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私は入る会社を間違えたかもしれない。  作者: オツタロ


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情報運用部 2014年4月~2015年4月 ⑦

他部署の人が打ち合わせなどで事務所に入っているのは日常茶飯事だ。

会議室は会議室エリアと呼ばれる会議室だけが集まったフロアの一角があるがそれだけでは足りなかったり時間を要しない会議の場合は事務所内にある会議室や事務所の端に机と椅子を並べて作られている打ち合わせスペースと言うものがある。

正社員は会議が仕事というくらい日中の9:00-17:30は打ち合わせばかりという人が少なくなかった。

私もそのうちの1人だった。

自分の仕事は会議が終わる夕方以降に行うというのが日常化していた。

 そんなある日珍しく午後に打ち合わせがなく自席で資料を作成していると後ろを誰かが通り過ぎた。

「うわぁ。この人自分で資料作成しているよ。まじ怖い。

資料作成って派遣の仕事でしょ。

自分を派遣社員と勘違いしている病気かな。」

と笑いながら話していた。

私のことではないと信じたかったがこのチームで打ち合わせ用の資料を作成しているのは私くらいしかいなかった。

他の人はメールの返信やスケジュールの確認でエクセルを開くか、派遣社員が作成した資料の確認を紙で行っていたりハンコの押印というのが仕事のほとんどだった。

自席で黙々と打合せ資料を作成したり議事録を作成したりするのは派遣社員の役割とみなす人が増えていた。

なので打ち合わせにはプロジェクトメンバーの正社員とその人に代わって仕事をする派遣社員と言う2人1組で参加する人が珍しくなくなっていた。

会議室も大きな部屋を取り合いになるし、会議室の椅子が足りない場合は隣の会議室から椅子を借りるなどして打ち合わせをしていた。

私の場合は自分で資料作成をするし議事録も自分で作成していた。

打ち合わせの参加も自分一人で参加していて珍しいタイプの仕事の仕方になっていた。

いつからこんな仕事のスタイルが増えたのだろうかと思う。

少しずつ増えていったというよりかは2人1組で仕事をする姿勢は数年前は少数派だったような気がする。

それがある一定の人数を超えてしまいそれが特異点となり一気にそのような仕事の仕方が増えたような気がする。

今や私のような仕事の仕方は残業代も出ないのに残業ばかりして派遣社員の仕事をしている頭のおかしいやつと公然とバカにされるレベルになっていた。

そしてそれを後輩である人にまで言われる始末だった。

振り返って確認はしなかったが声を聴いて私が新入社員研修で指導役を務めた際の後輩社員であることは間違いなかった。

同期が協力的でなく1人で必死に研修を担当していたが今や社内の評価は彼のほうが上だろうと感じた。

それでも私はこの仕事のスタイルを変えるつもりはなかった。


飲み二ケーションと呼ばれるのは昨今死語になりつつあるとニュースで聞いた。

今から10数年前の当時は飲みニケーションが活発であった。

むしろ日中まじめに仕事をしていても意味はなくいかに穴場な店を知っているか、華麗な幹事ができるかが人望の的になっていた。

スマートフォンで堂々と飲み屋を調べるという人はいなかったが検索制限のかかったパソコンを駆使して飲み屋を調べるというのは多くの人がやっていた。

私はほとんど飲み会に参加しないタイプだったが部署やチーム内の送別会や季節単位での飲み会には参加していた。

私なりの処世術のつもりだ。

一時期飲み会で私が悪口を言っているというトラブルがあった際に数か月間一切の飲み会に参加していなかったが、課長より「部長がお前が飲み会に参加していないことを心配している。」と言われ一部の飲み会には参加するようになっていた。

 チーム内の正社員と派遣社員だけのこじんまりとした飲み会が開かれたので私も参加することにした。

居酒屋に到着すると課長以外のメンバーが来ていた。私は指定された席に座りビールを注文し課長が来るのを待っていた。

少しすると課長が到着し飲み会を始めようというときにもう1人参加者が現れた。

他チームの私の同期(女)だった。

私の頭に”?”が浮かんでいた。

今日はチーム飲み会じゃなかったっけ?

チーム飲み会って言ってしまえばほかのチームの愚痴を言う場でもあるので他のチームの人がいると気まずい。

「いやぁ。そこでばったり彼女に会ってね、どうせだからと誘ったんだよ。」

と課長は言った。

課長と同期は隣同士で座った。

(いやそれはおかしいよね。飲み会は予約しているんだから人数が増えるとお店も困るよね。)

と内心思ったが口には出さなかった。

うちのチームはこの課長が就任してからというもの課長が飲み会の予約やら料金徴収をおこなっていた。

本人も飲み会部長って呼ばれているからこういうの得意なんだよね、って話していたがしばらくするとその真相が判明した。

お店はよくある駅前のチェーン店ではなく隠れ家的な居酒屋ばかり。

場所も会社の最寄り駅付近ではなく駅からだいぶ離れている場合や電車に乗って移動しないといけないお店を予約していることが多かった。

隠れ家的な居酒屋なので駅前にあることのほうが珍しいし地域に何軒もあるわけではないので必然的に電車での移動を余儀なくされるのである。

ある人がネットで居酒屋のコース料金を確認したところお店のホームページに書かれている料金よりも1人当たりの徴収料金が高いということが判明した。

お店の予約や幹事をしてくれているのでそういう役得もあっていいのではと思っている人もいたが徴収される料金が本来のコース料金+3000円とかになっていて当時で7000円くらい払わないといけなくなっていた。

部内全体の飲み会を部長直々に幹事を務めるように課長が任命された際には女性社員は無料、男性社員はその分を負担しろと言うなぞ指令が幹事から発令された。

私ではない別の社員がそれで料金を合計したところ女性社員の人数以上の人が無料で参加できるほどみんなからお金が徴収されていることが後日判明した。

その人が抗議しようとしたが他の社員から止められていた。

そのころには課長派閥みたいなのが出来上がっていて課長の周りにはその取り巻きが常に目を光らせている状態だった。

さすが元情報基盤部の人間じゃないかと感心するほど課長は就任1年も経たないで部内を制圧していた。

残るは部長くらいしか対抗できる人はいない状態だった。

私がなぜそんな話を知っているかと言うと抗議しようとした社員の人が教えてくれたのだ。

”君は課長が嫌いだよね。いい情報があるから教えておくよ”と。

 今日の飲み会の席でも同期は堂々と課長の横に座り遠慮と言うものがないように見えた。

隣に座っていた派遣社員が

「またあの人参加しているよ。君よりもチーム飲み会に参加している頻度高いよ。」

私は季節の変わり目にある飲み会や会社主催のパーティくらいしか参加しないしそれも最近まで参加していなかったからこんなことになっているとは露ほどにも知らなかった。


とはいっても飲み会は滞りなく進み、終了時間までみんなで楽しく飲んでいた。

お店を出て参加者一同集まっていると課長と同期がいないことに気が付いた。

「あれ?あの二人は?」

と聞くと、周りはニヤニヤして

「二人は早々にお店を出て行ったよ。いつもの流れだよ。」

「あそこまであからさまにされると逆にツッコめないよね。」

と話し合っている。

同期は独身だが、課長は妻子持ちだ。子供は男の子が二人いるはず、課長自身がそう言っていたのだから。

私の酔いは一瞬で冷めてしまった。


ある時同期のアパートの部屋に呼ばれてお邪魔していた。

最初は何かの罠かなと思っていたがただの宅呑みだった。

私と宅呑みしたことは内緒にすると言う条件で私もお酒を飲んでいた。

「この話知っている?」

と彼は話し始めた。

「君んところにいる彼女(同期女)ってさ課長と不倫しているよね。

不倫とか勝手にしてろって思っていたんだけどさ、さすがに同期と20歳年上の男との不倫を目の前で見せつけられたら考え変わるわ。

不倫する奴はクズやね。

あの人のこと仕事ができないって言う人多いけど、飲み会を精力的に開いたりゴルフ会って活動したりで仕事とは違うところで頑張っているのはすごいことやと思うんよ。

そのおかげで社内随一の人脈があるじゃん。それで成功したプロジェクトとかあるし仲違いしていた人がよりを戻したおかげで炎上していたプロジェクトが成功したこともある。

それなりに実績もあるんよね。」

と課長を褒めているのかけなしているのか。

「不倫しているって噂だろ?真実じゃないだろう。

俺だって悪いことをしていないのに不正をしているとかいろいろ言われた。

火のないところに煙が立つというやつを身をもって体験した。

いくら同期とは言えほかの同期を悪く言うのはだめだよ。」

私は信じたく気持ちで彼女を弁明した。

「いや、噂とかじゃなくて目の前で付き合っていまーすって派閥の飲み会で言っていたからね。

これで実は嘘ですってないでしょう。

飲み会終わりに二人だけで消えるのも恒例だし。

俺は正直不倫したいならそれでいいと思っていたんだよ。

既婚者だけど恋愛って自由じゃん。それこそ奥さんのほうだって浮気される原因があるかもしれないじゃん。

家庭のことは話したがらないけど浮気しているんだからうまくはいってないだろうし。

俺が気に入らないのは不倫相手がいる飲み会では奥さんとは早く別れたい。結婚したのは俺の人生の最大のミスだった。次結婚するときはこんなミスは絶対にしないって言っていることだ。

それを聞いてあいつもまんざらじゃないうっとりとした表情しているし。」

彼のお酒を飲むペースが速くなっていた。

反対に私はお酒どころかつまみにさえ手が伸ばせない状態だった。

「それがさ、その同期女がいない飲み会だとなんて言っていると思う。

子供がかわいいとか家庭は大事にしないといけないとか。

今度家族旅行に行こうと思っているとか言うんだぜ。

それを聞いている他の同期や先輩後輩のやつらもニヤニヤしてやがる。

同期女がもうすぐ捨てられるんじゃないかってコソコソ話してやがる。

あの人の女癖の悪さは筋金入りだ。数年おきに新卒女を手籠めにして飽きたら捨てる。

その後は俺らを使って悪い噂を流したり仕事を妨害したりして退職に追い込む。

話では聞いていたが実際にそれが目の前にあると急にリアルって感じがしてきてね。

周りのやつらはニヤニヤしているし、気持ち悪く感じてるんだ。」

一通り話し終わると彼は黙ってしまった。

「こんな話を聞いても俺はまだ信じられない。なぜ職場で不倫するんだ?

独身なら同じ独身者を探せばいいじゃないか。

略奪愛なんて効率よくないだろう。」

今にしても思えば的外れな意見だと思う。当時の私の恋愛観ではそれくらいしか考えることができなかった。

「ぶっちゃけ、不倫はめっちゃ多い。職場だからこそ不倫するんだよ。

ああいうの見ていたら結婚なんて怖くてできなくなっちゃうけどね。

同期女の不倫を知らないのっておそらく君だけだと思う。

当たり前すぎて話題としては旬を過ぎたくらいのレベルだから」

宅呑みはそれでお開きとなった。


それから数日間私は課長と同期女の動向に意識を向けることにした。

今までそういう色眼鏡で見ていなかったので気にしていなかったが打ち合わせで事務所内にある会議室や打ち合わせ卓を使うのではなくわざわざ会議フロアにある会議室を使っているのだろうか。

会議室の予約は誰が予約したかがパソコンから一覧で見ることができるので同行の把握は容易だった。

予約時に打ち合わせ名としてタイトルにその内容を書くのだが書いている内容が曖昧だったり小規模プロジェクトの内容だと会議室の予約が取れなかった規模の大きなプロジェクトから譲ってくれないかと相談があったりする。

なので会議室の予約のタイトルでどの業務がどのプロジェクトが使用しているのかが一目でわかる。

会議室の予約はすべて課長の名前で取られていた。会議室の大きさは最大4名の定員なので会議フロアにある会議室の中で一番小さい部屋だった。

会議を一緒にしているからと言って不倫しているわけではない。私はそう思う。

一緒に仕事をしているのだから一緒にいる時間が多いのは当然だ。

飲み会で二人でいなくなったのも偶然の可能性がある。

しかしこのことが気になって私の仕事のスピードは落ちていた。


もやもやを抱えながら数日を過ごしある時行動に出ることにした。

課長が退勤するときに私もそのあとをつけることにした。

ストーカーのような行為に自己嫌悪があったがこの目で見るまで信じたくなかった。

課長がエントランスまで行くとエントランスの長椅子に同期女がいた。

同期女は課長を見つけると席を立ち課長の横に並んで歩いていった。

私は胸の鼓動が激しくなるのを感じた。唾をのみこみ、存在がばれないようにつけて行った。

会社をでて100mくらい歩くと分かれ道がある。

それぞれ別々の鉄道の駅に続く道なので二人はそこで分かれるはずである。

 社内恋愛をしているカップルがばれるきっかけがこの分かれ道というのがあった。

使っている路線が違う二人がなぜか分かれ道で分かれず一方の道で歩いている。

それを他の人に見られて噂が立つ、後日二人は付き合っていましたと明るみになる。

通勤に使用している路線が違う場合だけの限定的な話だがそれ故にこの分かれ道は付き合っているのか、単なる友人レベルなのかを判断する装置として機能していた。

その分かれ道に差し掛かった時課長と同期女は同じ道を歩いて行った。

二人は楽しそうに談笑しているのが同期女の横顔でわかった。

私はショックを受け踵を返して残業を続けるために会社に戻った。

 残業中、いやまだ不倫していると決まったわけではない、きっと課長は普段使っていない駅方面に用事があったに違いないと考えた。

私があの分かれ道で追跡をやめてしまったので十分な証拠が揃っていないのだ。

私はまだ二人はそういう仲ではないと信じていなかった。

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