情報運用部 2014年4月~2015年4月 ⑩
「これは不正な改ざんです。プロジェクトを担当していないものがあたかも担当したように資料を改ざんしている。
各人の評価を決めるのがこのプロジェクト完了報告書に書かれている順番なのでそれを悪用したんです。」
私が熱を入れて説明するが部長の顔色は困惑一色と言った感じだった。
「部長、私からも意見させてください。」
課長が話し始めた。
「ずっと部長に相談したかったのですが相談できずにいました。
そういう意味では私は課長失格です。
彼は年次が一番下であるにもかかわらず業務態度は悪く、チームの先輩社員たちのアドバイスに耳を貸そうともしませんでした。
周りに助けられているにも関わらず感謝の言葉もなく、正社員よりも派遣社員に肩入れしていることも多くありました。異常といっていいくらいです。
正社員である私たちを蔑み派遣社員と仲良くするような人なんです。」
課長は泣きそうな、申し訳ないような声色で話していた。
こんな声も出るのかと背筋に嫌な汗をかいていた。
「プロジェクトの推進もそうです。
私に押し付けていました。
私がどうしてよいかわからず、チームメンバーもすでに割り当てられた仕事があるので再割り当てもできないときに他チームの彼女が助けてくれました。
最初は私が彼女の仕事のサポートをするという役割でしたがいつのまにか彼女にプロジェクトの推進を手伝ってもらって、その証拠がプロジェクト完了報告書です。
彼女の名前が上位にあるでしょう。」
「でたらめだ。課長も彼女も打ち合わせには一度も参加していない。
そんなの議事録を観れば一目瞭然だ。
プロジェクトメンバーにも聞いたらいい彼らがかかわっていないことは明らかになります。」
「プロジェクト完了報告書はプロジェクトの最後に作成するたった1枚の紙です。
この紙を私が作成したと彼は言いますがなぜそんなことを私がするのでしょうか。
たった1枚の紙ですよ?
稟議書や要件定義書、システム設計書などプロジェクトでは多くの資料を作成します。
レビューをしては修正し、再度レビューをしてと何度も作成と修正を経て資料は作られます。
ですがプロジェクト完了報告書はたった1枚です。
しかも記載する内容なんて多くありません。
彼は私が作ったと言うがなんでこんな重要で作成に時間もかからないような資料を自分で作らなかったのでしょうか。
それにこれには部長の印鑑が押されています。
部署を超えてのプロジェクトならば他の部長の印鑑もあります。
こんな資料を改ざんするでしょうか。
そしてこんな資料を課長とはいえ他人に任せるでしょうか。
真実は違うのです。
彼はプロジェクトの仕事を放り投げ遊んでいたのです。
部長も聞いたことがあるのではないでしょうか。
彼が残業もしていないのに残業代を請求しようとしている噂を。
意味もなく残業して実は仕事をしていなかったことを。
私は彼に残業しろなどと言ったことは一度もありません。
火のないところには煙は立たないのです。」
「その噂は課長の派閥が流したものです。事実無根です。」
「見苦しい!証拠もないのに人を犯人扱いするとは何事だ。」
課長と私の言い合いになった。
見かねた部長が私たちをなだめると
「問題は残業時間の件とプロジェクトの参加具合の件になる。
残業の件は人事部に確認して残業とは何かというもので判断してもらうほかない。
プロジェクトの件は全員とはいかないが何人かからヒアリングを取って判断するしかないだろうね。」
一旦話し合いは終わりということになり私たちは日常業務に戻った。
2015年3月
人事部より残業時間削減の提案が各部に連絡された。
”現在当社の平均残業時間は15時間となっています。
これは同業他社と比較してアピールするには弱い数字です。
つきましては各部には業務効率化、業務改善を行っていただき各人の残業時間の削減をお願いします。
今後は残業時間も昇進、ボーナス額の評価に影響するようにします。
20時以降に残業していた人については昇進やボーナスの評価が下がるように処理することになりました。
なお20時以降業務をしていたかどうかの確認は各人が毎日入力している勤怠システムの結果にて集計します。”
部長からの部内会議で周知された。
すると課長が立ち上がり発言した。
「私に妙案があります。
20時以降に残っていたものだけが対象ならば現在20時以降にまで残っている人にすべての仕事をしてもらえばよいのです。
私たちは19:30くらいで帰り残りの人がやればいいのです。
20時以降に残っている人がいますよね。
これはいかに協力できるかという問題です。
20:05に帰った人の評価が下がるよりも22:00以降も残業している人がそれを肩代わりするほうが全体としてはプラスになるのです。多くの人が救われます。」
課長は自信満々な顔をしていた。
すると
「私もその意見に賛成です!」
「さすが次期部長!すばらしいアイディアです!」
何人もの人が課長を賛美する声を上げる。
拍手をするものまでいる。
「おかしい。人事部の連絡事項に書いている通り業務改善を図るのが筋でしょう。
負担を一部の人に押し付けるなんて不公平です。」
私は声を上げた。
「どうして君はそうやって和を乱すのかな。
周りを観なよ。誰も反対していない。
君だけだ。」
「そりゃあ自分たちが得するのだから反対はしないでしょう。
これは業務の偏りが大きくなることを懸念してのことです。
自分の担当の仕事は責任をもってやり遂げる。
それが担当者の役割のはずです。」
周りから舌打ちやら「うぜぇ」と言う声が聞こえた。
課長の勝ち誇った顔がとても憎かった。
「私から提案です。多数決で決めましょう。
民主的ですよね。
多数決を拒否するほうが独裁的で野蛮です。」
さんせーという声が何度も上がった。
部長も流れに負けたのか、多数決で決めることになった。
結果は賛成多数で課長のルールが可決された。
会議が終わり部屋を出ていく際に私の椅子を何人もの人が蹴ったりたたいたりした。
私は悔しくて立ち上がることができなかった。
それからいつも残っている私を入れた4人のメンバーは地獄の日々を過ごすことになる。
自分の仕事+”他の人が途中まで手掛けた仕事”という今までにない別の意味で難易度の高いものだった。
最長の勤務時間は9:00-25:00であった。
これは一度ではなく何日もあった。
昼飯も食べる余裕もなくトイレに行くと時間計測をしている課長から小言を言われる毎日だった。
毎日19:30になるとチームメンバーや他チームの正社員から仕事を押し付けられた。
「これは明日朝一までね。」
「これは午後一に完成してくれたらいいよ。」
「あくまで君は仕事を手伝っているだけなんだから評価は全部私のものだからね。
仕事をあえて手伝わしてあげているって感じかな。」
途中まで作成された資料を引継ぎ途中から作ると言うのはとても難しい。
どういう方向性で作っていたのか、何を訴えたいのかそういう見えない意図を探るところから始めるのだ。
同じチームに所属していてもそれぞれ別々のプロジェクトを担当しているので自分がかかわらないプロジェクトは概要程度しか知らない。
それでも容赦なく翌朝期限までの作業が押し付けられた。
人によっては私に任せる仕事リストをわざわざ作成して依頼してくるものもいた。
会議通知の送付やボイスレコーダーに録音された議事録の作成など。
そのリストを作成する時間で少しでも業務をやろうという考えはないのだろうか。
そんな日々を過ごしている中で課長と私のもめごとの結論が出たと部長から連絡があった。
部屋に行くと部長と人事部の人が座っていた。
「今回の件、人事部としてはあなたが言っている残業は残業ではなかったと結論づけました。
残業の定義として仕事を管理している上司、この場合は課長ですね。
課長が残業の必要性を認めそれを部下に指示した場合のみ残業が公に認められます。
勤怠システムを確認しましたがあなたは定時で帰っています。
課長にも聞き取りしましたが残業せよと言ったことはないと、
メールでも残業を指示するようなものは見つかりませんでした。
なので今回のケースは残業とは認められないという判断になりました。」
人事部の人は淡々と説明していた。
「それならば残業をしないと終わらない量を負担させたり、夕方になって翌朝一に資料を見せろと言う指示は残業の指示には当たらないのですか。」
「部署内でどのようなルールがあったのかは知りません。
そのような場合は定期的に面談を通して改善をするようにと人事部は管理職の方に研修などで指導しています。」
「相手が取り合う気がない場合はどうなんですか。
自分が若いころはこのくらいは当たり前だったとか言って負担ばかりが大きくなるのはよいのですか。」
「課長がそのような態度を取るようであれば上位者に相談すると言うのが一般的ではないでしょうか。」
部長は視線を逸らしていた。
「私は。。。課長からそのような相談を受けたことはない。
マネージャー職のメンバーとは週次で会議を行っているがそのような話はなかった。」
「そうですので今回のケースでは残業には当たらないと言うことです。
確固たる証拠があれば話は変わりますがそのような証拠はありませんでしたので。」
次に部長が話し始めた。
「プロジェクト完了報告書の件だが、関係者にヒアリングを行った。
結果としては君は重要な働きはしていなかったと何人もの人が証言した。
議事録などで君が作成者となっているものや要件定義書で君の名前が記載されているものも確かにあったがそれについては最後のチェックを君に任せただけでほとんどは別のメンバーが作成したと証言を得ている。
稟議書についても君のハンコが押されているがこれは練習で押させたもので作成は別の人が行ったと。」
「出鱈目です。
資料も稟議書も私が作成しました。
派遣社員に聞いてみてください。彼らならそう答えてくれます。」
「いいかね、これは正社員内部の問題だ。派遣社員は一緒に働いているが別の会社だ。
今回のヒアリングもすべて正社員だけに行った。
他の部署のプロジェクトにかかわっている人にも何人かではあるが話も聞いた。
誰一人として君が重要な仕事をしていたとは言わなかった。
あくまでも補佐的な業務。会議通知の送付やちょっとした資料の作成、議事録の作成など細々した作業だ。
課長からも聞いたが私へのレビューも課長やメンバーが作成した台本を読んでいただけとか。
練習として経験を積ませるためにプロジェクトの発表をさせてあげていたと聞いている。」
私は負けたのだ。
私は確かに仕事ができるかもしれない。
それこそどの派閥に属さずともいろんな人から妨害を受けながらもプロジェクトを完遂できるほどの能力はあるのだろう。
しかし圧倒的に人望がなかった。
対して課長は人望は社内トップクラスだった。
今では派閥の大きさは社内一と言ってもよかった。
次期部長などと公に呼ばれても誰も否定もしない。
証言した人が誰かわからないが課長の息のかかったものか、派閥の報復を恐れてか、私に味方はしなかった。
私にはそれほどの価値はなかったのだ。
少々仕事ができる程度の人材でしかなかったのだ。
部長は次からは相談に乗るからと慰めの言葉をかけて部屋を出て行った。
私は時間が許す限り泣いた。声が外に漏れないように注意しながら泣いた。
部屋を出ると景色は一変していた。
みんなが私をゴミをみるような目で見ていた。
そこに同期女と課長の顔だけがやたらと眩しすぎるくらい笑顔だったのを覚えている。
それからは誰も人目をはばからず私をいじめた。
私の後ろの通路を通るときは誰もが椅子を蹴ったり叩いたりした。
打ち合わせが終わり席に戻ってこれば机に置いてあった私物はすべてゴミ箱に捨てられていた。
「じゃまやったから捨てておいたわ。」
先輩は悪びれることなく言った。
年の近い先輩、後輩、そして同期も情報運用部の部屋に入ると
「あいつまだいんの?早く消えろよ。
あいつと入社年度が近いからさぁ。知り合いみたいに言われたりするのほんとムリなんだけど。
さぼって残業代せしめようとかいう卑怯もんと同じにしないでくださいよー。
いるだけで害だよね。」




