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私は入る会社を間違えたかもしれない。  作者: オツタロ


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情報運用部 2014年4月~2015年4月 ⑤

部内監査が終わった翌月、私はまた部内監査の担当に選ばれた。

この月私の業務は忙しく毎日残業しても追いつけないほどだった。

残業時間帯この部署では私を入れて4人がいつも残っていた。

先月の監査業務で一悶着あったので今月は早くやろうとしたが全手順書の確認で今月もギリギリで監査業務をしていた。

今回は期限までに終わりそうになかった。

私は禁じ手であるやったふりをして部内監査を終えた。

知っているとすればこの残業しているいつものメンバーだけだった。

私も含めて理不尽な扱いを受けていたメンバーたちだったので私はどこか彼らに親近感を覚えていた。

とはいっても雑談をしたりする間柄でもなく日中の業務中、残業中含めて黙々と作業をしている4人だった。

飲み会の時に会話したくらいだった。


当月の業務監査完了のミーティングが開かれた。

座長は各チームの課長職が持ち回りでやっており今月は私のチームの課長だった。

初めて不正をしたので私の気分は沈んでいた。

座長がいつものように部内監査の部長承認が終わった旨を言ってこれでミーティングも終わりだなと思った瞬間。

「みなさんはきちんと業務監査をしていますか。

まさかとは思いますが仕事が忙しいからと言って部内監査をやったふりなんてしていませんよね。」

突然課長が話し始めた。

一同動きが止まった。私は息が止まる思いだった。

「部内監査は重要な業務です。やったふりなんてもってのほかです。」

と言って私の名前を呼んだ。

(ばれているのか。。。あの夜のことを知っているのか。誰にも話していないし知っていたとしてもあの時残っていたいつもの残業メンバーだけだ。

なぜ私に話しかけた?

先月の一悶着の意趣返しか。

同じ課長職の人がやられたからその仕返しか。)

私は「もちろん。さぼっていません。」と何とか返答することができた。

課長はにやにや笑っているように見えた。

「みなさんミーティングは終わりましたよ。退室しましょう」

と言いみな席を立ち部屋を後にした。

いつもの残業メンバーも私が勝手に親近感を抱いていただけで実際に親しかったわけではないということを認識した。


あるプロジェクトが完了した。

システムも問題なく稼動し資料の引継ぎも終わった。

課長とチームメンバー宛にプロジェクト完了のメールを送った。

最後にプロジェクト完了報告書と言う書類を紙で提出し課長や部長の承認印をもらえば完了である。

すると課長からデータを渡すように指示があった。

最初は意味が分からなかった。

最終成果物は共有フォルダと呼ばれるネットワーク上に作られた保存ボックスに保存するルールとなっている。

この当時はまだ紙文化が主流だったので承認をもらった書類は成果物としてファイルに綴じて壁にあるキャビネットに保管していた。

なのでデータを渡すようにと言われても保存場所は課長も知っているはずである。

意図がわからずメールに貼ってあった最終成果物保管ボックスのリンクをそのまま課長に送った。

「そういう意味じゃねーよ。

プロジェクト完了報告書をこれから出すんだろ?

その紙を俺が代わりに出しておくから寄越せって言ってるの。」

「いえ、あとはこの書類の承認印をもらうだけなので私のほうでやっておきます。」

「いやいや君は忙しいだろう。俺が代わりにやっておくよ。

その空いた時間で別の仕事をしたらいい。」

「そんな気をつかわなくて結構です。

プロジェクトの最後の仕事ですし、時間のかかる作業でもありません。

所定の紙を出力して回覧ボックスに入れるだけ。

部長から説明を求められたら説明に伺えばいいだけですし、今回のプロジェクトならばそんなことにもならないでしょう。」

「いいからその紙をデータで俺に渡すんだ。業務命令だ。」

話は平行線で課長が折れる気配が全くなかった。

見かねた先輩社員が小声でいいからデータを渡せと私に言ってきた。

私も課長の意図がわからないがよくないことを企んでいるのはわかったがその真意が読めずデータを渡すことにした。

それからというもの私がプロジェクトを終えるたびにデータを渡すように言ってくるようになった。


いつからか残業をしても上司が残業を認めないというようになっていた。

正しくは残業時間を勤怠に入力し課長に承認依頼を出すと却下がされるようになった。

却下理由を聞いても明瞭な回答はなく「若いんだから残業代要らないだろう?」ということだった。

「残業代の申請に年齢は関係ありません」と言ったが聞き入れてもらえず私は100%サービス残業をすることを強いられた。


人事部より集合研修の連絡があった。

入社年度単位で定例のビジネス研修を行うという。

その研修は一日かかるものだった。

同期と顔を合わすことに嫌悪感を抱きつつも私は参加した。必須参加なので拒否権はないのである。

研修では座学が中心で研修最後に問題を解くというものだった。

問題もよくある職場の問題解決的な問題で新しく学ぶというものはなかった。

研修後の感想文にありのままの感想を書いて提出した。

 後日人事部から呼び出しをくらった。

「この感想文は何だい?

君だけだよ、こんな喧嘩を売るような感想文を書いているの。」

「ありのままの気持ちを書きました。

1日かけての研修でしたが1日もかける価値がないと。

本屋で売っているような自己啓発本の内容をかいつまんで説明しているだけの研修に価値はありません。」

「ふざけるな!この研修は毎年行われている。

現場に配属されてたるみ切った若手社員に心を入れ替えてもらうようにと君の上司である課長が人事部にいたときに発案した研修だ。

言わば君は上司に逆らったと同じことをしているわけだ。

この意味がわかるよね。

今この場で感想文を書きなおしなさい。」

新入社員時の研修の時から私たちを見下し、こちらがヘルプを出しても助けようともしなかった人だ。

研修関連を取りまとめているというが研修には最初と最後に顔を出すだけでどんな研修が行われているのか把握しているかも怪しい、と私は感じていた。

「書き直しません。

どんな研修だったか知っていますか?

資料は見たことはありますか?」

「つべこべ言うな!

お前生意気なんだよ。」

私はため息をついてから彼にある提案をした。

「あなた私と一緒に現場で働きませんか?

こんな意味のない研修を、これだけではない、3年目までに受講しないといけないという研修群も意味がない。

なんでそんな意味がないことを熱心に取り組んでいるのか不思議でしょうがなかった。

今わかった。

あなたは現場を知らない。

現場がどれだけ大変か、どれだけ残業しているか。

こんな空気のきれいな怒号が飛び交わない。派遣社員がいじめられている場面にも遭遇しないところにいるから現実が見えてないんです。

現場に来れば現実が見えます。リアルがあります。

私のチームで一緒に働きましょう。

課長と仲がいいですよね。一緒に働けるんですよ。今すぐ異動願いを出しましょう。

さぁ今すぐに!」

言い終わるころには彼の顔は蒼白になっていた。

消えそうな声で「現場は嫌だ、現場に行きたくない。」と言っていた。

この人も昔は現場で働いていたのだ。

メンタルを崩して休職してそれから人事部に異動になって今に至るのだ。

昔自分がいじめられていたのになぜ今立場が弱い人をいじめているのか、私には理解できなかった。

「昔のように現場で働きましょう。

私少しあなたのことを調べたんですよ。

なんだかんだ言って新入社員研修のころから付き合いがあるわけじゃないですか。

あなたの過去を知っている人に聞いてみたんですよ。

忙しい業務の合間にね。この会社はミーティングの最初と最後に雑談をしろとかいう謎の暗黙のルールみたいなのがあるじゃないですか。

だからそういうときに聞いていたんですよ。

私って今や部内でも指折りの仕事が忙しい人じゃないですか。

でもそれって社内の多くの人と仕事をしているってことなんです。

あなたの過去を知っている人を見つけましたよ。」

彼の目が視線がそれ以上は止めろと訴えかけてきていた。

「私と言う休職してから復職した成功事例があります。

あなたが異動したいっていえば誰もそれを止めないでしょう。

昔のように現場で働いてほしいと思うのが組織の気持ちだと思います。

一方人事部に異動したいという人もたくさんいます。

ここは空気がきれいで怒号もなく、定時に帰れることがほぼ約束されている場所です。

あなたが言えないなら私がこの会議室を出てあなたの上司に言ってもいい。

処分覚悟で部長に直接訴えかけるのもいいです。

きっと部長もあなたの異動を許可してくれますよ。」

「現場は・・・嫌だ・・・。

・・・過ぎたことを言ってしまいました。謝ります。許してください。

現場には本当に行きたいないんです。

未だに開発部とかの部屋の扉の前に立つと苦しくなるんです。」

「周りは働いているから病気は治ったんだねって言いますよね。

まるで風邪が治ったかのような。心の風邪とか世間では言いますもんね。

なってみてわかったことですがこれは不治の病の一つですよ。

私も夢に見ますよ。情報基盤部でのこと。夜中に飛び起きて泣くこともあります。

会社に行くのもつらいと感じる日もありますが心を無にして何も考えないで会社まで行くようにしています。

周りが思っているよりは治ってないですよね。

薬を使ってないから平気になったわけではない。それを誰も理解してくれない。」

言い終わるころには彼の顔は最初にあったころのような見下すような表情ではなくなっていた。

「・・・すみません。今回の感想文の修正は必要ないです。このまま提出扱いで問題ないです。

それと今後の会社で予定されている研修がいくつかありますがすべて参加しなくて大丈夫です。

私のほうで参加したことにしておいて処理しておきます。」

「それは単純に不正なのでは?

あとから不正させられたとか言うんじゃないの?」

「そんなことは絶対にしません。私の責任をもって迷惑が掛からないように処理しておきます。

なので。。。私の異動の話もしないでいただけないでしょうか。」

それが狙いかと思いつつそんなことはしませんよと軽く言って私は会議室を出て行った。


ある時3年目までに受講しなければならない研修群のヒアリング調査という題で呼び出された。

ヒアリング日受講したテキストを持ってくるようにとメールに書かれていた。

「すみません。20個受講したのですが18冊しかありませんでした。2冊は誤って捨ててしまったかもしれません。」

とヒアリングの冒頭で謝っておいた。

「18冊も持ってきているだと!

トップタイではないか。」

ヒアリング調査の人事部の人は驚いていた。

「君はすべての研修の感想文にマイナスなことを書いているね。

過去数年間さかのぼって確認したが君だけだよこんな感想文を出しているのは。

てっきりテキストはすべて破棄していると思っていた。」

「会社のお金で受けた研修なので残してはいます。

役には立っていませんが。」

「そうだろうね。

他の人からもヒアリングしているんだがね、感想文に”素晴らしい研修でした”とか”これからの業務に役立てることができます”とか書いている人ほどテキストを捨てていてね。

今のところ君ともう1人が18冊でトップ、次点が2冊とかだね。

ほとんどの人はすべて捨てていると回答している。

詳しく聞いてみるとね、みんなぶっちゃけ始めてね。

”こんな研修意味ないですよ”とか”マイナスのことを書いたら上司から修正するまで承認しないって言われるから無理やり書いた”とか言っていてね。

テキストのほうも最初は”探せば見つかるかもしれません”と言っている人も”そうですか、それでは今日から毎日確認の連絡を取るので1日でも早く見つけて持ってきてください”と言うと、”捨てたのでもうありません”と正直に話してくれたよ。

嘘の感想文を本当だと信じて高いお金を研修会社に払っていたというわけだ。

嘘を嘘と見抜けていなかった人事部の失態だね。」

人事部の私の味方になって休職と復職を助けてくれた人は笑いながら話していた。

「これを始めたのって私の上司の課長ですよね。」

「そこまで調べているとはさすがだね。その通りだよ。

当時の稟議書には社員の能力向上と書かれていたよ。

さすがに3年目の社員に対してメールの書き方とか人の話の聞き方講座とか必要ないだろうってパンフレット見て思ってね。

いっそのこと受講した人に直接話を聞いてみようと思ってね。」

そう言って最後に一つ私に質問した。

「この研修は廃止して問題ないですか?」

私ははいっと頷いた。


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