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私は入る会社を間違えたかもしれない。  作者: オツタロ


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情報運用部 2014年4月~2015年4月 ⑪

2015年3月下旬

業績評価シートを作成する時期が来た。

とは言っても私は期の初めで設定したプロジェクトのどれも大した仕事をしていないという評価だったので書くことがあまりなかった。事実を書いても事実とはみなされなかった。

業績評価シートを埋め、課長と1対1で面談することになった。


殴ってやろうかと思い席に座った。

「どうや、俺の力は。

お前とはくぐり抜けた場数が違うんだよ。

経験の差ってやつかな。

お前ひとり消すなんて俺の力を使えば楽勝ってことよ。」

課長の勝ち誇った顔をただ睨みつけた。

「いいニュースがあるんだ。

君の昇給が止まったよ。部長承認まで済んだから正式決定だ。

うちの会社って30歳までは何もしなくても給料上がるホワイト企業なのにね。

昇給が止まるって前代未聞なことだ。

どう嬉しいよね?

敗北者なんだからうれしくて泣きそうでしょう?」

課長はぐいっと顔を近づけて

「次はボーナスの評価を社内で一番低い評価に下げてやるよ。

一番低い評価になると基本給の30%しかでないんだってさ。

通常だと2か月分だから基本給の200%ってことだから落差半端ないよね。

嬉しいだろう?

俺の力を使えばこんなこと簡単にできるんだ。

お前がどんなに残業して仕事をして成果を出しても全部奪ってやる。

誰もお前に有利な証言なんてしない。

これが俺がこの会社で築き上げた力だ。

もう逆らいません。許してくださいって言えばボーナスの引き下げ額を少しは緩くしてやってもいいぞ?」


私の中で何かがプツンと切れた。

小さく息を吐くと

「会社辞めるわ。」

と言っていた。

課長の顔は豆鉄砲を食らったような顔になった。

「引き止めないよな。俺がおらんほうが仕事が回るんやっけ。見してもらおうかその実力ってやつを。

人脈しか取り柄の無いあなたの仕事の力を見せるときがきましたね。

お前と働くなんて私の人生にとって無駄以外の何物でもないわ。」

私はするどく睨みつけて

「いつまでバカみたいに口開けてんだよ。

もうすぐ上司でも部下でもなくなるんだよ。おっさん。

3月でキリがええから3末で辞めれるよな?

お前が部長に報告できんのやったら俺が直接言ってやるわ。

早く部長と人事部に報告してこい。」

私は席を立ち部屋を後にした。

その後課長の叫ぶ声が事務所中に響いた。


1時間も経たないうちに部長から呼び出された。

「課長から退職すると聞いた。本当かね。」

「はい。部長も私と課長の仲の悪さは知っていますよね。

ご迷惑をかけてしまったことすみませんでした。

つきましては速やかに引継ぎを行い退職したいです。」

「いやいや、まだ取り消せるから。退職は取り消せるよ。

なんなら別の部署に異動したっていい。

異動が決まるまで有給を取って休んでいてくれて構わない。」

「いえ、結構です。この会社に愛想が尽きました。」

「むむむ、、、せっかくビッグプロジェクトを経験しこれから大きく成長する可能性があるというのに。

それにね。君はね、社内でも随一派遣社員からの信頼が厚いんだよ。

違う部署の派遣社員が君ならば安心して仕事ができると言っているくらいだ。

君も知っている通りわが社は正社員と派遣社員の仲がものすごく悪い。

私が感じている以上に悪いのだろうと思う。

そんな中で派遣社員から信頼されている人物と言うのは貴重なのだよ。

これはきっとよい力になる。辞めるのはもったいないことだ。」

「派遣社員しか私の味方がいないということです。

ただしくは私にも味方はいます。しかし彼らは力が弱い。

ここぞと言うときに助けてくれない。

私はいろんな人をサポートしてきました。ありがとうを言わない人も少なくなかった。お礼代わりに舌打ちをしてくる人もいた。

それでも私はいろんな仕事を、評価にもならない仕事をしてきて多くの人とともに仕事をしてきました。

その結果がこの人望のなさです。

力ある人に私は支持されなかった。

それが今回の結果なのです。

敗者は去るのみです。引き止めは無用です。

引継ぎはきちんとします。急いで後任を選んでください。」


私は席に戻ると隣に座る先輩社員や派遣社員たちを見渡して

「会社を辞めることにしました。

すでに部長の了承はとっています。

これから私は引継ぎ業務に入ります。

みなさんお疲れさまでした。」

そのまま席に座ると

「本当か???」

と先輩が驚いた顔で聞いてきた。

「驚くことではないですよね。

むしろ3月で辞めるなんてこの会社では珍しくない。」

先輩社員はそうか。。。と小声で答えると正面を向いて仕事に戻った。

私は引継ぎ用の資料の作成に取り掛かった。

噂はすぐに社内に広まった。

午後には多くの人が私の席に集まってきた。

辞めるなんて惜しい。いますぐに異動しようと課長が聞いているにもかかわらず口にする人が何人もいた。

こんなことになるならもっと味方になっておけばと頭を下げる人もいた。

同期も何人か来たが

「このホワイト企業を辞めるって君は見る目ないね。」

「これで底辺人生まっしぐらだね。底辺大学の君にはお似合いだよ。」

「やっと邪魔者が消えてくれてうれしいよ。君と同期と言われるのが反吐が出るほどに嫌だったんだ。」

こちらも人目を憚らず言っていた。


翌日課長から退職日の話が来た。

部長同席の下、話を聞くことにした。

「退職予定日は5月末が適切だと判断しました。

彼は多くの仕事を持っていて重要な仕事も多いです。

一つ一つ引継ぎを終えない事には退職の許可を出すのは難しいと考えています。」

「えっ待って課長君。

おかしいよね。彼は仕事をしないでさぼっていたって君が言ったんだよ。

それに引継ぎに2か月もかかるなんて常識的とは言えないよ。」

課長は苦しそうな表情をしていた。

「重要な仕事をしていなくても引継ぎは重要なことです。

きちんとしなければ彼もすっきりした気持ちでここを去れないでしょう。

私の善意からの提案です。」

「不要だよ、この会社に愛着なんてない。

あなた言ってましたよね。俺は若いころもっと仕事をしていたと。

私が書類のチェックをしている時に”俺ならこんな仕事5分で終わるわー。お前は30分もかかるのか、それって25分さぼっているってことだよね”って。

私が1人辞めるのだから1人後任を選ぶだけでよいのですよ。」

「馬鹿言うんじゃない!

お前の仕事が1人分なわけあるか!

2人でもできんわ!」

課長が突然声を荒げてしゃべった。

「どういうことだね、課長君。

前に人事部や私との面談で言っていたのと逆のことを言っているよ。」

「。。。いえ。。。。これは。。。言葉の綾です。

そういう捉え方もできるなぁと。」

「私も彼が辞めてしまうのは残念で仕方がない。

この問題を解決できなかった私の責任でもある。

だからこそ最後くらい彼が望むように速やかに退職をさせてあげるべきではないだろうか。」

「部長のおっしゃる通りなのですが。。。」

課長は二の句が継げないでいた。

私はため息を吐いてから話し始めた。

「仕方ない、さすがに3月末の退職は無理っぽいので4月中旬でどうでしょう。

はっきり言って5月までいても私には何もメリットがない。

それならあと2週間在籍してボーナスをもらうとか6月分の給料ももらうとかしたらよいと欲が出てしまいます。

4月末で辞めるならばGWがあるのでもったいなく感じてしまう。

それで4月中旬です。それまでは私は会社に来ます。

今まで通り仕事もしましょう。

それくらいの責任はもっていますよ。」

「それはいい案だ。最後なのに会社のことを思ってくれてありがとう。」

部長は喜んでいた。

これは決まりだといって課長に後任の選定を急ぐように指示をだした。


後任は二人に決まった。

しかしどちらも業務を引き継ぐ気はない様子だった。

「課長から派遣社員を4人入れる予定だからそれまでの繋ぎで引き継いでくれって言われただけ。

引継ぎの打ち合わせもいらないよ。

資料を作ってくれたらそのまま新しくくる派遣社員に丸投げしておくわ。」

そう言って二人とも引継ぎの打ち合わせを拒否した。

私は連日残業をしながら業務を進めるところまでやり、時折お別れの挨拶をしに来る人の応対をした。

送別会は開かなくていいと言って断った。


退職が決まったらとても自由な気分になった。

今まで我慢して言えなかったことが言えるようになるとはこれほど幸せとは思わなかった。

日々提出される申請書の処理を課長にやらせてみることにした。

「この資料、課長はいつも私にたいして”俺なら5分で終わっているわ。サボり魔”と言っていましたね。

実力を見せてくださいよ。

5分なんでしょ。

後学のためにその洗練された手さばきを是非見せてください。」

私は書類の束を課長に渡した。

課長はあからさまに不機嫌な表情だったが書類を受け取ると申請書に記載が間違いがないか確認していった。

記載間違いがある場合は処理してはいけないルールなので作成元の部署の人に連絡するのである。

いつもは派遣社員の人にお願いしていて書類の枚数が多い時は私も手伝っていた。

依頼元への訂正依頼は私が主に対応していた。

慣れてくると30分くらいで終わる作業である。

 1時間半後、開発部から苦情がきた。

突然打ち合わせ中にうちの課長がやってきて今すぐ書類を修正しろというのだ。

打ち合わせ中なので後にしてもらえますかと言うと、”待っていられん、修正なんてすぐに終わるんだからすぐにやれ”と言うのだ。

相手は課長、しかも次期部長と言われる人なので逆らう人はいなかったが迷惑極まりない。

私がことの経緯を説明すると

「自由になったのはいいけど他の部署に迷惑をかけるようなのは止めてほしいかな」

と言われた。

まさか私も作成者に直談判しに行っているとは思ってもみなかった。


私は空いた時間で引継ぎ資料を作成していった。


最終出社日当日私は20時まで残業して会社を去った。

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