サイドストーリー3
~チェックリストのチェックリスト~
オペレーターの仕事は開発部が作成した手順書に従って作業を行う。
手順書は一部しか渡されていないのでその紙にペンなどで書き込むことはできない。
順番通りに漏れがないように作業をしたかについてはチェックリストと呼ばれる紙で記録をつけていく。
作業日、開始時間、項目の横には四角のチェックボックスがある。
作業が終わったら終了時間を書き込む。
ある時オペレーターの1人がヒューマンエラーを起こした。
手順書にある項目を飛ばして作業をしてしまったのだ、それによってシステムは想定外のエラーを吐いた。
チェックリストの記入は作業の都度書いておらず作業が終わったタイミングで一気にチェックしようとしていたため活かされていなかった。
その対応に私ではなく先輩社員に再発防止策を策定するように指示が下った。
オペレーターと先輩社員の間にどういう会話があったのかは不明である。
週次のチームミーティングの時に先輩社員より再発防止策の説明があった。
「再発防止策として現行のチェックリストとは別に新たなチェックリストを新設しその2つをもって作業に当たるようにオペレーター側と合意を取りました。」
(んんん?)
と内心思った。チェックリストのチェックリストだと・・・
他の人が意見してくれるだろうと思い静観しているとみな一様に頷いている。
課長に至ってはそれで問題ないねと言っている。
私は思わず声を上げた。
「チェックリストのチェックリストっておかしいでしょう。
今回のミスの原因はページを読み飛ばしてしまって作業項目が漏れてしまったというものです。
チェックリストを増やしてもミスを減らす効果は低いと思われます。」
「え。。。だってオペレーターもこれでいいって言っていたよ。」
「そういう問題ではなくどうやったらミスが減らせるかという点で考えないといけないでしょう。」
先輩は黙ってしまった。
嫌な静寂が会議室を包み込んでいた。
「ならさ、お前は何かアイディアがあるのか?
人の意見をボツにしたんだから何かあるんだろうな」
課長から突っ込みが入った。
「私としてはオペレーターへの定期的な再発防止トレーニングの開催を提案します。
現状オペレーターの教育はOJTによる現場での教育のみです。
それとは別に全オペレーターを対象に机上によるシミュレーショントレーニングをしてはどうかと思います。
一気に全員参加となると会議室の確保や日常のオペレーター業務に支障をきたすので少人数で2か月か3カ月で一巡するように開催するのがよいと思います。
その方が参加者もさぼらずトレーニングに集中するでしょう。」
先輩と課長は嫌そうな表情だったが他の参加者からこっちのほうが良いのではないでしょうかと意見があり私の案が採用された。
そして私は新たにオペレーターの教育係の仕事が増えることになった。
~サラミ手法~
これは私が勝手に命名した名称である。
何かというとプロジェクトのメンバーに名前だけを入れてもらうという仕事の仕方である。
プロジェクトメンバーの評価順序はリーダーが一番高く、それ以降はプロジェクト完了報告書に記載されている上からの順番で決まる。
これを悪用して一番下に名前を書かせてもらい評価をもらうのである。
当然ながら名前だけが載っている状態なので打ち合わせにも参加しないしプロジェクトの内容も進捗具合も知らない。
プロジェクトが炎上騒ぎにならない限りは何もしなくても評価だけをもらえるいうおいしいポジションである。
そんなことが可能なのかと言うと可能である。
派閥の力を使い操作できるようなプロジェクトがそのターゲットになる。
もしくは派閥の関係者がリーダーを務めているところに紛れ込ませてもらう。
そうやっていろんなプロジェクトに参加し少ない評価を積み上げていく手法である。
~アドラー心理学のパワハラ入門~
2013年アドラー心理学を題材にして”嫌われる勇気”という本が発売された。
発売されるやいなや社内でも愛読者が爆発的に増えた。
その愛読者のほとんど全員がパワハラで有名な人たちであった。
実際この本に書いていることを利用してパワハラを正当化する人が増えた為世間でも注意喚起がされるほどであった。
決してこの本はパワハラを肯定している本ではない。
しかしこの本が好きな人にパワハラ常習者が多いというのが私の主観である。
~とある部署のビブリオバトル~
ビブリオバトルとは読書感想文を2人以上で話し合い議論するようなものである。
当時テレビ番組でも読書感想文の言い合いを放送していたのを覚えている。
当社でも何の仕事をしているかわからない次世代システム開発部という部署があった。
名前からしてすごい研究をしているのだろうとみんな思っていた。
しかしその部署からは公な仕事内容が一切公表されないのである。
その理由は情報漏洩防止のためと説明されていたので私たちも詮索しないようにしていた。
ある時この部署から初めての退職者が出た。
所属しているメンバーそのものが少ない部署であった為退職者が出たという話は一気に社内に広がった。
そんなある日次の打ち合わせに備えて早めに会議室に移動した私は先客がいることに気が付いた。
その部屋はその時間誰も予約をしていないので空き状態だった。
私は少し早くついて他のメンバーを待つ間その人に話しかけてみた。
「お疲れ様です。今月で退職される予定ですよね。
有給消化期間で出社はされていないと思っていました。」
「有給はほとんど使っちゃってまだ有給消化期間じゃないんだよね。」
「退職理由は体調不良とか病気とかなのでしょうか。」
「いや、単に仕事が意味わかんなかっただけ。
なんで働いてんだろってなったら仕事に行く気が失せてやすんじゃってたんだよね。」
「次世代システム開発部。。。外から見ていると何をしているのか謎ですよね。
会社全体の年次目標でも次世代システムの検証としか書かれていないので。。。一体どんな仕事をしているんですか。」
「名前にあるような仕事はしてないよ。。。そうだねー私の仕事はビブリオバトル担当かな。」
「ビブリオバトル?
新しいソフトウェアの名前とかですか。」
その人は笑いながら答えた。
「ただの読書感想文さ。
ジャンルは自由、ミステリーでもラブコメでも。文字媒体であれば何でもOK。
2週間に一度自分が読んできた本の感想文をみんなの前で発表するって仕事。
もちろんIT関係の本でもいいよ。誰も読んでないけどね。」
「それはクラブ活動ではなくてですか。」
「やっぱりそう思うよね。
これが業務終了後のクラブ活動の自由参加のものならばどれだけよかっただろうか。
この部署に配属されてからずっと読書感想文の言い合いばかり、
なんでこんなことしてんだろって思ったら退職届を提出していたさ。」
「次世代システム開発部とは何なのでしょうか。」
「そういう部署があったほうが先進的でしょ?
ただ既存のシステムを改修、機能追加するだけじゃなくて周りがあっと驚くようなシステムを開発してますっていうそんな看板があったら親会社からも覚えがよくなるでしょ。」
「でも実際はシステム開発はしていないということですか。」
「そりゃあね。予算や部署の人数、能力のどれをとってもシステム開発ができる規模や構成じゃない。
システム開発をしたことがない人たちの集まりじゃ何もできないよ。
その結果が何年も読書感想文を言い合うことを仕事と言っているだけ。」
「そんな部署があるだなんて。。。」
「信じられない?
時間があるときにでも次世代システム開発部が関わったシステムの一つでも資料に書いてないか探してみたらいい。」
彼はそう言ってブツブツ何かを呟いて部屋を出て行った。
~ハンコの押し方~
申請書や稟議書を作成したら作成者は自分のハンコを押印する。
そしてそれを承認者の上司に提出する。
上司がまずどこを見るか言えばハンコが”正しく”押されているかだ。
この場合の正しくは作成者は右端にある押印欄に押さなければいけないが以下のルールがある。
当然暗黙のルールだ。
・押印の角度は30度程度傾いているか。
・押印の角度が45度程に傾きすぎていないか。
・押印が鮮明か
・押印が押印欄の枠線にかかっていないか。
いくつかは常識的なことなのでどの会社でもあると思う。
角度については結構厳密に図っていて、角度が30度でないとその時点で申請書は作り直しになる。
なお押印についてしか見ていないので資料の中身の確認は押印のチェックをクリアしないとみてもらえない。
チェックは基本的に1か所ずつ行われ1つ修正して再提出しないと次のチェックをしてもらえない。
~朝活と社会人サークル~
社内には部活動というものがある。
ここまで読んでくれた人ならばすでに察しているとおりだが派閥形成のための装置になり果てている。
きちんと部活動の名前の通りに活動しているかは怪しい。
それとは別に会社の外でサークル活動をする人がちらほらいることに気が付いた。
出勤前にカフェや公園などに集まって運動や雑談などをする朝活と呼ばれるもの。
時間帯や日程にとらわれず広く全般的に活動している社会人サークルというもの。
読書会、ランニング会、資格勉強会など同じ目的を持つ者同士で集まり切磋琢磨しあい楽しみ合うもののようだ。
幾人かはただの男女の出会いの場として使っているようだった。
私も誘われたことがあり話を聞いていて社内の部活動よりも健全に感じた。
~仕事の活力剤~
ある時申請書を出しに来た後輩と事務所で会った。
私はトイレに行くために事務所を出ようとしたところだった。
後輩の目がカッと見開かれていた。
ネットスラングで言うところのガンギマリという状態であった。
心配になり声をかけた。
「仕事は順調か?
目力が強いというか気迫が入っているというか。
普通には見えないのだけど。」
「あー。わかりますか。
俺、社会人サークルってのに入ってんですよ。
週に2回くらいかな。自由参加でね。資格の勉強をしてもいいし読書もしていてもいい、ただ雑談しに来てもいいっていう緩いサークルなんですけどね。」
私はあいまいに相槌を打った。
「そしたらですね。その中のめっちゃ仕事できる人から薬を教えてもらいまして。
これなんすよ。」
そう言ってかれはポケットから薄い青い錠剤入れを取り出した。蓋を取るとそこには白い粉末が入っていた。
「これってもしかして、、、ヤバい薬とかじゃないよね。」
「そんなんじゃないっすよ、無水カフェインの粉末ですよ。
これを朝起きたときに飲むと脳が全開になるんすよ。万能感ってやつです。
最初は大事な打ち合わせがある日とかに飲んでたんですけどね。
何回も飲んでいると効き目が弱くなってくるんで最近は朝と15時くらいに飲んでますね。」
「それは薬局で買えるもの?そんなに飲んで大丈夫なの?」
「サークルの人たちも愛用者が結構いてですね。俺なんてまだまだっすよ。
俺はインターネットで買ってますね。発送元は外国みたいですが。
薬局に売っているかどうかはわかんないっす。」
彼は試してみますか?と薦めたが私は遠慮しておいた。
話の最後に飲みすぎないでねとだけ言っておいた。




