情報運用部 2014年4月~2015年4月 ⑨
部内の飲み会が開かれた。
部長主催ということで参加することにした。
飲み会では端の席にすわり目立たぬように食事やお酒を楽しんでいた。
以前のように正座をさせられ順番に説教を受けるということはなくなっていたが楽しいという感情はなかった。
早く終わらないかなと思い隣の人とたまに雑談していた。
すると遠くに座っていた課長あたりで何やら声が聞こえてきた。
「俺ってめっちゃ苦労人だわ。
あいつがチームにいるんだぜ。
これは外れくじを引いたって感じたね。」
課長の声が聞こえてきた。
「神様が許してくれるならあいつをクビにしてやりたいね。
あいつがいなくなればどれだけ仕事が楽になるか。
俺だけじゃない、チームにとってもいい影響がある。
きっと能率が上がるよ。」
あいつと書いているがこれは私のことである。実際は大声で私の名前を言いながら言っていた。
私の周りにいた人たちは気まずそうになっていた。
近くに座っていた部署最年長の人が私の正面の席に座った。
「どうして君は課長に逆らうようなことばかりしているんだ。
課長がすべて正解とは限らん、しかし課長の命令は部長の命令でもある。
そもそもチームとは課長を頂点として機能する歯車だ。
その中で課長の言うことを聞かずに自分勝手にふるまうものがいたら仕事に支障をきたすのもわかるものだろう。」
「私たちの仕事は正社員1名に対して派遣社員数名という形で一つの仕事をしています。
チーム内で意見を求めることがあってもチームや部署で一緒に仕事をする正社員というのはいません。」
「屁理屈だなぁ」
「それに私は課長にはきちんと物事の道理を説明しています。
納得はしていない様子ですが否定もされていません。
それは私の仕事が理に叶っているからです。
以前私が担当している災害対策訓練で部署間の調整を行いました。
私が直前まで必死になって調整しこちらが譲れないもの、相手が譲れないものを調整しあとはそれを会議の場で披露するだけとなった段階で、いきなり課長が単独で出席すると言ってきた。
止めました。それでも出席すると言ってきかないからわざわざ臨時の打ち合わせまでして会議の内容を説明しました。
本当は一緒に参加する派遣社員も同席させるということで課長の出席を認めましたが結局課長1人で参加しました。
その結果私たちのチームに不利な条件ばかりが決まってしまいました。」
「ふーん。仕事って毎回成功するわけじゃないからね。
一度の失敗でそんなに責めるのはどうなのだろうね。」
「勝手に人の仕事を奪っておいて俺に任せろって豪語していたのにミスしたのにフォローも何もないですよ。」
「そうかなぁ。でも結局災害対策訓練は成功したんだよね。なら問題ないじゃないか。」
「それは当日私や派遣社員のみなさんが頑張ったからですよ。結果論です。」
「仕事ってチームでやるものだからね。その中で失敗することもあるそれをフォローするのもまたチームメンバーの仕事だよ。」
「それを否定するつもりはありません。
着任して半年以上が経つのにいまだにチームの業務内容を覚えようとせず、それにもかかわらずクビを突っ込み、いかにサービス残業をさせようと画策していることが不満なのです。」
「君は若いから業務内容を覚えるのに苦労がないんだよ。
40歳を超えたらそういう苦労もわかるさ。
それにね、君はさっきから生意気だよ。
私がなんで君の前まで来て話していると思う?
本来ならば君が私たちのそばに来て話を聞かないといけないんだよ。
部長に気に入られているから調子に乗っているようだけどそんなんじゃ仕事ができるって言わないな。」
私は酒がまずくなるのを感じた。この人は別のチームの課長で今までそんなに関りを持ったことがない人だった。
今の会話が最長記録だろう。
「黙っていたらわからないよ。
課長のミスをフォローするのも部下の務めだよ。
君の組織というものを学びなさい。」
そう言ってその人は元の席に戻っていった。
次に来たのは別のチームの若手社員だった。それでも私よりも5歳ほど上である。
かなり酔っ払っているようで少し呂律が回らない状態だった。
「君ってさ、めっちゃ仕事さぼってんだってね。
やばくねー。
課長さん困っていて頭抱えていたよ。」
「それはあの人が流している噂です。
私は毎日サービス残業だらけですよ。」
「またまたぁ。
君の代わりに〇〇さんがめっちゃ働いているってさ。」
〇〇というのは課長と不倫している同期女のことだ。
「そんなわけないでしょ、彼女は私のプロジェクトのどれにも参加していませんし私が受け持っている定例作業も手伝っていません。」
「いや、そんなことないと思うよ。
俺この前プロジェクト完了報告書を見たんだけどさ、〇〇さんの名前結構見かけたよ。」
「彼女がプロジェクトに参加していないのは皆さん知っているでしょう。」
「俺もそう思ってたんだけどさ。そこで話を聞いていたらね。
課長が君のことで悩んでいてプロジェクトが破綻寸前になっているって知って、〇〇さんが私がやりますって言って課長と二人三脚で数々のプロジェクトを完了に導いたってさ。」
「そんなわけないでしょー。出鱈目にもほどがある。私の担当分のプロジェクトは私がやっています。
彼女どころ課長でさえプロジェクトの打ち合わせには参加したことはありません。」
「えーだって。そこでめっちゃ話しているよ。」
と課長のほうを指さした。
そこには課長とその隣で楽しそうにお酒を飲んでいる同期女がいた。
こちらの様子に気が付いたのか課長の取り巻き達が私のほうにやってきた。
彼らと入れ替わるようにしてもともと隣に座っていた人たちがどいていく。
私は彼らに囲まれてしまった。
「お前さー、いい加減にしろよ。
普段から不愛想で派遣社員ばかりにおべっか使って気持ち悪いんだよ。
派遣会社から接待でも受けているんだろう。正直に言えよ。」
遠くのほうで課長がよくとおる声で
「いやいや、みんないいんだ。俺のためにそこまでしてくれなくていい。
俺と彼女が毎日仕事をして何とかしているから。
そっとしておいてやってくれ。」
援護射撃のようで火に油を注ぐ発言がしていやがる。
「おまえいつまで新入社員気分なんだよ。課長さんに迷惑をばかりかけやがって。
お前みたいな鼻つまみもんがチーム入れるのも課長さんのおかげだぞ。
それを調子に乗りやがって、しかも同期女さんに仕事を押し付けて自分は社内散歩しているだと。
ふざけんのもたいがいにしろ。」
「嘘八百だ!
そっちこそふざけるな。」
「出たよ、先輩社員に対しての生意気な発言。
年下らしくしおらしくしておけよ。
お前なんてもう今日限りで辞めてしまえ!
会社に恩義があれば今すぐにでも辞めるはずだろ」
そう言って彼らは手拍子をしながら「や・め・ろ、や・め・ろ」と連呼し始めた。
すると近くに座っていた人たちも「なんだ、なんだ」と振り返り始め、お祭りか何かと勘違いしたのかみんなが手拍子をやり始めた。
私は怒りに震えて今にも暴れてやろうかと本気で考えていた。
あまりにうるさかったのか。店員がお静かにお願いしますと注意をしに来た。
それで白けてしまったのか各自元の席に戻り何事もなかったかのように呑み始めていた。
どれくらいの時間辞めろコールを受けていたのだろうか、怒りに震えて食事どころではなくなっていた。
飲み会が終わりお店の前に出て全員が揃うのを待っていると、私に説教をしてきた他チームの課長が話しかけてきた。
「飲み会だからねー。無礼講ってやつだよ。
まぁみんな楽しんでいたみたいだからOKって感じかな。
君の迷惑をかけないように課長さんに頭下げておきなよ。」
ハハハと笑い彼らは二次会のお店に向かっていった。
私は1人自宅に帰ったがその日は怒りのあまり眠ることができなかった。
翌日出社すると一目散に壁のキャビネットに向かった。
そこにはプロジェクトの最終成果物を収めたファイルが並んでいる。
近頃は課長が代わりに最終成果物のファイリングを行っていた。
昨日の飲み会での発言で嫌な予感がしていた。
自分が担当したプロジェクト完了報告書を見るとそこには私の名前が書かれていた。
確かに書かれていたのだがプロジェクトメンバーの一番最後の書かれている。
別のプロジェクトの完了報告書も同じように私は一番下に書かれている。
プロジェクトの評価の優先順位としてプロジェクトリーダーが一番上に書かれ
メンバーは2番目以降に書かれる。
プロジェクトによってはきちんとリーダーと表記されているものもある。
上に書かれているほど評価が高くなるのだ。
私が担当したプロジェクトではすべて私の名前が一番下に書かれていた。
そして同期女の名前が1番手ではないが上位に書かれている。
1番手の名前はすべて課長の名前になっていた。
(やられた。日々の仕事の忙しさにプロジェクト完了報告書の作成を課長に任せてしまったばかりに。)
私は激怒してファイルを持ったまま課長のところに向かった。
「どういうことだ。書類の改ざんをするとはそれほどに外道だとは。」
「はて、何のことだ。
俺は彼女と協力して毎日プロジェクトを遂行していたが?
どちらがさぼっていたのかな。
その証拠に君の勤怠は毎日定時に帰っていることになっている。
仕事もしないで定時に帰っておいて何を言っている。」
「それはあんたが残業を認めないからだろうが!」
「そんな話あったかな。みんなー、俺とこいつが残業の話しているところ見た人いる?
こいつって残業してたっけ?」
話を振られたチームメンバーはあるものは顔を下に向けいたが
「俺は見てませーん。彼は毎日定時に帰っていました。
私は彼よりも早く帰ったことがないくらいです。」
「私もでーす。日中は打ち合わせって言って自席に居なかったですね。トイレにでも籠っていたんじゃないですかね。」
とニヤニヤ笑いながら取り巻き2名が話した。
「ふざけるな。こんなことが認められてたまるか!」
そう怒鳴った際に、部長が声をかけてきた。
「朝から何事ですか?」
私は事の経緯を説明した。
部長は困惑している様子でここではなく会議室を予約するからそこで話そうと提案した。
部長と私と課長は会議室に移動した。




