囚われの杠葉
「もう一度聞くぞ」
境は座敷牢の中で座る杠葉に問いかける。
「月蝕の三姉妹とかいう妖怪どもの居場所はどこだ?」
杠葉は布を巻かれて視界を奪われていた。そんな状態で一夜を過ごし、朝が来ると同時に頭から水をかけられて目を覚ましたのである。
「こんなことが許されると思っているのか? 私はこの村の長なんだぞ。妖怪と関係があるわけがなかろう!」
「妖怪の傀儡がよく言うぜ。口を割らないってなら、少しだけ痛い目を見てもらうか」
境は座敷牢の中へ入ると、容赦なく平手で杠葉の頬を打った。杠葉は悲鳴を上げながら畳に倒れ込む。
「何をするんだー!?」
手も縛られているため、体を起こすこともできない杠葉だが、気の強さは失われていないらしい。烈火のごとく怒りをまき散らす杠葉は言った。
「私に手を出したら、仄さまが黙っていないぞ!!」
「はいはい。いい関係を築いているようで」
「あっ」
口を滑らせた杠葉の尻を蹴り付ける境。ぎゃっ、と呻いた杠葉を踏み付けると、質問を重ねる。
「じゃあ、その仄の居場所を教えろ。優しく話を聞いていられるのも、今だけだぞ」
既に二度も打たれているにも関わらず、まだ優しい方だと聞かされた杠葉は、言葉を失ったようだ。境は踏み付ける足に力を込めながら、さらに杠葉の不安を煽る。
「次はちょっと痛いから、頑張って我慢しろよ?」
「な……何をするつもりだ!?」
「右の腿を刺す」
境は小刀を鞘から抜く。その音に杠葉は恐怖したようだった。
「ま、待ってくれ! 私は――」
杠葉の言葉は悲鳴によって遮られる。しかも、境が小刀で刺したのは、左の腿だった。
「おいおい、騒ぐなよ。傷は浅いぞ? 次は指を折るか、腕の筋を切るか。どっちにする?」
「ぎゃああああーーー! 手は、手はやめてくれ!!」
「ああ、三味線を弾くんだったな。後遺症が残らないよう傷付けるのは、あまり得意じゃないんだ。悪いな」
「分かった! 言う! 言うから!!」
「いいよ、言わなくて。お前が痛がるところを見た方が、俺は楽しいからな」
「何でも言う! 言うからぁぁぁーーー!!」
境は小刀を振り上げると、柄の底で杠葉の腕を叩いた。
「いやぁぁぁーーー!!」
刺された、と勘違いしたのだろう。杠葉はのたうち回るが、そんな姿を見る境は上機嫌である。
「よし、次は本当に刺すぞ。分かったら喋ろ。仄の居場所だ」
「分かった。分かったから、まずは刀を納めてくれ!!」
「最初に言っておくぞ。俺は嘘が大嫌いだ。指の数を減らしたくないなら、本当のことを話せ」
境は杠葉の胸倉を掴んで強引に立たせると、壁に叩き付けてから座らせた。呼吸を繰り返す杠葉。様子を見るように、境は距離を取った。
「わ、私は……本当に何も知らないんだ」
やっとの思いで口を開く杠葉に、境は大袈裟に溜め息を吐いた。
「そうか、三味線は諦めるか」
再び詰め寄る境の気配に、杠葉は絶叫する。
「違うんだ! 本当に何も知らないんだ! 聞いてくれ。まずは最後まで聞いてくれ!」
「……俺は気が短い。もう分かっているよな?」
「分かっている。分かっているから!」
そこから、杠葉の話が続いた。ただ、彼は週に一度だけ仄と会うばかりで、そのときも向こうから時間と場所を指定されるだけで、彼女たちの拠点と言われる場所は何一つ知らないとのことだった。
「あくまで白を切るか」
「知らないものは知らない! 信じてくれ……!!」
悲壮感が漂う杠葉の訴えに、今まで黙り続けていた紬が口を開いた。
「杠葉さん。もし妖怪たちの報復が怖いのであれば安心してください。貴方の身の安全は、御神楽衆が保証しますから」
「むっ、女子か?」
これまで絶望に生気を失い続けていた杠葉だったが、紬の声を聞いた途端、光を見出したような声を出した。
「話してくれますか?」
「君のために話したいと思う。だが、本当に何も知らないのだ」
境と紬は目を合わせ、これ以上は難しいと判断したようだった。それでも、境は杠葉の頬を手の平で打ってから言い聞かせる。
「少しだけ休ませてやる。だが、次に俺が戻ってきたときは、お前を死なない程度に痛めつける道具を持ってくるから、覚悟しておけよ」
再び頭から水をかけられ、杠葉は強い絶望に沈んだようだった。




