運命の出会い①
「なんだ、この大量の武器は??」
境は畳の上に並ぶ、数えきれない武器を見て思わず呟いた。刀だけでなく、槍や弓もある。戦でも始まるのか、と葛城の方を見るが、彼は武器を一つ抱えると出入り口の近くに移動させていた。
「申し訳ないのですが、詳しい話は後で。今は武器を運び出さなくては」
手伝ってください、と葛城は槍を境に手渡し、次に弓を取って紬に渡す。紬は手元の弓と、畳に並ぶ武器を交互に見た後、葛城に確認する。
「これ、全部ですか??」
「ええ、識がやってくる前に、すべて終わらせなくては!」
大量の武器を前に、真面目な紬すら躊躇ったが、葛城自身が武器を担いで外へ出て行ってしまった。どうやら、屋敷の前に置かれた荷車に武器を積んでいるらしい。
「……やるしかないよね」
紬の前向きな言葉に、境も従うしかない。しかし、すぐに荷車はいっぱいになり、葛城の仲間がどこかへ運び出すと、三人に会話の余裕が生まれたので、境は気になっていた疑問を投げかける。
「さっきから名前が出ている、識ってのはなんだ?」
「狐の面をかぶった妖怪です。私たちの目的にいち早く気付き、何人も仲間が殺されました」
「狐の面だって?」
眉根を寄せる境に、葛城は頷き、目を細めた。どれだけの仲間が識によって奪われたのか。彼の表情からは怒りと恐怖が滲んでいた。
「強いのか?」
「はい。恐ろしいほどに。この前も、上手くおびき寄せて、数名で取り囲んだのですが、全員殺されましたよ」
妖怪とは言え、複数人で囲ってしまえば、退治できないことはない。それが、全員返り討ちになったということは、上級妖怪と言われる部類に間違いないだろう。葛城は言う。
「貴方たち、御神楽衆に助けを求めようと決断したのも、識の存在が大きい。我々では、どうにもならない、と思い知らされました」
「どうして、識が来ると分かるのです?」
紬の質問に葛城は頷く。
「我々に情報を流してくれる仲間がいるのです」
「間諜、ですか??」
「はい。明日、顔を合わせる予定があるので紹介します」
妖怪たちの中に人間が紛れ込んでいる、ということか。境は聞きながら疑問に思ったが、勢いよく戸が開いた。武器を運ぶ荷車の担当が戻ったようだが、何やら騒がしい。
「大変だ、葛城さん! 妖怪どもが外に!」
「さっそくですか!!」
葛城の視線に、境と紬は頷いて外に飛び出した。闇夜の中、全身が毛で覆われた異形のものたちが、赤い目を光らせながら近づいてくる。先程境が斬った、禍猿のようだが、一回りほど体が大きいようだ。普通の人間では、その不気味な姿に逃げ出すところだが、境は御神渡の柄を握りながら、笑みを浮かべる。
「イチ、ニィ、サン……ゴォ。大した数じゃないな」
「サンの次はシ、あるいはヨンだからね」
「大して変わんねえよ!」
呆れる紬を残し、境は禍猿たちに向かって駆け出す。間合いは一瞬で消失し、鞘走りの音と同時に黒い血が弧を描く。腹を裂かれた一体が崩れるよりも速く、境は隣の禍猿に斬りかかった。瞬時に二体の禍猿が倒れる様子を見て葛城は期待を膨らませる。
「凄い。これなら……識に勝てるかもしれない!」
あっという間に、四体の禍猿を屠った境だが、どこか納得していない様子で、その死骸を見下ろしていた。が、何を感じたのか顔を上げると、その向こうに……ゆっくりと近付く影が。
「狐の面。……ってことは、お前が識か」
向かってくる影に、刀の切っ先を向ける境。小奇麗な着物に身を包んだその人物は、確かに面を被っていた。狐を模した白い面。表情が見えないだけに、不気味である。その姿を目にした葛城が叫んだ。
「間違いありません、識です!」
境は刀を振って付着した血を払うと、構えながら笑った。
「荷物運びに手応えのないやつの相手で退屈していたんだ。相手になれよ、狐野郎」
挑発的な言葉に対しても、識は歩調を変えることなく、ただゆっくりと向かってくる。その威圧感に紬は唾を飲み込んだ。
「境! 凪の神楽を舞うよ!」
凪の神楽。それは巫女による、妖怪の力を抑える神聖な舞だ。巫女が舞で妖怪の力を抑え、討者が御神渡で斬る。これが御神楽衆の基本的な戦術なのだが、境は紬の提案を鼻で笑った。
「必要ない。見ていろ!」
好戦的な境に、紬はもどかしさを感じるが、彼と組んでいる限りは仕方のないことだ。地を蹴って識へ襲い掛かる境の背中を見送るしかなかった。




