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徒花の巫女  作者: 葛西渚
第二章 翳りゆく心
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先見

 紬と葛城を中心に、妖怪の里を落とすための軍議が進められていた。



「相馬さんの文(ふみ)によると、この里にはかなり多くの妖怪がいるようです。数は……足りるのでしょうか?」



 不安を見せる葛城に、紬は堂々と支障はないと伝えられなかった。



「御神楽衆の剣士たちは、見ていただいた通りの実力ですが……数の話になると、必ずとは言えないかもしれません」



 二人の間に広げられた地図には、妖怪の里がある位置に印が付けられているのだが、その横に蓮華沢村(れんげざわむら)の文字があることに、紬は気付いた。



「こちらは?」


「ああ、隣の蓮華沢村です。この村ほど大きくはありませんが、それなりに賑わっています」



 紬は少し考えたようだが、確実に依頼を完遂するとしたら、この方法しかないと判断する。



「では、蓮華沢村に協力をお願いする、というのはいかがでしょうか。妖怪たちの存在は、彼らにとっても脅威です。御神楽衆(おかぐらしゅう)が主導する戦と知れば、話に乗ってもらえるかもしれません」


「なるほど。蓮華沢村に協力してもらえば、妖怪の里を挟撃できる。かなり有利に進められるかもしれませんね」



 その考えに、多くの人が同意したため、御神楽衆の剣士と紬が護衛に付き、葛城は蓮華沢村へ交渉に向かうことになったが、出発を前に楓の護衛である古守が引き止めに入った。



「葛城殿、お待ちください!」


「どうしたのです?」



 古守は言う。



「実は……楓さまが頭痛を訴えた後に、この近くの村が燃える様子が見えた、と」


「それは……」



 解釈に迷う葛城だったが、すぐ傍で座っていた境が立ち上がった。


「紬、俺も行くぞ」


 紬も事態を理解したのか、ただ頷いたため、境は剣士たちに指示を出す。



「十人、俺について来い。残りはこの男に従って、守りを固めろ!」



 この男、とは古守のことである。つまりは、楓を守れということだ。境は古守に念を押す。



「頼んだぞ」


「もちろんです」



 それから、境たちは蓮華沢村へ急いだ。道中、葛城は境に訊ねる。



「既に蓮華沢村の人々は殺されてしまったのでしょうか?」


「いや、楓が見たのは先のことだ。むしろ、今から村の連中と守りを固められれば、妖怪たちを返り討ちにできるし、交渉も楽に進むはずだ」



 半日をかけ、どうにか蓮華沢村に辿り着くが、境が予想した通り、妖怪が攻め込んだ形跡はなかった。



「もう日が暮れていますが、どうにか村の長と話ができそうです」



 葛城と紬の説明によって、まずは近々妖怪が攻めてくる、という話は何とか信じてもらえた。蓮華沢村の人間も妖怪の気配を感じていたのか非常に協力的で、いつになるか分からない襲撃に対する備えも円滑に進められた。



「これで一安心だね」


 準備を終え、境は物見櫓の上で、夜の見張りを続けていたところ、紬が顔を出した。


「そうだな」



 短く答える境の横に紬は腰を下ろす。



「なんかいつもと違うみたいだけど……緊張しているわけじゃないよね?」


「これまで何度も妖怪たちと斬り合ってきたんだ。今更、何を緊張するんだ」


「じゃあ、心配事でも?」



 境は黙って答えようとしなかったため、沈黙が流れたが、紬はそれを良しとしなかった。



「……楓さんのことが心配なんだ」



 それでも黙り続ける境。紬は困惑しているようだが、なぜ彼女に対して、ここまで口を閉ざすのか、境は自分も分からなかった。



「あのさ、あまり気にしないでほしいんだけど」



 紬は躊躇しつつも、何かを伝えようとしている。境は面倒に感じて、物見櫓から降りたかったが、今持ち場を離れるわけにはいかなかった。



「この前も話したかもしれないけど、楓さんに出会ってから境が変になったような気がするんだよね。上手く言えないけど……この戦いが終わったら、どこかにいなくなってしまうような。どうして、そう思うのか、自分でも分からないんだけど」



 確かに少し前も同じことを言われた気がする。あのときは自分と楓が一緒に旅立つ姿を想像したが、実際のところ、彼女が何を考えているのか、分かっているわけではない。もしかしたら、彼女こそ自分の前から急に消えてしまうのではないか。


 そうなったら、自分はどうすれば良いのだろう。


 初めて出会った女だった。愛したいと思える女。いや、強く惹かれる女だったのに……。そんな不安に抗うため、虚空を睨み付ける境だったが、紬の話は終わっていなかった。



「ちゃんと聞いておきたいんだ。……いなくなったり、しないよね?」


「……俺には妹がいる。あいつを残して、どこへ行くって言うんだ」


「うん、そうだよね。ごめん、変なこと言って」



 紬はまだ何か話したいようだ。しかし、境は合流した剣士たちの話を始め、それを聞かないよう努めた。そうしていると、境は敵意を感じ取る。



「葛城たちに伝えろ」


「どうしたの??」


「敵が……くるぞ」

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