先見
紬と葛城を中心に、妖怪の里を落とすための軍議が進められていた。
「相馬さんの文によると、この里にはかなり多くの妖怪がいるようです。数は……足りるのでしょうか?」
不安を見せる葛城に、紬は堂々と支障はないと伝えられなかった。
「御神楽衆の剣士たちは、見ていただいた通りの実力ですが……数の話になると、必ずとは言えないかもしれません」
二人の間に広げられた地図には、妖怪の里がある位置に印が付けられているのだが、その横に蓮華沢村の文字があることに、紬は気付いた。
「こちらは?」
「ああ、隣の蓮華沢村です。この村ほど大きくはありませんが、それなりに賑わっています」
紬は少し考えたようだが、確実に依頼を完遂するとしたら、この方法しかないと判断する。
「では、蓮華沢村に協力をお願いする、というのはいかがでしょうか。妖怪たちの存在は、彼らにとっても脅威です。御神楽衆が主導する戦と知れば、話に乗ってもらえるかもしれません」
「なるほど。蓮華沢村に協力してもらえば、妖怪の里を挟撃できる。かなり有利に進められるかもしれませんね」
その考えに、多くの人が同意したため、御神楽衆の剣士と紬が護衛に付き、葛城は蓮華沢村へ交渉に向かうことになったが、出発を前に楓の護衛である古守が引き止めに入った。
「葛城殿、お待ちください!」
「どうしたのです?」
古守は言う。
「実は……楓さまが頭痛を訴えた後に、この近くの村が燃える様子が見えた、と」
「それは……」
解釈に迷う葛城だったが、すぐ傍で座っていた境が立ち上がった。
「紬、俺も行くぞ」
紬も事態を理解したのか、ただ頷いたため、境は剣士たちに指示を出す。
「十人、俺について来い。残りはこの男に従って、守りを固めろ!」
この男、とは古守のことである。つまりは、楓を守れということだ。境は古守に念を押す。
「頼んだぞ」
「もちろんです」
それから、境たちは蓮華沢村へ急いだ。道中、葛城は境に訊ねる。
「既に蓮華沢村の人々は殺されてしまったのでしょうか?」
「いや、楓が見たのは先のことだ。むしろ、今から村の連中と守りを固められれば、妖怪たちを返り討ちにできるし、交渉も楽に進むはずだ」
半日をかけ、どうにか蓮華沢村に辿り着くが、境が予想した通り、妖怪が攻め込んだ形跡はなかった。
「もう日が暮れていますが、どうにか村の長と話ができそうです」
葛城と紬の説明によって、まずは近々妖怪が攻めてくる、という話は何とか信じてもらえた。蓮華沢村の人間も妖怪の気配を感じていたのか非常に協力的で、いつになるか分からない襲撃に対する備えも円滑に進められた。
「これで一安心だね」
準備を終え、境は物見櫓の上で、夜の見張りを続けていたところ、紬が顔を出した。
「そうだな」
短く答える境の横に紬は腰を下ろす。
「なんかいつもと違うみたいだけど……緊張しているわけじゃないよね?」
「これまで何度も妖怪たちと斬り合ってきたんだ。今更、何を緊張するんだ」
「じゃあ、心配事でも?」
境は黙って答えようとしなかったため、沈黙が流れたが、紬はそれを良しとしなかった。
「……楓さんのことが心配なんだ」
それでも黙り続ける境。紬は困惑しているようだが、なぜ彼女に対して、ここまで口を閉ざすのか、境は自分も分からなかった。
「あのさ、あまり気にしないでほしいんだけど」
紬は躊躇しつつも、何かを伝えようとしている。境は面倒に感じて、物見櫓から降りたかったが、今持ち場を離れるわけにはいかなかった。
「この前も話したかもしれないけど、楓さんに出会ってから境が変になったような気がするんだよね。上手く言えないけど……この戦いが終わったら、どこかにいなくなってしまうような。どうして、そう思うのか、自分でも分からないんだけど」
確かに少し前も同じことを言われた気がする。あのときは自分と楓が一緒に旅立つ姿を想像したが、実際のところ、彼女が何を考えているのか、分かっているわけではない。もしかしたら、彼女こそ自分の前から急に消えてしまうのではないか。
そうなったら、自分はどうすれば良いのだろう。
初めて出会った女だった。愛したいと思える女。いや、強く惹かれる女だったのに……。そんな不安に抗うため、虚空を睨み付ける境だったが、紬の話は終わっていなかった。
「ちゃんと聞いておきたいんだ。……いなくなったり、しないよね?」
「……俺には妹がいる。あいつを残して、どこへ行くって言うんだ」
「うん、そうだよね。ごめん、変なこと言って」
紬はまだ何か話したいようだ。しかし、境は合流した剣士たちの話を始め、それを聞かないよう努めた。そうしていると、境は敵意を感じ取る。
「葛城たちに伝えろ」
「どうしたの??」
「敵が……くるぞ」




