第03話 名前がない ③
再びギルド。
「一つ聞きたい」
「はい」
「登録は無理だ。それは分かった」
「はい」
「登録と、働いた事実を残すのは、同じ紙か」
受付係が書きかけでやめた。
「……別です」
「じゃあ、残す方だけ先にできるか」
受付係はそのまま数秒こちらを見て、それから奥の引き出しを開けた。
「方法が一つあります」
出てきたのは、最初の申請書よりずっと小さな紙だった。
臨時補助票
「先に説明しておきます。これは冒険者資格ではありません」
「冒険者じゃない?」
セラも紙を覗き込む。
「登録済みの冒険者が受けた依頼へ、補助者として参加した事実を残すためのものです」
「……記録か」
「はい」
そこで、カイの注意が変わった。
「補助者だったことを残す?」
「そうです」
受付係が一つずつ説明していく。採集補助。運搬。地図確認。安全確認。現地記録。
「戦闘は」
「依頼業務としては認められません」
「自己防衛は」
「それまで禁止するものではありません」
「単独受注」
「不可です」
「ランクは」
「つきません」
カイは紙へ目を落とした。
できないことの方が多い。資格でもない。名前の下に書く欄も、相変わらず埋められない。
それでも、一つだけ違う。
「残るのか」
「残ります」
「誰が読む」
「依頼を出す人と、ギルドです」
それで足りた。
「一つ聞きたい」
「はい」
「ここじゃない場所から来た人間の記録は、どこにある」
受付係が考えた。
「この町の外から、という意味ではなく」
「違う」
「……行政庁の管轄ですね」
「分かった」
それ以上は聞かなかった。聞く場所が分かれば、今日はそれで足りる。
横でセラがこちらを見ていたが、何も言わなかった。
受付係が帳簿を開いて、昨日の水路調査のページへ戻る。受注者セラ・アルノーの下へ、一行だけ書き足した。
補助者 カイ
インクが乾くまで、時間がかかった。
昨日、この町の記録にカイはいなかった。今日、一行だけ残った。
大した資格ではない。冒険者でもないし、ランクもない。ただの補助者だ。
カイはその文字を、しばらく見ていた。
まだ、名前しかない。
でも、名前はある。




