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謎の巫女

 葛城たちが必死に火消しを行い、奇跡的に屋敷を更地にせず済んだが、多くの武器は使い物にならなくなってしまった。



「何とか……半分ほどは残りました」



 葛城は、まだ使えそうな武器を荷車に乗せ終えたが、地道に集めたものが失われ、落胆を隠せないようである。紬はそんな彼を見て、自分を責めた。



「申し訳ないです。なぜか、識には私の凪の神楽が効かなくて……」


「そんなことがあるんですね。やはり、識は特別な妖怪なのでしょうか」


「実力もかなりのものみたいでしたね。どうなの、境!」



 識が去った後、長屋の上にいた禍猿たちを斬った境だったが、一切口を開いていない。紬が質問しても、振り向くことすらなかった。ただ、彼の意識がどこに向けられているのか、紬も分かっている。



「あの人……何者なの?」


「分からん」



 境と紬の視線の先には、馬車の前に立って、こちらの様子を眺めている銀髪の巫女だ。



「凄い髪の色だよね。異国から来たのかな?」



 声をかければいいのかもしれないが、どこか近寄りがたいと紬は感じていた。何せ、あの豪華な馬車だ。普段では声もかけられない貴人の所有物に違いない。



「あ、境! 待って!」



 しかし、境はしびれを切らしたように銀髪の巫女の方へ歩き出す。紬は意を決してそのあとを追うが……二人が銀髪の巫女に近付くと、刀を持った男が阻んだ。



「これ以上、巫女様に近付かないように」



 護衛らしいが、境はその男を押しのけようとする。



退()け」



 ただ、護衛の男も動かない。鍛え抜かれた境の力を前に、その場に止まれるだけでも、只者ではないはずだ。境と男の間に剣呑な空気が流れるが、体の芯に入り込むような美声があった。



古守(こもり)さん、いいよ」



 奥にいる巫女が、護衛の男を止めたのだ。



御神楽衆(おかぐらしゅう)の人でしょ。大丈夫だって」



 古守と呼ばれた男は、銀髪の巫女に反論するような視線を向けたが、彼女が笑顔を返すと、溜め息を吐いてから境に進路を譲る。



「こんばんはー。危なかったね」



 返り血で汚れた境を前にして、銀髪の巫女は少しも緊張した様子がない。いくら、妖怪を祓う巫女とは言え、境の鋭い目を見ればたじろいでもいいものだが……。



「あんた、何者だ?」


「何者って、見ての通り巫女だよ」



 言葉は自然である。異国から来た女ではないのだろうか。



「なぜここにいる?」


「宿を探しているんだけど、ぜんぜん見つからなくてさー。どうしたものか、って困り果てているうちに、すっかり暗くなっちゃったんだよね」


「そういうことじゃなく……」



 言葉は自然であっても、どうにも意図が伝わらない。いつもなら苛立つはずの境だが、首を傾げる女を見ていると、妙な感じがした。よく分からないが……都の女はこういうものだろうか、と境は自分を納得させようとした。



「あ、もしかして」



 そんな境に銀髪の巫女は言う。



「私の名前が知りたいってこと?」


「いや……」



 そういう質問でもなかった。だが、確かに女の名前を知りたい自分もいる。



「教えてくれ。名は何と言う?」



 素直に聞くと、女もまた素直に名乗った。



(かえで)だよ。よろしくね」


「……楓」



 その響きを馴染ませるように呟く境。そんな二人のやり取りを見ていた紬だったが、二人の間に割って入るように一歩前へ出た。



「はじめまして。私は御神楽衆、八洲鎮守(やしまちんじゅ)、巫女端綴の紬です。こっちは討者堅鞘の境。えっと……楓さんも御神楽衆、ですよね?? 担当はどこですか?」



 巫女であれば、いや、あれだけの力を持つ巫女であれば、御神楽衆に違いない。紬はそう思ったのだが、楓は否定した。



「御神楽衆じゃないよー」


「えっ??」



 驚いた紬は質問を重ねるつもりだったが、背後から近付く足音があった。状況を見守っていた葛城である。



「皆さん、ここにいると目立ってしまいます。また識が妖怪を引き連れてやってくるかもしれないので、まずは武器を安全な場所まで」



 そうでした、と真面目に答える紬だが、境は楓から目を離せずにいた。



「あんた、宿が見つかっていないと言っていたな。一緒に来るか?」


「いいの??」



 願ったり叶ったりだ、と目を輝かせる楓に、境は頷いてから葛城を見る。



「何とかしますから、今はここから離れましょう!」



 一行は葛城に従い、この場を去るのだった。

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