決着の行方は
境は怒りに自らを焼いてしまいそうになりながら、山道を歩いていた。識も仄も逃がしてしまったのは自分の責任である。命を懸けた葛城や紬……楓にどんな顔で会えばいいのか、分からなかった。せめて、識たちの足取りを……と山道を進み続けたが、思わぬものを見つける。
「こいつは……仄の首か!?」
野ざらしにされていた首は、間違いなく仄のものであった。境は周囲を見渡すが、何者の気配もない。長い髪を掴んで首を持ち上げると、その表情は最後に恐怖を覚えたように見えた。
「まさか……識のやつがやったのか?」
だとしたら、目的は何か。考えても分からなかったので、境は仄の首を持って山を降りた。仄の屋敷は既に妖怪で溢れていたため、迂回して森に入ろうとしたが、その手前に紬の姿があった。
「境!!」
「先に逃げるよう葛城に言ったはずだ! どうしてここにいる!?」
駆け寄ってきた紬に怒号を浴びせると、彼女はぐっと眉を寄せて、痛みに堪えるような顔を見せた。
「だって、私が舞わなければ、境が……」
どうやら、境の身を案じて、妖怪に襲われる危険を負いながらも、ここで舞いを続けていたようだ。
「……すまなかった」
「心配したんだよ」
境の胸に額を当てる紬だったが、急に飛び退いて、仰天した表情を見せる。
「な、何それ!!」
「大将首だ……」
仄の首を掲げ、詳しい事情を説明しながら、二人で森を抜け、樒ヶ里村の景色が見えてくると、葛城たちの姿があった。葛城は真っ先に境が手にする首に気付いたらしい。
「やったのですか!?」
「……いや、俺じゃない。誰かがこいつの首を斬ったんだ」
境は事情を説明するが、葛城も何が起こったのか、とても理解できないといった顔だが、あの状況で仄の首を斬る者がいたとしたら、識しかいない。
「もし、識だとしたら……何を考えているのでしょうか?」
「分からん。だが、あいつが敵であることは確かなことだ。次会ったときは、必ずぶった斬ってやる」
拳を握り締める境だったが、妙な視線を感じ、振り返ると楓はこちらを見ていた。声をかけようと彼女の方へ爪先を向けたが、葛城に遮られてしまう。
「今は休みましょう。私の屋敷が無事であればいいのですが」
「ああ、そうだな」
再び楓の方を見るが、彼女は既に屋敷の方に向かって歩き出している。何だか避けられているのではないか。不満に思う境だったが、紬が隣にやってきた。
「境、お疲れ様。本当に無事でよかった」
「お前もな」
屋敷は荒らされていたが、住居としての役目が失われるほどではなかった。怪我人の手当も問題ないだろう。葛城は仲間たちに、それぞれの家に向かい、女たちの様子を見てくるよう指示を出すが、仲間たちはすぐに報告に戻ってきた。
「どうやら……女たちは妖術にかかったままのようですね」
葛城は肩を落としながら、聞き取れないほどの大きさで呟く。
「この調子だと私の妻も同じなのでしょう」
杠葉が村から立ち去ったことで、妖術は解けたと思いたかったようだが、そんな簡単なものではないらしい。
「やはり、月蝕の三姉妹を全員倒さなければ……この村は解放されない。引き続き、よろしくお願いします」
葛城に頭を下げられ、境と紬は頷いた。
「任せておけ。あと二体くらい、どうとでもなる」
仄の討伐も上手く行ったのだ。境は自信に満ちていたが、葛城は目を細める。
「いえ、残った月蝕の三姉妹……翳と蝕は、仄とは違い、個としても強力だと聞きます。確実に今回以上に難しい戦いになるはずです」
「……まぁ、何とかなる。最悪、俺たちが死んでも、御神楽衆から別のやつが派遣されるだけだ。最後には必ずこの村は解放されるよ」
「できれば、ここにいる全員で生き残りたいところですが」
葛城が微笑み、境も似たような表情を返した。
「さて、しばらくは休んでいてください」
立ち上がりながら、葛城は言う。
「また相馬さんから情報が入るはずです。それまで、しっかりと傷を癒しましょう」
「そうだな。……あんたはどこ行くんだ?」
「妻の様子を見てきます」
葛城が出て行ってしまったので、境と紬は用意してもらった部屋へ向かった。ここにも楓の姿はない。境が畳の上に横になると、傍らに座った紬が言った。
「でもさ、杠葉に正体を知られていないかな」
「ん?」
「相馬さんだよ。今回の戦いも、相馬さんが情報を流してくれなかったら、上手く行ってなかったわけだし」
ああ、と境は思う。
「あいつなら大丈夫だろう」
なぜか分からないが、そう感じた。同時に、境の頭に識が浮かぶ。相馬の無事よりも、再び現れるだろう識の方が気になって仕方なかったのだ。あの狐の面を思い浮かべるだけで、怒りがこみ上げてきそうだ。
「……今度こそ、ぶっ殺してやる」
境は呟くが、強い眠気に襲われ、そのまま気を失うように意識が遠のいていくのだった。




