表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/37

復讐を目論む妖怪

 (しき)は、小高い山から樒ヶ里村(しきみがさとむら)を一人見下ろしていたが、背中に近付く気配を察知し、ゆっくりと面を持ち上げて顔を覆った。



柘榴(ざくろ)か」


「はい」



 狐を模した白い面で隠された顔をわずかに背後へ向けると、そこには質素な着物に身を包んだ女、柘榴の姿があった。彼女は妖怪独自の赤い瞳を伏せながら、膝をついて識に報告する。



「例の屋敷を見張っていた禍猿(まがざる)が斬られました。しかも、一撃で」


「……ふむ。御神楽衆(おかぐらしゅう)が到着したか」



 識は腰に下げた刀の柄に手を置く。



「予定通りだ。今夜、屋敷を襲うぞ」



 柘榴が頷くと、識は振り返って、山を降り始める。樒ヶ里村(しきみがさとむら)へ向かうが、途中で後ろに付き従う柘榴が言った。



御神楽衆(おかぐらしゅう)の他にも、村に入ってきたものがいます」


「人の出入りくらいあるだろう。何を気にする?」


「それが、珍しい乗り物だったもので。馬に車を引かせていました」


「馬車か。(みやこ)の貴人がこんな村にやってきたのだろうか」


「いえ、恐らくは巫女です。そんな匂いでした」



 識たち妖怪の天敵と言える御神楽衆は、基本的に巫女と討者(うちもの)の二人組で動く。御神楽衆がきたのであれば、巫女がいるのは不自然ではないのだが、柘榴がわざわざ報告してくる、ということは……。



「御神楽衆ではない、ということか?」


「分かりません。葛城が呼び寄せたと思われる御神楽衆の二人は屋敷に入りましたが、その巫女は乗り物から出てきていません」


「見ておくか」



 山を少し下ると、例の屋敷が見えてきた。まだ距離はあるが、屋敷の周辺を見下ろすには十分だ。



「あれです」



 柘榴が言う通り、派手な装飾が施された馬車が止まっている。刀を下げた護衛らしき男も控えているところを見ると、やはり貴人のものと思われたが……。



「……なんだ?」



 識は目を凝らす。馬車の小窓は御簾で覆われ、中の人物は見えないが、識は視線を感じた。



「見られている」



 その呟きに、柘榴も馬車を凝視するが、やはり人が顔を出した様子はない。識は言う。



「妙な感じがするな。厄介ごとの種にならねばいいが」


「襲撃は後日にしますか?」


「いや、機会を逃しては面白くない。予定通り、今夜だ」


「承知しました。では、準備を進めておきます」



 柘榴の姿は既にない。日が暮れ始め、自分も動かなければならない、と狐の面を取る識だったが、それと同時に例の馬車に動きがあった。



「やはり、巫女か」



 女が顔を出している。何かを探すように、左右に視線を動かしていた。



「……(ひいらぎ)?」



 識は女の顔を見て呟く。かつて、自分の傍にいた女の名前を。



「いや、そんなわけがない」



 女は既に死んでいるのだから。だが、よく似ていた。その顔立ちをよく見れば、別人であることは間違いない。何よりも、馬車の女は人間とは思えない銀髪をなびかせている。識の記憶にある(ひいらぎ)は、葦原神國(あしはらのみくに)の民らしい、黒い髪を揺らしていたのだから。



(それなのに……似ている)



 同じ巫女だから。いや、そんな簡単に説明できない何かが、二人の女を一致させていた。すると、馬車の女がこちらに振り向く。目が合った。



(見えているのか? 人の視力では見えない距離だと思うが……)



 しかし、女は確かにこちらを見ている。識は思わず仮面で表情を覆いながら、木の後ろに隠れた。



(なんだあの女は……)



 木に隠れても、女の視線に貫かれるような感覚が抜けない。御神楽衆の巫女であれば、何か異質な術を使って、こちらを見ようとしている恐れはある。だが、危険を冒してでも、一度女の姿を見たくて仕方がなかった。



(まさか、人の女に魅了されているのか。私が……?)



 そんなわけがない。もう二度と惑わされることはないはずだが……。



(消えた?)



 木の影から顔を出してみたが、識が身を隠している間に走り去ったらしく、馬車は消えていた。予定している夜の襲撃……いや、今後の障害にならなければ良いのだが……。


 そう思いながらも、識の頭の中から女の視線が消えなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ