懐柔
相馬の腕に抱かれ、紬は困惑していた。
「あの、相馬さん?」
しかし、彼に冷静な気持ちを取り戻すよう促すつもりで、その名を呼んだが、抱き締める力は、さらに強くなった。
「私も……貴方のような人にいてほしかった」
「えっ?」
紬は相馬の震えに気付く。彼がどんな状況に身を置いていたかは分からない。しかし、一人で耐え続けていることは確かだ。それだけではない。いつだか、相馬と二人で話したことを思い出す。
「お願いです」
相馬が弱々しい声で言った。
「この戦いが終わったら、私と一緒にきてくれないでしょうか? ずっと傍にいてほしいのです」
「傍に、って……」
「私は、貴方が欲しい。こんな風に、貴方を苦しめる男の傍に、置いておくなんて、私にはできない」
どういう意味だろうか。ずっと傍に、ということは夫婦になるということだ。紬は混乱しながらも、これだけ強く男に求められたことがなかったため、強い高揚感を抱きつつあった。
「あの、でも……私、相馬さんのこと、よく知りません」
「これから、知ってもらえるよう尽力します」
返す言葉が見つからず、黙っていると、相馬が少しだけ顔を離した。
「顔を見せてください」
「い、嫌です」
表情を見せまいと、顔を伏せるが、相馬の指先に顎を押し上げられ、瞳の中を覗き込まれてしまう。
「やめてください。馬鹿みたいに泣いた後だから、酷い顔しているはず。……恥ずかしい、です」
「いいえ、可憐です。初めて目にしたときから、その凛とした姿に魅力を感じていたくらいですから」
「嘘です……。揶揄わないでください」
「揶揄ってなどいない。心の底から、傍にいてほしいと願っています。駄目ですか?」
「それは……」
目を逸らしつつ、できない、と伝えるつもりだったが、相馬の指先に力が入って、視線を強制されたかと思うと、唇によって口を塞がれる。
境以外の男とこんなことを……。
強い罪悪感が胸の中に渦巻くが、同時に拒絶された昨晩の痛みが、癒されるような感覚もあった。このまま、身を任せてしまえば、もっと満たされるのだろうか。もっと楽になるのではないか。そんな欲望すら生まれる。唇を離して、今度は視線を囚われると、相馬の美しい眉目から強い想いを感じさせられた。
「迷っているのですか?」
「そうじゃなくて……」
迷うわけがない。だって、自分は心に決めた男がいるのだから。それなのに抵抗できない自分。抵抗しようとしない自分が分からなかった。そんな紬を理解するように、相馬は優しく頬を撫でてくる。
「すぐに答えが欲しいわけではありません。でも、今だけでも、私のものになってください」
「今だけ、ですか?」
紬はその意味を理解していなかったが、相馬が次にどんな言葉をかけてくれるのか、期待に近い好奇心を抱いてしまう。そんな気持ちを相馬は察したらしい。紬の腕を掴むと、強く引っ張って近くの納屋に入り込んだ。固く閉ざされた扉に、さすがの紬も自分が置かれた状況を理解する。
「相馬さん、待って――!!」
再び唇が重ねられ、言葉を遮られてしまうが、今度はそれだけではない。着物が剥がされ、露わとなった肌を撫でられ、膨らみを相馬の手が包み込む。
「嫌、です。お願いだから……」
拒否するつもりが、甘い吐息が漏れ、さらに感じたことのない刺激が秘部に走る。帯が引かれ、さらに白い肌を相馬の目に晒してしまうが、体を撫でつけられるうちに、抵抗する気持ちは失われて行った。
そして、相馬の下腹部にある固いものを押し付けられたとき、求められる喜びと、拒否される苦しみを与えたくないという思いが過る。
この人を悲しませないためにも、受け入れるしかない。そんな結論に至ってしまうと、今この瞬間のことしか考えられなかった。この男を受け入れた先に、きっと安らぎがある。そうに違いないと、考えが定まってしまったのだ。
「相馬さん、私……!」
「今だけですから。そのあとのことは……また後で考えてもらえれば、十分です」
違う。初めてなのだ、と伝えるつもりだったが、相馬の手の平に口を塞がれると、異物が侵入してくる感覚に、体の芯が突き上げられる。少しずつ痛みが快楽に変わり、思考がぼんやりと鈍る中、紬は相馬の腹に浮かぶ刀傷を目にするのだった。




