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私は入る会社を間違えたかもしれない。  作者: オツタロ


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情報運用部 2014年4月~2015年4月 ③

部署の仕事の一つに部内監査というものがある。

これは社外の会社が行う監査業務とは異なり部内のメンバー普段の仕事が定められた手順書通りに作業できているかを申請書などの証跡のあるものを確認して確認する作業である。

毎月何人かが選ばれて確認作業を行う。

 私も選ばれた月には業務kの合間、主に残業時間帯にその監査業務を行っていた。

監査しているとそもそも手順書の資料名が古く現在の資料名と乖離しているケースが多々あった。

そういった場合本来の業務担当者に修正を依頼するのだが誰も修正してくれなかった。

手順書の修正は部内資料扱いになるので稟議書ではなく伺い書と呼ばれる最高承認者が部長までという稟議書と比較してハードルの低いものとなっていた。

あまりにも誰も修正してくれないので私が他チームの手順書を修正していた。

幸いなのか誰からもそのことについて指摘はされなかった。

 ある時部内監査委の取りまとめをしている人から呼び出しを受けた。

「君の監査をする日程がいつも期限ぎりぎりなのはなぜですか?」

「業務の合間にしているので期限ぎりぎりになってしまっています。」

「期限ぎりぎりになると体裁が悪いんだよね。

期限守っていますから問題ありませんということではないんですよ。

この資料は部長も見られるわけです。

部長は期限がぎりぎりになっていることを指摘されました。

これからは期限ぎりぎりにならないようにしてください。

他の人は優秀で担当が割り当てられた日のうちに監査を終わらしています。

そのほかの人も1週間以内に終わっています。

終わっていないのはあなたくらいなんですよ。

無能の自覚を持ってください。

無能者がほかの人の足を引っ張っている。迷惑をかけているという自覚を持ってください。」

「気を付けます。すみませんでした。」

私は話しても無駄だと判断して早々に頭を下げた。

その時はそれで話が終わった。


数日後部内監査業務が問題なく部長承認まで済んだことで定例のミーティングが開かれた。

「皆さん、お忙しい業務の合間を縫って作業していただきありがとうございます。

今月も部長の承認まで無事に終わることができました。

来月も誰かが任命されますがその際は引き続き対応お願いします。

一部の人が皆さんの足をひっぱっているので注意をお願いします。ね、〇〇さん。」

と私の名前を呼んだ。

みなが一斉に私の顔を見た。

「どうなんでしょうか。皆さん本当にきちんと作業をされていますか。

私はこの部署に配属されてこの監査と言うものを実施している中で多くの手順書が古いまま改定されずに放置しているのを目にしています。

みなさんに手順書の修正依頼をしたのも一度や二度ではありません。

それでも修正してもらえないので私が勝手に伺い書を出して修正しています。

多くの資料で私が修正者としてその名前が書かれているのが事実です。

私もいろんな監査業務を行っていますが割り当てられた日に監査を終えるというのが現実的なのか疑問に思います。

みなさん、きちんと監査業務をされていますか。」

会議室で1対1の場面だと怒鳴り散らされ、最悪殴られていただろう。

しかし今この場では部内のいろんな人が出席している。それこそ年齢も性別も普段の仕事も様々だ。

みな一様に蒼白な顔になっていた。

「な、なにを言うんです。

不正なのはあなただけです。

他の人の仕事を疑うなど失礼極まりない。

謝罪してください。」

「私が普段の業務で処理しているサーバー室入室申請書。これは毎日提出されます。多い日だと20枚を超えることもあります。

月一回のこの監査業務だと200枚以上、いや300枚を超える枚数をチェックしないといけません。

それがこの監査チェックシートだと割り当てられた日に終わったことになっている。

要は1日もかかっていないで終わっていることになっているわけです。」

私はその監査業務の担当者を見た。

彼は顔を伏せてしまっていた。

誰も何も発言しなくなった。

沈黙に耐えられず年長の社員が話し始めた。

「メンバーはみんな仲間です。仲間を疑うなんてやっちゃいけない。

今月の業務監査は完了した。この話はそれで終わりです。」

その一言で他の人も終わりましょうと誰ともなしに言い、1人ひとり席を立ち部屋を出て行った。


ある日事件が起きた。

というのは自席で資料を作成していると課長から緊急の会議にでるようにとのことだった。

何だろうと思い部屋に行くと部内の何人かが部屋に集められていた。

そこには部長も出席していた。

全員が揃ったのを確認して一人の男性正社員が話し始めた。

「私は今日サーバ室で見回りをしていました。

すると部屋の隅にこの付箋紙が落ちているのを見つけました。」

と黄色の細長い付箋紙を掲げた。

そこには注意書きのようなものが書かれていた。

「これがもし機器の吸気口に入っていたらどうなっていたでしょう。

きっと機器は吸気できなくなり機内の温度が高くなり温度異常のアラートで緊急停止していたでしょう。

そうならば重大事案となります。」

詳しく説明するとサーバーやストレージと呼ばれる業務用IT機器はラックと呼ばれる金属製で扉がある収納棚に設置されている。

ラックは2mくらいの大きさで満載しようとすると20台近く搭載することができる。

ラックの一番下の部分は床から数センチ隙間がある。

機器は空気を取り込んで内部の部品の温度を冷却している。

誇り程度であれば吸い込んでしまうが付箋紙のような紙を吸い込む力はない。

なのでこの男性社員が話している内容は通常起こりえない。

しかし、サーバ室とは基本的にきれいに保たれているべき部屋であり埃であっても精密機器である機械たちにはよろしくない。

付箋紙が落ちていたというのは汚れているという証左である。

「付箋紙に何か書かれていますね。何でしょうか。誰か内容がわかる人はいますか。」

と部長が話した。

情報運用部のメイン仕事として開発環境から業務で使用する本番環境に移行したシステムが問題なく日々稼動していることを保証する。

機器が業務に支障をきたさないように動作するために定期的に手動で再起動を行ったりする。

それを行うのはサーバー室に常駐しているオペレーターと呼ばれる人たちだった。

彼らは開発部が作成した作業手順書を使用して決められた日時に手順書に沿って作業を行う。

 今回床に落ちていた付箋紙はその手順書に貼られていたものであろうことはすぐに分かった。

しかしそれを答えることができるということは本来開発部が作成した手順書が勝手にオペレーターが修正していたことを示しておりそれを管理している立場の正社員からしていると非常に答えづらいものだった。

ベテラン社員も中堅社員も一応に黙ってしまった。

部長は誰か答えないのかとため息をついて、私の名前を口にした。

「君ならわかるんじゃないか?」

「それはオペレーターたちが手順書で作業するにあたって注意書きを記載したもので間違えないと思います。」

「それは開発部が作成した手順書に不備があったのをオペレーターが勝手に修正しているということになるのか。」

「今、情報運用部から各開発部への回路は一方通行であり私たちが開発部に依頼しても取り合ってもらえないのが現状です。」

部長の顔が怒りなのか困惑なのか眉間に皺を寄せていた。

ベテラン社員が口を開いた。

「本来開発部からシステムを受け取り移行する際にオペレーターが使用する手順書も受け取るルールとなっていますがそれができていません。

だいたい本番環境でシステムが稼働してから1カ月ほど経ってから必要な手順書が来るというのが常態化している印象があります。

これを回避しようと私たちも開発部に働きかけていますが彼らも複数の開発業務を並列で動かしています。

一つのプロジェクトの終わりが見えてくると新しいプロジェクトが始まる。

メンバーも徐々に抜けていき手順書の作成スピードが想定以上に遅くなってしまう。

この会社の抱える構造的な問題になります。

引き継いだ手順書に不備が見つかり修正するように依頼してもすでに彼らは余力があると新しいプロジェクトを始めてしまうので改修という考えに意識が向いていません。」

言葉を選ぶように慎重に話しているのが伝わってきた。

「それで今までオペレーターに負担をかけて付箋紙で修正していたと。

もしもこれで手順書での操作を誤ってしまったらオペレーターが悪く、それを管理している当部が責任を負うと」

部長がそのベテラン社員を見ながら言った。

ベテラン社員ははい、と短く答えた。

付箋紙一枚で社内の構造的な問題、開発部とのパワーバランスと言った問題を露呈してしまうとは、と感心していたら。

「これはチャンスだな。

これを機会に日ごろ我々を軽んじている開発部にシステム運用の何たるかを啓蒙するチャンスである。

うちは銀行だ。銀行システムがこのような体たらくでは世間に申し訳がたたない。

お客様もお金が私たちの内部の問題で支障をきたすなどあってはならんことだ。」

部長は一人でうんうんと頷き独り言なのか続けて話していた。

「そうだな。まずは全体像の洗い出しだな。

件数がわからなければどの部門に言えばいいかがわからんよな。

丁度部長会議も近い、その日に間に合うのがいいな。」

部長は顔を上げて部屋を見渡すと

「誰か、1週間ですべての手順書をチェックしてくれないか。

この1週間すべてその業務に使用していい。部長命令だ。」

みんな黙って誰も発言しなかった。

これをチャンスと見るか新たなトラブルとみるか。

たとえ成功しても開発部から余計な仕事を増やしやがってというイメージを持たれてほかの仕事で嫌がらせをされる可能性が高い。

部長が言っていることは正しいがそれによって個人攻撃を行うのがこの会社の社風だ。

部長からの覚えがよくなるがそれに見合わないほどの攻撃を受ける標的になるのは間違いなかった。

「私は〇〇君を推薦します。」

私はえっって言ってしまった。私の名前が呼ばれたかれだ。

言った人は課長だった。

部長はパッと明るい顔になり

「〇〇君か、毎日一生懸命に働いてくれているね。

君ならばこの大役全うできるだろう。

ぜひともやってくれたまえ。」

「さすがに私1人でできる量ではありません。誰か、、、誰かほかにも協力してもらう必要があります。」

口の中がカラカラになりながら私は話していた。

すると課長より

「派遣社員を2名つけるようにします。日頃一緒に仕事をしている仲ですので意思疎通に問題ありません。きっとやり遂げてくれるでしょう。」

課長が自身満々で言った。

「そうか3名ならばやれるかもしれんね。来週部長会議があるからその場でこの件を議題に上げることにする。それまでに全体件数と各部各チームに何件あるのか報告をしてくれ。」

部長は話はまとまったと言って席を立ち部屋を後にした。

それに続いてほかの人たちも部屋を出ていく。

部屋に残ったのは課長と私だけになった。

「さすがに部長命令だと俺でもどうにもできん。

部長の言っていた通り今日から1週間お前の仕事はこの件に100%注力してかまわん。」

私ははいと頷いて了承した。


それから連日派遣社員2名と一緒に残業してこの作業に没頭した。

確認する手順書の総数は約2200冊。

オペレーターたちは日々の定例業務があり余力がないように配置されているのでこの手順書確認業務には参加させることはできなかった。

オペレーター室というサーバー室に隣接する部屋にいるオペレーターにこの件について説明すると彼らは安堵の表情になった。

彼らもよくない事と思いながらいつまでも修正されない手順書に自分たちで修正を施していたのだ。

その不条理な中で懸命に作業する彼らに感動していた。

私たち正社員がもっと力をつけて開発部とやり合えばこのようなことになっていないのだが部門間のパワーバランスは一度固定化されると個人の力ではどうしようもないのだ。

そういう意味ではこれはチャンスであるのは間違いなかった。

社内の腫物である私がやるというのも報復があっても私以外だれも困らないという点でもくやしいが適任と言わざるをえないと考えていた。

私はその日のうちに作業に取り掛かった。

作業は単純なもので手順書を一枚ずつ捲り付箋紙が貼っていないか確認し貼ってあれば手順書名、貼られていたページ番号、所管チーム、正社員の検印の氏名、付箋紙の内容を記録していった。

1週間毎日残業して100冊ほど修正が必要であることがわかった。

それを部長に報告し一旦私の仕事は完了した。


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