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私は入る会社を間違えたかもしれない。  作者: オツタロ


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25/26

3年後

退職してから3年後

私は再就職した2社目の会社もトラブルに巻き込まれ退職することになった。

東京に未練もなかったのでこれを機会に地元に帰ることにした。


ある日私のガラケーに一通のメールが届いた。

私はスマホとガラケーの2台持ちをしていた。

とは言ってもガラケーは実家の両親との電話メール用に使っているだけだった。

いつものように両親からのメールかなと開けるとそこには元同期の名前が表示されていた。

彼は同期内のムードメーカーで私と地元が一緒ということもあり私のことを気にかけてくれていた1人だった。

メールにはこう書かれていた。

”この度会社を退職することになりました。

日程に都合があえば一緒に呑みに行きませんか。”

記憶にある彼からは想像もできないくらいかしこまった書き方だった。

私は地元に帰っている旨を伝えると彼からもすぐに返信があり私たちは地元の居酒屋で会うことになった。


居酒屋に着きビールで乾杯をした。

3年ぶりに会う彼はどこかやつれているように見えた。

「どうして会社を辞めたん?

君は先輩社員たちから可愛がられていただろう。」

「君が辞めたのって3年前やっけ。」

私は頷きビールを飲んだ。

「あの時の社内の雰囲気は今よりもマシだったなー。」

「いやいや、全然よくなかったでしょう。結構地獄やったよ。」

「いやいや、全然マシよ。

というかそれは君の周りの人たちがおかしすぎたんよ。

こいつやべー奴だわ、近づかんとこ。って思っているやつは必ずと言っていいほど君のチームメンバーや指導員やったからね。

くじ運悪すぎやろーって話題になっていたよ。」

「期待されての入社ではなかったからやべーやつを割り当てられていたのかもしれないね。」

「その可能性は高いね。」

そう言って二人でジョッキのビールを飲み干し追加のビールを注文した。

「あの当時は君をいじめてもいい風潮が社内に蔓延していた。

情報基盤部の人やらあの課長といい君は大きなところのターゲットになっていた。

どちらかが退職に追い込むからいじめていてもいいやろうって感じやった。

残業代がでなくてサビ残だらけになっていることなんて公然とバカにしていいってなっていた。

後輩や俺らが年収600万以上もらっている中で君が450万しかもらえてないってあの課長はよく飲み会でバカにしていたよ。

君というワードで変な結束みたいなんが生まれてた。」

「狂っとるなぁ。それと君が辞めた理由と関係あるのかい。」

「ないな。俺が辞めた理由は別なんや。

数ヶ月前に社長から全社命令があって、派遣社員を大幅に減らせと指令が出たんや。

それで社内の空気は一変した。

どのチームも一律減らすってことにならんで負けたチームの派遣社員が全員クビになるってなったんや。

社内は戦争状態や。

今まで問題にならんかったようなミスで烈火のごとく怒るようになったり、

派遣社員がされていたような打ち合わせにちょっとでも遅刻したらペナルティーだって言い出す人が出てきたり、

部署間でもチーム間でもいがみ合っていた。

そんな社内戦争の結果俺のチームは負けた。派遣社員全員クビや。

課長がそれを言ってくれると思っていたら俺に白羽の矢がたった。

先輩社員でもなく俺にだ。

チームで一番下っ端の俺にだ。

これも経験やとそう言われた。

課長も先輩社員もさっさと終わらせろって言うだけで誰も味方になってくれへんかった。」

彼の眼は潤み、今にも涙があふれそうな表情になっていた。

「俺はやりきったよ。一人ひとりに伝えたら身が持たんと思ったから全員集めてクビになることを伝えた。

予想通り暴言の嵐やった。

正社員の争いでなんで俺たちがクビにならんといかんのだってさ。

今まで家族やとか仲間やと言っていたのは口だけだったのか。

俺は言葉が出んかった。

それから派遣社員たちの最終出社日までは針の筵やった。」

「それで会社を見限ったということか。」

「それだけやない。

そんな俺を見て課長も先輩たちも”辛気臭い奴、早く立ち直れよ”とか言いよった。

同期に話したら”派遣社員がクビになったからって気にしすぎだよ。切り替えて行こう!”

と言いよる。

”派遣社員なんて不安定な身分に自分からいたんだから自業自得だよ。”

俺にはそんなこと思われへん。

一緒に働いてきた仲間やんけ。なんでそんなことが言えるんや。

そういう人が社内にいるってのは知っていたよ。でもそれが隣に座っている人や同期やとは思わんやん。

俺は誰も信用できんくなった。

今まで先輩たちが俺たち仲間だからーとか言っているのが白々しく聞こえるようになった。

そんなんやったからね仕事でもへましまくってね。こりゃあかんわってなって、気が付いたら退職届をだしていたってわけ。」

無理やり作った笑顔で彼はビールを煽った。


同期の近況についていろいろ知ることができた。

同期の中の女性のうち1人は結婚して退職したらしい。

もう1人も結婚したがそのまま働いているという。

どちらも社外の人と結婚したようだ。

男も2人が結婚していた。

俺以外にも退職した同期が1人。俺が退職した数か月後に退職したという。

同期には相談していなかったらしくみんな全社員が見れる社内文書掲示板の退職者の一覧でそれをしったという。

そのまま地元に帰ったというのは彼と一緒のチームの人から聞いた。

こちらから連絡した時にはすでにメールアドレスも携帯電話番号も変更されていて連絡がつかなかった。


「そういえば君に粘着していた同期のあいつ、情報運用部に異動したで。

チームは違うけどね。

今ではあいつがいじめの対象になっているわ。」

「あいつはあの課長派閥の上位メンバーじゃなかったか。

課長に気に入られるために休日のゴルフ大会にも出ていたし、習い事でゴルフスクールにも通っていたって聞いたが。」

「そうそう。俺らもあの派閥の一員扱いやったがあいつはめっちゃ信奉していたな。

さすがにそこまでやる必要はないやろうって感じや。

君が課長の無能さを周知させてしまったからね。

次期部長と言われていた人も今や派閥の一員がいじめられていても見ているだけで助けもしてない。」

「あいつは課長と特に親しくしていたからな。課長に嫌がらせはできない人でもそのメンバーなら平気でいじめられると、そしてそれをただ見ているだけで助けれない課長はさらに求心力をなくすっていう。」

「そうかそれくらい社内の勢力図が変わってしまったか。」

「もう1人君つながりで社内の評判が落ちた人がいるわ。」

「ほかにだれかいたっけ?」

「情報基盤部の”失敗したことがない人”。

あの人も労働組合で好き勝手やっている人だったけど、実はパワハラ野郎で数々のプロジェクトで失敗していると露呈してね。

しかも今まで配属されて指導した新入社員が全員辞めていることがばれてしまって出世は遠のいたって感じになっているね。

今まで飛ぶ鳥を落とす勢いで出世していて歴代最速で部長になるだろうって言われていたけどあれは無理なんじゃないかな。」

私が笑顔になっていることに気が付いたのか、二人でビールを乾杯した。

「あの人のうわさを流したのって君だろ?」

「どうしてそう思うんだ?」

「だって流れてくる噂がめっちゃ具体的だったから。

これって一緒に働いていたことのある人しか知らない情報ばかりじゃんって聞いたとき思ったよ。

誰が流したかなんて当時の社内の配置を知っている人ならわかってしまうよ。

でもどうやって流したんだい?

退職してから時間が経って流れていたからそれだけがわからない。

噂って生ものだからね。鮮度が落ちると誰の話題にも上らなくなるだろう?」

「たしかに鮮度は大事だ。

鮮度が大事だからこそ噂が流れだした瞬間に犯人捜しをすれば見つけることだってできる。

もう一つ大事な要素を言うなら、インパクトだな。」

私は当時を懐かしむように話した。

「噂ってのはやっぱりどこかぼやけて伝わってしまう。

人から人に伝播する間に尾ひれが着いたり情報が置き換わったりする。

噂ってのはせいぜい飲み会での雑談程度の酒の肴ほどの価値しかないからだよ。

私の話した内容はそんな肴ではない。言わばメインディッシュだ。

あいつらの下で実際に働いてその光景を目にしてきた。

逆にリアルすぎて誰かに話せば自分が流したとすぐにばれてしまう。

私が退職してから噂が流れたのはもう言っていい時期だろう。もう我慢できないんだって限界が来たんだろう。

そしてそれが複数人いたんじゃないだろうか。

噂を聞いて犯人捜しをしても真犯人はもう会社を辞めているわけで、噂を流す方も平気で流せるってもんさ。」

「なるほどね。。。でも君って社内に親しい人いたっけ?

飲み会だって参加してなかったでしょ。」

「表向き私と親しい人はいないね。親しくしているところを見られたらいじめのターゲットにされるからね。

そしたら自分が所属している派閥にも迷惑がかかる。

でもね、だからってみんなが私を無視していたわけではない。

あの会社は打ち合わせの前後で雑談する謎ルールあったでしょ。

あの時に話していたんだよ。」

「そういうことか。それでいろんな人に話してそいつらが同時多発的に噂を拡散しんか。。。」

「そういうことだろうね。まぁ昔の話だからね。私も過去の人ですよ。」

彼が私の顔を見てにやけていた。

「なんだい気持ち悪い。まだ何か話があるみたいだね。」

「君の存在は亡霊を超えて伝説の域にまで到達したよ。

新入社員研修で使う基本情報処理技術者試験の過去問を全部刷新していたんだろう。」

「あぁその件か、誰かが見つけたの?」

「今年の新入社員があの課長の飲み会に参加した時にね。

君の名前を口にしたんだよ。

みんなびっくりさ、君が退職した後課長は部下に命じて君の名前が書かれている資料をすべて更新させていただんだ。

それで普段の業務に支障をきたして各部署からクレームが発生して結果課長は部長から怒られたらしい。

そんな対応がやっと終わり課長に平穏な日々が戻ってきていたのに。

あの新入社員が君の名前を口にするもんだから飲み会のいい雰囲気はぶっ壊れちゃったよ。

”どこでそいつの名前を聞いた!”

”あいつはもうやめて3年も経っている、知っているはずがないだろう!”

新入社員はビビりながら基本情報の過去問のテキストに名前が書いてあったので…って言っちゃってね。」

一同あちゃーって感じだった。

俺たちの中では新入社員研修のことを話題するのはタブーになっていたからさ。

そこの資料まで君が手を加えているなんて思いもしなかった。

これでも研修資料が残っていることを確認して君の名前がある資料は消していたんだけどね。

というか毎年研修資料は作り直すルールだったと思うんだけどどこでルールが変わっていたのか。」

「私がそのルールを変えたんだよ。

2年目で情報基盤部で休職に追い込まれて3月に復帰した後私はまた新入社員研修を担当することになった。

その際に資料を刷新して、資料を削除しないようにとメモ書きを残しておいた。

人事部にも伝統とか言ってデータを消さないようにと言っておいた。

彼らは不満顔だったがね。

研修期間も半分くらいにして研修を担当する人も経験の浅い2年目ではなくて現場である程度経験を積んだ人を選出するようにと提案しておいた。

情報運用部に異動して仕事が忙しくなって新入社員研修がどうなったかは詳しくは知らないがおおむね私の提案したルールで運用されていたらしい。

情報処理技術者試験の過去問もその時に一気に更新しておいた。

私たちの代は2名が一発合格できなかっただろう。

その原因はあの古い過去問が原因だと思ったからさ。」

「そういうことだったのか、まさかそこまで1人でやってのけていたとは。

飲み会の翌日、課長は派閥内のメンバー全員に声をかけて新入社員研修の資料をすべてチェックしろって号令をかけた。

あの光景はたまげたな。基本情報処理試験の過去問のすべてのファイルに君の名前が書いてあったからね。

あの早稲田の彼も”1人でこれをやるとかバケモンかよ”って言ってたわ。

課長はまだ社内のどこかに君が作った資料があるんじゃないかって探しているらしいよ。」

彼は最後に笑いながら残りのビールを飲みほした。

「疑心、暗鬼を見るということかな。」

私もビールを飲みほしてお開きとなった。

彼とはこのあと数回メールでやり取りをすることになる。

再就職はIT関係以外を探すと言っていた。

ITのことを考えるとあの会社でのことを思い出してしまいつらい気持ちになってしまうそうだ。

そしてもう少ししたらメールアドレスも変更して同期や会社の人との縁を絶つと最後に書いてあった。


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