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徒花の巫女  作者: 葛西渚
第一章 仄かな想い
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決着の行方は

 境は怒りに自らを焼いてしまいそうになりながら、山道を歩いていた。識も仄も逃がしてしまったのは自分の責任である。命を懸けた葛城や紬……楓にどんな顔で会えばいいのか、分からなかった。せめて、識たちの足取りを……と山道を進み続けたが、思わぬものを見つける。



「こいつは……仄の首か!?」



 野ざらしにされていた首は、間違いなく仄のものであった。境は周囲を見渡すが、何者の気配もない。長い髪を掴んで首を持ち上げると、その表情は最後に恐怖を覚えたように見えた。



「まさか……識のやつがやったのか?」



 だとしたら、目的は何か。考えても分からなかったので、境は仄の首を持って山を降りた。仄の屋敷は既に妖怪で溢れていたため、迂回して森に入ろうとしたが、その手前に紬の姿があった。



「境!!」


「先に逃げるよう葛城に言ったはずだ! どうしてここにいる!?」



 駆け寄ってきた紬に怒号を浴びせると、彼女はぐっと眉を寄せて、痛みに堪えるような顔を見せた。



「だって、私が舞わなければ、境が……」



 どうやら、境の身を案じて、妖怪に襲われる危険を負いながらも、ここで舞いを続けていたようだ。



「……すまなかった」


「心配したんだよ」



 境の胸に額を当てる紬だったが、急に飛び退いて、仰天した表情を見せる。



「な、何それ!!」


「大将首だ……」



 仄の首を掲げ、詳しい事情を説明しながら、二人で森を抜け、樒ヶ里村(しきみがさとむら)の景色が見えてくると、葛城たちの姿があった。葛城は真っ先に境が手にする首に気付いたらしい。



「やったのですか!?」


「……いや、俺じゃない。誰かがこいつの首を斬ったんだ」



 境は事情を説明するが、葛城も何が起こったのか、とても理解できないといった顔だが、あの状況で仄の首を斬る者がいたとしたら、識しかいない。



「もし、識だとしたら……何を考えているのでしょうか?」


「分からん。だが、あいつが敵であることは確かなことだ。次会ったときは、必ずぶった斬ってやる」



 拳を握り締める境だったが、妙な視線を感じ、振り返ると楓はこちらを見ていた。声をかけようと彼女の方へ爪先を向けたが、葛城に遮られてしまう。



「今は休みましょう。私の屋敷が無事であればいいのですが」


「ああ、そうだな」



 再び楓の方を見るが、彼女は既に屋敷の方に向かって歩き出している。何だか避けられているのではないか。不満に思う境だったが、紬が隣にやってきた。



「境、お疲れ様。本当に無事でよかった」


「お前もな」



 屋敷は荒らされていたが、住居としての役目が失われるほどではなかった。怪我人の手当も問題ないだろう。葛城は仲間たちに、それぞれの家に向かい、女たちの様子を見てくるよう指示を出すが、仲間たちはすぐに報告に戻ってきた。



「どうやら……女たちは妖術にかかったままのようですね」



 葛城は肩を落としながら、聞き取れないほどの大きさで呟く。



「この調子だと私の妻も同じなのでしょう」



 杠葉が村から立ち去ったことで、妖術は解けたと思いたかったようだが、そんな簡単なものではないらしい。



「やはり、月蝕の三姉妹を全員倒さなければ……この村は解放されない。引き続き、よろしくお願いします」



 葛城に頭を下げられ、境と紬は頷いた。



「任せておけ。あと二体くらい、どうとでもなる」



 仄の討伐も上手く行ったのだ。境は自信に満ちていたが、葛城は目を細める。



「いえ、残った月蝕の三姉妹……翳と蝕は、仄とは違い、個としても強力だと聞きます。確実に今回以上に難しい戦いになるはずです」


「……まぁ、何とかなる。最悪、俺たちが死んでも、御神楽衆から別のやつが派遣されるだけだ。最後には必ずこの村は解放されるよ」


「できれば、ここにいる全員で生き残りたいところですが」



 葛城が微笑み、境も似たような表情を返した。



「さて、しばらくは休んでいてください」



 立ち上がりながら、葛城は言う。



「また相馬さんから情報が入るはずです。それまで、しっかりと傷を癒しましょう」


「そうだな。……あんたはどこ行くんだ?」


「妻の様子を見てきます」



 葛城が出て行ってしまったので、境と紬は用意してもらった部屋へ向かった。ここにも楓の姿はない。境が畳の上に横になると、傍らに座った紬が言った。



「でもさ、杠葉に正体を知られていないかな」


「ん?」


「相馬さんだよ。今回の戦いも、相馬さんが情報を流してくれなかったら、上手く行ってなかったわけだし」



 ああ、と境は思う。



「あいつなら大丈夫だろう」



 なぜか分からないが、そう感じた。同時に、境の頭に識が浮かぶ。相馬の無事よりも、再び現れるだろう識の方が気になって仕方なかったのだ。あの狐の面を思い浮かべるだけで、怒りがこみ上げてきそうだ。



「……今度こそ、ぶっ殺してやる」



 境は呟くが、強い眠気に襲われ、そのまま気を失うように意識が遠のいていくのだった。

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