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LOST LOG 4617 Re:Log  作者: 臥裳斗真


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第01話 表示されない ②

「……強気だな」


 死亡ペナルティではない。死んだら終わり。そのキャラクターのレベルも装備も個人記録も、NPCとの関係まで消える。現実の身体には何も起きない。接続が切れるだけだ。


 新しいキャラクターは作れる。同じ人生にはならない。


 最初の頃は、よく迷った。崖の途中で朝まで動けなくなったこともある。


 続けているうちに、分かるようになった。風。足跡。地面の湿り。敵の縄張り。水場。撤退地点。


 強い敵を倒すプレイヤーなら、他にいくらでもいる。どこから入って、何分で戻れるかばかり考えている人間は、少なかった。


 だからカイがやった。


 死んだら持ち帰れないから、生き残る。


 いつの間にか、拠点の壁一面が地図で埋まっていた。


「また増えた?」


 ミアが横から覗き込む。


「北側だけ」


「北側、多くない?」


「北は広いからな」


「全部広いでしょ」


 少し離れたところでレインが盾を整備していて、ガレスが水筒を投げてきた。カイは地図を見たまま受け取る。


「お前、たまには自分の残量も確認しろよ」


「してる」


「してないから言ってんだ」


 ノエルとは、喋らなくても通じた。カイが崖を見て、ノエルが高所を指して、カイが頷く。それで終わる。


 エリオは地図の端へ、新しく確認した術式条件を書き足していた。


 そして。


「座って」


 ユナが言う。


「軽い」


「座って」


「かすり傷」


「この前もそう言って三日腫らしたよね」


「……」


「座って」


「はい」


 何度あったか分からない。そんなやり取りと、そんな日々。


 全部ゲームだった。ログアウトすれば現実へ戻る。


 ただ、四千六百十七時間も同じ場所で生きれば、ゲームだから軽いという話でもなくなる。


 最後の依頼も、最初は普通だった。


「撤退路は?」


 レインが聞く。カイは遺構の簡易地図と現地地形を見比べた。西は崩落。北は守護種の攻撃線。南東に細い通路がある。


「南東。一分四十」


「安全?」


「この中なら一番」


「じゃ、それで」


 七人で入った。古代遺構の中央広間に、大型守護種。もっと危険な場所にも行った。


 レインが正面、ミアが側面。ガレスが姿勢を崩して、ノエルが後方を見る。エリオが術式を組んで、ユナが全体を支える。


 そしてカイは全部を見る。敵。柱。出口。床。天井。仲間。もう一度、敵。


 4,617:31:42


 まだ行ける。そう判断した。


 直後、敵の外殻が開いた。


「――」


 中央柱が砕ける。範囲が変わった。


「下がれ!」


 全員が動く。誰も理由を聞かない。それでいい。


 南東へ撤退。いつもの撤退になるはずだった。


「足元、崩れてるぞ!」


 一瞬、遅い。


「――あっ!」


 ユナの足元が抜けた。身体が前へ倒れて、杖が床を叩く。


「ユナ!」


 安全通路まで六メートル。カイはすでに通路側へ一歩入っていた。


 振り返る。ユナ。敵。出口。距離。攻撃準備。


(戻るな)


 答えは出ている。一人を助けに戻って二人死ぬ。悪手だ。何度も判断した。それが正しい。


 なのに右足が止まった。膝から下だけ、別の人間の指示を聞いているみたいだった。


 何をしている、と思った次の瞬間には、身体が逆を向いていた。


「ごめっ――」


「喋るな、走れ」


 ユナの腕を掴んで、引き起こして、押す。ユナの身体が通路へ入って、カイだけが一歩外側に残った。


 そこで分かった。これは間に合わない。


 敵を見る。光。


 4,617:32:18


 最後に思ったのは、やっぱり戻るべきじゃなかった、だった。でも、ユナが通路の向こうにいるのを見て、まあいいか、とも思った。


 次の瞬間、何もなくなった。


 KAI


 4,617:32:18


 CHARACTER LOST


「……」


 カイは瞬きをした。記憶から戻る。


 目の前にあるのは森と、包帯も巻かれていない右腕と、湿った土。何も表示されていない右上。


「……そうだった」


 死んだ。ゲームの中で。


 四千六百十七時間、三十二分、十八秒。桁の一つも間違えずに言える。どこで何秒生きたのかを、まだ全部覚えていた。


 覚えているのに、表示だけがない。


「……ゲームで死んだら、リアルでも死ぬ?」


 口に出してから、眉を寄せた。


「いや」


 即座に否定する。向こうで死んでも、現実の身体は死なない。


 条件を並べる。現実の部屋ではない。森だ。身体はKAI。UIはない。傷は痛い。


「……異世界転生?」


 自分で言って、少し間が空いた。


「雑だな」


 三段くらい飛んでいる。他に説明があるかと言われると、ない。


「まあいい」


 分からないなら、後で調べる。真相より先に生存だ。右腕。出血。まず処置。

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