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LOST LOG 4617 Re:Log  作者: 臥裳斗真


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第04話 戻らない方が正しい ③

「……」


「……」


「行くぞ」


「うん」


 安全側へ移動して、広い場所で足を止めた。呼吸を整える。洞窟の奥の水音は、さっきより大きく低い。長居はできないと分かっている。


 それでも。


「なんで戻ったの」


 先に聞かれた。


「……」


「カイなら」


 少し間があって。


「戻らない方が正しいって分かってたでしょ」


「分かってた」


「……即答」


「正しいからな」


「じゃあ」


 顔を見る。髪に土がついて、頬が汚れていて、息はまだ整っていない。


「何で戻ったの」


 答えは難しかった。


 戻らないことが正しいのは、今も変わらない。二人とも無事だったのは結果論に過ぎない。あの時、外へ出て救援を呼ぶことが、一番生存率が高い選択だった。


 それでも戻った。


 好きとか、大事とか、そこまで整理していない。必要な言葉が見つからない。


「……お前が死ぬかと思った」


 言ったあとで、自分でも止まった。


「……それだけ?」


「それ以上いるか」


「いや」


 目が逸れる。


「……いらないけど」


「なら」


「でも」


 間。


「戻ったら、カイも死ぬかもしれなかったでしょ」


「ああ」


「そこは」


「分かってた」


「分かってて戻ったの?」


「ああ」


 セラは何か言いかけて、やめた。そのあと、困ったように笑う。


「ほんと」


「何」


「変なところだけ、全然合理的じゃない」


 反論はできなかった。今回だけは、本当に。


「そうかもな」


「認めるんだ」


「今回は」


 正しい判断は分かっていた。それを自分で捨てた。


「行くぞ」


「うん」


 外へ出ると、ダンが崖下に立っていた。縄を肩に掛けて、もう走り出す形になっている。ミロは少し離れた岩に座って足首を冷やしていた。


「遅い」


「崩れた」


「見りゃ分かる」


「人は」


「呼びに行くとこだった。あと二分で走ってた」


 二分。たぶん、本当に数えていたのだろう。


 ダンがカイの全身を上から下まで見る。


「どっちが落ちた」


「どっちも落ちてない」


「嘘つけ」


「落ちる前に掴んだ」


「それを落ちたって言うんだよ」


 ダンが縄を肩から下ろした。下ろしてから、一度こちらを見直した。


「おい」


「何だ」


「あんた、奥へ行く前に全員戻ると言ったろ」


「言った」


「あのあと崩れた。どうして分かった」


「分かってない」


「は?」


「あの時点で崩れると分かってたら、入ってない」


 ダンが黙った。


「じゃあ、なんで戻ると言った」


「分からない場所で、人数を減らす理由がなかった」


 それだけだ。


 当てたのではない。読み違えた時に、損が小さくなる側を選んだだけだ。四千六百十七時間でやってきたのは、ほとんどそれだった。


 ダンは何か言おうとして、やめた。


 やめてから、ミロの方へ歩いていった。


 ギルドへ戻る道で、セラは報告書の書き方を一つずつ聞いてきた。崩落の位置、水位の時刻、迂回路の幅。カイが答えると、そのまま紙へ書いていく。


「カイの分も書く?」


「報告を出すのは受注者だ。俺は補助者だ」


「でも見たでしょ」


「見た」


「じゃあ書く」


 受付台で報告が通った。帳簿に印が押されて、水脈確認と安全調査の二項目が達成済みになる。受注者の下へ、補助者としてもう一行。


 机の上に、臨時補助票と、曲がったピトンが並んだ。


 カイはしばらく、その二つを見比べていた。


 一つは今日、自分がここにいた証拠だ。


 もう一つは、今日、自分が正しい判断を捨てた証拠だ。


 戻らない方が正しかった。それは変わらない。


 でも、戻らなければよかったとは、どうしても思えなかった。

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