妖怪たちの目的
荷車を守りながら、灯り一つで暗闇の中を歩く。葛城は何度も周囲を確認し、識による再びの襲撃を警戒しているようだった。だが、楓はそんな彼を笑うように言う。
「もう大丈夫だよ。襲撃はないから」
「なぜ、そんなことが分かるのです?」
「うーん……なんでだろうねぇ」
最初は信じられないと何度も振り返っては、敵の追跡を確認する葛城だったが、あまりに静かなときが続いたせいか、もしくは楓の言霊に感化されたのか、前だけを見て歩くようになった。
ただ、紬は後ろで並んで歩く境と楓が気になって仕方ない。口を出したいところだが、この村の状況について詳しく葛城に聞かなければならなかった。
「葛城さん、この村を支配する妖怪について、詳しく聞かせてもらえませんか?」
「ああ、そうでしたね」
灯りを持つ葛城は説明を始める。
「いつ玄天狐党がこの村に入り込んだのか、今となっては分かりません。しかし、ここ五年ほどで行方知れずになる人が増えました」
最初は誰もが偶然だと思っていた。村から出れば事故に遭うこともあるし、運悪く妖怪に襲われることもある。不幸が続いているのだろう、という程度の認識だった。
「しかし、相馬という男が、村の人間は妖怪に攫われている、と私たちに教えてくれました。実際、彼の言った通りの場所を見張っていると、娘が妖怪に連れ去られそうになり、私たちは彼の話を信じるしかなかった」
「その相馬さんは、例の間諜ですよね。なぜ、妖怪たちの動向を知っているのですか」
葛城は頷く。
「相馬は、杠葉の付き人なので、妖怪たちの動きを知れたようです。この状況に違和感を持って、私たちに危険を知らせてくれました」
「では、杠葉という人物は?」
「この村の長となった男です。まだ三十過ぎという若さですが、五年前から樒ヶ里村は彼の治める村となりました」
五年前、ということは人攫いが増えた時期と一致する。
「では、その杠葉が妖怪??」
「恐らくは違います。彼の後ろにいる妖怪こそが、この村を隠れ家にしようと画策する者です」
「杠葉を操って村を自由にしようとしている、というわけですか」
しかし、紬には納得できない部分があった。
「杠葉を操っているのは、玄天狐党ですよね。彼らは一味の頭である蒼月が死んで、解体されたはずでは?」
葛城は首を横に振った。
「確かに蒼月は死にました。しかし、彼の腹心とも言える"月蝕の三姉妹”が弱っていた玄天狐党を立て直した。いや、完全に立て直すために、この村を支配し始めたのです」
葛城の瞳には、ここ数年で起こった戦いが映し出されるようだった。
「やつらは、この村を拠点としながら、餌場としても利用している。もしかしたら、いつかはこの村に人は一人としていなくなるかもしれません。そうなる前に、何とかしなければならないのです」
「だから、これだけの武器を集めていたのですね」
「はい。杠葉や妖怪たちに見つからぬよう、少しずつ武器と仲間を集めていたのですが……それを識に知られてしまいました」
識が多くの妖怪を引き連れ、葛城たちを襲撃することはなかったのだろうか。その質問を投げかける前に、葛城の説明があった。
「しかし、幸いなことに識は月蝕の三姉妹と面識がないようです。相馬の話によると、識が杠葉に事の重大性を伝えても、彼は理解を示さないのだとか。だから、三姉妹に我々の動きを知られる前に、準備を整えなければならないのですが……実際は、識と小競り合いを続けている、というのが現状です」
なるほど、大体の経緯は分かった。杠葉を追い出すにも、玄天狐党に動かれては多くの村人が犠牲になるかもしれない。確実に戦力を整えた上で、御神楽衆の力を借りて、三姉妹を退治しよう、というのが葛城たちの考えらしい。
「話しているうちに到着しましたね。ここが私の屋敷です」
目の前に、大きな屋敷が見えていた。紬が見ていた限りでは、この村で一番大きい屋敷ではないか。聞くところによると、葛城は酒を売買する豪商らしく、この村では多くの人間から信頼を寄せられているらしい。妖怪たちと戦う際の旗振り役としては打ってつけと言えるのだろう。
「この部屋を使ってください」
武器の運び込みが終わり、紬たちが案内された部屋は十分な広さがあった。誰よりも早く楓が部屋の奥へ進む。
「よかったー。今夜は横になって眠れないのかと思った」
舞いを踊るように中央で一回転して、こちらを見る楓。弧を描く銀の髪は、同じ女である紬ですら美しいと思わされるのだった。
「それで、お二人はどこからやってきたのですか??」
葛城の話をまとめたあとは、楓たちだ。紬は疲れて仕方がなかったが、早めに分からないことを解決しておきたかった。楓と古守は目を合わせる。答えていいものか、と思案しているようだったが、最終的には古守が説明した。
「貴方たち、御神楽衆を信じて話します。楓様は朝廷のある貴人が個人的に抱える巫女です」
「個人的に??」
貴人が巫女を個人的に抱えるなど、紬は聞いたことがなかった。




