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徒花の巫女  作者: 葛西渚
第二章 翳りゆく心
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 仄の屋敷襲撃から二日後、樒ヶ里村(しきみがさとむら)の外に、黒装束の集団が現れ、それを迎える葛城は感嘆の声を漏らした。



「これだけの討者(うちもの)をいつの間に呼んでいただけたのですか!」


「実は数日前に伝書鴉を飛ばしていたのです」



 紬は答えるが、どこか期待を抱かせないよう、控えめだった。



「と言っても、彼らは討者ではありません。御神渡(おみわたり)も持たない、討者を目指す剣士たちです」



 御神楽衆(おかぐらしゅう)に属する剣士、討者は相当の鍛錬を重ねたもののみに与えられる称号であり、その数は決して多くはない。そのため、各地の妖怪退治に駆り出され、同じ依頼に複数名を派遣することはほとんどありはしないのだ。



「境のような実力も経験もありませんが、数は三十ほど。これだけいれば、屋敷に残った妖怪たちも退治できるので、任せてください!」


「これまでの戦いに比べれば……十分です!」



 葛城はどれだけに希望を抱いたのか。その目は輝くようだった。



「じゃあ、襲撃は明日にしましょう。剣士たちには旅の疲れを癒してもらわないと!」



 そう言って紬は剣士たちの方へ向かう。村の中に入れるわけにはいかないので、紬は野営の準備を促したようだったが、それを眺めていた境は傍らで笑顔を浮かべている楓の方を見た。



「どう思う?」


「何がー?」


「識の野郎を取り逃がした。あいつは仲間を助けるために、戻ってくるか?」


「……うーん」



 楓は表情を変えることなく、明日の天気でも予想するように言う。



「識が戻ってくるとしたら、間を置くことはないんじゃないかな。一度立て直したら、すぐに戻って仲間たちと合流すると思う」


「それは、万象神覚(ばんしょうしんかく)で見えた未来か?」



 楓は万象神覚という特別な力を持つ。それは未来の出来事が見えると言われているが……。



「ちーがーうーよ! 人のことをおみくじみたいに言わないで。ただ、識ならそうすんじゃないかな、って思っただけ」



 神秘の力ではなく、あくまで楓という人間の見立て。そういうことらしいが、境は真剣に意見を吟味しているらしく、顎に手を置いて低く唸っている。楓はそんな境を見て、余計に不安が増してしまったようだ。



「ちょっと、あまり本気にしないでよー? 私が適当なこと言ったせいで、たくさんの人が休みもなく、戦わされると思ったら、気が重いよ」


「いや……お前の言うことは当たる」



 肯定する境だったが、楓からしてみると不満のようだった。



「万象神覚とか、そういうのじゃないよ? 私、変な責任は負いたくないなぁ」


「俺は万象神覚とやらを信じているわけじゃない。お前を信じているんだ」


「……へぇ」



 境は次の行動を決めたのか、楓から離れて剣士たちの方へ歩き出すと、彼らを煽るように手を叩いた。



「お前ら、休んでいる暇はない! 今すぐ妖怪たちをぶった斬りに行くぞ!」



 半数程度の剣士たちは、討者である境の指示に従って腰を上げたが、残りは不満を顔に出す。と言うのも、剣士たちの多くは境より年長者である。最年少で討者の称号を得た境に対し、不信感を持つ剣士も少なからず存在するのだ。



「境、どういうつもり??」



 自分の指示をなかったことにされては、紬としては面白くない。



「皆、長旅の後なんだよ? 向こうだって疲弊しているだろうし、すぐには動かないはずなんだから、まずは休んでもらわないと!」



 しかし、境は聞く耳を持たず、いつまでも座っている剣士の一人を軽く蹴り飛ばし、全員に向かって再び出発を促すのだった。止めようとする紬に、境は言う。



「識の野郎が先に動き出すかもしれない。ゆっくりしている暇はないんだよ」


「どうして先に動くって言い切れるの?」



 その質問に、境は答えず、剣士たちに檄を飛ばし続けた。紬が振り返ると、そこには楓の姿が。向けられた視線に、曖昧な笑顔を返す楓だったが、紬は愛想すら見せずに顔を背けてしまった。



「長旅の後だからって戦えねえって言うなら、討者にはなれねえぞ!」



 境の言葉に奮い立たされた剣士たちは、ついに森へ向かう。前回と違って、不意打ちを狙うわけではないため、忍び足で進む必要もなく、屋敷までの時間は短縮された。



「よし、紬。舞え!」


「はいはい……!」



 ここまで来たのなら、紬も不満を並べるわけにはいかない。彼女が凪の神楽を舞い始めると同時に、境を先頭に剣士たちが屋敷の中に流れ込むのだった。



「斬れ! 一人残さず斬れ!!」



 戦況は圧倒的に優勢だった。楓が舞う必要もなく、妖怪たちは凪の神楽で動きが封じられ、剣士たちに押されて行く。何よりも、圧倒的な境の突破力に、妖怪たちは為す術もなかったのだ。だが、敵の数は半分も減らぬうちに、境は新たな敵の気配を察知する。



「きたな、狐野郎……!!」



 境がその気配に向かって走り出すと、要を失った御神楽衆の剣士たちは、妖怪たちの勢いに押され始め、戦況はほぼ互角となるのだった。

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