表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/37

相馬の情報

 朝が来ると、葛城がやってきた。



(きょう)殿、(つむぎ)殿。今後について話し合いたい。来ていただけないでしょうか」



 二人は廊下に出て案内に従うが、葛城が振り返った。



(かえで)殿は?」



 紬が口を開きかけるが、それよりも早く境が答える。



「さぁな。起きたら既にいなかった」



 いつもなら、面倒な会話を避ける境がいち早く反応したところを見て、紬は目を細めるが、そうしている間に屋敷で一番広いと思われる部屋に辿り着いた。


 そこには、昨日から何度か見ていた葛城の仲間が何人か座っていたが、見知らぬ男が一人混じっている。



「彼が相馬です」



 境と紬の疑問を察したのか、葛城がその男を紹介した。鋭い目つきは理知的な性格を連想させ、真っ直ぐ伸びた姿勢は、数々の困難を乗り越えてきたであろう自信を窺わせる。が、相馬はゆったりと物腰の柔らかい調子で頭を下げた。



「はじめまして。御神楽衆の方々に協力いただけること、嬉しく思います」


「あんたが妖怪どもを探っているって言う、相馬か」



 境は腰を下ろしながら相馬の表情を見るが、彼は床に視線を向けたまま、目を合わせようとしなかった。



「こちらが討者(うちもの)の境殿。こちらが巫女の紬殿です」



 葛城が二人を紹介する。



「昨日、識の襲撃がありましたが、さっそくお二人が力を発揮してくれました。あの識を追い返したのですよ」


「それは、頼りになること間違いありませんね」



 なかなか顔を上げようとしない相馬に、葛城は困ったように眉根を寄せたが、本題に入ることにしたようだった。



「それで、杠葉の屋敷は相変わらずですか?」



 葛城の質問に、相馬が顔を上げた。



「はい。女たちを集めて夜会を開く日々です。妖怪たちの守りも硬いまま」


「下手に手を出せば、こちらが罪人扱いですからね。女たちを人質に取るようなことがあれば、さらに厄介だ」



 相馬は頷く。



「しかし、杠葉が週に一度だけ最小限の護衛を付けて屋敷を出る日があると分かりました」


「ほう」



 葛城は眼鏡の奥で目を光らせる。相馬も見えた勝ち筋が共有できると笑みを浮かべたようだった。



「おそらくは(ほのか)に会っていると思われます」


「月蝕の三姉妹。その末妹か」



 その場にいる男たちが、驚きの声を漏らす。村を支配する玄天狐党(げんてんことう)。その元締めと言える月蝕の三姉妹は、居場所すら分かっていなかったからだ。



「仄がどこにいるのか。それが分かるだけでも戦局に大きな影響が出るかもしれませんね」


「ええ、杠葉の後を追えば、その可能性は十分にあります」


「しかし、何のために杠葉は仄のところへ?」


「噂によると、仄は杠葉をかなり気に入っているようで……」



 つまり、杠葉は体を提供している、ということか。葛城は言う。



「いつの世も、男女の関係から、物事のほつれが見えるものですね。もし、仄の居場所が分からなかったとしても、杠葉を捕らえられるかもしれない。この機会は逃したくないものです」



 それは誰もが合意するところだった。



「ただ、懸念すべき点が一つあります」



 簡単な話ではない、と相馬は話す。



「いつ杠葉が屋敷を出るのか。それは直前まで分かりません」


「なるほど。時期が読めないとなると……」


「もちろん、分かったら即時報せますが、仕掛けるべき頃合いを逃してしまう恐れはありましょう」


「常に備えておくしかありませんね。では、迅速な報せを頼みます」



 相馬は頷くと、すぐに立ち上がった。どうやら用が終わったので、すぐに退散するらしい。相馬が屋敷を出ると、境は葛城に聞いた。



「今の男、妖怪と血の匂いが混じっているようだった。信頼できるのか?」



 葛城は頷く。



「我々のために、手を汚してくれているのです。ある意味、彼が一番の犠牲者と言えるかもしれません」



 嫌な空気が流れた。相馬は妖怪たちの巣に入り込み、命がけで情報を流しているのだ。誰もが嫌がる役目を押し付けていると思うと、その辺りは触れにくいのだろう。



「でも、凄く頼りになりそうな方でしたよね」



 そんな空気を少しでも軽くしようと考えたのか、紬が明るく発言すると、葛城もそれに応えようと笑顔を見せた。



「ええ、そうなのです。だから、我々も彼に命を預けられる。不思議と想いを託したいと思える男なのですよ」



 集まる男たちは相馬を称えるように頷き合うが、境は相馬に抱いた違和感が拭えず、彼が去った方を眺め、目を細めるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ