サイドストーリー2
~ストレスチェックテスト管理人~
年に一度法令でストレスチェックを行う。
実施する場合は1人で自身の判断に基づいて質問に答えていくというシステム。
この会社の場合、OJTの指導役や課長が横に座りどの選択肢を選ぶかを指定してくる。
指定したとおりに選ぶとストレス無しという判定になる。
ストレスチェックが法律で義務化されてから退職するまで私は一人で実施したことがなかった。
~プリンター監視おじさん~
島と呼ばれる6個から10個の机を一つの塊にした単位で集まって仕事をする。
この状態に関してはほかの会社も同じ形態だと思う。
プリンター監視おじさんとはプリンターから紙が出力されて30秒程度で誰も取りに来ないとその紙をシュレッダーに持って行ってしまう人である。
正式な役割ではないがプリンターの横に座っている人の誰かが自然(?)とそのような役割を担っていた。
監視おじさんになぜそのようなことをするのかと、出力したからといってすぐに取りに行けない場合もあるから5分ほどは様子を見てもいいのではないかと言ったことがあるが、
「そういう甘い考えが情報漏洩につながるんだ」と言って提案は却下された。
プリンターの紙がなくなった場合、プリンター監視おじさんは補充はしない。シュレッダーに持っていくだけの役割である。
~シュレッダー監視おじさん~
配属されたばかりの新入社員がシュレッダーで紙を裁断する場合、どこからともなく監視おじさんがやってくる。
裁断する紙をチェックし紙がホッチキスが留めてある場合はそれを外すように指導する。
シュレッダーは大型の自動式タイプで複数枚の紙を投入しても問題なく動作する。
ホッチキスが何個あろうが関係なしに裁断してくれる。
しかし新入社員だけはホッチキスを外さないとシュレッダーをしてはいけないのである。
一度他部署の人と飲み会で話す機会がありこの話をしたところ
「うちの部署にもいるよ。怒らすとやばいから従っていたほうがいいよ。」
とアドバイスをいただいた。
配属されて半年くらい経つとシュレッダー監視おじさんはやってこなくなる。
一度監視おじさんになぜこのようなことをしているのかと聞いたところ
「学生気分を抜けさせるためや。社会では楽はできんと体に教え込ませている。」
と謎の回答をしてくれた。
そういえば新入社員研修中も残業ありきの内容で残業代がでないことに不平を言った際に同じことを言われたなと思いだした。
シュレッダー監視おじさんはシュレッダーごみがいっぱいになった場合は自分では交換せず新入社員を呼びに行き交換とシュレッダーの掃除をさせる。その作業を傍で見守る。
~文字の種類~
エクセルはゴシック体、ワードは明朝体。
フォントサイズは基本11。
数字、英字、スペース(空欄)は半角。
スペースについては全角が使われていないかデータで確認され全角があると説教を受ける。
~プリントルール~
基本白黒印刷。部長以上に見せる資料はカラー印刷。
基本は2in1。
トナーセーブを使用して印刷しないといけない。
これが守られていないと説教を受ける。
説教の内容は基本的に親の侮辱から始まる。
~学歴バトルは突然に~
基本的に社内の発言力の強さは出身大学の偏差値、ネームバリューによる。
会議で意見がぶつかったとき、確認されることは発言者の学歴である。
大学を卒業して何年経とうがこの学歴バトルからは逃れることはできない。
そのせいか50歳をすぎた人でも近況を語るように卒業した大学の話をしている姿をよく見る。
顔を見ないで声だけを聴いていたら新入社員が話していると勘違いしてしまうほど。
~板挟みになる資料作成~
稟議書というシステム開発着手の承認を取ったりするために必須な重要書類がある。
この書類作成に命を懸けると言っても過言ではない。
資料の承認には先輩社員→課長→部長の承認と連続で取っていかねばならない。
部長で弾かれた場合、指摘箇所にもよるが基本的には最初の先輩社員の承認から取り直さねばならない。
大変なのは先輩社員がOKした内容で課長が指摘をした場合である。
そして課長がもう一度先輩社員に承認を取り直せと言ったときは無限ループに陥ることになる。
課長に指摘された内容を修正して先輩社員に見せると、
「俺はこの内容はだめだと思うね。修正しないほうがいい。こんな内容では俺は承認しないよ。」
課長に見せると
「私は修正しろと言った席次は私のほうが上だ。上司の命令に逆らうのか。」
先輩社員は
「業務の理解度は俺のほうが上。現場のことがわかっていない課長の指摘は的外れ。」
という内容を両方から言われて業務が停滞することが多々ある。
私だけではなく若手社員はみな同じ経験を何度もする。
先輩社員と課長とが直接話せば解決するのだがどちらもそのようなことはしないし、こちらが提案しても会話はしない。
たいていの場合2週間程度停滞して修正文言が解決せずプロジェクトが遅れそうになってようやくどちらかが折れるというのが通例である。
~資料作成堂々巡り~
資料が出来上がるまでには十数回修正が入る。
一つ直しては別の指摘をもらい、そのために何度も打ち合わせをする。
体裁を気にする先輩社員ならば資料を見てくださいというだけでは相手にしてくれず必ず打ち合わせ卓や会議室の予約、会議通知の送付が必要になってくる。
もちろん会議通知は前回のものをコピペで作ってはいけない。きちんと心を込めて手書きしないといけない。
そうやって1週間かけて修正してOKをもらった資料が最初に作成した初版と同じ内容だったということが何度かあった。
情報基盤部にいたとき、何度もそのようなことがあったので先輩社員に2枚の紙を見せて
「こっちが最初に私が作った資料です。そしてこれが先ほど先輩からOKをもらい完成した資料です。
どこが違うのでしょうか。
文書のタイトルや句読点の位置など少し違うだけで内容は同じではないですか。」
後の結果は言わなくてもわかる通り烈火のごとく怒る先輩に長時間説教を受けた。
~メール送付ルール~
メールを送付した後は必ず電話にてメールを送った旨を連絡しなければならない。
メールを送ったので見てください。
メールを送ったので返信お願いします。
メールを送ったので添付ファイルを確認してください。
このようになぜメールを送ったのかを説明しないといけない。
例えばメールの添付ファイルを参照してほしいのに電話で”メールを送りました”だけと伝える。
相手はメールの添付ファイルを観ずにそれが原因で業務でトラブルが起きる。
その場合送付した人が悪いことになる。
そんな状態なので打ち合わせで席を外していて自席に戻ってくると机には貼る場所がないくらい付箋まみれになっている。
パソコンの画面にも付箋まみれになっていることもあった。
~プロジェクトメンバーの選定~
プロジェクトを開始する際に課長はどうやって人をアサインしているのだろうと気になったことがある。
主管となる部署ではプロジェクトの規模と候補者の経験、これからの成長期待などを考慮して決められる。
これは至って自然なことと思う。
ではプロジェクトの主管ではなく関係部署として一緒に協力していく部署だとどうなるか。
これが難しいと聞いたことがある。
プロジェクトの規模などで通常通り自分の部下の中から候補者を選んでいく。
そして重要になるのが主管のプロジェクトリーダーの人柄である。
性格というか仕事の仕方というかどの派閥に所属しているか、誰と仲が悪いのかとそういうことを考慮してプロジェクトの参加者を選んでいかないといけない。
1人が多くのプロジェクトを持っている為、1個くらい失敗してもいいやと考えるリーダーもいる。
失敗しても自分が責任を負わないように派遣社員というしっぽ切り要員がいるならば遠慮なく会社に損害を与える人もいる。
そういうことが過去に何度もあったのでプロジェクトメンバーの選定は課長の重要な業務となっている。
課長は社員の個々人の人間関係を熟知していないと務まらないのである。
~お金は貯めておいたほうがよい~
これは私が飲み会で聞いた話になる。
銀行だからなのか、単にその人がそういう人だからなのか。
”宵越しの金は持たない”
”貯金は恥ずかしい行為”
と言う男性社員がちらほらいる。
貯金していることがばれると飲み会の費用を全額負担させようとしてくる人もいるくらいだ。
貯金することは恐ろしいと学ばせられる。
私もその被害者の1人である。
ある日いつものようにお酒に酔った男性社員が
「この中に貯金しているやつはいるかー?
いるなら今日の呑み代全額そいつの奢りな」
と言って弱そうな人から順番にウザ絡みをしていた。
「20代で貯金なんて恥ずかしい。
毎月給料が入ってくるのに貯金する意味なんてない。
欲しいものがあったらバンバン買って借金をするくらいで一人前の男だ。
貯金よりも自己投資。」
と言っていた。
ちなみに私の同期の1人はそんな言いつけを守って貯金をせず、電気料金を支払うことができず電気を止められたことがある。
そんな時私の隣に座っていた40代の男性社員が話しかけてきた。
「貯金はしておけ、貯金は大事だ。」
悲壮な表情だった。
「俺も若いころ貯金をしていなかった。
上司から貯金は恥ずかしい行為だと言われ、薦められるままローンで車を買ったりしていた。
そんなある日当時付き合っていた恋人で今の奥さんと婚約するという話が出た。
付き合って数年周りも結婚して言っていたら何の疑問も持たなかった。
奥さんも俺の貯金額というか貯金がないことも知っていた。
俺たちは両親の挨拶をするために両家の顔合わせをすることにした。
その当日、俺と俺のおふくろ、親父、奥さんは奥さんの両親を連れてきた。
簡単な挨拶が終わって世間話になった。
その時に奥さんが言ったんだ。
”お義母様、聞いていただけますか。この人貯金がないんですよ。毎月のお給料も全部使ってしまっていて全然貯金がないんですよ。”
最初はあぁその話か、そんな話をこの場でしなくてもいいじゃないかと軽く考えていた。
ハハハー。と私は笑っていたんだ。
すると横にいたおふくろが泣き始めたんだ。
”うそでしょ。。。貯金していないの?嘘だと言って”
その顔は涙にぬれて悲壮そのものだった。
親父は顔を伏せて”愚息が申し訳ございません。”と義両親に頭を下げていた。
俺は何が起きているのかわからなかったよ。
すかさず奥さんが言うんだ。
”お義母様、ご安心してください。私がこの人を支えていきます。だってこれから夫婦になるんですもの。”
それを聞いたおふくろは
”こんなバカ息子でごめんなさいね。こんな子に育てた覚えはないのですがこんな子になってしまって私の教育が間違っていました。申し訳ございません。”
おふくろが人に頭を下げる姿を見るのはとても辛かった。
相手のご両親からは
”貯金がないって本当かね?
突然事故や病気になったらどうするつもりだったんだ?
生活するにはお金がかかるもんだ。子供ができたらさらにかかる。
家や車だって全額ローンにすると返済が大変だよ。”
優しく語りかけているはずなのに何も頭に入ってこない。
この場は何なんだ。俺と俺の親の処刑場か。
気が付くと顔合わせは終わっていた。そのあとのことは正直覚えていない。
そして俺たちは入籍して結婚した。」
男性はお酒と少しのおつまみを口に入れた。
「それから20年。俺はいまだにお小遣い制だ。
妻は専業主婦で家計を握っている。
何を買うにしても妻の許可がいる。
お小遣いの中で買うものでも許可がないと買えない。
出世して給料が増えたからお小遣い制をやめてくれないか、それか増額してくれないかと言っても
”あなた覚えてないの、若い時貯金なかったじゃない。そんな人がお金を持ったら散財してしまうわ。
お金の管理は私がします。”
いまだに20年前のことを持ち出すんだ。俺も何も言えないんんだけどな。
だからな、若い時は貯金しておけ、これだけは絶対重要だ。
彼女が貯金なんてなくてもいいよと言っても信用するな。
お金は力なんだ。お金がないやつは社会的にも家庭の中でも居場所なんてない。」




