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仄の屋敷襲撃から二日後、樒ヶ里村の外に、黒装束の集団が現れ、それを迎える葛城は感嘆の声を漏らした。
「これだけの討者をいつの間に呼んでいただけたのですか!」
「実は数日前に伝書鴉を飛ばしていたのです」
紬は答えるが、どこか期待を抱かせないよう、控えめだった。
「と言っても、彼らは討者ではありません。御神渡も持たない、討者を目指す剣士たちです」
御神楽衆に属する剣士、討者は相当の鍛錬を重ねたもののみに与えられる称号であり、その数は決して多くはない。そのため、各地の妖怪退治に駆り出され、同じ依頼に複数名を派遣することはほとんどありはしないのだ。
「境のような実力も経験もありませんが、数は三十ほど。これだけいれば、屋敷に残った妖怪たちも退治できるので、任せてください!」
「これまでの戦いに比べれば……十分です!」
葛城はどれだけに希望を抱いたのか。その目は輝くようだった。
「じゃあ、襲撃は明日にしましょう。剣士たちには旅の疲れを癒してもらわないと!」
そう言って紬は剣士たちの方へ向かう。村の中に入れるわけにはいかないので、紬は野営の準備を促したようだったが、それを眺めていた境は傍らで笑顔を浮かべている楓の方を見た。
「どう思う?」
「何がー?」
「識の野郎を取り逃がした。あいつは仲間を助けるために、戻ってくるか?」
「……うーん」
楓は表情を変えることなく、明日の天気でも予想するように言う。
「識が戻ってくるとしたら、間を置くことはないんじゃないかな。一度立て直したら、すぐに戻って仲間たちと合流すると思う」
「それは、万象神覚で見えた未来か?」
楓は万象神覚という特別な力を持つ。それは未来の出来事が見えると言われているが……。
「ちーがーうーよ! 人のことをおみくじみたいに言わないで。ただ、識ならそうすんじゃないかな、って思っただけ」
神秘の力ではなく、あくまで楓という人間の見立て。そういうことらしいが、境は真剣に意見を吟味しているらしく、顎に手を置いて低く唸っている。楓はそんな境を見て、余計に不安が増してしまったようだ。
「ちょっと、あまり本気にしないでよー? 私が適当なこと言ったせいで、たくさんの人が休みもなく、戦わされると思ったら、気が重いよ」
「いや……お前の言うことは当たる」
肯定する境だったが、楓からしてみると不満のようだった。
「万象神覚とか、そういうのじゃないよ? 私、変な責任は負いたくないなぁ」
「俺は万象神覚とやらを信じているわけじゃない。お前を信じているんだ」
「……へぇ」
境は次の行動を決めたのか、楓から離れて剣士たちの方へ歩き出すと、彼らを煽るように手を叩いた。
「お前ら、休んでいる暇はない! 今すぐ妖怪たちをぶった斬りに行くぞ!」
半数程度の剣士たちは、討者である境の指示に従って腰を上げたが、残りは不満を顔に出す。と言うのも、剣士たちの多くは境より年長者である。最年少で討者の称号を得た境に対し、不信感を持つ剣士も少なからず存在するのだ。
「境、どういうつもり??」
自分の指示をなかったことにされては、紬としては面白くない。
「皆、長旅の後なんだよ? 向こうだって疲弊しているだろうし、すぐには動かないはずなんだから、まずは休んでもらわないと!」
しかし、境は聞く耳を持たず、いつまでも座っている剣士の一人を軽く蹴り飛ばし、全員に向かって再び出発を促すのだった。止めようとする紬に、境は言う。
「識の野郎が先に動き出すかもしれない。ゆっくりしている暇はないんだよ」
「どうして先に動くって言い切れるの?」
その質問に、境は答えず、剣士たちに檄を飛ばし続けた。紬が振り返ると、そこには楓の姿が。向けられた視線に、曖昧な笑顔を返す楓だったが、紬は愛想すら見せずに顔を背けてしまった。
「長旅の後だからって戦えねえって言うなら、討者にはなれねえぞ!」
境の言葉に奮い立たされた剣士たちは、ついに森へ向かう。前回と違って、不意打ちを狙うわけではないため、忍び足で進む必要もなく、屋敷までの時間は短縮された。
「よし、紬。舞え!」
「はいはい……!」
ここまで来たのなら、紬も不満を並べるわけにはいかない。彼女が凪の神楽を舞い始めると同時に、境を先頭に剣士たちが屋敷の中に流れ込むのだった。
「斬れ! 一人残さず斬れ!!」
戦況は圧倒的に優勢だった。楓が舞う必要もなく、妖怪たちは凪の神楽で動きが封じられ、剣士たちに押されて行く。何よりも、圧倒的な境の突破力に、妖怪たちは為す術もなかったのだ。だが、敵の数は半分も減らぬうちに、境は新たな敵の気配を察知する。
「きたな、狐野郎……!!」
境がその気配に向かって走り出すと、要を失った御神楽衆の剣士たちは、妖怪たちの勢いに押され始め、戦況はほぼ互角となるのだった。




