情報運用部 2014年4月~2015年4月 ④
社内でビッグプロジェクトの開始のアナウンスが流れた。
プロジェクトが始まる前にプロジェクト開始のアナウンスが流れるのは初めてのことだった。
通常はプロジェクトメンバーが確定し彼らが資料を作りそれが上長の承認を得ていく過程で社内にそのプロジェクトがはじまっているのだと周知されていくものだ。
それが今回社長から事前に発表されるのは異例のことだった。
参加条件として若手社員のみで構成することとあった。
大きなプロジェクトになればなるほど成功した暁には出世という恩恵がある。
会社としては大金を投じることになるので同様のプロジェクトを経験したことがある人を中心に添えて次点に期待するメンバーで脇を固めていくというのがオーソドックスな構成の仕方である。
それが今回てっぺんから末端まで若手で構成すると言うのは大胆なことであった。
メンバーの選定は関係各部署で選定されるので選ばれるのを待つしかなかった。
私は自分が選ばれるわけはないと思い通常通りいつもの業務に取り組んでいた。
課長から会議室に来るようにと指示があった。
私は会議室の扉を開けるとそこには部長が座っていた。
その横に課長も座っていた。私は座るように促されて席についた。
「このほど社長からアナウンスがあった次世代ビッグプロジェクトの件なんだが、我が部からはきみにメインメンバーとして参加してもらうことになった。
やってくれるかね。」
私は驚いて声がでなかった。
部長とこの事務室内の狭い部屋で一緒にいると言うのも滅多なことではないが私がビッグプロジェクトの主要メンバーに選出されるというのは望外のことだった。
「今回の件、部内でも誰を出すかと紛糾したがたまたまお前しか空きがなかった。本来ならば別の人に任せる話だったが分不相応にもお前が選ばれてしまった。」
と課長は不満たらたらな様子で話した。
「いやいや課長くん、そんな言い方をしなくていいじゃないか。
たしかに誰を選出するかについて部長の私と各チームの課長とマネージャー諸君で話した、各人いろんな人を推薦していった。
その中で私がある意味独断で君を推薦したのだ。
君は今まで苦労してきただろう。それは無駄なことじゃない。
給料に反映されないこともあっただろう。
色んな人が君に対してやっかみを言っていることは私も知っていた。
それでも君はひたむきに様々な、それこそ文字通りチームの枠を超えて仕事をしてきた。
今回のプロジェクトは難しいものになる。
通常のプロジェクトにはないいろんなトラブルが起きるだろう。
だからこそ君のような艱難辛苦の味を知っている人こそがふさわしいと考えたのだ。」
最後にガハハとその恰幅の良い体によく似合う声で部長は笑っていた。
「社長から出ていたメンバー選定の期限までには余裕があるが、うちはこれで決まりだと伝えておくよ。」
部長はそう言って部屋を出て行った。
課長はその姿を見送ると眉間に皺を寄せて話し始めた。
「今回の件私からは私の子分を推薦した。しかし何が気に入らないのか他のチームのやつからダメ出しをくらった。
私のほうからも相手の候補者の欠点を上げて潰して合っていたら候補者がいなくなってしまった。
これは次回の打ち合わせに持ち越しだろうと思っていたら部長がお前の名前を挙げた。
鶴の一声ってやつだ。
それで決まったというわけだ。
部長に賄賂でも送ったのか。
女の世話でもしたか。
まぁせいぜいがんばれよ。
俺はお前のサポートなんて絶対にしないから。
部長も言っていただろうプロジェクトにはいろんなトラブルが起きるって。
苦しめよ。」
そう言って課長も席を立ち部屋を後にした。
私が思っていたよりも社内に連絡事項が周知されるのは早いらしく。
まだメンバー選定の期限前だと言うのに私が選ばれたというのが広まっていた。
どうやら社内で一番早くメンバーに選ばれたらしい。
申請書の申請ボックスに投函されるだけの書類をわざわざ私に手渡しで持ってくる人が格段に増えた。
以前からも何人かいたが申請書の提出ついでに相談事をするということがほとんどだった。
私と世間話をしていては標的になってしまう。
それが何人もの人が手渡しで書類を持ってきた。
「おめでとう。あのビッグプロジェクトに選ばれるなんてすごいね。」
「きみならいつか選ばれると信じていたよ。これから仲よくしよう。」
口々にそんなことを言っていた。
以前は同じ口で私のことを貶していたのに今度は褒めるという。
私はありがとうございますと言っていたが内心は反吐ができる心境だった。
私を褒めに来る人の中に同期や研修の指導員だった人や後輩も混じっていた。
何食わぬ顔でおめでとうとか言ってくる彼らにただただありがとうとしか言えない自分の根性の無さに悔しさも感じたが、これから社内の多くの人と接することになる立場なので個人としてではなく主要メンバーとしての人格を持たなければならないと感じた。
各部署でのプロジェクトメンバー選出が終わった。
私が最年少であった。
1個上の先輩ふたりがプロジェクト全体をまとめるプロジェクトリーダーとして選出されていた。
二人のプロジェクトリーダーというのも初めて聞いたがそれだけプロジェクト全体を主管する部署の意気込みが伝わってきた。
他のメンバーも中堅一歩手前という人たちで直接仕事をしたことがない私でも名前を知っている人ばかりだった。
プロジェクト会議で割り当てられた各部署の仕事に対してそれぞれを部署内で責任をもって遂行するのが主要メンバーの役割である。
私の部署からは私1人だけの出席だったので不安でしかなかった。
会議が終わり廊下を歩いていると同期が待ち伏せていた。
ばったり会ったという感じではなく私を見るなや走ってこちらにやってきた。
「おまえがなんで選ばれて、俺が選ばれないんだよ。
こんなの不公平だ。
不正なことをしたんだろう。きっとそうに違いない。
正々堂々と戦わず卑怯な手を使う。
底辺大学出身のお前らしい反吐が出るようなやり方だ。
成功するなんて思うなよ。絶対に妨害してやる。」
それだけ言って同期は走って行ってしまった。
プロジェクトは淡々と進んでいった。
課長からの支援というものはなかったがそもそも支援を受けるほどの内容がなかった。
この時期に細々としたプロジェクトも複数参加していたので気持ちとしては数多くあるプロジェクトの一つとして緊張せずに取り組むことができた。
他の主要メンバーはそうでなかったらしく、期限ぎりぎりで資料を完成する人が散見された。
理由を聞くと歯切れの悪い説明で要領を得なかった。
ある時プロジェクト開始前の雑談でメンバーの1人が愚痴を言った。
「この前仕事を依頼したら君とは派閥が違うから優先順位を下げてやっておくよって言われた。」
俺もあったわー。と他のメンバーも同意して頷いていた。
派閥間の争いにプロジェクトが巻き込まれるのかと思い、今までどの派閥にも入っていなかったことが功を奏したのだ実感した。
プロジェクトだけに話を絞るとプロジェクトは無事に完了することができた。
完了時の最終報告書で社長より「過去にないくらい完成度の高い業務システムである」とお褒めの言葉を受け賜ったとプロジェクトリーダーが喜んでいた。
そのプロジェクトの完成打ち上げ会に参加したかったがこの日に限って課長、先輩社員より翌日朝一で提出するようにと複数の仕事を夕方に言われ出席はできなかった。
翌日参加費を渡しに行った際に幹事であるプロジェクトリーダーに謝りにいったが残念そうにしていた。
参加費は払わなくて大丈夫と言われ受け取ってもらえなかった。




