは少し驚いた。
「……これが、普段の食事ですか?」
迅は頷いた。
「おう!」
ミナは少し考えた。
そして。
「……あの」
迅が顔を上げる。
「ん?」
ミナは自分の荷物から、小さな包みを取り出した。
「よかったら、これ」
迅は首を傾げた。
「……何?」
「蓮華京のお菓子です」
包みを開く。
中には、小さな丸い菓子が並んでいた。
淡い金色。
表面には、花の模様。
迅の目が輝いた。
「……おお!」
ミナは笑った。
「米粉と蜜で作ったお菓子です」
迅は一つ手に取った。
「……食っていい?」
「もちろん」
迅は口に入れた。
「…………」
数秒後。
「……うっま!!」
叫んだ。
「何これ!?」
ミナは笑った。
「気に入ってもらえた?」
迅は頷いた。
「めっちゃうめぇ!」
ラフバも一つ食べた。
「……おお!」
そして。
「……うめぇな!」
アギも小さく微笑んだ。
「……懐かしい味ですね」
ミナは嬉しそうに頷いた。
「……よかった」
エリオットも一つ受け取った。
「……ありがとうございます」
ミナは笑った。
「どういたしまして」
そのとき。
迅が口を開いた。
「……なあ」
全員が顔を上げる。
迅は笑った。
「……世界って、うまいもんいっぱいあんだな」
エリオットは頷いた。
「そうですね」
ミナも笑った。
「蓮華京には、もっといろんな料理がありますよ」
迅の目が輝いた。
「……マジ!?」
「はい」
ラフバも笑った。
「セント・ヴェイルにもあるんだろ!?」
エリオットは頷いた。
「もちろんです」
迅は拳を握った。
「……よし!」
アギが首を傾げた。
「……何がですか?」
迅は笑った。
「……いつか、全部食いに行く!」
ラフバも笑った。
「俺もだ!」
アギはため息をついた。
「……本当に、食べ物ばかりですね」
しかし。
その表情には、笑みが浮かんでいた。
異なる宗教。
異なる軍。
異なる故郷。
それでも。
同じ食卓を囲めば、笑い合うことができる。
少なくとも、この五人はそうだった。
午後二時。
第七駐屯基地、共同訓練場。
「……おい」
迅が口を開いた。
「……あれ、何?」
視線の先には、巨大な軍用アンドロイドが立っていた。
全高三メートル。
白銀の重装甲。
両腕には大型の防御装備。
胸部には、キリスト教軍の紋章。
HCA-91《ガーディアン》。
キリスト教軍の重装甲戦闘アンドロイドだった。
ラフバが笑った。
「ははっ! すげぇだろ!」
迅は目を輝かせた。
「……でっけぇ!」
エリオットは頷いた。
「防御性能を重視した機体です」
迅は近づいた。
「……触っていい?」
エリオットは少し考えた。
「……担当者に確認してからなら」
迅は頷いた。
「おう!」
そのとき。
背後から声がした。
「……おい」
振り返ると、数人のキリスト教軍兵士が立っていた。
その先頭には、体格の良い青年。
短い茶髪。
鋭い目つき。
「……お前ら、無宗教軍か?」
迅は首を傾げた。
「……そうだけど?」
青年は迅を見た。
そして。
「……ふん」
小さく鼻を鳴らした。
「噂の第十三混成班ってやつか」
ラフバが笑った。
「おう!」
青年は腕を組んだ。
「……機械兵三体倒したくらいで、随分と有名になったもんだな」
迅は少しだけ眉を上げた。
「……あ?」
アギが一歩前へ出た。
「……何かご用でしょうか?」
青年はアギを見た。
「別に。ただ、どれほどの実力か気になっただけだ」
エリオットが口を開いた。
「……グラン、やめておけ」
青年は振り返った。
「何だよ、エリオット」
「まだ演習前だ」
「分かってる」
グランと呼ばれた青年は、迅を見た。
「……お前、黒瀬迅だろ?」
迅は頷いた。
「おう」
グランはにやりと笑った。
「……俺はグラン・バルク」
そして。
「キリスト教軍の兵士だ」
迅は笑った。
「……へぇ」
グランは続けた。
「演習が始まったら、俺が相手してやるよ」
迅の目が輝いた。
「……マジ!?」
グランは少し驚いた。
「……あ?」
迅は笑った。
「いいじゃん! 楽しみだな!」
ラフバも笑った。
「おい、俺も混ぜろ!」
グランは眉をひそめた。
「……お前ら、怖くねぇのか?」
迅は首を傾げた。
「……何が?」
グランは少し黙った。
そして。
「……いや」
にやりと笑った。
「……面白ぇな、お前ら」
迅も笑った。
「だろ?」
アギはため息をついた。
「……また、面倒なことになりそうですね」
ミナは小さく笑った。
「……ふふ」
エリオットは苦笑した。
「……まったく」
こうして。
三軍合同演習を前に、新たなライバルが現れた。
午後五時。
ジャポネ東部、天城市。
三軍の兵士たちを迎えるため、街には多くの人々が集まっていた。
天城市。
巨大な軍用港を抱える、ジャポネ東部最大級の都市。
空には幾重にも重なる高架道路。
建物の間を縫うように走る高速鉄道。
地上には、古い商店街。
そして、その隣には、最新式の巨大商業施設。
古い文化と新しい技術が混在する街だった。
「……うおおお!」
迅は目を輝かせた。
「……すげぇ!」
ラフバも笑った。
「ははっ! でっけぇ街だな!」
アギは端末を確認していた。
「……自由時間は一時間半です」
迅は振り返った。
「……短くね?」
「短くありません」
「……二時間!」
「駄目です」
「……一時間五十分!」
「交渉しないでください」
ラフバが笑った。
「ははっ!」
エリオットは周囲を見渡していた。
「……綺麗な街ですね」
ミナも頷いた。
「……うん」
迅は笑った。
「だろ?」
エリオットは少し驚いた。
「……黒瀬さんは、この街の出身なんですか?」
迅は首を振った。
「いや、違う」
「……そうなんですね」
迅は笑った。
「でも、ジャポネは俺の国だからな!」
エリオットは小さく頷いた。
「……なるほど」
そのとき。
「……お兄ちゃん!」
小さな声がした。
迅が振り返る。
そこには、一人の少年が立っていた。
十歳くらい。
手には、小さな紙袋。
「……ん?」
少年は迅を見上げた。
「……軍人さん?」
迅は頷いた。
「おう!」
少年は目を輝かせた。
「……すごい!」
迅は笑った。
「ははっ! だろ?」
少年は続けた。
「……アリス教軍と戦ったことある?」
迅は少し黙った。
そして。
「……あるぞ」
少年の目がさらに輝いた。
「……勝った?」
迅は笑った。
「……おう!」
少年は嬉しそうに笑った。
「……すごい!」
迅は少し照れたように頭をかいた。
「……まあな」
そのとき。
少年の母親らしき女性が駆け寄ってきた。
「……すみません!」
迅は振り返った。
「ん?」
女性は頭を下げた。
「この子が、急に……」
迅は笑った。
「いいって!」
女性は少し安心したように微笑んだ。
「……ありがとうございます」
少年は迅を見上げた。
「……お兄ちゃん」
「ん?」
「……強いの?」
迅は少し考えた。
そして。
「……まだまだだな」
少年は首を傾げた。
「……そうなの?」
迅は笑った。
「おう」
そして。
「……でも、もっと強くなるぞ」
少年は嬉しそうに笑った。
「……頑張って!」
迅は頷いた。
「おう!」
少年は母親と一緒に去っていった。
迅は、その背中を見つめていた。
エリオットが静かに言った。
「……いい子ですね」
迅は頷いた。
「……だな」
ミナも小さく微笑んだ。
「……こういう街を守るために、私たちは戦っているんですよね」
アギは静かに頷いた。
「……ええ」
ラフバは拳を握った。
「……だったら、もっと強くならねぇとな!」
迅は笑った。
「……だな!」
夕日が、巨大な都市を赤く染めていた。
午後六時。
天城市、中央広場。
広場の中央には、巨大な噴水。
その周囲には、様々な宗教の建築物が並んでいた。
小さな教会。
仏教寺院。
無宗教者向けの公共施設。
そして、一般市民の商店。
三軍合同演習の開催を祝う旗が、街路に掲げられていた。
迅は噴水の縁に座っていた。
隣には、ラフバ。
少し離れて、アギ、エリオット、ミナ。
五人は、街の屋台で買った食べ物を手にしていた。
「……なあ」
迅が口を開いた。
「……お前らって、神様信じてんの?」
エリオットが顔を上げた。
「……はい」
迅は頷いた。
「……へぇ」
ミナも静かに答えた。
「私は、仏教の教えを大切にしています」
迅は少し考えた。
「……なるほど」
ラフバが笑った。
「俺は神になりてぇ!」
エリオットが固まった。
「…………」
ミナも目を丸くした。
「……え?」
アギはため息をついた。
「……ラフバ」
ラフバは笑った。
「何だよ!」
迅も笑った。
「ははっ! お前らしいな!」
エリオットは少し困ったように笑った。
「……随分と、大きな目標ですね」
ラフバは頷いた。
「当たり前だろ!」
ミナは首を傾げた。
「……迅さんは?」
迅が顔を上げた。
「……俺?」
「はい」
迅は少し考えた。
そして。
「……俺は、神様には祈らねぇな」
エリオットは静かに聞いていた。
ミナも頷いた。
迅は続けた。
「……でも」
少しだけ笑う。
「神様信じてる奴が嫌いってわけじゃねぇよ」
エリオットは顔を上げた。
「……そうなんですか?」
迅は頷いた。
「おう」
そして。
「……面白ぇ奴なら、誰でもいい」
ラフバが笑った。
「ははっ! それ、俺のことだろ!」
迅は即答した。
「お前はうるせぇ」
「何だと!?」
アギは小さく笑った。
「……本当に、変わりませんね」
ミナも笑った。
「……ふふ」
エリオットは静かに頷いた。
「……なるほど」
そして。
「……素敵な考え方ですね」
迅は首を傾げた。
「……そうか?」
エリオットは頷いた。
「はい」
迅は笑った。
「……まあ、俺は」
少しだけ空を見上げた。
巨大な月が、夕空に浮かんでいる。
「……一番大事なのは、笑えるかどうかだと思ってるからな」
エリオットは、その言葉を静かに聞いていた。
ミナも微笑んだ。
アギは、少しだけ目を細めた。
ラフバは笑った。
「……ははっ!」
そして。
「……じゃあ、もっと笑えるくらい強くなろうぜ!」
迅は笑った。
「……おう!」
五人の笑い声が、夕暮れの広場に響いた。
異なる信仰。
異なる故郷。
異なる考え方。
それでも。
同じ空の下で、笑い合うことができる。
そのことを、五人は少しだけ知った。
夜。
第七駐屯基地、宿舎。
「……なあ、迅」
ラフバが口を開いた。
迅はベッドに寝転がっていた。
「……ん?」
ラフバは笑った。
「……明日も、面白ぇ奴に会えるかな」
迅は少し考えた。
そして。
「……会えるだろ」
ラフバは頷いた。
「……だよな」
迅は天井を見上げた。
今日、出会った人々。
エリオット。
ミナ。
グラン。
天城市の少年。
そして、見たことのない街。
知らない文化。
知らない考え方。
迅は小さく笑った。
「……世界って、面白ぇな」
ラフバも笑った。
「……ああ」
そのとき。
隣室から、アギの声が響いた。
「……二人とも!」
迅とラフバが顔を見合わせる。
「……ん?」
「……何だ?」
アギは叫んだ。
「明日も早いんですから、早く寝てください!」
迅は笑った。
「へーい!」
ラフバも笑った。
「分かってるって!」
そして。
数秒の沈黙。
迅が小声で呟いた。
「……なあ、ラフ」
「ラフバだ」
「……明日、どっちが先に起きるか勝負しようぜ」
ラフバは笑った。
「……上等!」
隣室から、再び声が響いた。
「……聞こえてますよ!!」
迅とラフバは、声を殺して笑った。
「……ははっ!」
「……はははっ!」
世界は広い。
まだ知らない人々がいる。
まだ見ぬ強敵がいる。
そして。
その全てが、三人を待っている。
三軍合同演習。
その開催まで、あと十三日。
次回予告
合同演習を前に、各軍の兵士たちによる公開訓練が始まる。
キリスト教軍の重装甲アンドロイド《ガーディアン》。
仏教軍の精鋭兵士たち。
そして、無宗教軍の第十三混成班。
迅とラフバは新たな強敵に挑み、アギはミナとの再会を通じて自分の成長を確かめる。
だが、三軍の実力差は、想像以上に大きかった。




