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徒花の巫女  作者: 葛西渚
第三章 蝕まれる世界
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懐柔

相馬の腕に抱かれ、紬は困惑していた。



「あの、相馬さん?」



しかし、彼に冷静な気持ちを取り戻すよう促すつもりで、その名を呼んだが、抱き締める力は、さらに強くなった。



「私も……貴方のような人にいてほしかった」


「えっ?」



紬は相馬の震えに気付く。彼がどんな状況に身を置いていたかは分からない。しかし、一人で耐え続けていることは確かだ。それだけではない。いつだか、相馬と二人で話したことを思い出す。



「お願いです」



相馬が弱々しい声で言った。



「この戦いが終わったら、私と一緒にきてくれないでしょうか? ずっと傍にいてほしいのです」


「傍に、って……」


「私は、貴方が欲しい。こんな風に、貴方を苦しめる男の傍に、置いておくなんて、私にはできない」



どういう意味だろうか。ずっと傍に、ということは夫婦になるということだ。紬は混乱しながらも、これだけ強く男に求められたことがなかったため、強い高揚感を抱きつつあった。



「あの、でも……私、相馬さんのこと、よく知りません」


「これから、知ってもらえるよう尽力します」



返す言葉が見つからず、黙っていると、相馬が少しだけ顔を離した。



「顔を見せてください」


「い、嫌です」



表情を見せまいと、顔を伏せるが、相馬の指先に顎を押し上げられ、瞳の中を覗き込まれてしまう。



「やめてください。馬鹿みたいに泣いた後だから、酷い顔しているはず。……恥ずかしい、です」


「いいえ、可憐です。初めて目にしたときから、その凛とした姿に魅力を感じていたくらいですから」


「嘘です……。揶揄(からか)わないでください」


「揶揄ってなどいない。心の底から、傍にいてほしいと願っています。駄目ですか?」


「それは……」



目を逸らしつつ、できない、と伝えるつもりだったが、相馬の指先に力が入って、視線を強制されたかと思うと、唇によって口を塞がれる。


境以外の男とこんなことを……。


強い罪悪感が胸の中に渦巻くが、同時に拒絶された昨晩の痛みが、癒されるような感覚もあった。このまま、身を任せてしまえば、もっと満たされるのだろうか。もっと楽になるのではないか。そんな欲望すら生まれる。唇を離して、今度は視線を囚われると、相馬の美しい眉目から強い想いを感じさせられた。



「迷っているのですか?」


「そうじゃなくて……」



迷うわけがない。だって、自分は心に決めた男がいるのだから。それなのに抵抗できない自分。抵抗しようとしない自分が分からなかった。そんな紬を理解するように、相馬は優しく頬を撫でてくる。



「すぐに答えが欲しいわけではありません。でも、今だけでも、私のものになってください」


「今だけ、ですか?」



紬はその意味を理解していなかったが、相馬が次にどんな言葉をかけてくれるのか、期待に近い好奇心を抱いてしまう。そんな気持ちを相馬は察したらしい。紬の腕を掴むと、強く引っ張って近くの納屋に入り込んだ。固く閉ざされた扉に、さすがの紬も自分が置かれた状況を理解する。



「相馬さん、待って――!!」



再び唇が重ねられ、言葉を遮られてしまうが、今度はそれだけではない。着物が剥がされ、露わとなった肌を撫でられ、膨らみを相馬の手が包み込む。



「嫌、です。お願いだから……」



拒否するつもりが、甘い吐息が漏れ、さらに感じたことのない刺激が秘部に走る。帯が引かれ、さらに白い肌を相馬の目に晒してしまうが、体を撫でつけられるうちに、抵抗する気持ちは失われて行った。


そして、相馬の下腹部にある固いものを押し付けられたとき、求められる喜びと、拒否される苦しみを与えたくないという思いが過る。


この人を悲しませないためにも、受け入れるしかない。そんな結論に至ってしまうと、今この瞬間のことしか考えられなかった。この男を受け入れた先に、きっと安らぎがある。そうに違いないと、考えが定まってしまったのだ。



「相馬さん、私……!」


「今だけですから。そのあとのことは……また後で考えてもらえれば、十分です」



違う。初めてなのだ、と伝えるつもりだったが、相馬の手の平に口を塞がれると、異物が侵入してくる感覚に、体の芯が突き上げられる。少しずつ痛みが快楽に変わり、思考がぼんやりと鈍る中、紬は相馬の腹に浮かぶ刀傷を目にするのだった。

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